兎に角真面目で章 10 中央 右 左
ガイアスの世界
フルード大陸沿岸
雪と氷が一年の殆どを締める大陸フルード。そんな大陸にある海は非常に冷たい。凍っていないだけで、人が海に入れば即座に心臓麻痺を起こすほどに。
なので無暗に入る人はいない。
兎に角真面目で章 10 中央 右 左
闇の力渦巻く世界、ガイアス
― フルード大陸 沿岸 ―
本来青いはずのフルードの海が黒く染まる。それは一つ一つが蠢く虫のようであった。しかしそれは虫などでは無く全てが魔物、ユウラギから海を渡ってきた魔物達であった。肉眼で確認できるようになってから数十分。着々と沿岸に迫るユウラギの魔物達。その目的は未だ不明であるが、確実にフルード大陸を蝕もうとしているのは確かであった。
「一体何が目的なのでしょうな……」
ジワリジワリと自分がいる場所へと向かって来る魔物をジッと見つめるサイデリー王国の王ブリザラに話かけるサイデリーを守護する五国の長ビリヤット。
「……わかりません……ですが絶対にこの大陸には近づけさせません」
自分よりも二十も三十も歳の若い王の背を見つめるビリヤット。その背は小さく力をくわえればすぐにポキリと音を立てて壊れてしまいそうなほど頼りなくみえる。しかしその頼りなくみえる背とは裏腹に、刻々と迫る脅威に怯えることなく真っ直ぐに対峙するその姿は、正にサイデリーの王だとジッと迫りくる魔物を見つめるブリザラの姿を目に焼き付けながら、ビリヤットは視線を自分の後ろに向ける。
ブリザラを戦闘にその後ろにズラリと並ぶ五国の兵士達。その数はフルードに迫った魔物達に匹敵するほどの数であった。サイデリーの兵士達とは違い五国の兵士達は、剣や槍や弓そして魔法など攻撃に関する物を手に持っている。
五国は元々サイデリーから派生した国々である。サイデリー王国が守りを主とする国であるならば、五国は攻め、武器を許された者達の国であった。それはサイデリーの国の理念に反する事ではあるが、その武器は、その攻めは全てサイデリーを守るためにあえてサイデリーから別れた者達の国であった。
「ブリザラ王、全員ではありませんが五国揃いました」
ビリヤットを含めた四人の王がブリザラを前に膝をつく。
五国とはフルードにあるサイデリーを中心に五角形の点の位置にある国の事であり、剣、槍、弓、魔法を司る国の事である。
ブリザラの前で頭を下げる剣を持つ剣の国ソードリアの王、槍を持つ槍の国スピアラの王、弓を持つ弓の国アーチェリアの王、そしてそれらをまとめ上げる国フライデリーの王ビリヤットが集結していた。しかしそこに魔法の国マジッリアの王の姿は無い。
「マジッテリアは私が指揮をとります」
王が不在であるマジッテリアの兵達はブリザラが直々に指揮をとることになっていた。
「「「「ハッ!」」」」
ブリザラの言葉に答える五国の四人の王。
「そういえば、ハイデルマンは今どうなっていますか?」
「我国の牢獄に投獄し、厳重に監視しております」
そう言ったのは五国のまとめ役であるフライデリーの王ビリヤット。ビリヤットの言葉にフライデリーならば安心だと納得したように頷くブリザラ。
フライデリー牢獄。ブリザラも実物を見た訳では無く、噂でしか聞いた事がないが、フライデリーの牢獄は魔法や精霊の力さえも霧散させ、勿論単純な力では壊せないガイアス一頑強な牢獄と言われている。なぜそんな物がフルード大陸のフライデリーに作られたのかは分かっていないが、そこに投獄された者は絶対に出ることが出来ないと言われている。したがい強大な力を持つ大魔導士ハイデルマンであったとしてもフライデリー牢獄を脱獄することは不可能であった。
大魔導士ハイデルマン。魔法使いの究極の姿の一つである魔導士という職業に就くハイデルマンは魔道具に精通した男であった。しかしハイデルマンは魔導士という力を己の欲のためだけに使っている極悪魔導士と呼ばれていた。
違法魔道具。人の心を己の意のままに操る道具や一時的に驚異的な力を手に入れることが出来るが、依存性の強い副作用の効果のある強化飲料の総称であり、ハイデルマンはそれに精通していた。ハイデルマンは己の私腹を肥やすためだけに、違法魔道具を幾つも作り出し、それらを独自のルートを使って売りさばいていた。
己の私腹を肥やす為だけに極悪非道の限りを尽くしていたハイデルマンであったが、ある時期を境に何者かによって討たれたという噂が流れはじめた。それが真実であると言わんばかりにそれ以降ハイデルマンの消息は分からなくなっていた。しかしそれはハイデルマンの計画であった。
どれほど前から計画が進行していたのかは本人に聞いてみなければ分からないが、隣国である五国の目を掻い潜り、ハイデルマンはマジッリア国の王を誰にも悟られること無く暗殺、周囲の者達を違法魔道具で操り、自分がマジッリアの王座に座ることになるよう仕向けていた。
ハイデルマンは自分という存在を隠し、マジッリアの王になると国の人々を違法魔道具で操り、違法魔道具を製造、裏からその違法魔道具を販売し莫大な利益を得ていた。しかしハイデルマンの欲望は留まることを知らない。一国の王では飽き足らず、フルード大陸全土をその手に掴もうと画策するのであった。
マジッリアの王の不自然な死に疑いを持った他の五国の王達は、新たにマジッリアの王座に就いた者が怪しいと五国を代表してビリヤットが調査を開始した。
長い調査の末、マジッリアが違法魔道具を裏で販売している事を知り、その裏にはハイデルマンの存在がある事にたどり着いたビリヤットは、ブリザラに協力を要請した。ビリヤットによってマジッリアの状況を知ったブリザラはビリヤットの協力要請を承諾、フルード大陸に危機が迫っているという情報を得ていたブリザラとビリヤットはそれを利用して五国に集結要請を出しサイデリーに五国の王を呼び出した。ブリザラの要請に答えサイデリーに姿を現す五国の王達。その中にはマジッリアの王としてハイデルマンの姿もあった。
フルード大陸の危機について話し合われる緊急会議の中、ブリザラとビリヤット達五国の王の芝居によってボロを出したハイデルマンを捕縛することに成功したというのが、ハイデルマンが起こした騒動の事の顛末であった。
「王、時間のようです」
この戦いが終わった後、ハイデルマンによってガイアス中に散らばってしまった違法魔道具を回収、破棄しなければと考えながらブリザラは時刻を告げる鐘の音を聞いていた。鳴り響く鐘の音にビリヤットはブリザラに時が来た事を告げる。その言葉に目を見開くブリザラ。
「……作戦を開始します、皆々様方、直ちに持ち場へ!」
ブリザラの言葉は魔法使いの【意思伝達魔法】によって拡散され、それぞれ持ち場に就いていた兵達に伝わっていく。
ブリザラの言葉を合図として、フルード大陸へと侵攻するユウラギ大陸の魔物達の討伐作戦が開始されるのであった。
≪ギシャアアア≫
悲鳴を撒き散らし朽ちていく大量の魔物達。ブリザラの合図によって始まった討伐作戦は、一時間が経過していた。そのどれもが皆見たことの無い魔物達ばかりで作戦が開始された直後は戸惑いを見せるサイデリーの盾士達ではあったが、一時間も経つと皆冷静に対処できるようになりフルードの沿岸を埋め尽くすように並んだサイデリーの兵盾士達は雷を宿した盾を構え、突破しようとする魔物達の侵入を防いでいた。
魔物が一定の場所まで侵入、もしくは盾士の盾に触れると雷光が魔物を襲う。その魔物を中心として他の魔物にその雷光が流れ二次被害を及ぼすというものであった。連鎖のように周囲に影響を及ぼす雷光の通った後に残るのは、黒く焼け焦げ朽ちていく魔物達。
「次壁準備!」
上位盾士の掛け声が響くと、今まで沿岸の前線に並んでいた盾士が後ろに下がり、その盾士と入れ替わるように新たな盾士が前に出て盾を構える。
「魔法使い、盾士に雷付加用意!」
上位盾士のさらなる掛け声により、盾士に守られている魔法使い達が前線にいる盾士達に向け雷の魔法の準備に入る。
「付加!」
上位盾士の掛け声によって一斉に魔法使い達が雷の魔法を盾士の盾に向けて放つ。すると盾士の持つ盾がパリパリと音を立てながら雷を帯びていく。
【雷鳴壁】
盾士と魔法使いの合わせ技であり、触れたもの、一定の距離に近づいたものを雷撃によって消し炭にする防御と殲滅を合わせ持つ盾士と魔法使いによる合わせ技であった。
ただし【雷鳴壁】の効果範囲には限度があり、精々周囲5メートルほどでありそれほど距離は無い。それ故一人の盾士がカバーできる範囲は限られてくる。それを補うため盾士達は沿岸に一列に並び互いの効果範囲をカバーするという方法をとっていた。
呼び名を【雷鳴壁々(サンダーウォールズ)】とでも言えばいいのだろうか、ずらりと並んだ盾士達の奮闘によりユウラギの魔物達は一切フルードに侵入することが出来ず沿岸付近には黒く焦げた魔物達の死骸の山が出来上がっていた。
「各最上級盾士と上位盾士にこのまま維持と伝えてください」
フルード沿岸の中心に位置する場所に陣をとっているブリザラは、現在の状態に安堵することなく両翼に展開した最上級盾士達に指示を出すべく【意思伝達魔法】を扱える魔法使いに指示を出した。
「ハッ!」
マジッリアの魔法使いは王ブリザラの指示を受けると【意思伝達魔法】の準備を始めブリザラの言葉を各所に展開する上位盾士達に飛ばすのであった。
「それにしてもここで待機というのは何とももどかしいですな」
ブリザラの後ろで状況を見つめるビリヤットと他の五国の王達。それは更に後ろで待機している五国の兵達の言葉を代弁していた。
「すいません、ですが……ユウラギの魔物にしてはあまりにも力が弱い……きっとすぐにこの状態は破られることになります、皆さんはその時に備えておいてください」
ブリザラが安堵しない理由は二つあった。一つ目は今の状態が必ず破られると考えていたからだ。今は順調な防衛線ではあるが、必ず綻びは生じる。そのきっかけが自分達からなのかそれともユウラギの魔物達からなのかは分からない。しかし絶対にその綻びはやってくるとブリザラは考えていた。
二つ目は今自分達が戦っている魔物達の強さであった。侵攻を開始したユウラギの魔物達はまず近くの大陸ムウラガにその進路をとっていた。ムウラガにいた冒険者の情報によれば、圧倒的な力でムウラガの魔物達を蹂躙したという話であった。
しかしならば今のこの状態はおかしいのだ。ムウラガの魔物達は強い。独自の生態系を持ったムウラガの魔物達は冒険者達の恰好の修練の場になるほどにその強さには定評があった。そんなムウラガの魔物達を蹂躙するほどの力を持つユウラギの魔物達が今盾士と魔法使いの合わせ技によって抑え込めているのは不自然であるのだ。
決して盾士が弱い訳では無い。守りだけならば盾士の力は、決してムウラガの魔物に引けをとらないとブリザラも考えている。しかし今侵攻してきているのはそのムウラガの魔物達を蹂躙したユウラギの魔物達だ。それだけの力を持っているはずなのに、今戦っているユウラギの魔物達の行動はあまりにも単純で弱くブリザラには思えたのだ。
ブリザラは今侵攻しようとしてくる魔物がユウラギの魔物の全てでは無いと考えていた。かならず第二波、もしくは第三波がやってくる。何よりもユウラギの後ろには強力な力を持つ存在がいるのだとブリザラはその時に備え五国、攻撃を主体とした者達を温存させていた。盾士の防衛線が崩されユウラギの魔物によって突破されたその時が五国の兵達の出番であると。そして五国でも防げない存在が現れた時、自分の出番であるとも考えていた。
「……耐えろ、今は耐える時、来るべき時のため我々は力を溜めるのだ!」
ビリヤットは五国の兵達に視線を向けると、攻撃命令を待つ兵達に今は耐えるのだと叫んだ。ビリヤットの言葉に五国の兵達は頷く。しかしその表情は皆何ともし難い表情をしていた。
それもそのはずで本来の形ならば五国の兵達はブリザラ達サイデリー王国を守る立場にある。しかし今守られているのは自分達であった。これが作戦である事は本人達も十二分に理解している。しかし職務に燃える五国の兵達にとってサイデリーの盾士達を守れない、しいてはサイデリーの王であるブリザラが自分達よりも前に出ているというのが何とも我慢し難い状況であり、五国の兵達にとって辛い時間であった。
今すぐにでもブリザラの前に飛び出し魔物を倒すことがどれだけ楽だろうと五国の兵達は皆辛い表情を浮かべている。しかし一行にブリザラは五国に攻撃命令を出さない。いや出せないというのが本音であった。
ブリザラと僅かな者しか知らない事実。自分達の住むフルードに向かって来るユウラギの魔物達の後ろに待ち構える強大な力を持った存在。
その事実を知っているブリザラにとってここで安易に五国の兵達を前に出すことは出来なかった。
≪ギシャアアア!≫
盾士が待ち構える沿岸へ躊躇なく飛び込んで行くユウラギの魔物達。まるでその姿は生きた弓矢のようであり、命など無用と言わんばかりに盾士達へぶつかっていく。その魔物達の行動にビリヤット達もこれが全てでは無いことに感づいていた。だからこそビリヤット達も無理にブリザラに攻撃命令の催促は出さない。
「今は我々、盾士達に……」
背中に感じる五国の兵達の視線。その視線に答えるようにブリザラは伝説の盾キングの力と共に【絶対防御】を唱え周囲に大きな結界を張る。その大きさはガウルドの時ほど大きくは無いが、その分密度は濃く頑強であった。
【絶対防御】に近づき攻撃を仕掛けるユウラギの魔物達はその頑強すぎる守りに逆に自らの体を傷つけることになり、勢い余った魔物は、ぶつかった途端に爆散するというありさまであった。
見た目に反した絶対的なブリザラの強さに五国の兵達は驚きを隠せずにいた。
― フルード沿岸 右翼側 ―
「王からの連絡、このまま現状維持」
「あいよ~たくここぞって感じでこき使ってくれるね、うちの王様は……まあでもあれだけの力見せられちゃ俺も頑張るしかないよね」
大分離れた距離だというのに、そこからでもはっきりと分かる密度の高い結界を視界に捉える最上級盾士ランギューニュ。その表情はヘラヘラと笑っており、今自分が吐いた言葉に説得力が無い。しかしふざけた表情をしながらもランギューニュは盾士の本分である守るという行為をしっかりとこなしていた。
「おら野郎共、もっと腰入れろ! そんな腰じゃ愛しい女性達を喜ばせられねぇぞ!」
ランギューニュなりの激を周囲にいる部下達に飛ばす。
「「はい!」」
しかしランギューニュなりの激に部下の盾士達は皆真面目に答え、ヘラヘラした表情が苦笑いに変わる。
「ああ……真面目だね……もっとさ、俺の腰つきで魔物達をヒィヒィ言わせてやりますよとか、腰が立たなくなるまで……とかさ……」
真面目な部下達に愚痴を零すランギューニュは不真面目な外見を他所に、心の中では今の状況を冷静に分析していた。
「……これはまだ序の口って所だろうな……」
今の状況を分析した結果、ブリザラや五国の王達と同じ結論に達したランギューニュは、周囲の部下達の顔を眺める。
ランギューニュの部下達の表情にまだ疲れは見えない。しかし長期戦となれば疲弊してくるのは明らかであった。
「ちょっと強めるか……伝令!」
ランギューニュの言葉に【意思伝達魔法】を扱える魔法使いが近づく。
「俺から100メートル範囲にいる盾士達を後退させて、他の盾士達のカバーに回させろ」
「ハッ!」
ランギュー二ュの指示を預かった魔法使いは直ぐにその指示を盾士達に伝える。するとランギューニュは一気に自分の守る範囲を拡大させていく。元々100メートルの距離を守っていたランギューニュは部下達の疲労を少しでも和らげるために自分の守る範囲を広げるのであった。
「まあ、微々たるもんだろうがね……」
自分が行った事が、微々たるものでしかないことはランギューニュも理解していた。しかしここで出し惜しみしている状況では無いと盾士としていや一人の戦士として天才的な力を持つランギューニュはこれから起こるだろう激戦に備えるのであった。
「たく若者がこうやって苦労しているのに、年寄り二人はサイデリーでノホホンとしているだからな……今度部隊全員で、飯たかりにいくぞ」
ぶつくさと呟きながらもしっかりと仕事はこなすランギューニュは決してノホホンとしているわけでは無いサイデリーの氷の宮殿で仕事をこなしている二人の最上級盾士の事を愚痴った。
「お、そろそろか……お前ら次の奴らと代れ!」
肩で息をし始めた盾士達に後ろに下がるように指示を出し、その後ろで準備していた盾士達に前へ出るように指示を出すランギューニュ。これで三回目の交代であった。しかしその間ランギューニュは一度も後退せず防衛線を維持している。すでにランギューニュの前で消し炭と化した蠢く魔物の数は100を超えていた。それでもランギューニュの表情は涼しく余裕を残している。天才と呼ばれる最上級盾士の力であった。
― フルード沿岸 左翼側 ―
「ディディ隊長、王からこのまま維持という伝言が」
「分かった……皆先の見えない戦いではあるが頑張ってくれ!」
「「はい!」」
右翼側と同じ陣形をとっている盾士達。その中心には部下の盾士達に指示を飛ばす最上級盾最ティディの姿があった。戦いの場に美しく立つ姿、凛々しく響く声にその場にいた盾士達は力強い返事を返す。
「うぉおおおおおお!」
「やってやるぜ!」
「やらせはせん、やらせはせんぞ!」
屈強な体躯を持つティディの部下達は異常とも思えるほど士気が向上し異様な雰囲気を醸し出している。真面目と言えば真面目なのだが、明らかに右翼側で展開するランギューニュの部下達とは毛色が違うものであった。
それもそのはず基本的に真面目であるティディの部下達の心の根っこにあるものは最上級盾士ティディの気をどうにかして引こうという何とも不純な動機があったからだ。
むさ苦しい男所帯の盾士の中、美しく咲く一輪の花、盾士達の安息の聖域といっても過言では無く、ティディに微笑んでそして甘美とも言えるお褒めの言葉を貰うためであった。それ故に陣形の配置を決める際、苛烈な争いが生まれた事はどうでもいい話である。
結局全く陣形配置が決まらず最終的にティディが決めることになり、ティディに選ばれた者は歓喜の声を上げ、選ばれなかった者は選ばれた者に恨みを抱くという小さい溝が生まれることになった。だがティディの部下達はその程度で自分の職務が怠慢になることは無い。いつか自分がおそばにそんな考えのティディの部下達は、どんな任務であろうとも常に真剣にそして全力で取り組むのである。
しかし悲しいかな、それほどまでに部下から慕われ信頼され、いや憧れ、いや恋慕を受けながらも本人はそれに気付いておらず、結婚相手が現れないと嘆く日々が続いている。それはある種の能力、究極の鈍感力の持ち主といってもおかしくはなかった。
「よしその調子で頼むぞ!」
ティディが何か言うたび、歓喜の悲鳴、もとい気力の籠った雄叫びが響き渡るのであった。
部下の気合の籠った返事を耳で聞きながらティディもランギューニュ同様、同じ結論に達していた。
これで終わるはずがない。ティディは次が来る事を見越して己の力を高めその時を待つのであった。
ガイアスの世界
ランギューニュとティディの八カ月間
王の居ないサイデリー王国は、火が消えたように静かであった。その中でランギューニュは変わらず国の女性達とイチャイチャウフフの世界を繰り広げていた。それ以上でもそれ以下でも無い。
ランギューニュを巡って女性同士の問題も多数に起こり、ガリデウスから何度も怒られたりしていたようだ。
しかしそれでもランギューニュは女性達とイチャイチャウフフを止めない。本人曰くそこに女性がいるから……だそうだ。
ティディは結婚に向けて全力を尽くしていた。複数人による男女の集いにいってみたり、相談所に行ってみたりと色々と模索していたようだ。しかし悲しいかな本人の特殊能力が見事に発揮され、自分に好意を寄せる異性を完全スルーするという状況に陥り、その能力を知っている周囲の知人からは苦笑いと深いため息が漏れていたという。
しかしどちらも毎日の日課である修練はこなしているようで、互いに力は増しているようだ。




