合間で章 始まる戦い
ガイアスの世界
黒い魔物
フルード大陸へ侵攻してきた頃から、ガイアスの各地でも出現するようになったユウラギからやってきた魔物。その特徴は全身が黒いことで、見れば瞬時に分かる。その強さは他のガイアスの魔物達よりも高く現在危険種に認定され、黒魔物と総称されるようになった。
合間で章 始まる戦い
闇の力渦巻く世界、ガイアス
突如ユウラギから侵攻を開始した黒い魔物達の侵攻は、その場にいたサイデリーや周辺の国々の兵達が驚くほど唐突に終結を迎えることとなった。
『闇付き』となった水を司る神精霊ウルディネの退却を皮切りに、生き残っていた黒い魔物達は、唐突にその踵を返し、フルード沿岸から海に向かって退却を始めたのだ。その魔物達の姿に安堵の息を漏らすサイデリーや周辺の国々の兵達。しかしそれは大きな戦いの始まりであるということは誰の目にも明らかであり、安堵したその表情の奥には不安の色が見えていた。
「……まずは体勢を立て直します……テイチさん、それに神精霊の方々……ご協力願えますか?」
踵を返し海へと去って行く黒い魔物達を見つめながら、フルード大陸サイデリー王国の王、ブリザラは真紅に染めた目でテイチを始め、その後ろにいる三人の神精霊達に協力を願いでた。
「わし達は、テイチと契約を交わした、テイチが協力するというのならば我々の力を貸そう」
神精霊を代表して土を司る神精霊であるノームットがブリザラにそう告げる。その言葉に彼らの契約者であるテイチは頷き協力を了承、三人の中で一人あまり納得していない表情をしている火を司る神精霊インフェリーではあったが、テイチの上目使いの目には逆らえず、重く顔を頷くのであった。
「テイチ、神精霊の皆さん、ありがとう……」
ブリザラはテイチや神精霊達の顔を見渡す頭を下げた。
「……?」
しかしどこかブリザラに違和感を抱いたテイチは首を傾げた。
「どこか悪いのブリザラさん?」
「えっ?」
「何か辛そうだから……」
「……大丈夫……問題ないよ」
そう言ってブリザラはテイチと目線を合わせるようにしゃがんだ。
「う、うん……」
視線を合わせるようにしてしゃがんだにも関わらず、ブリザラの視線がテイチをちゃんと捉えていないことにテイチは戸惑いを抱いた。
「……では我々も撤収しましょう」
そう言いながらブリザラが立ち上がるブリザラ。そのブリザラの言葉に近くにいた伝達兵達は素早く動きだし、負傷者の手当てなどが開始され、数十分後には、撤退の準備が整い、続々とサイデリーへの帰還を始めるのであった。
時は流れ、突如としてユウラギから侵攻を開始した黒い魔物のフルード上陸から二年の歳月が経った。
― フルード大陸 サイデリー王国 氷の宮殿 ―
「王、黒魔物の本格的な活動が始まったようです」
大柄の初老の男が慌てるようにサイデリー王国、氷の宮殿にある王の間に入ってくると、息も絶え絶えに王の間の中心に置かれた王座に座る女性に報告を始める。
「……」
常にキラキラと光る黒髪、そして整った目鼻立ちからは気品を感じる。目を瞑っているその女性はまるでどこかのお姫様のような容姿をしているが、その頭には、サイデリー王国の王を示す王冠であり、その者がサイデリーの王である事を一目で証明していた。しかし王であるにも関わらずその手には、王が、いやそもそも女性が持つには厳しい大盾が握られていた。そこには幼さが抜け、一人の美しい女性となったブリザラ=デイルの姿があった。
伝説の盾キングを自分の前に、体の半分を隠すように置くブリザラは、黒き魔物を黒魔物と呼称するガリデウスの報告を聞き続ける。
「……それと同時にフルード沿岸を皮切りに各所で確認された黒流水の汚染速度が更に増し始めました……今は土の神精霊の力によって食い止められているようですが、話によれば長くは無いとのことです」
冷静に現在の状況をブリザラに告げる初老の男ガリデウス。しかしその表情は深刻であり余裕がないようであった。
『闇付き』に落ちた水を司る神精霊ウルディネによって作られる黒流水はフルードだけでは無く、ガイアスの様々な場所に散らばりその汚染を始めていた。その中で最も黒流水の被害を受けたのは、ユウラギの魔物達が侵攻を始め最初に上陸した大地ムウラガであった。人を拒むように生い茂っていた木々は、今は見る影もなく枯れはて黒い霧が立ち込めるようになり、まるで死の大陸だと言われるほどに変貌していた。
事前に計画されていたフルード大陸への移住によってムウラガに住んでいた人々は間一髪の所で黒流水の被害を避けることなく安全にフルードへと渡ることが出来ていた。
ガリデウスの被害報告をある程度聞いたブリザラは、王座から立ち上がると瞑っていた目をユックリと開いた。そこには二年前の戦いから消えること無く灯り続ける真紅の目があった。
「ヒトクイのムスバムさんと連携をとり、黒魔物に対しての準備を始めてください、魔王討伐作戦を開始します」
真紅に染まったブリザラの目は焦点が定まっておらず、ガリデウスの顔をまっすぐに捉えていない。ブリザラは二年前のあの日から、通常視力を失っていた。それが真紅に染まった目の影響なのかは分からないがブリザラは通常視力を失う代わりに、物体から発せられる力を感じられるようになっていた。それは通常視力のように物体や人の顔をはっきりと捉えることは出来ないが、通常視力以上に物の動きなどを感じられるようになっており、生活や戦闘において何の支障も無い。いや戦闘だけで言えば、通常視力を持っていた時よりも遥かに戦いやすくなっちといっていいほどであろう。そして真紅に染まった目は相手の動きを探知しやすくさせただけでは無く、ブリザラに大きな力を与えることとなった。
今までは突発的な状況や感情の高ぶりでしか発動出来なかったその力を、常時発動していられるようになったブリザラは断続的に攻め込んでくるようになった黒魔物のフルード侵攻をその力を持って二年もの間、守り続けてきたのであった。
「……御意」
ブリザラの作戦決行の言葉にすぐさま行動を開始しようとするガリデウスは、感情を表に出さなくなったブリザラの表情を一瞥すると奥歯を噛みしめるような表情をしながらその場から立ち去っていった。
「……もう……お互いに時間はありません……全身全霊を込めて……決着を……討ちに行きます……」
自分一人となったその場で独り言のように呟くブリザラ。その言葉が誰に向けられているものなのか分からない。しかし真紅に染まった目にはもううつることは無い誰かを思いだしながら、ブリザラは氷の宮殿から海の方向へ視線を向ける。その目には強い決意が感じられた。
― 小さな島国 ヒトクイ ガウルド城 ―
「サイデリーのブリザラ王から魔王討伐作戦開始の合図が入ってきた、我々はこれからフルードへ向かいサイデリーとその周辺国と合流の後、魔王がいるといわれるユウラギに向かう……厳しい戦いになるとは思うが希望は捨てるな! この世界の為その剣を振って欲しい!」
現在、不在の王に代わり全体の指揮をとる王の右腕であるムスバムは、ガウルド城の門の前で、ユウラギへ戦いに出るガウルドに集まったヒトクイの兵達や、この戦いに志願した戦闘職の者達に激励を送った。ムスバムの言葉に皆が気合の入った声を上げた。その声はガウルドが揺れるほど響きわたっていた。
ガウルドに集まったヒトクイの兵達や志願した戦闘職の者達は家族や恋人、友人に見送られながら、ガウルドの港に何十隻と停泊するフルード行きの船に乗り込んでいく。その後ろ姿を見つめる家族や恋人、友人達は彼らの無事を祈り船が出港するのを見つめ続けるのであった。
「……ムスバム様」
送り出した兵士達を苦しい思いで見つめるムスバムに声をかけるインベルラ。
「……我々は口先だけでしか彼らを支援出来ないのか……」
自分の不甲斐なさに心を痛めるムスバム。その姿に首を横に振るインベルラ。
「それは違います、ムスバム様……我々には彼らの家族や恋人や友人を、彼らが帰って来る場所を守る責任があります……」
インベルラの言葉にハッとするムスバム。
「……ああ、そうだ、お前にそれを教えられるとは……私も歳をとった……」
戦いに向かって出発した兵達が本当は何を守りたいのか、出港した船に手を振り続ける家族や恋人や友人達を見つめながら自分には何ができるのかを再確認するムスバムはインベルラに視線を向けると頷いた。
「……かならず彼らの事を王は守ってくださいます……」
「うむ、そうだな……」
再びインベルラの言葉に頷くスムバム。
「……レーニ、いや王よ……彼らをお守りください……」
再び彼らの無事を祈るムスバムは、必ず帰って来ると信じているヒトクイの王の名を口にするのであった。
― ユウラギ -
現在ガイアスを恐怖に陥れている元凶ともいうべき場所ユウラギの山脈には、その山脈を利用して作られた要塞のようなものが存在していた。しかし要塞と言っても自然にある山脈を利用しただけの粗末なものであり、そこにガイアスを恐怖に陥れている元凶がいるとはお前ない場所であった。だがそれが逆に魔王の絶対的な自信と力を象徴しているようでもあった。
山脈を利用した要塞の奥にある小さな穴の中、そこにその存在はいた。
「失礼、魔王……」
小さな穴の中に死神という言葉が最も似合う姿をした者が姿を現した。
「……」
穴の奥で地べたに座り込む男は自分を魔王と呼ぶ者に視線を向ける。
「ようやく重い腰を起こしになりましたな……正直私はこのまま何もすることなくジッとしているのかと冷や冷やしていましたよ……」
顔が髑髏の仮面で覆われており、表情は分からないが声色から少し笑っている死神は、とうとう動きだした魔王に喜んでいるようであった。
「……ふん……これでお前の思惑通りだろう?……」
低く呟かれる声はそれだけで、その場に地響きが起こるのではないかという迫力を持っており、声をかけた死神はその迫力に思わず足に力が入った。
「何を仰いますか、私は思惑など考えていませんよ」
魔王に相当な圧をかけられたというのに漂々とした口調を続ける死神。
「どうとでも言うがいい……だがお前の思惑はここまでだ……これからは無用な茶々は入れさせない」
死神の言葉に怒るでもなくイラつくでもなく、ただ普通に声を発する魔王と呼ばれた男。その瞬間足に力を入れていたにも関わらず膝をつく死神。
「あっははは……参ったな……私は信用がないのですね」
「信用? ふん……俺に対して忠誠心があるのならば、お前はこの場に姿を現した瞬間に俺に跪くはずだろう……」
魔王の圧を増していき、死神の体はどんどん地面にめり込んでいく。
「あれれれ……そろそろやめてください魔王、私生き埋めになってしまいますよ」
「何だ、知らなかったのか、俺は最初からそのつもりだ」
「あらら?」
地面にめり込んでいるというのにそれでも漂々としている死神は次の瞬間跡形もなく地面に埋まっていった。
しかし魔王は理解している。目の前の死神と呼ぶ者がこの程度でくたばるような輩では無い事を。
「もう苦しいのでやめてくださいよ」
そう言いながら地面に埋まってしまったはずの死神がひょっこりと違う場所から姿を現した。
「鬱陶しい奴だ、お前は」
「それ褒め言葉として受け取っておきますね」
そう口にした死神を今度は何の動作も無く上半身と下半身を分断する魔王。
「褒めて無い……」
「あららら……いつも通り機嫌が悪いようですね……」
上半身からそう口にした死神は次の瞬間今度は縦に分断され四つの部位となって地面にボトリと落ちた。
「誰の所為だ……」
「だ……」
死神が何かを言いかけた瞬間、四つの部位に別れた死神の体は黒い炎によって燃え上がる。
「熱い、暑い、厚い、あつい、本当、私の体で遊ぶのは止めてくれません?」
黒い炎によって燃える四つに分かれた死神の部位それぞれから死神の声が響く。
「お前は本当に俺の勘に障ることをさせたら天才だな」
「それもお褒めの言葉として頂戴しておきますね」
「……」
痺れを切らしたかのように魔王はその場から立ち上がると姿を消した。
「あらら、もうつれない魔王様ですね……」
黒い炎によって消し炭となった死神の四つの部位は風が吹いていないというのにその場から舞い上がりそして何処へともなく飛んでいき小さな穴から消えていった。
「……」
ユウラギにそびえる高い山脈よりもさらに高い場所に姿を現した魔王は、遥か先にある海を見つめていた。その先にはこれからこのユウラギに乗り込んでくるだろうサイデリー王国があるフルード大陸があり、見えないだろうそのフルード大陸を魔王は見つめているようであった。
「……もう俺達に時間が無い……全身全霊を込めて、かかってこい……」
独り言のように言葉を口にする魔王。しかしその言葉は誰に向けられているようであった。
あとがき
はい、どうもGWも終わりですね、いかがお過ごしでしょうか山田二郎です。僕は酷いGWでした、ええ、はい。
毎週読んでくださっている方、そしてこの話を初めて読まれた方、読んでくださりありがとうございます。感謝の言葉しかありません。
さて次にお詫びを……毎回同じ事を書いてますが、この章で終わるはずだったんです、グダグタしてしまって本当にも申し訳ありません。計画性の無い書き方をすると本当大変ですね……自分の首を絞める絞める(汗)
誤字脱字、辻褄が合わないなど色々とお見苦しい所ばかりですが、とりあえず六章で終了する予定なので、お付き合いいただけるとありがたいです、よろしくお願いします。
あ、最近全く以前の話を修正出来ていないのはどうにかしたいのですが……どうにかしたいのですが……。
それではまた次でお会いしましょう!
2017年 五月七日 終わるGWに絶望しながら……




