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真面目に集うで章 26 協力 落胆

 ガイアスの世界


空から降る星


ガイアスの夜空に不意に降る星の光。それをガイアスの人々は願い星や、流れ星、凶星と色々な呼び方で呼ぶ。

 ある場所では、幸福を運ぶと呼ばれ、別の場所では災いをもたらすと様々な伝承やおまじないがあるようだ。

 だが基本的には幸福をもたらすや願いを叶えるというのが浸透しているようであり、みな夜空に流れる光を見つけると手を組み拝むものが多い。


     真面目に集うで章 26 協力 落胆 




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 時は少しさかのぼり、小さな島国ヒトクイ、ガウルド城上空に竜帝ニコラウスが姿を現した頃。


 「……またここか……」


伝説の防具の所有者アキはガウルド城内にいたはずであったが、気付けば前に一度来た事のある場所にいた。何も無いその場を見渡すアキ。


『マスターご無事ですかっ!』


アキの耳に響く女性の声。今アキの姿は全裸でその姿は見当たらないが、その声は伝説の防具クイーンの声であった。


「ああ、また取り込まれちまったみたいだな……」


『そのようです、ですがマスターの自我がここまではっきりしているというのは……私自身もそうですが……』


今自分が置かれている状況を理解しているのか、アキもクイーンもそこまで動揺していないようであった。


「……おもしろいだろ?」


アキとクイーンの会話に割って入ってくる声。聞き覚えのある声にアキは驚きもせず、その声が聞こえた方に視線を向けた。


「……よう竜族」


その者の名前ではなく種族を口にするアキ。以前アキが同じ場所に来た時、この場に姿を現した者。アキの内に眠る黒竜ダークドラゴンの意思。遥か昔に滅びたとされる竜の力を持つ一族、竜族であった。


『……早くマスターを解放しなさいっ!』


アキとは違い明らかに竜族を拒絶するクイーン。それもそのはずで、竜族はアキの自我を取り込みアキの体を一度乗っ取ったことがあり、アキを守ることが自分に課せられた目的の一つであるクイーンにとって、竜族は何よりも警戒しなければならない相手であった。


「五月蠅い黙れこの屑鉄女 俺が話しているのはそこの半死体のほうだ」


クイーンの言葉を遮り、指をアキに向ける竜帝は不敵に笑みを浮かべる。


「それで何の用だ……」


「何の用だ? ふふふ……愚問だな……お前がこの場所にいるということは……と言いたいところだが今回はちょっと違う」


「違う? 俺を取り込みたいんじゃないのか?」


竜帝は遥か昔の時代、その力を一匹の黒竜に封じ込められ自由を奪われた。そしてアキがクイーンと出会った時にさらにアキとクイーンの中に閉じ込められ、さらに自由を奪われていた。その竜帝が望む事は自由になることであり、自分の宿主になっているアキわ乗っ取るのが目的であった。

 だがその竜帝が今回は違うと言葉にしたことによってアキは目の前の竜帝が何を目的としているのか理解できず首を傾げた。


「お前の中から眺めさせてもらっていたが、今この小さな島国に起こっている騒動、そしてこれから起こることにお前の力だけでどうにかできると思っているのか? 半死体?」


アキの事を半死体と称した竜帝の言葉にアキは言葉を無くす。確かに今ガウルドで起こっている現象は自分がどうこうできるようなものでは無いことは心の片隅では理解していた。だからといって何もせずジッとしている訳にもいかない。アキはそう考えていた。


「……まあお前の事だ、どうせ行けば何とかなるとか思っていたのだろう……だが今のお前の力では……あの紙切れ一枚破ることも出来ないぞ」


そういうと暗かったその場の一部が外を映し出す。そこはガウルド城の上空であり、目の前には胡散臭い笑顔を張り付けたような男が立っていた。


『ビショップ!』


「ビショップ?」


思わず声を荒げるクイーン。アキはクイーンが発した言葉に聞き覚えがあった。それは確かクイーンの元仲間であり、今は裏切り者である伝説の本と呼ばれる者で、アキ達伝説の武具の所有者達が追う者の名前であった。


「ああ……そんな名前だったな……確かお前達はあの紙切れを倒すとかそんな話をしていただろう……しかし今のお前の力ではあの紙切れの端っこを破ることすら出来ないだろうな」


ビショップを紙切れと称した竜帝はビショップと直接戦ったことがあり、アキがどう足掻こうとビショップに勝てないことを理解していた。目の前にいるビショップは所有者がいなくても強大な力を持っていると竜帝は言いたいようであった。


「なあ、お前もそれは理解しているだろう……鉄屑女」


ニヤリ口の端をつりあげながら竜帝はクイーンに聞いた。


『……』


無言になるクイーン。だがそれが答えであった。自分とビショップの間に力の差があることは何となく理解していたアキではあったが、何か勝機はあるはずだと考えていた。現に真光のダンジョンで鍛えればどうにかなるかもしれないという話を信じ突き進んだ。だがそれでも足らないのか、直接ビショップを見たクイーンは言葉を失っているようでその沈黙に、動揺するアキ。


「だんまりか……まあいい、だがあの紙切れを倒せなければ、我の下にある町、いやこの小さな島国がどうにかなってしまうのは確定事項だ……そこでだ、この我から提案がある」


「提案……?」


『マスター竜帝の言葉を飲んではいけません』


何か悪い企てをしているに違いないと割り込むように叫ぶクイーン。


「フッ……どうせお前に任せていたら、命が幾つあっても足らん……内心お前もそう思っているのだろ、鉄屑女?」


『な、何を……』


そう発したものの、その後に続く言葉が出てこないクイーン。

 クイーンと他の伝説の武具達の思惑では、真光のダンジョンでアキや他の伝説の武具の所有者を鍛えればビショップやその所有者に対抗できる目算であった。だが目の前に写るビショップからはクイーン達の予測を遥かに超える力が感じられていた。


「……否定するのはたやすいが、よく考えてみろ、お前達がピンチになった時、それを救ったのは何だ? ……我の強大な力ではなかったか? そう結局お前達は我の力が無ければ今この場に存在していることさえ出来ないんだ……だから我に服従し取り込まれろ……」


竜帝の言葉に一瞬にしてその場の空気が凍りつく。アキは、視線は鋭くし目の前の竜帝を見つめた。だがそんなアキをみて竜帝は面白く無さそうに鼻を鳴らす。


「と、今までの我だったら言うだろう……」


「何?」


アキは鋭い視線のまま竜帝の次の言葉を待つ。


「どうもお前達を取り込んでも我に対した変化が無い事がわかった、まあ当然だろう、猿でしかも半分死体のような奴と、ただの鉄屑を取り込んだ所で、最強である我に変化が起こるはずも無い……」


『結局何が言いたいのですか……』


色々と言いたいことはあるが、この場を支配している竜帝に無用な茶々を入れると面倒だとクイーンは、行きつく答えを催促した。


「……先程の話に戻そう……提案だ半死体……お前はただの猿で出来そこないの死体ではあるが、認めよう……お前の心の強さだけは我と肩を並べられると……」


「はぁ?」


けなされているのか褒められているのかもう竜帝が何を言っているのか分からないアキは首を傾げる。


「だ・か・ら・お前の踏まれても千切られても燃やされても、図太く図々しいお前の心には流石の我もちょっぴり感心したという話だ」


「は、はぁ……」


『だからっ! 結局何が言いたいこのトカ……竜帝!』


アキは兎も角、クイーンは自分の所有者を馬鹿にされていることに我慢の限界が近づいているようであった。


「フン……その心の力があれば、我に取り込まれるのでは無く、互いの意思を持ったままこれからの戦闘を戦っていけるだろうと言う話だ、つまり我がお前を取り込むのではなく、一時的に協力しようじゃないかという話だ」


「俺とお前が協力する? ……今までと何が違うんだ?」


「はぁ? ……お前は我がお前に協力しているとでも思っていたのか?」


アキの言葉に唖然となる竜帝。


「そうじゃないのか?」


「ふ、ふははははは……流石屑でも死体だな、頭は腐っているとみえる……なぜ我がお前に協力しなければならない、あれは乗っ取るお前の体を消失しないためだ、断じて協力などでは無い」


そう言いきる竜帝。だがアキには漠然としてはいたが、それが竜帝の本心のようには思えなかった。


『なるほどそういうことか……考えたな竜帝』


沈黙していたクイーンは竜帝の協力という言葉について考えていたようだった。


「理解したか、屑鉄女」


「どういうことなんだクイーン」


話に置いてかれているアキはクイーンに説明を求めた。


『今まではマスターの中から溢れだす竜帝の力をただ放出するように戦っていただけだったのです、ですが竜帝と協力することによって、どちらかが力の制御に回ることができる、そうすれば溢れ出した力を放出するだけだった力を一点に集中することができ、より濃厚な力を作り出すことができるという訳です』


「本来ならばただの猿が我の力を制御できる訳が無い、だがお前の持つその強い心はそれを可能とする……この場で我を殴りつけたことが良い証拠だ……そして肉体の強化が出来る屑鉄女の力があれば我の力は跳ね上がるという訳だ」


 本当はそれだけでは無いけどな、と心の中で言いながらクイーンの話した協力の説明に補足を付け加える竜帝。それが竜帝の本当の狙いであることに気付いていないアキは頷いた。


「難しいことはよくわからないが、協力すれば今まで以上の強さが発揮できるんだろう、なら今はそれだけでいい……それでいいだろうクイーン」


アキは竜帝の提案、協力をあっさりと受け入れ、クイーンに同意を求めた。


『……ええ、竜帝と協力するというのは癇に障りますが、今はアレコレ言っている場合ではありませんから……』


 これを利用しない手は無い。うまくいけばとクイーンも竜帝と同様、心の中で言葉を続け何かを思考しだしていた。


「よしならまず半死体は俺の力の制御を覚えろ、その間は俺が前に出る」


「お、おいちよっと待てよ」


すぐにでも目の前のビショップと戦いたいと思っている竜帝は、実感イラつきながら、アキの言葉に答える。


「お前名前は?」


「名前……? ハン、猿で半死体のお前に我の名前……」


『竜帝ニコラウスです、マスター』


「屑鉄女っ! 誰の許可をえて我の名前を……」


自身の名がアキにばれてクイーンに激昂する竜族、竜帝ニコラウス。


『いい加減、マスターをそんな単語で呼ぶ事を止めなさい、そして私は屑鉄女ではなく、クイーンです!』


ニコラウスが呼ぶアキや自分の言葉にイラついていたクイーンは我慢の限界と言うように、ニコラウスに負けず劣らずの声で激昂した。


『……仮にも協力関係にあるのです、それ相応の呼び方をしなければ協力などうまくできません……それにうまく協力できなければ……あなたも困るでしょう?』


「お前……」


含みのある言葉にニコラウスはクイーンが何か勘付いたのではないかと警戒する。しかしすぐに口の端を二ヤつかせた。


「分かった……確かにうまく協力できなければ互いに困るからな……ジョブアイズ」


ニコラウスはいやらしく笑った。


「そっか、ニコラウスか、よろしくな!」


二人の思惑をよそにアキは全く裏表のない表情でニコラウスに言うと、クイーンの力の制御の仕方を聞き始めた。


「チィ……調子が狂う……」


吐き捨てるように言葉を口にしたニコラウスは両手を鳴らしながら、自分の宿敵に視線を向ける。そこにはいつでも癇に障る胡散臭い笑顔を向けたビショップの姿があった。



― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ギンドレッド跡地 ― 


時は伝説の本の所有者ユウトとニコラウスが対峙している所に戻り――



「そうじゃないんだよ……」


 すでにガウルド墓地でもギンドレッドでも無くなってしまった場所の中心でそう呟くユウト。目の前にいる存在は確かにユウトが望んだ姿形をしていた。だがユウトが思い描くソレとは違っていたようで落胆の表情になる。


『坊ちゃん、彼は正真正銘この世界最強のドラゴンですよ』


ユウトの手に掴まれた本、伝説の本ビショップが、目の前にいるドラゴンが、ユウトが探し求めていた存在であると告げる。だがユウトの表情は落胆したまま動かない。


「なーるほど……小僧はドラゴンを探していたのか」


周囲が多少安全である事を確認したインセントがユウト側の後方から姿を現した。


『んっ?』


ビショップはユウトの後方でこちらを観察しているインセントに気付いたようだが、別段今の状況に影響は無いであろうと放っておくことにした。


『困りましたね……坊ちゃん一体彼の何が気に入らないと言うんですか?』


正直言うとビショップは自分の主が何を考えているのかさっぱりわからなかった。大人しく冷静沈着で、何事も理詰めで考えていくのかと思えば途端に野生の勘のような動きをすることもある。冷静沈着であることはつい最近偽っている事が判明した訳だが、それを抜きにしてもやはり、ユウトという存在は多様な知識を持つ伝説の本ビショップであっても理解するのは難しかった。


「……臭い……」


『臭い?』


ユウトの言葉通りで行くならば今この周辺は何か臭いが漂っていることになるが、ビショップが感じるのは大地か焼けた臭いだけであった。まさかそれを気にするユウトでは無い。ならば何の事だと自分の中にある知識を総動員するビショップ。


「リア充臭いんだよ……」


『えっ? ……はぁ』


分厚い本からため息が漏れるというシュールな絵がそこにはあった。ビショップはほらねとでも言いたいようなため息を吐く。全く自分の知識が通用しない存在、それが異邦人アキヤマ=ユウトであった。


(見た目はドラゴンなのに、人の感情を感じる、そしてもう一つその人の感情を守るような女性の感情も……しかも複数—― ここに落下した時にはその感情が力を制御して、周囲の被害を押えこんだ―― チィそうじゃないだろドラゴンは……己の欲望に忠実で残忍で残酷で、口から吐く業火で何もかもを焼き尽くすのがドラゴンだろ……そして英雄や勇者に倒されるのが――ああもうどうでもいい……だがリア充は……)


 ユウトが内面に意識を集中している間に事は動いた。じっとしていたニコラウスであったが痺れを切らしユウト目がけ、いやユウトが持つ伝説の辺ビショップに目がけ薙ぎ払うようにして右手を振りぬいたのだ。巨体とは思えぬ速度でユウトに迫るニコラウスの右手。その瞬間何かが弾けるような音とともにニコラウスの手が弾かれた。


「ニコっ! 何やっているんだ、今はまだ様子を見ようって」


「ニコとは我の事か? ふざけた呼び方するな、我はニコラウスだ!」


ニコラウスの内側では、全く緊張感の無い問答が繰り広げられていた。


「だってお前の名前長くて」


「な、長いだと……」


『マスター、しっかりニコの力を制御をしてください、ニコ貴方はもっと冷静になって状況を観察する』


「屑……ジョブアイズ、お前も我をそう呼ぶのか! 我に命令するとはいい度胸だな!」


司令塔のような立ち位置に立ったクイーンは、まとまらない二人を何とかまとめようと必至であった。


『今はそんなことはどうでもいいでしょう、それよりもニコ、相手から目を離さないで来ますよ!』


「お前また我を!」


ニコラウスがそう叫んだ瞬間、ユウトとニコラウスの間の地面が砕ける。


「ん? 重力か!」


ニコラウスは目の色を変えユウトを見つめる。だが当の本人の表情は先程と変わらず落胆した表情であり、やる気すら低下しているようであった。だがその目の奥には、何かを恨むような暗いものが漂う


「――爆発しろ」


そういうとユウトは軽く左手を振りぬいた。


「これはやべぇ」


ユウトの行動にいち早く気付いたインセントは、ユウトが危険な動作をした事を理解し、瞬時に自分がとれる最大の防御体勢で自分の身を守る。ユウトが左手を振りぬいたと同時にニコラウスが立つ地面が輝きだし、次の瞬間にはニコラウスの巨体を光が包み込む。そして大きな爆発が起きたのであった。

 爆炎が舞いそれは発動したユウトにまで降りかかろうとする。だが降りかかる寸前爆炎はユウトから逃げるように変な動きをしながら、ユウトとは全く別の場所へと降り注いでいく。目の前が真っ赤に染まるそんな光景を目の当たりにしてもユウトの表情は晴れない。


(全く……とんでもない力だな)


 大量の剣を出現させたインセントは自分の周囲にその剣を突き刺し編み込むようにして作られた壁のようにして、剣の本来の用途とはまったく違う使い方で自分の身を守っていた。軋む剣達は爆炎や爆風の威力で次々と折れていく。だがどうやら防ぎきれそうだと次々と折れていく剣を見つめながら、その爆発が収まるのをインセントは待つしかなかった。


(残念ですね……結果が決まってしまいそうです……)


ユウトの手に収まっていたビショップはその光景を見つめながら、残念だと心の中で口にする。ビショップはニコラウスに期待していたのだ。絶対強者であるユウトに一太刀でも浴びさせられるのではないかと。だが結果はニコラウスをもってしても手も足も出ない状況。これはユウトがこの世界に完全に絶望するのも時間の問題だと、世界の終わりが決まったことを確信するビショップ。


 だが――


ユウトは少しだけ目を見開いていた。未だ続く爆炎の中で黒い大きな影を見たからだ。爆炎の中蠢く影はしっかりとユウトを見つめていた。








ガイアスの世界

 

 リア充……


 ユウトが口にした言葉であるが、ガイアスの中にはそのような言葉は無い。ただその後に続く言葉は爆発しろ、であり何かの呪文のようなものだと推測される。それを物語るようにして、ユウトがその言葉を発した後には、大規模な爆発が予兆も無しに発動している。


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