真面目で章 (坊ちゃん編(仮))3 その能力最強につき
ガイアスの世界
ドラゴン
ガイアスでのドラゴンとは蜥蜴に翼がついた、もしくは巨大な蜥蜴の事を言う。それほど珍しい存在ではなく、山脈や谷にいけば一頭は必ず見かけるぐらいの頻度である。
だがそれとは別種のドラゴンの存在がガイアスには伝説として残っていたりするようだ。そのドラゴンは山脈や谷にいるドラゴンとはけた違いの強さを持っているようで、ガイアスの理から外れた存在だとも言われており、神に一番近い存在だと伝説では言われている。
真面目で章 (坊ちゃん編(仮))3 その能力最強につき
深い眠りにつくといつも自分がいる世界とは違う世界で何かをやっている。
ある時は非合法な研究をしている科学者、ある時は巨大兵器を造る技術者、他にもよくわからない仕事の助手なんてのもあったりする。
自分が本来居る世界よりも未来のようであったり、過去のようであったり、その時によって違うけど完全な異世界というのは初めてだった。
この世界で目を覚ました時、正直不安や驚きよりも感動という感情が一番に走った。異世界転移という状況は僕みたいな人種の人間にとっては夢に描いたような世界だったからだ。自分の部屋に閉じこもっているしかできなかった僕にとってそれらは希望といってもよかった。
異世界と思われる場所にやってきた僕は早速、異世界転移の御約束である自分に与えられた特別な能力が何なのか確認を行った。
異世界に飛ばされた者、主人公と呼ばれる存在には必ずと言っていいほど特殊な能力を手に入れていることが多いからだ。
別に糞な能力でも全く問題なかった。それをどうにかうまく利用して成り上がり、強くなるのは異世界転移のド定番であり、ある意味で見せ場であると僕は思っていた。
でも自分の能力を目の当たりにした瞬間、僕の中にあったやる気は崩れ去った。糞な能力でもと言ったが、これだけは別だった。
能力を使った瞬間、頭の中を駆け巡る情報。それを言葉として表すならばそれは『不正』であった。異世界に転移てしから主人公が己の力を使い無双するという話はよくあるし、僕もそれは別に嫌いじゃない。だが『不正』は俺無双とは根本的に違うのだ。
駆け巡った情報は能力がどれだけ万能で完璧であるのかを僕に伝えてきた。それはこの世界の隅っこから反対側の隅っこまで一瞬に行けてしまったり、目の前に現れた敵の情報が瞬時に分かってしまったり、この世界にあるちよっとした謎などを解明したりとまさに『不正』と呼ばれるに相応しい能力であった。しかもまだ何もしていないというのに自分の身体能力が驚くほど高くなっていて、少しジャンプしただけで、近くに生えていた木を飛び越えるほどであった。その中でなぜか自分の見た目が、本来の自分よりも幼くなっていたのは良く分からなかったが。
本来ならば鍛えたり冒険したりして苦労して手に入れる能力や情報が、転移した瞬間から手にあることが僕にとっては問題だった。俺無双の主人公であっても最初から最後まで最強ということは無く、どこかで一旦はピンチに陥ったりすることがあるのだ。だが僕が持っている『不正』は明らかに僕に確実な勝利しか見せない。最初から最強というのは僕からしたら全くロマンの欠片も無いのだ。
折角の異世界だと言うのに、ついて早々に僕の中にあるロマンが失われ、それと同時に自分の中にあったやる気は泡のように消えていった。
そしてその結果、どうでもよくなった。所詮この世界は僕が見る夢だ、僕がこれから何をしようと勝手だ。
異世界に転移してきたということは、僕には何かしらの使命があるはずだ。それはどうせ世界を救えとか魔王に囚われた姫を救いだせとかそんな所だろう。だがもうそんな事僕は知らない。世界に危機が訪れようとも、魔王に囚われた姫が泣き叫び救いを求めようとも僕が知った事では無いのだ。
僕はこの糞のような能力を使って好き勝手にしてやる。世界を危機に陥れる張本人になるのもいいかもしれないし、魔王になって各国の姫をさらうのもいいかもしれない。僕が手に入れた能力はそういった事も簡単に出来てしまうのだ。しかももれなく僕を倒せる勇者などは現れない。なんせ僕は『不正』という糞な能力を持っているのだから。
そんな事を考え行動を起こそうと思った時、タイミングを計ったかのように、ジョブミラーと名乗る人では無い何かに出会った。
「ようこそ、ガイアスへ……」
全く笑っていないのに不気味に笑うそいつはそう言って俺に近づいてくるのであった。
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
小さな島国ヒトクイの夜。町は夜の静寂に包まれ、一見すれば平和のように見える。だが町の静寂の中、現在は崩壊してしまったガウルドの地下にあるギンドレッドで、静寂をブチ破る存在が目を覚ました。
「……お目覚めですか、坊ちゃん」
地下であるが故に外以上に暗いその場所ギンドレッド跡地。今は天井に大きな穴が空き、うっすらではあるが、月の光が暗いギンドレッド跡地を照らす。そこに住んでいた住人達は全員が脛に傷を持つ者達であり、盗賊や山賊などの外道職、ならず者達が住む町であった。だが現在のギンドレッドは突如何者かの手による爆発によって町の面影は無く、そこに住んでいた住人達もその爆発によって塵一つ残すことなく消滅してしまっていた。その場に僅かに残っている物といえば爆発により吹き飛ばされた瓦礫だけである。 なぜそんな事が起こったのか、ガウルドの者達も死んでいったギンドレッドの住人達もまさか町一つを吹き飛ばした張本人が、坊ちゃんと呼ばれ目を覚ました少年だとは思うまい。
ゆっくりと体を起こす坊ちゃんと呼ばれた少年。その顔は美少年という言葉がふさわしい綺麗な顔立ちをしている。だが目に生気は無く、眠気からなのかそれともそれが素なのかどこか気だるそうな雰囲気を醸し出している。そんな少年の名はユウト。だが彼をその名で呼ぶ者はいない。ユウトには親しい友人や仲間は存在しないからだ。その中でユウトが視線を向ける男、親しくユウトに声をかける、作られたと表現するのが一番正しい笑顔を仮面のように張り付けた男はユウトを坊ちゃんと呼び、声をかけた。
「うん……」
短い返事をするユウトは立ち上がり周囲を見渡す。その表情に感情という色は無く、ただ目に入ってくる情報を脳に送っているそんな感じであった。
「……寝ていた場所と違う」
少年は言葉少なく自分が眠りについた場所と現在居る場所が違うことを目の前の男に告げる。
「ええ、此処はガウルドの地下にあった町、ギンドレッドです」
男はそう言いながら少年の背後に移動する。
「ああ、あの吸血鬼と戦った所だ……」
少年は全く感情を現すこと無く自分が以前この場所で得体の知れない存在と遭遇、戦闘を行ったことを思いだした。
「はい、正式名は夜歩者……いや闇歩者です」
ユウトとこの場で戦闘を繰り広げた者、その正体は闇歩者であるスビアであった。だがユウトとスビアの戦闘はユウトの圧倒的な力の前に一方的な戦いとなり、戦闘とは呼べるものではなくスビアにとっては蹂躙といってもおかしくはなかった。辛くもその戦いで生き残ったスビアは負傷し己が持っていた自己治癒の能力を持ってしてもその傷は中々に癒えることは無かった。それ以上に何の変哲も無いただの人間に負けたという事実がスビアのプライドに大きな傷を残した。
「……まあいいや」
ガイアスにおいて頂点に君臨する種族であるスビアをまあいいやと言い放つユウト。だがそれほどの力をユウトは持っていた。小さな体の何処にそんな力があるのかと疑いたくなるが、それは揺るぎない事実であり、ユウトの言葉はスビアとの力の差を現していた。
「……それよりもドラゴン」
ユウトはキョロキョロと周囲を見渡すとスタスタと歩き始めた。
「あれ、坊ちゃん何処へ?」
歩きだしたユウトの後を追う男。
「……ドラゴンに会いに行く、」
何の希望も持たないその目に写る僅かな希望。それはユウトの世界には存在しない架空の生物であった。だが架空の生物であった存在ドラゴンがこの世界には存在しているのだ。それがユウトにとっての最後の希望と言っても過言では無かった。
ガイアスのドラゴンはそこまで珍しい存在では無い。山脈や谷などに生息しており、出会うだけならば難しくは無い。だがそれはあくまで生物としてのドラゴンだ。
ユウトが口にしているドラゴンとは山脈や谷などによくいるドラゴンでは無く、人のように理性、意思を持ち、その力は一騎当千、火を噴けば町や村は灰とかし、その場から飛びたてば嵐が起こる。そんな伝説とも呼べるドラゴンであった。
「そうでした、坊ちゃんの望みでしたね……ふふふ、焦らされますね」
男の表情は笑っていた。作られたような笑いでは無く、酷く歪んだ笑顔。男は待っている、ユウトがこの世界に完全に絶望するのか、それとも希望を見出すのか、その意思を口にする事を。
男の名はジョブミラー、ガイアスでは伝説の本ビショップと呼ばれる存在であり、ガイアスに混乱と絶望、そして破滅をもたらそうとしている存在であった。
「……坊ちゃん……ドラゴンに会いに行く前に軽く準備運動と魂の補給などいかがでしょうか?」
突然ビショップはユウトに対してそう言うと、手を荒れ果て何も無くなった元ギンドレッドの町に向ける。
「準備運動」
ビショップの言葉に始め首を傾げるユウトであったが、すぐにその言葉の意味を理解した。
「これ全部、町の人」
ユウトがそう言う視線の先には、ユウトが放った攻撃で自分が死んだことも理解しないままに蒸発したであろう、ギンドレッドの住人の成れの果て、亡霊達であった。その数、ギンドレッドの住人全員、軽く万は超えているかもしれない。そんな亡霊達が呪詛のような呻きをあげながらその存在を現したのだ。
「これだけいれば魂の補給も楽に出来るでしょう」
周囲の異様な状況を涼しい顔で見渡すビショップ。そんなビショップが言う魂の補充。それはユウトの持つ能力に関係があった。
ユウトが持つ能力は『不正』と呼ばれるとんでも無く危険な能力であった。相手の状況や能力を瞬時に把握し、それに適応した力を使う事ができる能力。あらゆる事態に対応ができる能力であった。それだけでは無く、見た目は何も変わっていないのに、その身体能力はガイアスの世界において超人と呼ばれる分類に入るほどになっていた。
それは絶対的な力、神のような力であった。だが高性能な力にはそれなりの代償が伴う。絶対的な能力に使う代償、それは魂であった。
『不正』という能力は、魔法や技を精神力を使って放つように魂を消費して使う能力であった。だが『不正』にとって魂の代償とは、あまりにも簡単なものであった。なぜならばこの能力を手にした瞬間からその持ち主に負けは無い。だとすれば魂を手に入れるという事は容易になるのだから。
手に入れる魂に質の良し悪しはあれど種類は関係無い。それが虫の魂であろうが、魔物の魂であろうが、人の魂であろが、亜人だろうが夜歩者だろうが、闇歩者だろうと変わらない。
即ち、戦い続ければユウトの下に魂は入ってくるのだ。
「あの大穴を中心にして戦えば安全ですよ」
月の光がかすかに入ってくる大穴の中心で戦えば安全だとビショップはユウトに指示を出した。月明かりが落ちる大穴以外の場所は、光が届かず視界が悪い。それに加え暗闇と同化してくる亡霊にとっては相性が良かった。
「冗談」
だがユウトはビショップの指示を無視した。
「ですよね~」
ビショップも自分の指示が受け入れられるなどとは思っておらず、すぐにその指示を引っ込めた。結局の所そんな事をする必要がユウトには無いからだ。あくまで様式美の範疇というべきか、伝説の本であるビショップなりの所有者に対しての義務感のようなものであった。
「伝えて」
「えっ……ああ……それは勿論」
ビショップは一言口にしたユウトの言葉の意味を理解したのか、頷くとユウトをその場に残し姿を消した。
「さて……」
ユウトは自分を見つめる亡霊達を見据える。気付けば自分の周囲は囲まれ逃げることは不可能になっていた。だがユウトに逃げるという意思は微塵も無い。それどころか、今まで気だるそうにしていたユウトの目に少し光が宿る。
「糞な能力だと思っていたけど、それなりの代償を払わなきゃいけないのは少しだけ見直したよ……まあ能力の力が糞すぎて代償にもならないけど」
ビショップがいた頃に比べるとあまりにも饒舌に独り言を口にするユウト。
「ようやく一人だ、厳密に言うと一人じゃないけど……あまり喋らないキャラでいるのも疲れるな……」
ユウトがあまり喋らないようにしていたのは嘘であった。ビショップが姿を消したことにより一人になったユウトは自分の本性を現した。自分が所有する伝説の本であるビショップにユウトは本性を偽っていたのだ。だがそれに理由は無い。強いて理由を上げるとするならば、あまりしゃべらないほうが楽だと思ったからだ。たがそれも以外に疲れることを理解するユウト。
「さて、じゃドラゴンが来るまで相手をしてもらおうかな亡霊さん達」
首を鳴らすユウトは目の前に広がるギンドレッドの亡霊達にそう言うと、亡霊の群れの中に飛び込んで行く。それを皮切りにユウトを囲んでいた亡霊達も行動を開始した。
亡霊は生きた肉体を欲し憑りつこうとする。それは生きる者に憧れがあるからだと言われている。目の前にいる生きている肉体、ユウトに群がる亡霊達。目の前にいる存在が自分を死に追いやった張本人である事を理解しているのかしていないのかそれは定かでは無いが、ユウトに向け呪詛のような唸りをあげる。それは大合唱のようにギンドレッド跡地に響き渡っていく。
「ああ……五月蠅いな」
ユウトは呪詛のような唸りを上げながら自分の体に憑りつこうとする亡霊を手刀で祓いのけていく。祓われていく。本来ならば物理攻撃が一切効かないはずの亡霊達は、ユウトの手刀を喰らった途端に白い光に姿を変えユウトの体に取り込まれていく。それは亡霊が純な魂に返っている事を現していた。それはユウトが『聖』の力を使っているということであった。しかもそれは相当高度な『聖』の力をであった。
本来ここまで亡霊が集まると、互いの力が共鳴しあい、ちょっとやそっとでは祓うことは難しくなる。それこそそれなりの『聖』の力を持った者が何十人と集まらなければ祓うことは不可能なのだ。だがそれをたった一人で、しかも手刀一つでやりとげているユウトは異常であった。それもユウトが持つ『不正』のなせる技であった。
瞬時に亡霊の特性を見抜き、そして一番効果のある力を使っていた。それはユウトが理解することなく反応する。ユウトは亡霊が物理攻撃を受け付けないことは当然知っている。だが『不正』が自動的に自分の手刀を物理攻撃では無い何かの攻撃に変化させていることを理解している。だから手刀を振り続けるのだった。
その姿はまるで『聖』の化身の如く。ユウトが前に進む度、目の前にいる亡霊達はその身を浄化されユウトに取り込まれていく。ユウトはそんな状況を覚めた目で見ていた。
ああ、またこれだと。
勝利を約束された己の能力。それに対抗できる存在などいない。今まで数えきれないほどの魔物達と戦ってきたが、どれもユウトの覚めた目を輝かせる存在はいなかった。それはガイアスの頂点の一つに立つ闇歩者ですらも。ユウトはそんな能力が嫌いで嫌いでたまらなかった。
何もかもがうまくいってしまう能力など糞だと思っていた。だからこそ欲するのだ。この能力を凌駕する存在を。伝説と呼ばれるドラゴンを。
亡霊との戦闘中だというのにユウトはどこかの村で聞いた伝説のドラゴンの話を思いだしていた。光輝く『聖』の力を纏った神に一番近いと言われているドラゴンの話を。
ガイアスの世界
坊ちゃん アキヤマ=ユウトの能力
能力 『不正』
勝利を約束された力。どんな状況においても最善な状況を作り出す。
それ故にその能力を持った者に敗北は無い。
世界にある職業、能力、技すべてを網羅しており、どんな状況でも使うことができる。
だがこの能力を使うには代償が伴った。
魔法使いが魔法を使う時に精神力を消費するように、剣士が技を使う時に精神力を消費するように、この能力を使う場合には、魂を消費する。それは能力を使う者の魂だけでは無く、ガイアスに生きるものの魂を手に入れることにより消費して能力を使うことができるのだ。
ガイアスという世界において異物であるユウトにだけ与えられた能力である。




