真面目に集うで章 22 それぞれの覚悟
ガイアスの世界
竜族と竜皇帝の関係
竜族は竜皇帝が、知能の発達した生物、人と関わりを持ちたいという願いから誕生した存在である。従いその姿は人間に近いものとなっている。
始めはうまくいっていた竜族と人の仲も時代が経つ事に状況が変わってくる。それは時が経つごとに人々の心から竜皇帝という存在が薄くなりはじめたからだ。それは結果として竜族による人間の蹂躙という結末に至っていく。
※ 初めに 正直毎回ではありますが、今回は特に訳が分からなくなってしまっているのでそのうち出来る限りの修正をする可能性があります。本当に申し訳ありません(汗
真面目に集うで章 22 それぞれの覚悟
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
夜明けが迫ったガウルド。太陽の光が夜の暗さを侵食し始め空に明るさが出てきた頃、ガウルド城の上空では、夜の暗さがそこに集結したのではないかと思うほどの影が、大きな黒い翼を羽ばたかせその場を浮遊していた。
「お久しぶりですね……前回お逢いしたのは……あなたの母上が崩御……いやあなたの一族を滅ぼした時でしたか」
地上からそれなりの高さがある場所だというのに、翼も魔法の力も使うことなく、まるでそこに足場があるかのように佇む人の姿をした者は、ネットリと挑発するように黒い翼を持つ何かにそう告げた。
「んっ? ダンマリですか……あなたらしくも無い、少しでもイラつくことがあれば、ギャーギャー喚いて町の一つや二つ潰していたあなたが……」
元々笑った顔が張り付いたような表情の男は口元を更に吊り上げ二ヤつく。だが男の目の前で黒い翼を持つ何かは翼を羽ばたかせる以外、動く気配が無い。
「ああ、なるほど……フフフッ……アッハハハハ……飼いならされたのですか? 竜族の頂点に君臨していたあなたが、たかが人間ごときに?」
男は滑稽だと狐のように細い目が見開かれ、笑い声を高らかに上げる。
「……言いたい事はそれだけか? 異形の存在よ」
黒い翼を持つ何かは淡々と言葉を発する。その言葉に感情は見えずただ言葉を発しているだけという感じであったが、その声色は伝説の防具の所有者アキのものであった。
「やっと喋ったと思ったらふざけた事を、どうみてもあなたの方が異形の存在でしょう」
闇を纏うアキ。現在のアキの姿はそう言い現すのが一番であった。纏わりつく闇はアキの体を這いまわるかのように常に動き続け、それは蛇やムカデのようにもみえる。闇を纏ったアキの顔に表情は無く、静かに目の前の男を見据えている。その視線はアキの視線では無かった。そこに存在するアキは、アキであってアキでは無く、その体の中で力として存在していた黒竜、竜族と呼ばれる者の自我であった。蛇やムカデのようにアキの体を這いずりまわっていた闇が、アキの体に定着しはじめたのか漆黒のドラゴンを模した全身防具へと形を変えていく。それは伝説の防具、クイーンを完全に取り込んだ事を意味しており、意思を持つ防具クイーンは沈黙し現在そこに存在しているのか不明であった。
「お前と話すことはすでに無い……後は無言でお前を跡形もなく、塵一つ残さず消し去るだけだ」
内に秘めた怒りを静かに滲みだす黒竜の手には巨大な竜爪が出現し、その禍々しい姿に拍車をかける。
「アッハハハハハハハッ! これでこそ竜族にして、ニコラウス!」
体を仰け反らせ笑う男がその者の名を発したと同時に、漆黒の全身防具の所々に亀裂が入り、そこから噴き出す炎のようなもの。それはまるで負の感情を具現化させたように燃え上がる。
「我名を口にするか、ただの紙切れ如きが!」
周囲に漂う『闇』から感じられる憎悪や恨みの感情が体に吸収され、この場で初めて感情を表に出す、竜族ニコラウス。それに同調するように負の感情を具現化したよう炎が更に大きさを増す。
「あははは、いいですよ……それでこそ力をその意味のままに振う暴君、暴帝、独裁者……」
負の感情に身を委ねる竜帝ニコラウスの姿に全く気圧される事なく、笑い声を上げる男。だがピタリと笑いが止む。
「だがやはり貴方に一番合う二つ名は、暴力の化身、狂戦士ですね竜帝ニコラウス!」
「消し炭すら残さんぞ、ビショップ! ウォオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!」
竜咆哮。黒竜の周囲には炎のような光が飛散し、ガウルドの上空を赤く染める。竜族、狂戦士ニコラウスの目覚めの瞬間であった。
ガウルドの空が真っ赤にそまる少し前、時は少しさかのぼり……
― 小さな島国ヒトクイ 、ガウルド ガウルド墓地跡 ―
「!」「ッ!」
激戦、いやほぼ命のやり取りに近い久々の稽古を終えた師弟の関係にある二人。スプリングとインセントはガウルド墓地の地下から感じる強大な『闇』の気配を感じ取っていた。
「……不味い……この量は……」
それはヒラキ王が本当の姿を現した時や、伝説の防具の所有者であるアキから僅かに漏れる『闇』の力とは全く違う『闇』の力であった。意思を持った者が持つ制御された『闇』では無く、ただ膨れ上がった力が噴き出しているだけと言ったような、無秩序な力。それは無秩序故に桁違いな量であり、人一人がどうにかできるものではなかった。
「……なっ!」
その後を追うように強大な『聖』の気配を感じ取るスプリングとインセント。『闇』と同等、もしくはそれを超える量の『聖』の気配を感じたスプリングは戸惑いを隠しきれず声を漏らした。
「……こ、この量は……両方とも災害クラスだな」
インセントが顎に蓄えた立派な白い髭を摩りながら、災害クラスの量を持った『闇』と『聖』の気配であると言い切った。
災害クラスとは、文字通り災害であり、人や魔物単体では到底たどり着けないであろう量の『闇』の力が発生した時の事をいう。
これは『聖』の時でも同じであり、薬も大量に服用すれば毒になるというのと一緒で、『聖』の力が大量に存在すると人類には毒になるというものであった。
だが『闇』と『聖』の災害は早々起こる事では無く滅多に起こるものでは無い。何等かの要因、例えば一人の独裁者が民を皆殺しにするや、一人の聖者が民の祈りを一斉に浴びるなどしなければおこらない。しかし現在のヒトクイ、ガウルドでは、そう言った独裁者も聖者も存在しておらず起こる可能性は極めて低かった。他にも何個か災害を起こす要因はあるがどれも簡単に起こされるような要因では無かった。
訳が分からないと動揺するスプリングに対してインセントも驚きはしたが、この現状を引き起こした人物、もしくはその関係者には心当たりがあった。そう独裁者も聖者も存在しない中、他の要因でこの災害を引き起こしたであろう人物をインセントは知っていたのだ。
スプリングが動揺し、インセントが冷静に状況を分析している中、今度はガウルド城方面上空に『闇』の気配が出現する。それは地下で発生した『闇』とは比べものにならないほどの怒りと憎悪が内包しており、量は地下のものよりも少ないが危険度でいえば、ガウルドの上空の方が数段上であった。
「……」
あまりの状況に声すら出ないスプリング。インセントもこれには驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ……上空のやつは本当に不味いぞ!」
ガウルド上空をみあげるスプリング。それに続き空を見上げるインセント。二人の視線の先にはの驚く光景が広がっていた。
そしてその直後、何かが震えるような怒号のような音ともにガウルド上空に発生した『闇』の気配が膨れ上がり、地下で発生した『闇』の量を遥かに凌ぐ量となり、そこに気配を残したまま『闇』は恨みや憎悪を振り向くように弾けて四散していく。そこには朝焼けとは全く違うまるで血のような赤い空が広がっていた。この時『闇』の量は地下の量を凌ぐものとなっていた。
「……俺行かなきゃ、仲間が心配だ」
スプリングは現在ガウルドがどういった状況に置かれているのか理解してはいなかったが、間違いなく悪い方へと向かっている事は理解できた。そしてガウルド城に残した仲間達が心配になり、インセントに別れの言葉を告げる。
「……仲間か……」
スプリングの言葉に少し間をあけながら答えるインセント。自分の事を少し切なそうに見ているインセントが気になりはしたが、スプリングはガウルド城にいる皆がどうしているのか気がかりであり、それを優先することにした。
「それじゃ、俺行くよ!」
ガウルド墓地跡を飛び出していくスプリング。仲間を心配し走り出していく教え子の背中をみつめなるインセントの目にはスプリングの成長を嬉しく思う反面、何かを覚悟した決意が感じられた。
「……地下に……行ってみるか……」
インセントは『闇』の力が減少を始めた事を感じ取り、そこで何が起こっているのかを確かめるため、地下へと歩みを進めることにした。
― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ガウルド城内 ―
突然天井をぶち破り空に飛びたったアキであった者。周囲にいた者達は騒然とし、城内は嵐のような騒ぎの中にあった。
その中ヒトクイの王であるヒラキは、ガウルド各所で発生している異常な気配を感じ思考を巡らせていた。
「ガウルド墓地の方角から、『聖』と『闇』の力……しかも恐ろしい量……」
ガウルド墓地の方角から突如として発生した大量の『闇』の力。だがヒラキ王の姿をしたレーニはそれに驚く暇も無く、目の前で異常な変化をしたアキに目を奪われていた。そしてその直後アキであった者はこの場から姿を消した。その後に発生した強大な『聖』の力。正直レーニは現状何が起こり始めているのかさっぱり分からないでいた。だがただ一つ分かる事と言えば、この世界を破壊し、消滅させようとしている伝説の本とその所有者が関係しているということだけだった。
「あ、あれは……」
不安が表情に現れるブリザラはポッカリと穴が開いた広間の天井をみあげる。
『……王よ、不味いことになった、小僧とクイーンの気配を感じられなくなった……あれは……』
ブリザラを王と呼ぶ、ブリザラの手に持たれた伝説の盾であるキングは、そこで一旦言葉を切る。その間はブリザラに不安を与える。ブリザラもアキの現状がどうなっているのか、気付いていたからだ。それはブリザラ以外のウルディネ、ピーランも同じであり、キングの言葉を待つ三人。
『小僧の内に存在している黒竜だ』
分かっていたが信じたくなかった事実をキングに告げられたブリザラの表情が強張る。アキのあの姿は、ブリザラ達が真光のダンジョンで戦った最悪な存在と酷似していたからだ。いやそれは酷似では無く同じ存在であろう。真光のダンジョンに出現した魔物と全く違う異質の存在、アキの姿を借りた黒竜の姿であった。
ブリザラ達が束になっても相手にならなかった存在が突然再び目を覚ましたのだ。しかもあの時よりも力を増しているようにブリザラ達には感じられた。それはブリザラにとって絶望と悲しみであった。
「憎悪や恨みが混ざった『闇』の気配だ……量で言えばガウルド墓地跡で発生している『闇』の方が多いが……どちらにしてもこれは災害レベルだ」
レーニは自分と同質の力である『闇』の力を災害と言い切った。それは『闇』の力を持つ夜歩者ですらも手に余る力だという事を示していた。
「だがそれ以上に……『聖』の力……」
レーニにとってもっとも問題であるのは『聖』の力の方であった。こちらもガウルド墓地跡方面から感じ取れるのだが、『闇』の力と同等かそれ以上の量が発生していたからだ。これ以上『聖』の力が大きくなるようであれば、『闇』の力を持つレーニ自身に影響が出てくる。そうなればヒラキ王の姿を保てなくなるのも時間の問題であり、それは更なる混乱を巻き起こすことを意味していた。
今混乱している中で、ヒラキ王の正体がばれる訳にはいかない。それはなんとしても阻止しなければならないことであった。だが『闇』の力を持つレーニにガウルド墓地跡周辺で発生した『聖』の力をどうこうする術は無かった。
だがそれよりもまずやらなければならないことがレーニはあった。それは夜歩者としてでは無く、ヒトクイという国の王としての責任であった。
レーニが近くにいたガウルド兵に声をかけようとした瞬間であった。
「ウォオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!」
ガウルド城上空から突如として巨大な咆哮が響き渡った。それと同時にガウルド上空に発生していた『闇』の気配が変化した。それは怒りや憎しみ憎悪といった負の感情が入り混じっており、ガウルド城を揺さぶる。
「こ、これは!」
先程までの『闇』の量が跳ね上がり、明らかにガウルド墓地跡の『闇』以上に膨れ上がる力に驚愕するレーニ。
どうやらだいぶ上空にいるようで、『闇』の力の影響はガウルド城までとどいていないようではあったが、それでも城の者達を不安にさせるには十分であった。
恐怖に悲鳴を上げる者達が続々とあらわれ、ガウルド城は加速するように混乱が大きくなっていく。
「静まれ!」
レーニは使いたくは無かったが、混乱した者達の心をその一言で操った。皆レーニの声に静まり落ち着きを取り戻していく。その光景は明らかに不自然であったが、混乱した現状ではその不自然は些細なものであった。
「兵達よ、今から……」
ガウルドの住民達もガウルド城の者達と同じような状況に陥っているかもしれないと考えたレーニは町の住民の混乱を鎮静させるためにガウルドの兵に指示を出そうとした瞬間であった。
「……なんだ、急速に『闇』の力が減少を始めている……」
レーニやその場にいた者達は、ガウルド墓地跡周辺に感じられる『闇』の力の量が急速的に減少を始めていることに気付いた。
それは『聖』の力が『闇』の力を凌駕している事を示していた。だが状況は変わらない。現在その場所はほぼ無人の場所と言っていい場所であったが、このままいけば『闇』の力を打ち消した『聖』の力がガウルドの人々を呑み込んでいく可能性があり危険であることに変わりはないからだ。
「全兵士に伝えろ、ただちに混乱した住民達の保護とガウルド墓地跡を全面封鎖、誰も近づけるな!」
ガウルド城上空に発生した強大な『闇』の力もガウルド墓地跡周辺に発生した『聖』の力も僅かな耐性しか持たぬ者ならば触れれば一瞬にして気が触れ自我が崩壊する。それを懸念したヒラキ王としてのレーニは速やかにガウルド兵達に指示を出していく。王の言葉に頷くガウルド兵達はすぐに広間から飛び出しレーニの伝令を広めていく。
「ブリザラ殿、キング殿……これは」
『ああ、間違い無い、奴が仕掛けたのだろう、王よ我々は外に出て現状を確認しよう……』
不安を隠しきれないブリザラはキングの言葉がまともに聞こえていないのか、反応が無い。
『ポーンとも連絡はとれた、こっちに向かっているようだ ん?……大丈夫か王?』
話半分、いや殆ど耳に入っていないことに気付いたキングはブリザラに声をかけた。だがその言葉も今のブリザラには聞こえないようで、不安の表情のまま、穴のあいた広間の天井を見つめていた。
『しっかりしろ!』
キングの低い怒鳴り声が広間に響く。その言葉に周囲の者達は一斉にブリザラに注目する。
「キング……」
ビクリと肩を弾ませ、ようやくキングの言葉が耳に届いたのか、ブリザラは手に持ったキングを見つめた。
『今身動きがとれるのは王だけなのだ、しっかりしてくれ……』
不安が全面に出ているブリザラにとってキングの言葉は厳しいものであった。命は助かり、今は元気になったピーランを死の淵まで追い込んだアキの内部に蠢く力。あの時ブリザラ達も一歩間違えば死んでいたかもしれないのだ。そんな者の後を追うなど無理だとブリザラの足はすくみ身動きが取れなくなる。
「ブリザラ様……私は大丈夫です」
ブリザラの肩を摩りながらピーランが微笑む。
「で、でも……」
隠しきれない不安を吐露しようとするブリザラ。だがそうさせまいとピーランがブリザラの口を指で塞ぐピーラン。
「あの時と状況は違います、私は知りませんが、伝説の武器の所有者であるスプリングは凄腕の上位剣士と事、あの時のようにはなりませんよ」
正直ピーランの言葉は嘘に近かった。それは黒竜を纏ってしまったアキと戦い、命の淵を経験したピーランだから分かると言えばいいのか、真光のダンジョンで戦った時の黒竜よりも明らかに力が増していることに気付いていたピーラン。だがそれでも自分を何度も救ってくれたブリザラのため、ピーランはブリザラを心配させまいと笑顔を作っていた。
「……そうだ、しかもあのアキだぞ、また今度もひょっこり意識を取り戻すさ」
不安を取り除こうとするピーランの援護に入るようにウルディネはブリザラに声をかける。ブリザラにとってアキという存在はすでにただの仲間という枠を通り越していることをウルディネは知っている。そしてウルディネにとってもアキという存在はブリザラと少し違うが特別な存在であった。それ故にウルディネがブリザラにかけた言葉の半分は自分に対しての言葉でもあった。
「ウルディネさん……」
ウルディネの言葉に少し安堵する表情になるブリザラ。だがウルディネも感じとり理解していた。長い年月を生きてきた水を司る大精霊であるウルディネでさえも感じた事の無い強大な『闇』と『聖』の力が危険であると。
だがその場で危険を感じているピーランやウルディネは、目の前にいる伝説の盾の所有者であるブリザラの可能性に賭けるしかなかった。ブリザラに隠された力、未だに成長を続ける底が見えない力を。
「皆ありがとう」
不安が少し抜け、明るさが戻ったブリザラの表情にホッとした表情をするピーランとウルディネ。広間を
「うん、まずは空で何が起こっているのか確認するために外に出ましょう!」
自分を鼓舞するように頷くと、覚悟を決めた表情になったブリザラは広間の扉に向かい歩き出した。
「はい」「うん」
それぞれブリザラの言葉に答えブリザラの後を追うように広間を後にしようとするピーランとウルディネ。
《……二人とも助かった、ありがとう》
ブリザラに聞こえないように、ブリザラの後を追うピーランとウルディネに声をかけるキング。
(私はブリザラ様の……その……えっと……友達ですから)
キングの礼に恥ずかしそうに答えるピーラン。
(ふん、なぜ私がオウサマを励まさなきゃならないのか……だが正直、オウサマと伝説の盾の力を信じるしかない)
ウルディネは半分愚痴を言うようにキングに答える。
《……再確認した……やはり仲間とはいいものだ、そして王には良い仲間が出来た》
キングは少し笑うように二人にそう告げる。
(ありがとうございます)
素直にキングに対して礼を言うピーラン。
(ああ、体が痒くなってきたわ)
素直に喜ばず照れるウルディネ。
黒竜に意思を乗っ取られたであろうアキを確認するため三人と一つは広間を後にした。広間に残されたレーニは三人と一つを見送り、そして再び思考する。
(ガウルド上空の気配は別として……ガウルド墓地跡の『闇』の気配……どう考えても自然発生したにしては強大すぎる……となると……)
たとえその場が墓地だったとしても、たとえそこが驚異的な爆発に巻き込まれた町だとしても死者が幽体として姿を現すには、強い憎しみなり現世への未練が必要であり、どう考えても墓地や町の使者達全員が強い憎しみや現世への未練を持っているとは考えにくい。そうなると考えられることは一つ。死者の魂を使役する事ができる存在であった。
死者の魂を使役する事の出来る人物ならば、相当な術の使い手である必要はあるが、墓地や町といった規模の死者達を全員幽体にすることも可能である。
そう考えるとレーニの中では首謀者が想像出来てしまう。『闇』の力をうまく扱える者、それは夜歩者だ。そしてガウルド墓地跡にゆかりがある者と言えば、一人しかレーニには考えられなかった。
(スビア……お前か……)
夜歩者の頂点に立つ存在の名前を思い浮かべるレーニ。伝説の本の所有者達が動き出した事を察したスビアもその混乱に乗じて行動を開始したとレーニは推測した。
(そろそろ私達の因縁に決着を付けよう……スビア)
ヒラキ王の姿をしたレーニには、慌ただしく右往左往しているガウルドの兵を見つめる。
(決着がついた時には、すべてを語ろう……)
それが現ヒトクイの王、ヒラキとしての最後の仕事だとレーニは心に深く近い覚悟を決めるのであった。
ガイアスの世界
『闇』と『聖』の災害
何百年に一度起こると言われている災害であり、そうそう滅多に起こるものでは無い。
自然発生のような災害ではあるが、人為的に引き起こすことも可能である。だが人為的に起こす場合、数多くの行程をこなさなければならないために、滅多に出来る存在はいない。
どちらかと言えば『闇』のほうが災害を引き起こしやすいのではないかと言われている。




