真面目に集うで章 23 弓矢の如く
ガイアスの世界
竜帝 狂戦士 ニコラウス
名前 ニコラウス(竜族)
年齢 不明
レベル 不明
職業 竜帝 狂戦士
今までにマスターした職業
不明
装備
武器 禍々しき爪
防具 『闇』を取り込んだ伝説の武具
頭 上に同じ
靴 上に同じ
アクセサリー 無
伝説の武具の所有者であるアキの体を竜族であるニコラウスが乗っ取った姿。
その姿はアキのものではあるが、全くの別人と言っていい。アキが纏っていた伝説の防具クイーン)をも取り込んだニコラウスは過去よりも力が上昇しているようで、自我を保つ事ができ、無用な狂戦士状態には陥らなくなったようだ。
その存在はガイアスにとって災害といっても過言では無いが、今のニコラウスはただ恨みを持つビショップをぶち殺す事だけを求めており、足元に広がる町など眼中にないようだ。だがニコラウスが一度戦闘を開始すれば、町がどうなるかは分からない。
真面目に集うで章 23 弓矢の如く
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
つい数分前まで亡霊による呪いの声が響き渡っていたガウルド地下、ギンドレッド跡地。だが今ギンドレット跡地は整った少年の呼吸以外、静寂としていた。僅か数分で一万を超える亡霊は白く浄化され、ユウトの能力の糧へとなっていた。
「はぁ……静かになった、というか外の方で凄く大きい力が蠢いているな……ビショップの奴まさか……」
全身に纏っていた強大な『聖』の力を解いた伝説の本の所有者であるユウトは、別行動をとった伝説の本、ビショップを思いながら、ギンドレッドの天井に空いた大穴を眺める。
ユウトの願いを聞き入れるため、強大な力を持ったドラゴンをユウトの下まで呼んでくるというのが、別行動をとったビショップの目的であったはずだが、『闇』の力を増した気配と、ビショップの気配が小さな島国ヒトクイの城下町であるガウルド上空で止まっていることに気付いたユウトは何やら企んでいるなと思考していた。
ギンドレッド跡地の天井に空いた大穴から見える空は赤みを帯びていた。だがどう考えてもその空は、太陽の光によって染まった色では無く、全く別の光によって空が赤く染まっていることを理解するユウト。
すると赤く染まった空が覗く大穴から突然として人影が降ってきた。速度を増しながら落下する人影はユウトの目の前に凄い勢いで落下した。落下の衝撃で土煙が立ち視界を遮るが別段ユウトは驚くこともなく土煙に消える人影を見つめる。
「ふぅ……歳にはかてねぇな……着地に失敗しちまった」
と言いながらギンドレッドの天井の高さから落下したはずの人影は、体に着いた土を叩き立ち上がる。どう考えても常人が落ちたら助からない高さから落下しておきながら平然としている白い髭を蓄えた初老の男は、土煙を掻き分け周囲を見渡し始めた。
「むむっ? ……『聖』の気配が……」
周囲を見渡していた初老の男の視線が、崩壊したギンドレッドには似つかわしくない少年の姿の所で止まる。
「あん? ……坊主、こんな場所で何やってんだ危険な場所だぞここは……」
剣聖である初老の男、インセントは掌を光らせ一振りの剣を出現させ握る。
『闇』と『聖』の力が大量に存在していた場所に平然と立っている少年、それ事体が不自然であり、インセントは言葉とは裏腹に体は警戒するように剣を構えていた。
「……」
ユウト自信はそんな事を言われてもという表情で、明らかに自分に警戒するインセントを、顔をポリポリとかきながら見つめる。
正直ユウトは自分の仕出かした状況が、他の者にとっては一大事であることを理解していない。『闇』と『聖』の力が力としてどういうものなのかは理解しているが、それが常人にどういった影響を与えるのかを理解していなかったからだ。
「坊主……何か言えよな、そうしないと気味が悪いぞ」
剣聖としての勘が目の前の少年、ユウトを危険だと伝えてくる。インセントにとって久方ぶりに対峙する強者。インセントは強者が持つ絶対的な気配に武者震いを起こす。だがそれを悟られまいと、自分の教え子であるスプリングと接している時のように軽口を続ける。
「……」
軽口を叩く初老の男インセントと対峙するユウトの心の中では僅かではあるが変化が起こっていた。
(……このじいちゃん強いな……)
それはユウトがこの世界にやって来て初めて感じる感覚であった。いや正確に言えば二度手目であった。初めは現在自分が所有者となっている伝説の本であるビショップ。だがビショップから感じる物は、なんとも不正確で不規則でありそれが強いと言っていいのか分からなかった。だが目の前の男は違う。限りなく力を抑えているが、それでも分かる強者の風格とでもいえばいいのか、そんなものをユウトは目の前の剣聖、インセントから感じ取っていた。
「……」「……」
二人は互いに見つめ合う。そんな二人を影から見つめる者が居た。
その者は目の前にいる人外と言っていい強さを持った強者二人に驚愕の表情を浮かべることしかできないでいた。そしてすぐに気付く。この場にいたら自分の命が危ないと。それは強者二人が互いの強さに注目しているお蔭で、自分の気配に気付いていないというなんとも奇跡的な状況であった。
「不味い不味い不味い……スビアの為と思って奴を攻撃したが、あれほどとは……」
スビアの為と口にする者、それはガウルドに存在している二人の夜歩者の一人、元闇帝国団長の側近、暗殺者のギル=レイチェルバトラーの姿であった。
「この町の魂を亡霊化させ、あの子供の体を喰い破り、スビアの力にするはずが……逆に浄化され取り込まれてしまうとは……」
ガウルド地下、ギンドレッドに突如として出現した大量の悪霊、『闇』の気配の首謀者の正体は、霊体を使役し、悪霊に落すことができる夜歩者、ギルであった。
それは自分の存在理由であり、それはすべて愛するスビアの為。ギルはスビアがユウトと戦った事をスビアの体の中から見ていた。その時の光景は圧倒的であり、ユウトの前に膝を折る自分が愛する者の姿をギルは見ていられなかった。
戦いを終え、辛うじて命を繋いだスビアはその後抜け殻のようになり、今ギルがいるギンドレッド跡地を彷徨っていた。
スビアの体内にいることによって聖狼に負わされた体の傷は癒えたものの、抜け殻のようになったスビアに心を痛めるスビア。そしてそんな姿であるスビアの事を思い、ギルはスビアをここまでボロボロにしたユウトを倒す事を決心した。
だが夜歩者の上位種である闇歩者のスビアですら倒すことが出来なかったユウトをギルが倒せるのか。それは不可能に近かった。だがギルには勝算があった。
ギンドレッドで死んでいった魂を使役し、悪霊としてユウトにぶつければ、『聖』の力を扱う職業では無いユウトには対処できないだろうと考えたのだ。たとえユウトが『聖』を扱う力を持っていたとしても、一万を超える悪霊となった魂を一人で相手するのは不可能であった。いくら強者いといえど、大量の悪霊を前にしてユウトは対処できないとギルは考えたのだ。
だがギルの思惑は軽くひっくり返されることとなった。ユウトがギンドレッド一万を超える『闇』の力を圧倒するほどの『聖』の力をその身に纏ったからだ。ギルにとってその状況は信じられないものであった。たかが一人の人間が、一万を超える『闇』の力を圧倒する『聖』の力を持ち合わせている事など考えられなかったからだ。
離れた所から『聖』の力を纏ったユウトを眺めていたギルにもその力は容赦なく降り注ぎ、危うくギルは浄化されられてしまう所であった。何とかうまいこと逃げ切ったギルであったが、底の知れないユウトの力に絶望するしかなかった。
そしてその場に現れるもう一人の強者。ギルは年老いてはいるが、その者の事も知っていた。まだギンドレッドという、ならず者が住む町が誕生する前、ガウルドでヒラキ王の右腕として活躍したヒトクイの英雄とも言えるべき存在。剣聖インセント。
ガイアスの歴史上、史上最強とも言われる剣聖インセントの武勇伝や逸話はガイアス全土に広がっており、ギルの耳まで届いていた。
なぜならば人間でありながら夜歩者を倒せる男と噂になっていたからだ。それが事実なのか虚実なのかギルには分からない。だが当時その噂を聞いたギルは、鼻を鳴らしながら蔑むように笑っていた。所詮人間の戯言であると。我々夜歩者が、繁殖しか取り柄の無い人間に劣るはずがないのだと。
だが事実、実際にその姿を目の当たりにしたギルは、たとえ当時から時が流れ年老いたとしても、その力は健在でありインセントという男が夜歩者を倒せるだけの実力を持ち合わせている存在であると、即座に理解してしまったからだ。
自分が手を出してはならない領域であると感じたギルは自分の息を殺し、気配を殺し、その場を後にする。それはギルにとって屈辱以外の何ものでも無い事であった。頭が己のプライドを主張しても、体がそれを許さない。それは敗者が強者に対峙した時の絶対的な感覚。それはギルが強者であった頃、弱者に与えていた感覚であった。
「んっ? ネズミが逃げたな……」
目の前の強者であるユウトに警戒しながらも、周囲に感じていたネズミの気配が離れていくことに気付いていたインセント。だがそんなネズミの気配を相手にしているほど今のインセントは暇ではない。すべては目の前にいる強者に注がねばならない。インセントの視線は無駄も無く目の前のユウトに注がれていた。
それはインセントだけでは無く、インセントの前に立つユウトも同じであった。まさかドラゴン以外に自分の心を躍らせる者が存在しているとユウトは目の前でジッと自分を見つめる初老の男に視線を固定する。
気配を気付かれていたギルではあったが、二人の強者が逃げていくギルにさほど興味が無かった事が幸いし、その場を脱出することが出来たのであった。
「さて、反応が無いんじゃ……これから何が起きても知らないぞ」
再三ユウトに語り掛けたが一行に反応が無いことに痺れを切らし挑発するような言い方をするインセント。だがそれでもユウトは全く反応すること無くインセントを見続けている。
「あ~あ、もう知らねぇぞ!」
目の前のユウトから発せられる強者の気配はやる気に満ち満ちているというのに、その本人からは何の反応も無い。自分が経験した中でここまでチグハグな奴に出会った事がなく、正直インセントは困惑していた。
だがそれでは進まないと考えたインセントは手に持った剣を振り上げる。それに反応したユウトは目の前のインセントと同じように手の平を光らせ一振りの剣を出現させる。
(何っ! こいつ……)
インセントは自分と同じように剣を出現させたユウトに驚愕する。だが驚いている暇は無い。相手も剣を抜いたのだ、それは戦闘の開始を意味する。驚愕した感情は直ぐに歓喜へと変わる。強者の渇きとでも言えばいいのか。年甲斐もなく興奮する自分を感じつつも渇く己の欲望を癒そうと放った刃は目の前の強者へと迫っていく。しかしその瞬間であった。
「お待ちください!」『坊ちゃん、待ってください』
異なる二つの声がインセントとユウトの戦闘を止める。停止したインセントの剣はユウトの額ギリギリの所で止められていた。だがインセントの表情は曇っている。
「お前……それまじか……」
インセントの背後には二十本もの色々な武器が、インセントの背中を捉えていたのである。それは明らかに剣聖が扱う技であった。
「ふぅ……間一髪の所でしたね」
黒い影を連れだって出現する、髑髏の仮面の男。
「なんだ、俺とこいつの戦いを止めるっていうなら、お前も容赦しねぇぞ死神」
潤いを邪魔されたことにより、普段のひょうきんな姿が影を隠し、戦闘狂の姿を現したインセントは、視線をユウトに向けたまま、姿を現した死神に声をかけた。
「いやいや、そもそも貴方がこのお方と剣を交える必要はないのですよ」
「このお方? ……まさかお前の主か?」
インセントは死神の言葉に冷静を取り戻し、手に持っていた剣を引っ込める。すると、同じようにユウトも剣を引っ込めた。
「ええ……まあそのようなものです……さてここからはビショップさん頼みます」
『ええ任されました……さてお初にお目にかかります、剣聖インセント』
いつの間にかユウトの手に持たれていた本がフワリと浮かびあがる。
「本……伝説の本って所か?」
『おお、話が早くて助かります、そう私は伝説の本……』
本は光ったかとおもうと、そこには笑顔を張り付けたような顔をしたビショップの姿があった。
― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ガウルド城上空 ―
「お前……我を前にしてその身の半分をどこかにやったな?」
闇が具現化したような漆黒の鎧に亀裂が入り、そこから鮮血のようなものが噴き出す者。体の持ち主であるアキの意思はその表情に無く、今はアキの中で存在していた黒竜、いや竜帝と呼ばれ、狂戦士と呼ばれるニコラウスがアキの体を支配していた。
「ええ、私の所有者からの呼び出しなのでね……でも心配しないでください、私の力が半分になっても十分に楽しんでもらえると思いますよ」
表情は変えない。ずっと笑顔が固定されたその表情から何か読み取ることは不可能に近かった。だが竜帝ニコラウスにとって相手の表情などどうでもいいことであった。そんな事を考える前に、目の前の胡散臭い笑顔の顔を切り裂けばいいのだから。
目に留まらぬ速さでニコラウスはビショップの顔を切り裂いた。それと同時に『闇』の残り香とでもいえばいいのか爪の形をしたそれが、赤く染まったガウルドの空を切りさく。
《いきなり強烈な一撃ですね》
ニコラウスの放った爪の一撃は、ビショップの頭を吹き飛ばされていた。だが、それでも平然とその場に浮かぶビショップの体。だが次の瞬間、ニコラウスの爪によって体を貫かれる。突き抜けていく『闇』の残り香がガウルドの空を突き抜けていく。
《いちいち派手な攻撃ですね》
畳み込むように続くニコラウスの攻撃で、跡形も無くなるビショップの体。だがそれでもビショップの言葉は止まらない。
「……我の前で力を分散しただけでなく、本体では無いとは……舐めているな」
ニコラウスは自分の目の前にいるビショップが本体では無いことに気付く。
《ばれましたか……でも以外ですね……激昂すると思ったのですが……》
「戯れた事を……お前の考えなどお見通しだ、いちいち付き合ってやれるか」
怒りは出し尽くしたと言わんばかりに見た目に反して冷静を保っているニコラウスはただの破片となったビショップを見合った。
「いい加減、本題に入れ……紙切れ」
何か含んでいるビショップ。それを吐き出させようとニコラウスは破片となったビショップに語り掛けた。
《私の所有者が貴方と戦いたいそうなのですよ、だからそこで決着を付けましょう……今までの因縁の決着を……》
そう言い残しビショップの破片は跡形も無く消え去っていった。
「チィ……結局お前の掌で踊れという訳か……いいだろう……踊ってやる……だが道化を演じるのはお前一人だ」
ニコラウスは唾をガウルドの空に吐くと、竜巻のように出現した『闇』を全身に身に纏う。するとそこには巨大な槍のような角を蓄え四枚の翼を持った漆黒の竜が姿を現した。その姿は黒竜の時の数倍の大きさがあり、もはやそれは人が同行できる存在では無かった。漆黒の竜は空を蹴るようにして憎むべき相手がいる場所へと弓から放たれた矢の如く飛びたったのであった。
ガイアスの世界
漆黒の竜
竜族であるニコラウスが竜化した姿。巨大な槍のような一本角。四枚の翼を持つ竜。以前の黒竜よりも数倍の大きさであるが、その速度はましている。
人型の時よりも小回りはきかないが、圧倒的な攻撃力と、強靭な防御力は恐ろしいものがある。今はアキと伝説の防具クイーンの力も取り込んでいるようでその力は更に強化されているようである。




