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兎に角真面目で章 17 『闇付き』

ガイアスの世界


 黒流水ダークウォーターによって腐り始めたフルードの大地。


 フルード大陸から見れば今はほんの一部が腐っているだけだが、放っておけば、間違いなくフルードの大地は黒流水ダークウォーターの影響で腐った大陸へと変貌することになるだろう。黒流水ダークウォーターを放った者を倒せば力が消えそれ以上の侵食は無くなるのではないだろうか。


                                    腐る土を調べる研究者談





兎に角真面目で章 17  『闇付き』



闇の力渦巻く世界、ガイアス



 黒流水ブラックウォーターの影響によって雪と氷が解け、土が腐り始めたその場所に、少女の声が響きわたる。するとその少女の声と共に突如として闇に染まったウルディネの背後に姿を現す者達。


「!」


「……テ……イチ……」


 ブリザラに向け振り上げたウルディネの腕が、少女の声によってブリザラの顔の前でピタリととまる。しかしブリザラは自分の目の前でピタリと止まったウルディネの手よりもその背後にいる者達に目を奪われていた。

 泣きそうな表情の少女を中心にして姿を現した者達は、見ただけで人や獣人では無いと分かる。その者達の数は三人、その誰もが少女を守るように立っていた。

 一人は半透明な羽で空を舞う人懐っこい表情を浮かべる少年、一人は地面から顔と立派に蓄えられた髭を出すおじさん、一人は燃えるような真っ赤な長い髪をなびかせる美しい女性。それぞれ見た目も雰囲気も違うかどこか神々しく見える。

 半透明な羽で空を舞う人懐っこい表情を浮かべる少年と、地面から顔と立派な髭を出した者の二人にはそれほど危機感を抱くことはないブリザラであったが、真っ赤な髪をなびかせる女性からは、他の二人とは全く違う、敵意を感じ取るブリザラ。しかしその視線はブリザラではなくウルディネへと向けられていた。


「ウルディネ……」


水を司る神精霊とは思えない禍々しい黒い雰囲気を放つウルディネ。しかし姿形、雰囲気が変わってもそれがウルディネだとはっきりと分かる少女は、今にも泣きそうな表情で怯えながらも自分に背を向けているウルディネに声をかけた。


「……」


少女の呼びかけに一切反応を示さないウルディネ。しかしウルディネの正面に立っているブリザラだけは微かに動揺するウルディネの表情の変化を見逃してはいなかった。


「……どうして黒くなっちゃったの?」


黒く染まった今のウルディネの状態が理解できない少女は、子供特有の真っ直ぐな言葉でウルディネに問を投げる。少女の言葉にまるで重い石か何かが圧し掛かったように苦しい表情になるウルディネ。


「……『闇付き』か……」


 少女が立つ地面から少し離れた所から顔を出している立派な髭を蓄えた小さなおじさんは、ウルディネの状態を目の当たりにし、己が過ごして来た長い年月の中で蓄えられた知識の中から、ウルディネの身に起こっている状態の名を口にする。


「『闇付き』……?」


ウルディネの背の先でそう呟いた地面から顔と立派な髭を出したおじさんの言葉を復唱するブリザラ。


『王よ……『闇付き』とは闇に犯され、堕ちた者の事を言い現す言葉だ……しかし……『闇付き』という言葉を知っているということは……』


テイチの周囲にいる者達が何者なのか大体の見当がついたキングはそこで言葉を止めた。


「そこの喋る盾さん、精霊でもないのに詳しいね……それに鋭いじゃない」


半透明の羽を生やした少年は聞き耳を立てていたのか、キングの話を聞きながらうんうんと頷いた。


「人でも『闇』に堕ちるのは中々難しいのに神精霊が『闇付き』になるなんて本当に珍しいね」


 『闇付き』とは、人が『闇』に触れ続けることで精神が『闇』に堕ちた状態の事を言う。それは人に限らずガイアスの全ての生物に起こり得る事ではあるが、人類に限ってはその可能性は極めて低い。その理由としては人類の殆どは生まれながらにして、大小差はあるものの、『聖』の加護を受けているからだ。『聖』の加護を受けていることによって人類は『闇』の影響を受けにくくなっており、たとえ『闇』の影響で死んだとしても、その魂は影響を受ける事無くあの世と呼ばれている場所へと向かうという。

 もし『闇』の支配を受け入れた者がいたとしても、大半の者は精神、もしくは自我が『闇』の力に耐えられず『闇付き』になる前に錯乱し自ら命を絶ってしまう。それ故に人類の『闇付き』は極めてめずらしく、『闇付き』になった者は、ガイアスを混乱に陥れると言われている。その『闇付き』の行きつく先の一つが魔王であった。

 人類でも『闇付き』になる確率は低いのである、精神耐性が人類以上に高いと言われている精霊からすればそれは更に珍しいことであった。その理由は精霊という存在が『聖』に近しい存在と言われているからだ。特に存在が神に近い神精霊となれば尚更なる確率は低いはずであった。

 しかし事実ブリザラ達の前には『闇付き』に堕ちた神精霊の姿があった。


「……ふん、神精霊が『闇付き』に堕ちるなど、恥をしれ!」


鋭い眼光を向けながら赤髪をなびかせる女性は一切隠さず嫌悪感をその身で現した。


『やはりそうか……あの者達もウルディネと同じ存在……』


赤髪をなびかせる女性の言葉から、テイチの周囲にいる者達三人が神精霊であると断定するキング。


「……神精霊……!」


一生の中で神精霊に出くわすことは無いと言い切れるほど珍しい存在である神精霊がこの場に四人も存在しているということに驚愕するブリザラ。


「……精霊の面汚しが……我手で葬り去ってやる……ありがたく思え……」


精霊界の中で、精霊が『闇付き』となった例は無いわけでは無い。しかしそれは精霊達の中でもある意味で伝説級の話であり、この場にいる神精霊達も実際に遭遇した者はいない。  

しかし『闇付き』になった精霊は人類と同じく精霊界に混乱を招くとされ、精霊達からは忌み嫌われていた。

 しかしそれは精霊界の話であって、この場にいるテイチやブリザラには関係の無い話であった。そこにいるのは紛れも無く自分達と一緒に激しい戦いを生き抜いた仲間なのだから。


「な、なにを! ウルディネさんはあなた方の仲間でしょう!」


赤髪の女性の言葉にブリザラは信じられないという表情を向けた。


「ふん……これは神精霊である私達の問題だ、人間は黙っていろ」


殺気と威圧感を込めた視線をウルディネに向けていた赤髪の神精霊は、その視線をブリザラに向けた。


「はぅ……くぅ……」


一目見つめられただけで圧倒的存在感と威圧感で押し潰されそうになるブリザラ。しかしブリザラは赤髪の神精霊の威圧感に押し潰されそうになりながらもその圧に耐え抜き睨み返した。


「ほう……」


人間が自分の威圧に耐え抜いただけではなく睨み返すとはと、ブリザラに感心する赤髪の神精霊。


「……ウルディネさん……」


 赤髪の神精霊の威圧に耐え抜いたブリザラは、未だに自分の目の前でピタリと止まったままであるウルディネの手刀を優しく掴むと、ゆっくりと自分の顔から足元へと下ろしていく。

 今のままでは確実にウルディネが殺されてしまうと思ったブリザラは、何とか正気に戻るようウルディネに呼びかけ続けた。


「テイチに顔をみせてあげてください……テイチを安心させてください……」


 ウルディネの背の先で未だ泣き出しそうな表情を浮かべる少女テイチの状況を静かに伝えるブリザラ。それは操られているウルディネを目覚めさせようとするというよりは、素のウルディネに声をかけているようであった。

 ブリザラは気付いていた。ウルディネは操られてなどなく、正気であるということを。その証拠に突然姿を現したテイチの言葉にウルディネは今まで殆ど見せなかった動揺をブリザラに晒していた。そしてブリザラが口にした言葉によってウルディネは、表情だけでなくその体にも動揺をみせたからだ。

 しかしブリザラの言葉を聞いてもなお、テイチへと視線を向けようとはしないウルディネ。そこに何か強い意思のようなものを感じとるブリザラ。

 ブリザラが考えるようにウルディネの心の中には確固たる強い意思があった。しかしそれと同時にウルディネの心の中にはテイチに対しての恐怖があったのだ。それがテイチに顔を向けられない理由でもあった。

 もし自分を見て怖がっていたら、もし自分を見て失望していたら、そんな光景と思いが頭の中をグルグルと回り、ウルディネはテイチに顔を向けることを恐れたのだった。


「ウルディネさん……今ならまだ引き返せます、だからお願い……テイチの顔を……見てあげて」


 ウルディネとテイチを自分とアキに重ね合わせるブリザラ。その言葉はブリザラの願いでもあった。

ウルディネがテイチに振り向き、そしてテイチの下へ戻ることが出来れば、それは自分とアキの状態も元に戻すことができるという希望が生まれるとブリザラは思ったからだ。


「……無駄だ人間……『闇付き』になった者はもう元には戻らない……まだ自我があるのなら、せめて苦しまず逝かせてやるのが流儀だ……」


 しかしブリザラの思いを知らない赤髪の神精霊にとってブリザラの言葉はただの戯言でしかなかった。『闇付き』になれば最後、その後に待つのはどちらに転ぶにせよ破滅だけ。自分が生きてきた長い時の中で得た経験を信じる赤髪の女性、火の神精霊インフェリーは、ブリザラにそう言うとまるで剣士がする動作のように手元から炎の剣を抜剣する。

 まるで持ち主の指示を待つように綺麗に燃え上がる炎の剣をウルディネの背に向けて突きつけるインフェリー。


「止めて!」


炎の剣の切っ先の前に飛び出すテイチ。


「可愛いテイチ……私は人間が好きだ、できれば人間であるお前の願いを叶えてやりたい……しかし悲しいかな私の目の前にいる者はもうお前の知っている者ではない……」


目の前に立つテイチを憐れむように首を横に振るインフェリー。そして気付けばテイチの背後へと回り込んだ半透明な羽を生やした風の神精霊シルフェリアが、テイチの肩を優しく叩いた。


「テイチ……ごめんね、『闇付き』に堕ちたらもう消し去るしかないんだ」


出会ってから今の今までひょうきんで笑顔が絶えなかったシルフェリアの表情が辛そうに歪んでいるのを見てしまったテイチは、言葉を失った。これは冗談でも洒落でも無いのだと突きつけられてしまったからだ。


「さあ、従順に自分の運命を受け入れるか、それとも抗うか……どっちだ、精霊の面汚し」


止めに入ったテイチの横を抜けるインフェリーは未だ背を向け自分達に顔を見せないウルディネに最終勧告を言い渡した。その姿は燃えるように荒々しくそして美しい。しかしインフェリーの言葉は火を司る髪精霊にも関わらずその場が凍りつくのではないかというほどに冷たく冷徹であった。


「テイチよ、我々はお前の約束を守れなかった……しかし赦してくれとは言わん……これは精霊としての絶対の掟のようなものだ……我々は『闇付き』に堕ちた者を絶対に赦すことは出来ない」


地面から顔だけ出し立派な髭を蓄えた土の神精霊ノームットは茫然しているテイチを見上げながら自分達の想いを告げるのであった。

 それはウルディネを助けることは出来ないということ。その言葉にテイチの心は動揺する。


「でも、探してくれるって……助けてくれるって!」

 

 動揺と悲しみが入り混じったテイチの声に、三人の神精霊達はそれぞれ苦悶の表情を浮かべた。テイチと契約をする上で、神精霊達は、ウルディネを助けると誓っていた。しかし早くもその約束は破られようとしている。神精霊達もそれは本意では無い。しかし相手が『闇付き』となれば、それは討たねばならない敵であった。

 神精霊達の言葉に動揺しているのはテイチだけでは無かった。現在唯一ウルディネの表情を伺える場所にいるブリザラも神精霊達の口にした言葉に驚き動揺していた。

 『闇付き』になった者はもう元には戻らない。ウルディネの背に炎の剣を突きつけるインフェリーの言葉は、ブリザラの希望を打ち砕くだけの力を持った言葉であった。それは即ち、『闇』の化身とも言える魔王となったアキはもう元には戻らないと証明されてしまったようなものだからだ。


「そんな……アキはもう……」


しかしそこでソフィアの言葉を思いだすブリザラは、僅かに残った希望を糧に崩れかかった気持ちを持ちなおす。


「そんな事は無い、必ずウルディネさんを『闇付き』の呪縛から解き放つ術はあるはずです!」


「……そこの人間……私は人間の諦めずに立ち向かっていくその強い意思も気に入っている……しかし……先程も言った、これはお前達が首を突っ込む事では無い」


あくまでこれは神精霊としての問題であり、人間が関わる問題では無い事を強調するインフェリー。しかしブリザラには素直に引きさがれない理由がある。


「いえ、関係無いとは言わせない……私やテイチはウルディネさんの友人です、友人が殺されるなんて認める訳にはいかない!」


ブリザラの言葉に俯いていたウルディネの肩がピクリと動く。


「友人か……いい言葉だな……しかしならばなぜこの者が『闇付き』に堕ちることを止められなかった。


「そ、それは……」


実際気付いた時にはウルディネは『闇付き』に落ちており、ブリザラにそれを止める手段は無かった。しかしそれは言い訳でしかないとブリザラは言いかけた言葉を飲み込んだ。

 テイチにしても一時離れ離れになり、次にあった時にはすでに『闇付き』になっていたウルディネを止める手段は無かった。しかしインフェリーの言葉が深く胸に突き刺さるテイチ。


「この者の心に生まれた深い闇を誰も止めることは出来なかった……ならば、その力で被害が広がる前にとどめを刺すのがせめてもの情けであろう」


ウルディネに嫌悪感を抱いていたインフェリーもウルディネの事が心底嫌いであった訳では無い。神精霊として出会えれば、話をしてみたかったし気が合うのならば仲良くもしたかった。しかしそれをすることなく目の前にいる『闇付き』に堕ちた同胞にしてやれることは一つしかないとインフェリーは炎の剣を強く握り直した。


「……潔くその首を我々に差し出せ、楽に消し去ってやる……」


インフェリーのその言葉の裏には彼女の優しさが隠されていた。その想いをウルディネが感じ取ったのかは定かでは無い。しかし、その言葉を聞いたウルディネの表情の変化にブリザラは驚きの表情を浮かべた。


「……ブリザラ……私を友人と言ってくれてありがとう……後テイチにごめんと伝えといてくれ……」


微かにブリザラに聞こえるウルディネのかすれるような声。その表情は泣き顔とも笑顔とも言い難いなんとも複雑な表情をしていた。


「……それは私に言っているのか?」


テイチへの伝言をブリザラに託したウルディネの表情は一瞬にして狂気にも似た笑顔に変化した。その一瞬の変化に背筋が凍りつくような感覚に陥るブリザラ。目の前にいたはずのウルディネが突然いなくなったとさえその一瞬でブリザラが思えてしまうほどに。


「ん?」


インフェリーがウルディネの言葉に首を傾げた瞬間であった。ウルディネは大きく回転しながら両手に黒流水ブラックウォーターの刃を作り出しそれをテイチ達へと投げつけた。


「やりおった!」


瞬時に飛んできた黒流水ブラックウォーターの刃を炎の剣で払いのけるインフェリーは、すかさず飛び出しウルディネへと接近する。しかしウルディネは更に黒流水ブラックウォーターを複数放ちながら上空へ逃げるように昇っていく。


「ウルディネ!」


テイチの叫びに条件反射のように肩をビクつかせるウルディネ。その一瞬がウルディネにとっての隙になった。その隙を見逃さないというようにインフェリーもウルディネを追うようにして飛び上がる。


「お前は逃げるだけか!」


インフェリーが鋭く炎の剣をウルディネに向け振り回す。しかしその一撃一撃を紙一重で全部受け流していくウルディネ。


「くぅ鬱陶しい!」


ことごとく攻撃をかわされるインフェリーは苛立ちながら、更に攻撃の速度をあげる。ウルディネはテイチを視界に捉えないよう体勢を入れ替えると、自分を追って来るインフェリーを迎撃する体勢に入った。


「ふん、神精霊になりたての、しかも『闇付き』に私が劣る訳が無い!」


炎の剣の切っ先に膨れ上がる炎の塊。人間では到底扱うことが出来ない密度を持った炎の塊を作り出したインフェリーはそれをウルディネに向け放った。人一人分ほどの大きさを持つ炎の塊は真っ直ぐにウルディネに向かって行く。対峙したウルディネは躊躇することなくその炎の塊を真っ二つに切りさいた。


「かかった!」


その瞬間真っ二つに切り裂かれた炎の塊はウルディネを巻き込むようにして爆発を起こした。その威力はブリザラ達のいる地上であればその一帯が一瞬にして蒸発してしまうほどの威力を持っており、地上でその光景を見ていた全ての者の目を眩ませた。


「ウルディネ!」「ウルディネさん!」


上空で起こった激しい爆発に視界を奪われたテイチとブリザラは、ウルディネの名を叫ぶ。


「……馬鹿者め……」


インフェリーに向かって行く爆発。だがその全てがインフェリーを逃げるようにして避けていく。そんな爆発の中心を見つめるインフェリーの表情は曇っていた。


「……」


跡形も無く消し飛んだだろうウルディネの姿に言葉を失うテイチ。


「テイチ……」


ウルディネを失ったという喪失感を受けとめられないテイチにボロボロの体で駆け寄るブリザラ。


「ブリザラさん……ウルディネが……ウルディネが……」


抑揚なく呟くテイチの言葉に力は無い。


「くぅ……」


テイチのたどたどしい言葉に、ブリザラは奥歯を噛みしめた。


「……後味の悪い結果になっちゃったね」


テイチとブリザラから少し離れた所でノームットに声をかけるシルフェリア。


「……まさか『闇付き』になっているとは……」


シルフェリアに声をかけられたノームットは深刻な表情で今一度ウルディネに起こった『闇付き』について考えていた。


「……しかし、なぜウルディネは『闇付き』になったのだ……」


「ふん、精霊としては二流、いや三流だったてことだろう」


上空からノームットとシルフェリアがいる地上へ降下してくるインフェリーは機嫌悪そうにそう呟いた。


「インフェリーさすがに口が過ぎるぞ」


「事実を言ったまでだ!」


ウルディネを倒した事を心の片隅でやはり気にしているインフェリーは苛立ちを爆発させるようにノームットに叫んだ。


「テイチの前でウルディネの事を悪く言うのは止めてください!」


テイチの前で無神経にウルディネの事をあれこれ言う神精霊達に我慢できなくなったブリザラは、茫然と立ち尽くすテイチを抱きしめながら叫んだ。


「うむ……無神経だった、すまん」


「ごめんなさい」


ブリザラの激怒に、素直に謝るノームットとシルフェリア。


「ふん……人間……お前誰に口をきいているか分かっているのか?」


しかしインフェリーは収まらない苛立ちをブリザラに向ける。


「……あなたが誰であるかなんてしりません、あなたはテイチの大事な人であるウルディネさんを、私の友人であるウルディネさんを消し去った……なのにそんなテイチや私を前にしてその態度は何なんですか!」


目の前にいる者が王であろうと神であろうとブリザラには関係ない。インフェリーの態度に今までに無いほどの怒りを覚えたブリザラは、鋭く睨みつけてくるインフェリーを睨み返した。


「ほう……人間……吐いた言葉は元には戻らんぞ……」


燃えるような赤髪を逆立てるインフェリーは、ウルディネを消し去った炎の塊を作り出し手の上で浮遊させる。


「止めろインフェリー、無用な戦いは避けるんだ」


「黙れ……そこの人間は、我々を侮辱したのだぞ」


「言われたのはインフェリーだけだよね」


「ぐぅ……ああもういい!  覚悟は出来ているな、人間!」



『王よ! 冷静になれ、今の王の状態では、あの者の炎をくらえばひとたまりも無い!』


ブリザラの後方でブリザラと神精霊達のやり取りを聞いていたキングは、インフェリーの放つ強力な力を感じ取り、今のブリザラでは防ぎようが無いと戦うのをやめるよう叫んだ。


「……キングは黙っていて……」


目の前にいるインフェリーと同等か、もしくはそれ以上の冷たさと冷徹さを持つ口調は一瞬にしてキングを凍りつかせた。今までとは明らかに違う雰囲気を放つブリザラにもしやと考えるキング。たがキングの角度からではブリザラの表情は伺えない。しかしブリザラに起こった変化をキングは実感していた。


「行くぞ人間!」


先程よりも少し小さな炎の塊をブリザラ目がけて放とうとするインフェリー。


「……」


しかしその瞬間、インフェリーの手が止まる。そこにはブリザラを庇うように両手を広げたテイチの姿があった。


「……くぅ……テイチ……むぅ分かった……ここは私が折れよう……」


手に浮遊する炎の塊をかき消すインフェリーはテイチ達に背を向けると、ノームットとシルフェリアの下へと歩き出した。


「ん? どうしたインフェリー?」


ノームットは自分達の下へともどってくるインフェリーの表情を見て声をかけた。


「え? どうしたの? インフェリーにしては緊張しているような顔をして?」


ノームットに続くようにして声をかけるシルフェリアは、インフェリーの緊張したような表情に首を傾げた」


「……ムグゥ……カッハッ! はぁはぁはぁ……」


今まで息を止めていたというように、口から息を吐き出すインフェリーは肩で息をしはじめた。


「……ふ、二人とも……あの人間がまだ私を見つめているかみてくれないか?……」


そして息を吐き出したインフェリーの声は緊張からなのか震えていた。


「うん?」「はぁ?」


インフェリーに言われた通りにノームットとシルフェリアはインフェリーの体を壁にしてブリザラに顔を向けた。


「ッ!」「ッ!」


その瞬間ノームットとシルフェリアは息を呑んだ。そこにはジッとインフェリーの背を見つめるブリザラの姿があっからだ。しかしそれだけで神精霊である二人が息を呑むことは無い。その理由はブリザラの目にあった。

 赤く発光するブリザラの目。時より見せるブリザラの隠された力。それは神精霊に対しても絶大な影響力があるようで、インフェリーはテイチが自分の前に出てきたことで攻撃の手を止め、踵を返したのでは無くその後ろで赤く染まったブリザラの目を視界に捉えてしまったかから攻撃の手を止めたのであった。


「な……」


「あわわ……」


ブリザラからすぐに目を逸らすノームットとシルフェリアは全身から冷汗をかき慌てた。


「な、何だあの得体の知れない目は……」


「何か吸い込まれそうだったよ……」


それぞれにブリザラの目の感想を口にするノームットとシルフェリアは、落ち着きを取り戻すために深く息を吐いた。


「……あの人間……睨むだけで我々を慌てさせるとは……何かあるな」


平静を装っているもののインフェリーは、ノームットとしシルフェリアの反応でまだブリザラの目が自分の背に向けられている事を知り内心は動揺していた。


「テイチ……大丈夫だよ、きっとウルディネさんは生きている……」


「ブリザラさん……」


「うん……」


勿論ブリザラにウルディネが生きているという確信は無い。しかし今のブリザラには何となくであるがウルディネが生きているという感覚があった。


(ウルディネさん、テイチへの伝言は伝えませんよ)


ウルディネに託されたテイチへの伝言を心の中に仕舞いこむブリザラは周囲を見渡した。そこにはウルディネの黒流水ブラックウォーターによって腐り始めているフルードの大地の一部があった。ウルディネの残した爪痕は小さくない事を胸に刻みながらブリザラは空を見上げる。ブリザラが見上げた空は腐り始めた土の大地が嘘であるように晴れ渡っていた。その空を見つめながらブリザラはこれから自分がどうするべきか考えるのであった。




 ガイアスの世界


 『闇付き』


 用は闇堕ちのようなものである。本来は極めて珍しい現象であり、そうそうガイアスの世界で『闇付き』になる人類や獣人はいない。

 しかし魔物などは『闇付き』になることが多く、同じ個体でも戦闘力がずば抜けている魔物は大抵『闇付き』である。しかし人間や獣人とは『闇付き』に堕ちる方法が異なり、魔物の場合は多くの戦いを生き残り他の魔物を殺してきたや、長い年月を生き抜いたりすることでなることがあるようだ。

 人間は元々に『聖』の力を大なり小なり持って生まれてくるため『闇付き』になる可能性は低い。しかしそれは『闇』の力に対して強力な耐性を持っている訳ではなく、『闇』を含んだ攻撃を受ければ傷を負うし精神を蝕まれたりもする。

 元々から『闇』の力を持つ存在は、すでに存在自体が『闇付き』のため影響を受けることは無い。


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