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 真面目で章 4 (坊ちゃん編) 戦いの始まり

 ガイアスの世界


神に一番近いと言われるドラゴン 竜皇帝ドラゴンカイザー


全身が真っ白で六枚の翼を持ち眩い神々しい光を放つと言われる竜皇帝ドラゴンカイザー。その瞳は優しく時に厳しく時に優しくまるで母親のようにガイアスを見守っていたという。

 現在のガイアスの人々にとって竜皇帝ドラゴンカイザーとはおとぎ話の中の架空のものであり実在していたなどと考える者は殆どいない。

 そ



 真面目で章 4 (坊ちゃん編) 戦いの始まり



 それは誰が見ても神々しく、畏敬の念を隠すことすら出来ない。優雅に大空を舞い、下界にいる人間を見下す訳でもなく見つめるその瞳は、母性すら感じさせる。

 時に優しく、時に厳しくその力は悪しきものを祓い、大地に恵みの光を与えガイアスに生きるすべての生命の母と呼べる存在であった。

 神にもっとも近い存在と大空を舞うドラゴン、竜皇帝ドラゴンカイザーを人々は称え奉った。

 現在のガイアスにおいて竜皇帝ドラゴンカイザーについての文献などは時の流れによる摩耗によって失われ、深く知っている者はあまりいない。子供のおとぎ話や伝説でしか、竜皇帝ドラゴンカイザーという存在を知らず、殆どの人々は作り話として認識しているのが現状であった。

そんなドラゴンと呼ばれる存在は現在のガイアスでは蜥蜴に翼が生えたものや巨大な蜥蜴のことを言い、ガイアスに生息している一種の魔物として認識されている。強力な魔物であることに変わりは無いが、伝説やおとぎ話で語られるドラゴンのような知性や特殊な力を持ったドラゴンは確認されていない。

 


  剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



それは伝説の本の所有者であるユウトが、伝説の本ビショップと出会って間もない頃であった。

 ビショップと名乗る者がユウトの前に現れ、自分は伝説の本だと告げた。普通人の姿をしている者が自分は伝説の本ですと言っても信じるはずも無く、当然ユウトもビショップの言葉を信じてはいなかった。というよりも気にも止めなかった。その時ユウトは自分が手に入れてしまった能力に嫌気がさしておりどうでもよくなっていたからだ。

 だがビショップはユウトのそんな態度を気にすることなく物理的では無い距離感をユウトの意思とは無関係に縮めようとしてくる。

 ユウトも対人との距離感にあれこれ言える立場では無かったが、なれなれしく距離を縮めようとしてくるビショップに思わず言葉が出そうになった。だが寸前の所で口をつぐむ。こういった輩に口を開けば、それ以降ダラダラと会話をしなければならなくなると思ったからだ。そんなビショップがユウトに付いて行くと言いだした時、もう面倒だから消し炭にしてやろうかとユウトは考えたが、その考えを一時とどめた。

 まだこの世界に来て日が浅いユウトは、目の前で冷たい笑顔を浮かべるビショップを利用できるかもしれないと思ったからだ。案の定ビショップと一緒に行動を共にし始めて、ビショップが使える奴であることをユウトは理解した。

 『不正チート』という能力を持つユウトにとって、簡単な情報はすぐに手に入る。だがビショップはユウトが持つ能力と同等の知識を持っており、ユウトが能力を使うまでも無く、知りたい情報をビショップはユウトに伝えた。本人曰く伝説の本である自分には膨大な知識を持っているのだと自慢気にユウトに言っていた。それを聞いたユウトは若干能力が被っているなと思ったが、それを言葉にすることは無かった。

 ビショップが使える奴というのはそれだけでは無く、ユウトが持つ持病、二週間眠り続けてしまう奇病が発症した時に、多いに役に立ってくれた。寝てしまうことにより、全くの無防備になるユウトを守ってくれたのだ。たとえ最強と思われる『不正チート』という能力を持っていたとしても、眠りつき無防備となったユウトでは突然の魔物の襲撃には対処できないからだ。

 別段何をした訳でもないのにユウトに過剰なほど尽くすビショップ。なぜビショップが自分にここまで尽くすてくれるのか。しばらく行動を共にしたユウトは何となくビショップの目的に気付き、自分の力が必要なのだということを理解していた。

 その目的はユウトが現在いる世界の破壊、消滅。だがユウトにとってビショップの目的はどうでもいい事であった。『不正チート』という能力を手に入れてしまったその時から、ユウトにとってこの世界に価値は無い。それ以前にこの世界はユウトにとって夢の中の出来事でしか無く、世界が消滅しようがユウトにとって支障はない。従い自分に利益をもたらす限りはビショップに利用されてやろうと思うユウト。こうして二人は利害が一致し正式に行動を共にすることになった。

 互いの意思の確認が済むとビショップの体が光だした。みるみるうちにビショップは人の姿から本へと形を変えていく。そしてユウトの手に収まった。ビショップのその姿を見て本当に伝説の本だったのだなと、この世界に来て初めて若干表情を崩すユウト。


『声帯認証を確認、所有者として確定、スキル適合、周囲をスキャン……スキャン完了』


表情豊かな喋り方をするビショップにしては抑揚の無い義務的な声。その声を聞いてユウトはビショップという存在なのか、うっすらと理解する。それは他の所有者達には分からない事、ガイアスにとっては異世界である場所からやってきたユウトだから分かる真実であった。  


「ああ……結局自分の想像の範疇からは超えられないんだな……」


これは自分の夢。自分の頭の中にある記憶や知識で構築された世界なのだと冷めきった目で空を仰ぐ。

そしてユウトは思う、自分の夢のはずなのになぜ思い通りにいかないのだろうと。

 だがユウトがこの世界に抱く認識は半分がアタリであり、半分はハズレであった。だがそれはこの世界には全く関係の無い事である。 

 


伝説の本ビショップとの正式な契約を果たしたユウトは山脈に囲まれた場所にいた。黒く重い雲が山脈にかかり、すぐにでも雨が降りだしそうな天候。そんな暗い空を見上げたユウトの視線の先に重く暗い空を飛ぶ魔物の姿が入ってきた。それは飛竜種と呼ばれる大きな翼が特徴であるドラゴンであった。


「ドラゴンが気になりますか坊ちゃん?」


 ユウトの後ろを歩いていたビショップは突然歩みを止め空を見つめるユウトに声をかけた。気付けばビショップはユウトの事を坊ちゃんと呼んでいた。最初ユウトは自分が呼ばれていると思わず、三日ほどビショップとの会話が成立せず、坊ちゃんが自分の事を言っている言葉だと気付いてからは意識して無視をするようになった。だがそれでもめげないビショップに疲れたユウトの心が折れた感じとなり、ビショップが自分を坊ちゃんと呼ぶ事を嫌々ながらも許したのだった。

 ビショップはユウトが視線を向ける空を舞う飛竜種のドラゴン、ワイバーンに視線を向ける。


「なんら珍しくないドラゴンですがあれが何か……」


それはユウトがビショップに対して初めて見せた油断であった。ビショップが空を飛ぶドラゴンに何かあるのかと視線をユウトに向けるとそこには、普段仄暗い色のはずのユウトの目に、僅かではあるが光が宿っていたからだ。ユウトは目の前で初めてみるドラゴンに興奮していた。その姿に思わず喋るのを止めてしまうビショップ。


「ふふふ……」


思わず笑いが込み上げるビショップ。そしてビショップの中にあるよく言えばサービス精神、悪く言えば悪戯心が疼き、自分の中にあるとある知識を掘り起こした。


「坊ちゃん……この世界にはドラゴンに関したとある伝説があるのですが……」


ビショップとの会話において、今までで一番の反応をみせるユウト。喰らいつくようビショップの言葉を聞くユウトの姿に笑いが込み上げるが必至に抑えるビショップ。それほどまでにユウトはドラゴンに興味を抱いていた。ビショップにはその理由はわからなかったが。

 ビショップの話がきっかけとなり、ユウトはガイアスという世界に対して小さな希望を見出した瞬間であった。

 


― 小さな島国ヒトクイ ガウルド地下 ギンドレッド跡地 ―



 地下ギンドレッド跡地に充満する瘴気。それはこの地で死んだ者達の負の感情が互いの感情に干渉しあい膨れ上がったものであり、常人がそれに触れれば正常な意識を保てなくなり狂いだしてしまうほど濃いものであった。

 そしてその瘴気はジワリジワリと二つの動きを始めていた。一つは現在ギンドレッド跡地でただ一人、生きた肉体を持つユウトに纏わりつこうとする瘴気。もう一つは地下ギンドレッドの天井に空いた大穴から抜け出し外にでようとする瘴気。どちらも目的は生きた肉体を求める事。亡霊達の生への渇望により蠢く瘴気は亡霊と同様に生の体を求め行動を開始する。

 空いた大穴から抜け出そうとする瘴気を眺めながら、亡霊達の攻撃を手刀一つで対応し、消滅させていくユウトはその光景を冷めた目で見ていた。


「あ~、ここで勇者とか英雄ヒーローとかはあの瘴気を止めようと動くんだろうけど……僕には関係ないな……」


ガイアスという世界がどうなろうと知ったことでは無いユウトにとって瘴気が町に溢れだそうとしている現状など関係が無かった。


「……それよりも今は……」


外に出ていこうとする瘴気から視線を外し、自分の前に立ちふさがる亡霊達に視線を向ける。ユウトに視線を向けられた亡霊の集団の一つが、纏まり巨大な姿を成していく。亡霊達が集まり、まとまった巨大な亡霊は、ユウトを捕まえようと、大きな手を伸ばす。一体でも体に亡霊が入り込めば厄介だというのに、数十と集まった亡霊が体の中に入り込めば、生きたまま死を繰り返すように見せられ、自我をジワジワと切り刻まれそして亡霊の仲間となっていくのである。それは絶望的としか言いようがない。だがそれはあくまで常人の話であり、亡霊達の前に立つユウトには関係の無いことであった。

 迫ってくる大きな亡霊の手。だがだがそれに動じることなくユウトは手刀を前につき出す。すると亡霊の巨大な手は引き裂かれていく。引き裂かれた瞬間から消滅が始まり、白い光となりユウトの体に取り込まれていく。

 

 ≪オオオオオオオオオォォォォォ!≫


体の芯に恐怖を植え付けるような雄叫びを上げながら黒い霧になりはじけ飛び白い光となっていく巨大な亡霊。どんな亡霊の行動も絶対勝利ともいえる『不正チート』の能力を持ったユウトの前には無意味であった。

 それでも生を渇望する亡霊はユウトの体を奪おうとする事を止めない。それが亡霊の存在意義であり、それ以外に亡霊に残されたものは無いからだ。

 数の暴力とでも言わんばかりにユウトに群がっていく。だがどれだけ集まろうとユウトには関係ない。手刀で攻撃することに飽きたのか、ユウトはただその場にいるだけになっていた。それにも関わらずユウトに触れた亡霊達は弾けていく。ユウトは『聖』の力を全身に纏い、対亡霊防御壁を作り上げ亡霊からの攻撃を防ぐと同時に触れた亡霊を消滅させ吸収していくという攻防一体の状況を作り出していた。

 ユウトが取った行動はまさに理にかなっていた。生の肉体を欲する亡霊を己の肉体で誘い出し触れた瞬間に消滅させるというものであったからだ。ユウト自身は『聖』の力の維持だけをこなせばよく、安定さえさせてしまえば、内職だって可能であろう。だがそれはユウトだから出来るというものであった。

 『聖』の力はガイアスの人間ならば大小は別として、誰しもが持っている力である。だがその力を使うとなると、『聖』の力を専門に扱うプリーストなどの職業に就かなければならない。そしてその力を最大限に扱うためにはプリーストの上位職であるハイプリーストにならねばならない。だが高濃度の『聖』の力を全身に纏うという芸当は最大限に『聖』の力を扱う事ができると言われているハイプリースト達にも出来ない芸当であった。

 その理由として、プリーストやハイプリーストでも全身に『聖』の力を纏う事はできるのだが、それにも限度がある。常人の『聖』の量が多い者を100とすると、ユウトは1000000というケタ違いの『聖』の量を体に内包しているのだ。

 常人が均等に全身に『聖』の力を纏うとすると、『聖』の力は微弱になり、亡霊や悪霊といった幽体を消滅させるだけの力は得られないのだ。

 それ故にプリーストやハイプリーストは手や聖水、プリースト専用の杖やロッドに『聖』の力を集中させて扱うことで、幽体を消滅させるという使い方をしており、それが一般的な方法であった。

 ケタ違いの『聖』の量を持つユウトだからこそ全身に纏って尚、攻撃として『聖』の力を扱うことができ、幽体である亡霊を消滅させられるという訳だった。

 本人がそれを知っているのか知らないのか分からないが、ユウトは自分の力を、『聖』の力を扱う本職の者達よりもうまく利用して途方も無い数の亡霊達と戦っているのである。それはユウトの持つ能力の賜物でもあるのだが、それ以上にユウトの戦いに対してのセンスが関係していた。

 時間にしてみれば十分程度であろうか。気付けばユウトの体を狙うすべての亡霊は消滅し、その魂はユウトの中へと取り込まれた。その数一万。


「ゲップッ!」


満腹とでも言うようにユウトは自分の腹を摩る。そしてユウトが意図したことでは無かったが亡霊が消滅し、ユウトに取り込まれたことによりギンドレッド跡地から溢れだそうとしていた瘴気は、ガウルドにたどり着く前に消滅していた。


「あれっ? ドラゴンが来るまでの時間稼ぎだったんだけどな……」


ユウトはギンドレッド跡地の天井に空いた大穴を見上げる。大穴から覗く空が少し明るくなり始めていた。




― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ガウルド城内 広間 ―


『聖』の力を感じ取れる者達は、突然膨大な『聖』の力を感じ驚いていた。その一人、現在ヒトクイの王という立場にあるヒラキ王、その正体は夜歩者ナイトウォーカーであるレーニであった。


(な、なんだ……こんな大きな『聖』の力感じた事が無い)


その量は明らかに異常であり、その発生源が人である事など思いつくはずも無くレーニは膨大な『聖』の力の正体が何であるのか思考する。

 そしてもう一人、一人と呼んでいいのか分からないが、伝説の防具クイーンの所有者であるアキの中に存在している黒竜ダークドラゴンであった。


(コノ『聖』ハ危険ダ……ソシテ……)


(竜族?)


今まで沈黙していたはずの黒竜ダークドラゴン竜族の言葉に驚く宿主であるアキ。


(我宿敵ノ気配ヲ感ジル……)


突如として湧き上がる黒竜ダークドラゴン竜族の恨みの感情がアキのすべてを支配していく。


「ぐぅぐかあああああああああ!」


ひりつくような苦しみを持った叫びがガウルド城の広間に広がる。その叫びに周囲の視線はアキに集まる。だがそこにアキの姿は無く、そこに立っていたのは、大きな黒い翼を持った何かであった。


「アキ……さん?」


突如としてアキが居た場所に現れた何かに対して困惑した表情で名を呟くブリザラ。たがその言葉はその何かに伝わることは無かった。

 大きな黒い翼を持った何かは翼を羽ばたかせると広間の天井をぶち壊しガウルド城の上空へと飛翔していく。

 ブリザラを含めたその場にいた者達は何が起こったのか理解できぬまま、広間の天井に空いた穴をみていることしかできなかった。

 これが伝説の本の所有者であるユウトとその他の伝説の武具の所有者達の戦いの始まりである事をブリザラ達はまだ知らない。






 ガイアスの世界


幽体


 幽体とは幽霊や亡霊、悪霊、などをいい、実体を持たない精神体であるものを幽体という。幽体は精霊と存在が近いく繋がりがあると言われている。

 幽体にも二種類あり、死んだ者が魂の状態になった者を幽霊といい、死んだ時に深い恨みや周囲の土地の影響により魂が変質したものを亡霊、もしくは悪霊という。

 幽霊ならばそれほど悪い影響も無く、ものによっては意識を持ち続けられるものもいるが、亡霊や悪霊に落ちたものに意識は無く、ただ生きた生物の肉体を奪うだけの存在になってしまうといわれている。

 亡霊、悪霊は非常に厄介な存在であり、特に物理攻撃が利かないことが物理主体の戦闘職にとっては悩みの種であったりする。そのため亡霊や悪霊がでると言われている場所には物理攻撃以外の攻撃手段を持った戦闘職が必須となっている。

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