兎に角真面目で章 5 強さ、弱さ
ガイアスの世界
『絶対悪』
自我や意思を持つ存在から必ず発せられる感情のエネルギー。その中には正の位置づけと負と呼ばれる位置づけの感情がある。
その中で『絶対悪』は負の感情が集まった存在である。負の感情は常に生まれ続け、そしてそれを養分として『絶対悪』は大きく成長し、一定を超えるとガイアスという世界を消滅させる力を持っていた。
しかし『絶対悪』が誕生した当初、『絶対悪』は自我や意思を持つ存在を負の感情から助ける存在であった。それはガイアスという世界を創造した何者かによるやさしさによって生まれたものであったのだ。
ガイアスを創造した何者かは『絶対悪』を作り出すことによって自我や意思を持つ存在の負の感情を『絶対悪』に吸わせ、無暗な負の感情による衝突を避ける仕組みを作り上げようとしたのである。しかし『絶対悪』を作り出した何者かは誤算をしてしまう。
それは自我や意思を持つ存在の果てしなく湧き上がる負の感情の量であった。想像以上の負の感情の吸収は『絶対悪』に自我を芽生えさせる事になる。
負の感情の集合体に目覚めた自我、それは統べての負の感情の頂点。その自我がたどり着いた答えは世界の消滅であった。
ガイアスを消滅へと導こうとし始める『絶対悪』を止めるために『絶対悪』を創造した何者かはそれを止めるための存在を作り出した。『絶対悪』へと供給され続ける負の感情を別の存在に移す存在。それが魔王という存在であった。
魔王という存在が現れた事によってガイアスは三度の世界消滅を逃れたのであった。しかし問題は解決した訳では無く、際限なく湧き上がり生まれてくる負の感情は何度も世界を終焉へと誘うのであった。
兎に角真面目で章 5 強さ、弱さ
闇の力渦巻く世界、ガイアス
周囲の雰囲気は以前来た時の明るい雰囲気とは違い、戸惑いと驚きに支配されているようであった。小さな島国ヒトクイの城下町ガウルドに足を踏み入れた伝説の武器ポーンの所有者スプリングと簡易型伝説の武具ナイトの所有者ソフィアは町に入った瞬間、そんな印象を感じていた。
「スプリング……」
「ああ、分かってる……」
ヒトクイの王が人類の宿敵である夜歩者であったという事実は、王が住むガウルド城のひざ元であり、最も王に近い場所で王の存在を感じていたガウルドの人々にとって驚きや悲しみが地方の町に住む人々以上の衝撃であった事は当然の事であった。
「町の空気が悪い……さすがと言うべきか、レーニさん……ヒラキ王の影響は良くも悪くも絶大だな……」
困った顔で頭をかくスプリングは、町の入口から悠然とそびえるガウルド城を見つめた。
『とりあえず、城に向かうのが第一か……すんなり入れてくれるとは思えないが』
伝説の武器ポーンの言う通り、城の門の前にやってきたスプリングとソフィアは門番に行く手を阻まれた。
「……ここからは如何様な者でも通すなと言われている……」
門番はスプリングの顔を知っていてそうスプリング達に伝えた。
「ですよね……」
苦笑いを浮かべるスプリングは踵を返し、木の影に隠れているソフィアの下に足を進めた。
「うう……やっぱりこの場所、私気まずいよ……」
自分の意思では無かったとはいえ、ガウルドを襲ってしまったという事実がソフィアの足を鈍らせ木の影に自分の身を隠すという状況を生み出していた。
『なぜソフィア様が身を隠さなければならないのですか! ソフィア様はお美しい! その身を愚民共に見せなければこの世界は終焉を迎えてしまいますぞ!』
しかし木に隠れていたソフィアの行動を無視するように簡易型伝説の武具ナイトは自分の所有者は美しい、隠れる必要は無いと騒ぎ散らすのであった。
「おいおい、騒がしくて門番が不振がっているから、そいつを静かにさせろよ、ソフィア」
門番に向けた苦笑いとは別の苦笑いを浮かべながらスプリングはナイトの所有者であるソフィアを注意した。
『こ、この愚民が! 私ばかりか世界の伝説の至宝であるソフィア様まで愚弄するきか!』
「伝説の至宝って……伝説の武具がそれを言うか?」
「……努力はしたんだけど……全く言う事聞いてくれなくて」
ソフィアは疲れ切った表情で深くため息を吐いた。
『全く……伝説の武具の面汚しが』
『何かいいましたかな? ……老害殿?』
『ろ、老害、だと……本当に口の利き方がなっていないな今時の伝説の武具はッ!』
「今時ってなんだよ今時って……」
どちらかが口を開けばそれに反応して文句を言いだす、まるで水と油のようなポーンとナイトにまた始まったと頭を抱えるスプリング。しかしそんなスプリングの様子を他所にポーンとナイトの口論は激しさを増していく。
「す、スプリ……ひぃ」
頭を抱えていたスプリングを心配そうに見つめるソフィア。しかし突然顔を上げたスプリングの表情を見てソフィアの表情は凍りついた。
「黙れ、この糞武具達が!」
スプリングの表情は鬼の形相となり、ポーンとナイトを怒鳴りつけた。その言葉に凍りつくように押し黙るポーンとナイト。
「……喧嘩するなとは言わない、どちらが上か証明したいないら近いうちにその場を設けてやる、だが今は状況を考えろ」
ピタリと止まったポーンとナイトの会話を確認してからスプリングは、いつもの調子で言葉を続けた。
『ああ……すまない主殿』
『……』
詫びるポーンとは違いナイトは納得していないようではあったがスプリングの主張を聞き入れて静かになった。
「とりあえず、しばらく様子をみてそれでも動きがないようなら城に忍び込む……いいな」
「う、うん」
ソフィア一人だけが鬼の形相になったスプリングが忘れられないのか少し怯えながら頷いた。
「……」
スプリングは騒がしくなった自分の周囲の環境の所為で、今自分達には時間が無い事を忘れていたスプリングは、少し焦りを秘めながら目の前にそびえるガウルド城を見つめるのであった。
しかしスプリング達はまだ知らない。城内ではすでに事が動き出していた事を。
― 小さな島国ヒトクイ ガウルド城 ―
スプリング達がガウルドに到着する少し前。今は座る者が居ない王座を中心にして王の右腕であるムスバム、聖撃隊隊長インベルラ、他各大臣達がその場に集合していた。場の空気は重くそれぞれが暗い表情をしていた。
「それでは……明日、王を騙った夜歩者処刑を執り行う……」
ムスバムはすでにガウルド城の地下にある牢獄に捉えられた夜歩者と決められた約束を、大臣達を言葉巧みに誘導しあたかもこの場で決めたような口ぶりで王と偽っていた夜歩者の処遇を最終確認として口にした。
「異議のあるものは……?」
形だけの言葉。全員で決めたと思い込んでいる大臣達に異議を唱える者はいない。しかし大臣達の表情は一様に複雑であった。
それはムスバムも同じであった。結局の所、その者がどんな者であれ、国のため自分達のために動いてきたという事実は変わらない。ヒトクイの王を偽った夜歩者は自分達と違う存在ではあるが、尊敬する王に代りは無かったのだ。
その事をこの場にいる者達は皆分かった上で死刑という決断を夜歩者に下したのだ。
それはきっと人類、いや国の理性としての判断なのだろう。国は感情だけで動かせるほど簡単なものでは無い。皆が皆、自分の感情に振り回されれば、国はすぐさま滅亡の道を辿る事を、戦乱の絶えなかったヒトクイを生き抜いた大臣達は身を持って知っているのだから。
「ではすぐにこの事を国民に伝える……兵よ!」
王の間の隅で何とも言えない表情で立っていた兵を呼びつけるムスバム。
「はっ!」
兵は納得できていない感情を押し殺し、理性でムスバムの命令を聞き入れ、その場を後にした。
「さて……処刑方法だが……」
そこで言葉を一度切るムスバム。
「――残念ながら現在ヒトクイが持つ戦力では、夜歩者を殺す事ができる力を持った者がいない……」
つい先程、死刑という判断を下したにも関わらず殺す事が出来ないというムスバムの言葉にざわつく大臣達。
「い、いや……だがそのための聖撃隊では無いか?」
大臣の一人が『闇』の力を持った存在を滅ぼすために結成された聖撃隊ならば、夜歩者を殺せるのではないかとムスバムに質問した。
「……聖撃隊は使えない……理由は二つ、聖撃隊が王直属の部隊である事だ……、王を偽った夜歩者によって作られた部隊だ、すでに洗脳され何等かの仕掛けが施されている可能性もある……よって聖撃隊に夜歩者の死刑を執行させるのはあまりにも危険だ……よって一時的に聖撃隊の行動を制限する……これが一つ」
ムスバムはそう大臣達に告げると、最後に聖撃隊の隊長であるインベルラを見つめた。その言葉にインベルラは何かに耐えるように口を噛みしめながら頷いた。
インベルラが洗脳などされていない事はムスバムも理解しているし、そもそも牢獄であった夜歩者がそんな事をするようにはムスバムには思えなかった。従いムスバムが語った事これはあくまでフェイクであった。
インベルラの苦悶に滲んだ表情にすまないと心の中で詫びを入れるムスバム。フェイクではあるが、ムスバムがこのことを口にした事で、聖撃隊としての誇りや名誉に傷がついた事は確実であった。だがそうしなければならない理由がムスバムにはあった。それを理解しているからこそ、インベルラも何も言わず甘んじて汚名を受けていた。
「……そしてもう一つが、そもそも聖撃隊にあの夜歩者を倒せるだけの力が無いということだ」
「ど、どういうことだ?」
ムスバムの言葉に再びざわつく大臣達。
「今この城の地下で捉えられている夜歩者は我々が知るそれとは明らかに違う力を持った存在ということだ」
ムスバムの言葉に首を傾げる大臣達。正直自分で口にしておきながら、ムスバムもまた理解に苦しんでいた。
それは牢獄での話が済んだ後であった。
「ガイルズ殿……先程の話……聞かせてくれないか?」
夜歩者レーニが投獄された牢獄からの帰り道、ムスバムはガイルズが後で話すと言っていた言葉を思い出し、ガイルズに聞いた。
「んっ……? なんの話だ?」
しかしとぼけたようにムスバムに返事を返すガイルズ。
「とぼけるな! ヒラキ王の事だ、夜歩者では無くなり始めているという話だ」
「あ~あれね……うーんどう話せばいいか……」
腕を組み珍しく何か考えるように苦悶の表情を浮かべるガイルズ。
「……俺もあった事がある訳じゃないし、そもそもそんな存在俺は信じていないから何とも言えないが……」
そこで一旦言葉を切るガイルズ。その後の言葉に固唾を飲んで待つムスバムとインベルラ。
「……神みたいなもんかな……」
「……」「……」
ガイルズの言葉に言葉を失うムスバムとインベルラ。
「なあ、だろ信じられないだろう……俺もよくわかんないだけどさ……だが俺が初めて彼奴と対峙した時、今までに味わった事も、感じたことも無いそんな何かを感じた……、圧倒的な場所にいる存在っていうか……」
ガイルズも今一要領を得ていないためにうまく説明することが出来ない。
「か、神だと……」
ムスバムはどう反応していいのか分からず思わずガイルズに聞き返してしまった。
「まあ、それを確かめるためにも俺にあいつの死刑執行とやらをやらせてくれよ」
ヘラヘラとしながらガイルズは言う。
「何と……」
もしガイルズの言葉が本当ならば、この者は神殺しをしようとしているのかと、ムスバムは目の前のヘラヘラした男にある意味恐怖すら覚えた。
そんな中、すでに自分の要領を遥かに超えた話にインベルラは頭から煙が出ていた。
「もしあいつが本当に神だったら、この状況を『奇跡』とやらで、どうにかするんじゃないかな~」
楽しみだと最後に付けたしガイルズは締まりの無い表情で笑っていた。
そんな神かもしれない者に挑もうとしている馬鹿という言葉が似合う男の顔を思いだしながら、ムスバムは、自分を見つめる大臣を前に口を開いた。
「したがい……ある者の力を借りることにした……」
ムスバムはそう言うと、王座のある王の間の扉を見つめた。
「入って来てくれ」
そう言うと頑強に作られた王の間の扉がゆっくりと開かれた。
王の間に入ってくる一人の男。背中には特大剣を担ぎ、それを担ぐ男自身も巨体であり、大臣達は見上げるようにしてその男を見つめる。
「どうも~」
巨体からは想像もつかない軽い雰囲気を醸し出す男は、大臣達にペコペコと頭を下げながら、ムスバムの横へと移動していく。
「な、何者なのですかこの者は?」
大臣の一人が見るからに嫌悪感を男に向けながらムスバムに聞いた。
「彼は」
「ああ、自己紹介は自分でするよ」
ムスバムの言葉を制する男は少し前に出た。
「俺はガイルズ……重剣士だ」
ああ、うん、それはみただけで分かるといった視線が大臣達から向けられるガイルズ。
「……」
「……」
「それだけ?」
「それだけ」
そこで王の間に一瞬の静寂が訪れる。
「ムスバム様、こんなどこの馬の骨とも分からぬ奴に夜歩者を殺せる訳がないだろう」
困った表情をしながら大臣の一人がガイルズを指差しムスバムに抗議する。その言葉に他の大臣達も頷いていた。
「ガイルズ殿、それだけではここの者達を納得させられない」
ムスバムもまた困った表情を浮かべキョトンとしているガイルズにもうちょっと詳しく説明するよう催促した。
「ああ、なるほどね……」
納得したように頷いたガイルズは、突然準備運動を始める。
「が、ガイルズ殿?」
突然の奇行に戸惑うムスバムと大臣達。その中でインベルラだけが、悪い予感を感じていた。
「せっーの!」
そう言った瞬間、ガイルズの体はみるみるうちに変化していき、そこには銀色に輝く毛を生やした狼の獣人が姿を現した。
「「「「な、なあ!」」」」
大臣達の驚愕の声が王の間に響き渡る。ガイルズの正体を知っていたムスバムもまた初めてみる狼の獣人、聖狼に驚きの声を上げた。ただ一人インベルラだけが、頭が痛いというように眉間を押えながらため息をつく。
「ば、化け物がだ!」
腰を抜かす大臣。大臣達も聖狼という存在に多少なりの知識は持っていた。しかしすでに聖狼はこの世に存在しないとされているために、自分達が持つ知識をうまく引き出すことができず、結果言葉として出たのは化け物という単語であった。
「おいおい酷い言われようだな、これでも数百年前に夜歩者を倒したっていう、有難い存在なんだぜ」
ガイルズは自分の姿に驚いた大臣達がどういった反応をするのかすでに分かっていた。何故ならガイルズは、今目の前にいる大臣達がとった反応と同じものを幼い頃その身をもって体験していたからだ。
ガイルズが聖狼になったあの日、ガイルズが暮らしていた村の人々はガイルズを化け物だと言い放ち、村から追いだしたのだ。
自分と同じ存在であるインベルラもそうであっただろうとガイルズがチラリと視線を向インベルラへと向ける。インベルラは己の過去を思いだしているのか悲痛の表情で、ガイルズに驚く大臣達を見つめていた。
夜歩者と人類との戦いが終わりを迎えてから、聖狼はその役割を終えたかのように数を減らしていった。それが自然的なものであったのか、それとも人為的なものであったのかガイルズに知る由もないが、聖狼という存在は、現在ガイアスで生きる人類の記憶から忘れ去られ、そこら辺にいる魔物と変わらない存在と成り果てていたのだ。人類という枠組みの中にいる亜人達や獣人と全く変わらない存在だというのに。
だがそれも仕方が無いと思うガイルズ。宿敵であった夜歩者とい存在が人類に敗れ、まだ反逆の意思を持つ者がいるにせよ、その数を減らした夜歩者の大半は人類に歩みより、共存する事を望んだ。そんな状況で夜歩者を滅ぼすために誕生した聖狼は存在価値を失ったのだ。
「まあとういわけで、俺があんたらを騙したっていう偽の王を殺してやるよ……」
ニコと笑うガイルズ。言葉と表情のあまりの落差に戸惑うばかりの大臣達であった。
― 小さな島国ヒトクイ ガウルド城 門前 ―
スプリング達がガウルド城の門の前で待機してから数分後、事は動いた。門から飛び出していく兵は慌てながら叫び出したのだ。
「王と偽っていた夜歩者の処刑が明日に決まった! 手分けして町の者達にそれを伝えろ!」
「な……何ッ!」
兵の言葉に一瞬にして表情が曇るスプリング。
『想像以上に状況が動くのが速いな……』
伝説の武器であるポーンはレーニに対しての行動の速さに驚いていた。
「ねぇスプリング……どうするの?」
明日レーニの死刑が行われる事になったという事は、もう残された時間は少ない。ソフィアはスプリングに自分達がこれからどうするのか聞いた。
「……」「……」
『愚民共、何を悩んでいる、早くあの門をぶち破り、助けたい者を助けに行けばよかろう』
そこに空気を全く読まない伝説の武具であるナイトが口を挟んできた。
「馬鹿! そんな事をしたら私達まで犯罪者になっちゃうでしょ!」
『ああ、ソフィア様に馬鹿と罵られた~』
罵られたのにも関わらず喜ぶようにして声を上げるナイト。
「……待て……俺達は何かを忘れていないか?」
ナイトの反応に完全無視を決め込んだスプリングが真面目な表情で、ポーンとソフィアに言う。
「……レーニさんは夜歩者だ……しかも並の夜歩者じゃない……そんなレーニさんを果たしてガウルド城にいる者で処刑する事ができるのか?」
よくよく考えてみれば全くその通りだと頷くソフィア。
『いや待つのだ、主殿……』
しかしそこでポーンがスプリングに水を差した。
『確かに今ガウルド城でレーニ殿を殺せる者はいない……だが、可能性の話でしかないが……殺せる者がいる』
「……まさか!」
そこでポーンが何を言おうとしているのか理解するスプリングは驚きの表情を浮かべた。
『そうだ、あの者なら……もしかすると……』
「くぅ……不味いぞ……」
「ねぇ何の話をしているの?」
話についていけないソフィアは、深刻な表情をしているスプリングに首を傾げながら聞いた。
『止めなければならない……聖狼である……ガイルズを!』
「ガイルズ……」
久しくその名を聞いていなかったソフィアは懐かしさと何でという気持ちで再び疑問が浮かぶ。
「ねぇ……聖狼ってなんなの?」
そう言いながらソフィアの頭の片隅では、ガイルズがガウルド墓地で狼に姿を変えた事を思いだしていた。その驚異的な力と共に。
ソフィアの体は震えていた。あの時の恐怖が新たな力を手に入れたはずのソフィアの心を縛っていたのだ。
「どうしたソフィア?」
ソフィアの様子に気付いたスプリングは聖狼の説明よりも先に、ソフィアの様子を気にかけた。
「う、うん……大丈夫……大丈夫だから」
自分に言い聞かせるようにスプリングにそういうソフィアはぎこちなく笑みを零した。
「そうか……じゃ説明するぞ」
そう言ってスプリングはガイルズが何者であるのかそれを知った時の自分の感情を混ぜつつ包み隠さずにソフィアに語った。
「……スプリングはやっぱり強いんだね……」
スプリングの話を聞き終え、ソフィアはポロリと独り言のように呟いた。
ガイルズのあの姿を見た時、ソフィアは強烈なまでの恐怖を感じていたはずなのに、スプリングは違う。ガイルズが本当の力を隠し自分と旅をしていた事に苛立ち、そしてその力に嫉妬さえしていた。
そんなスプリングの強さ、心の強さにソフィアは憧れ、そして劣等感を抱いていた。
「……」
落ち着いたのか体の震えが止まるソフィアを見て、視線をガウルド城に戻すブリング。
「今夜……ガウルド城に忍び込む……」
それは決定事項であった。
『うむ』
「……うん」
スプリングの言葉に返事を返すポーン、頷くソフィア。
『夜に忍び込むだと! そんな卑怯な事、ソフィア様の騎士である私には納得できん! それ以上にソフィア様と一緒にベッドで寝なれないではないか!』
どう聞いても後半の言い分が本音であるナイトの叫びに、スプリング達は一切反応せず一旦その場から離れ夜を待つことにしたのであった。
ガイアスの世界
簡易型伝説の武具ナイト
ポーン曰、本来ならば絶対にありえない現象のようである。だが事実として簡易型伝説の防具にナイトという自我が生まれた。
だがどうもナイトという自我は他の伝説の武具達のように成熟していないらしく、人間臭い性格をしている。
ナイト本人が言うには所有者であるソフィアによって生まれたという話だが、ソフィアには思い当たる節は無いらしい。
伝説の武器であるポーンとはソリが合わないようで、話せばすぐに喧嘩になる。そしてソフィア以外の存在はすべて愚民に見えているようだ。




