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真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編)2  生者の階段、獣の咆哮

ガイアスの世界


 ソフィアと戦闘職剣士の相性


本人は気付いていないが、ソフィアは剣士の素質はかなり高いようだ。

 けして攻撃力が高い訳では無いソフィア。だが一発の威力は無いが、盗賊の時に培った素早さを利用し手数のある攻撃を繰り出すことでその攻撃力をカバーしている。ソフィアはそれを無意識にやっているようだ。

 そのため手にした剣も細身の軽い剣である。


だがこの素質をしっかりと見抜いていた者がいる。それはソフィアが所属していた盗賊団の団長であった。

 団長はそのソフィアの素質を見抜き盗賊よりも剣士としての技術をソフィアに叩き込んでいたようだ。ソフィア自身はそれが盗賊の技術と信じ込み素直に団長の言う事を聞いていた。 

 

 

 真面目に合同で章 2 (スプリング&ソフィア編) 生者の階段、獣の咆哮



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



「……ここは……どこだ?」


 そう呟く男の視界に映るのは一面の白い世界。そう表現することしか出来ない程他にはなにも無い。今自分がいる場所を理解できない男、スプリング=イライヤは、どこを見ても白いその世界を見渡した。


「……もしかして俺、死んだのか……」


 明らかな現実との乖離。自分が今までいた場所とはかけ離れたその場所に自分の死を連想するスプリング。自分が死んだという実感は無いものの、事実死んだのではないかという記憶はスプリングの頭の中に光景として残っている。

 ガウルドの外れにある旧戦死者墓地。ヒトクイ統一のために犠牲になった者達が眠る場所。だが実際は新たに作られた墓地へ遺体は移設され、旧戦死者墓地はその役目を終えている。

 しかし役目を終えたはずの墓地から這い出して来きた何百もの活動人形ゾンビ達に襲われ戦ったスプリング達。だが突如として姿を夜歩者ナイトウォーカーの一刺しによってスプリングの意識は途切れた。

 ここまでがスプリングが覚えている光景、記憶であった。そして次の瞬間には全てが真っ白の世界に立っていた。


「どう考えても……そうだよな……」


 今自分が置かれた状況を冷静に確認していくスプリングが導きだした結論、それは自分がいる場所が死後の世界であるということであった。


「死後の世界って……こんな感じなのか……」


 自分の記憶によって死が事実として突きつけられても実感が伴わないからなのかスプリングは気持ち悪いほど落ち着き冷静であった。


「……これはただの夢なんじゃないのか? ……」


 実感が伴わない死が夢ではないかと実感するスプリングは、夢か現実かを確認するため自分の頬をつねる。


「……痛くない……夢なのかよッ!」


 つねった頬に痛みを感じないスプリングは思わず何も無い白い世界に対してツッコんだ。

 だがよくよく考えれば死後の世界にやってきた者が痛みを感じるのか分からないスプリングは夢か現実かを見極めるこの方法が正しいのかどうかも怪しいことに気付くと難しい顔をしながら腕を組んだ。


「それにしても……何も無いな、ここが死後の世界なら、死んだ者に対し行われる様々な行為は無意味だな……」


 生きている者達は己が想像できる範疇の中で死んだ者を死後の世界へと送り出す。死者の横に花を置いたり、生前好きだった物を置いたり、時には金を入れたりもする。しかしもしスプリングが今見ている光景が死後の世界であるならば、死者に対してのそう言った行為は全て無意味だなとスプリングは思い口にする。


「主殿!」


「主……殿?」


 今まで自分の声以外何も聞こえなかったその場所に突如として声が響く。その声にスプリングは何処かで聞いた事のある声だと自分の脳内の記憶を探る。


「主殿!」


 再び響く声。主殿と呼ぶその声にスプリングの脳内に一つの答えが導き出されると、即座にスプリングは己の腰に視線を向ける。


「ポーン!」


 そう口にして表情が固まるスプリング。


「裸ッ!」


 ここで初めて自分が裸体である事に気付いたスプリングは、誰の目も無いというのに下半身を必至で隠した。


「死後の世界には何も持っていけないと言うが、下着すら持っていけないのか……」


 あの世に金は持っていけないと何処かの誰かが言っていた事を思いだすスプリングは、まさか下着すら着用することが出来ない事に驚愕する。


「主殿よ、こっちだ!」


 裸体である事に慌てるスプリングの耳に三度声がかかる。


「こっちだって……どっちだ……」


 自分を読んでいる声の方角を探り視線を向けるスプリング。するとスプリングの表情は感情を失ったように無表情になった。


「やっと見つけたぞ主殿!」


 無表情になったスプリングの視線の先には、長い黒髪を後ろで束ねキリっとした表情が眩しくでも堅物そうな男の姿があった。


「……どちら……様?」


 自分に向かって手を振る人物に対して混乱するスプリング。自分を主殿なんて呼び方する存在は一人しか、いや一本しか存在しないのに、目の前にはその一本では無く一人がいるなどと自分でもよく判らない言葉を頭の中で羅列するスプリング。


「……私だ主殿、ポーンだ……」


「……違う……」


 自分はポーンだと名乗る男は、スプリングを急かすように言葉をまくし立てる。しかしその言葉はスプリングの否定の言葉によってかき消される。


「……違う? 何が違うのだ主殿?」


 その否定の言葉に思わず口が止まったポーンは何が違うのだと聞き返した。


「俺が知っているポーンは、細い棒状のはずだ!」


 スプリングが言う事は正しい。スプリングの記憶の中のポーンは、細い棒状をしている。だが自分がポーンだと名乗る男はどう見ても細くもなれば棒でも無い。


「はぁ?」


「ポーンは人間では無く伝説の武器だ、人間の姿をしたお前じゃない!」


 鼻息荒くポーンと名乗る男を指差し否定するスプリング。


「……ふむ、なるほどそういう事か……」


 お前はポーンでは無いとスプリングに否定されたポーンと名乗る男は、その言葉によって何かに気付いたのか今までスプリングに向けられていた視線を自分の体へと落とした。


「……お前何者だ!」


 自分の体を見つめるポーンと名乗る男に正体を現せと答えを迫るスプリング。


「……主殿……信じられないかかもしれないがこれも私だ、主殿が知る、ポーンだ」


 そう言うとポーンと名乗る男は突然スプリングに己の片腕を見せつける。すると突如として飴細工のように腕がグニャリと溶け始める。だが次の瞬間、ポーンと名乗る男のその腕は、スプリングが良く知るロッドへと形を変えていく。


「……なっ!」


 人間ではありえないその芸当にスプリングは言葉を失う。


「主殿、普通の人間にはこんなこと出来ないだろう……」


「ほ……本当に……ポーンなのか?」


 半信半疑なスプリングは再度そうポーンに聞く。


「ああそうだ……主殿、早くここから出よう、」


 何か周囲を気にしながらポーンはスプリングに帰ろうと伝える。


「ま、待てよ……出ようって……そもそもここは一体何なんだ?」


 まるで現実味の無い、真っ白な世界。結局夢なのか死後の世界なのかもわからないスプリングは、その答えをポーンに聞く。


「ここは、死後の世界の手前だ」


「……ま、待て、ということはやっぱり俺は死んだのか?」


 死後の世界の手前、そう口にするポーンに自分は死んだのかと尋ねるスプリング。


「大丈夫だ、主殿は死なない、その為に私はここにやってきた」


 自分が死んだという事実に心が揺れているはずのスプリングを気遣うようにポーンは言葉はっきりとそう答えを返した。


「……俺を……」


「そうだ、だから早くこの場から離れよう……」


 そう言いながら再び周囲を気にするポーン。


「……そうか……わざわざ悪いな……けどなポーン……俺はもどれないよ……」


 迎えにやってきたポーンに対して、自分はもどれないと言うスプリングの表情は、全てに対して自信を喪失したような暗いものであった。


「なぜだ主殿!」


 戻れないというスプリングの理由が分からないポーンは思わず語気を強めた。


「……もう無理だ……今まで死にそうになった事は沢山あったけど……あれは違う……夜歩者ナイトウォーカーと対峙して理解した……人間には超えられない壁があると……」


 数百年前、ガイアス中でその力を誇示した夜歩者ナイトウォーカー。強靭な力を持つ事はスプリングも知識として知っていたが実際に対峙した時、夜歩者ナイトウォーカーの力をはっきりと感じ取っていた。そして魔法使いだったとはいえ、簡単に背後をとられ何も出来ずそのまま剣で突き刺されてしまったという事実は、スプリングの自信を消失させる程には容易いであった。


「……そうか……主殿は奴らが怖いのだな……」


「あッ……くぅ……ああ」


 一瞬否定しようとするスプリングであったが、自分の心に根付いた恐怖に抗えずに素直に頷いてしまう。


「……ならば……ここで死の選択をするのもいいだろう……だが最後に一言いわせてほしい」


「……」


 あっさりと引き下がるポーンの最後の言葉を黙って待つスプリング。


「……主殿が倒れた後、側にいたソフィア殿は必至に主殿の名を呼び続けていた……あの状況、精神力では主殿よりもか弱いソフィア殿が、必至で主殿の名を叫んでいたのだ……きっと不安と恐怖で一杯だったはずだ、そのソフィア殿が恐怖の権化とも言える者と対峙しながらもその恐怖に耐え必至で主殿の名を叫び続けていたというのに、主殿は一度の敗戦に恐怖し生きることを放棄するというのか!」


 ポーンは引き下がった訳では無かった。圧倒的力量の前に戦いにもならず敗北したスプリングに対して一言では収まりきらない言葉でポーンはスプリングを挑発したのだった。


「……!」


 俯いていたスプリングの目が見開く。


「失望したぞ主殿よ……よもや私はこんなにも脆弱な精神の持ち主を主としていたとは……」


「……せぇ……」


「何だヘタレ主殿?」


「うる……せぇ……」


「ふん、ヘタレの言う事など耳に入ってこないな」


「うるせぇって言ってんだよこの疫病神が!」


 吹き上がる気持ちをそのまま流しだし喉を震わせ吐き出すように叫ぶスプリング。その声に反応するように今まで真っ白だった世界は霧が晴れるように吹き飛びその世界の本当の姿を現した。


「……どうやら生きる気力を取り戻したようだな主殿」


 様子が変わった周囲を見渡し笑みを浮かべるポーン。目を血走ら自分を睨みつけるスプリングに視線を戻したポーンは、聞こえるか聞こえないか程の声でそう呟いた。


「大体な大本を辿ればお前が俺を魔法使いにするから悪いんだ……俺が上位剣士だったらあんな奴の攻撃、鼻歌しながら避けられるんだよ!」


 凄い剣幕で人の姿をしたポーンに近づくスプリング。


「ならば、それが事実であるということを証明してみせろ我主殿」


 スプリングの吐いた言葉がハッタリだということを理解しているポーン。今のままではスプリングを刺し死の一歩手前まで送り込んだ夜歩者ナイトウォーカーを倒すことは難しいだろう。しかしそこで諦めてしまったら、全ての可能性は消えてしまうのだ。

 今はまだハッタリでいい、だがいずれそのハッタリが真実になればいいのだと思うポーンは、これが最後というようにスプリングを挑発した。


「ああ、やってやる! この変な場所から……出るぞ?」


 そう言いながら周囲を見渡したスプリングはそこでようやく周囲の様子が変わったことに気付いた。


「……あれ? ……何か様子が変わった?」


 スプリングの目に入ったのは、禍々しい雰囲気を放つ大きな扉であった。


「主殿が生きる気力を取り戻したことで、その心に呼応するようにこの世界は真の姿を現した……その大きな扉の先に待つのは死後の世界……もし主殿が生きる気力が無いまま歩き進んでいれば、この扉を潜っていたことだろう」


 死後への扉。ガイアスで命を落とした者が旅立つために必ず通ると言われるその扉の先に待つのは、誰もがいずれは向かう場所。しかし命尽きるまでその扉の先に何が待つのか分からない。


 言伝えや噂話で聞いた事がある死後への扉を目の当たりにしたスプリングの表情は引きつっていた。


「今の主殿には関係のない場所だ、それよりも今主殿が目指す場所は……」


 そう話すポーンは指を死後への扉とは反対に向ける。


「……あれは……」


 ポーンの指が示す場所に視線を向けるスプリング。そこには大きな山がそびえる。


「生者の階段……」


 山の麓から頂上に続く気の遠くなる程の階段を目にしたスプリングの口から零れる言葉。


 生者の階段とは死後への扉と対を成す物で、死後への扉を背にその階段を昇って行くと命を取り戻すことができると言われている。


「……はは、本当にあったんだな……」


 たまらず笑い声をあげるスプリング。しかしその表情は引きつったまま硬直していた。


「……主殿が今向かう場所はあの階段の先だ」


「あ、ああ……」


 自分が生死の境にいた事をようやく実感したスプリングは、まだぎこちない表情のままポーンの言葉に頷くのだった。




 ― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ―


 《グオオオオオオオー!》


 夜の空に舞う淡いピンクの花びらを切り裂くような獣の咆哮が、ガウルドに響き渡る。


「はぁはぁはぁ……」


 荒い息を吐きながら夜のガウルドを進む少女が一人。その肩にはまるで人形のように動かない男を担いだ少女は周囲を警戒するように視線をあちらこちらに向ける。


「一体何なのよ……スプリングを見つけたと思ったら……急に魔物に襲われるし……」


 ボロボロな男ことスプリングを担ぐ少女ソフィアは、少し前に自分達の前に突然現れた正体不明の魔物の事を思いだしていた。

 その魔物はソフィアに目を合わせると途端に襲いかかってきた。スプリングを担いでいたソフィアは応戦することが出来ず、その魔物が持つ鋭い爪を避けることで精一杯でここまで逃げてきたのだった。


 《グオォオオオオオー!》


「えっ……増えてる……」


 気付けば獣の咆哮の数が増えている事に気付くソフィア。


「……そして……囲まれた……」


 分かる数だけでも四つの咆哮が自分達を囲んでいることに気付いたソフィアは、顔を引きつらせた。現在抜け殻のようになっているスプリングを庇いながら正体不明の魔物と戦うのは危険すぎるからだ。そして何よりソフィアの頭の中に対峙した魔物の情報は一切無い。そんな相手と無暗に戦うのは危険であることもソフィアが逃げに徹する要因であった。

 姿は見せないが、殺気と気配を振りまく正体不明の魔物に対して更に警戒を強めるソフィアは、スプリングをその場に寝かせると、腰に差しているまだ真新しい細身の剣を抜剣する。


「……何で町の中に魔物がいるのよ……町の人達は何で騒がないの……」


 ガウルドの町に限らず、殆どの町は魔物の侵入を防ぐ対策はしているはずである。なによりガウルドはヒトクイという国の中心に位置する町である。そんな町に魔物が入り込むなど絶対に有り得ないはずなのだ。

 それなのにソフィアの耳には少なくとも四体の魔物の咆哮が聞こえる。それはガウルドの町が魔物の侵入を許したということになる。普通そうなればガウルドは大騒ぎになるはずなのだが、魔物が町に入り込み咆哮を上げているというのに、その存在に気付く人々はいないのか、魔物の咆哮に対して騒ぐ者はおらず周囲は風の音しかしない。


「……待って……さっきまで花見をしている人達が騒いでいたはずなのに……」


 そこで違和感に気付くソフィア。先程まで薄いピンクの花を咲かせる木々の下で花見という名のただの宴会を楽しんでいたはずの人々の声が今はしない。それに気付いたソフィアは、再度しっかりと周囲を見渡した。

 すると先程まで所々咲く淡いピンクの花によって彩られていたはずのガウルドの町が、まるで色を失ったように暗くなっていることに気付くソフィア。


「……これって、もしかして……遮断魔法……」


 周囲から一角だけを切り取り独自の空間を作り出す事が出来る遮断魔法。その魔法にいつの間にか誘い込まれているのではと疑うソフィアは、警戒を更に高め手に持つ剣をしっかりと握った。


「……こうなったらやるしかない!」


 自分に気合を入れ直したソフィアは自分の背後で未だ意識が戻らないスプリングを一瞥すると、絶え間なく響く四つの咆哮に耳を澄ませるのであった。


ガイアスの世界


 遮断魔法


指定した場所を周囲から切り離し独自の空間を作り出す魔法。


 使用者の魔法に対しての技術がたかければ驚異的な力を発揮するが、この魔法はまだ未完成で扱うのが難しく簡単に解呪できてしまうという弱点を持つ。

 それ故に使う者は少ない。

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