真面目に集うで章 13 反乱 (1)
ガイアスの世界
バラライカとリューの間に生まれた双子
バラライカ達も生まれるまで双子だということは知らなかった。双子は元気に生まれてくれたことにバラライカもほっとしていたようだ。
その双子が後のスプリングとアキである。
真面目に集うで章 13 反乱(1)
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
小さな島国ヒトクイの中心であるガウルドはその日、謎の襲撃を受け町の所々に火が放たれ赤く燃え上がっていた。悲鳴が響きわたり、逃げ惑うガウルドの人々。重装備を身に纏った謎の集団は、ガウルドの兵達に切りかかっていく。ガウルドの兵達も対抗するが、不意打ちで始まったその戦いにガウルドの兵達は遅れをとり苦戦を強いられているようであった。その様子はまるでヒトクイが統一される前の戦乱のような状況になっていた。ヒトクイからインセントが旅立ち数日の時が経っていた。
その襲撃は他国からの侵略でも無ければ、魔物達が攻め込んできた訳でも無く、簡単に言えば内乱であった。
内乱を指揮したのは、ヒトクイで知らない者は居ないと言われている武人の一族、イライヤであった。だが先頭を切ったのは、バラライカの夫であるリューでは無くイライヤ一族の改革派のトップの男であった。
前々から過激な発言や行動が目立つ改革派であったが、その者達が現在のヒトクイに対して反旗を翻したのであった。
改革派の者達は用意周到に内乱の前に、自分達の反乱を邪魔するであろうイライヤ一族の穏便派の者達を影で殺しまわっていた。死体も残さず改革派の者達は穏便派の者達を殺しその事実が知られるのは襲撃当日のことであった。
後手に回ったヒラキ王や私達は、一人が武人級の力を持つイライヤ一族の改革派に翻弄されることになり町には被害が広がっていた。
「そんな……私の一族が……」
ガウルドの大広間でイライヤ一族の次期長といってもいいリューは自分の一族が反乱を起こした事を聞かされショックを受けヒラキ王の前で膝を着いた。
「申し訳ないヒラキ……私の偵察が甘かった」
ヒトクイという国の暗部を任されていた私はこういった輩が行動を起こす前に速やかに抑え込むのが仕事だというのに、バラライカやリューの身内だと言う事でどこか油断があった。バラライカが口を酸っぱくして言っていた油断するなという言葉を噛みしめる私は、ガウルドの大広間を見渡す。
「リューさん、バラライカは?」
こういった状況になった時、かならずいるはずのバラライカの姿が無い。
「バラライカは息子達を連れて安全な場所に避難させた……まだ息子達はバラライカから離すことは出来ないから」
リューはショックを受けながらも、私にバラライカの状況を説明してくれた。
「そうですか……」
リューの言葉に私は納得した。生まれて間もない赤子を母親から離すことは適任では無い。だがそうなると勢いが止まらないイライヤの一族を止める戦力が足らないかもしれない。私は次にどう動くか考えていた。こんな時にインセントがいてくれればと、もう過ぎた事を思いだしてしまった私は顔を振る。そんな私を察したのか、今まで黙り込んでいたヒラキが口を開いた。
「レーニ……安心しろ、俺がこの反乱を止める」
ヒラキの言葉はこの事態に陥る前に止められなかった私と、自分の一族が仕出かした反乱に膝を落としていたリューに重くのしかかる。
「リューお前の一族には世話になったが事が事だ、殺す事になるが許せ……」
ヒラキは何時もとは違う厳しい表情でリューにそう言うと玉座から立ち上がる。ヒラキがヒトクイ統一を成し遂げることが出来たのは、イライヤ一族の力添えがあったからだ。その事についてヒラキはリューに対して礼と詫びを口にした。
「は、はい……」
ヒトクイの王の言葉に納得しなければならないが、納得できないというリューの葛藤が私にも伝わってくる。
「リューお前はバラライカの夫だ、だから俺はバラライカの夫であるお前を信じてここを任せる」
ガクリと落ちたリューの肩を叩くとヒラキはそのまま大広間を出ていく。私は未だ自分がどうしたらいいのか分からずにいるリューを一瞥してからヒラキの後を追った。
「ヒラキ……」
呼びかけづらい雰囲気を放つヒラキを私は意を決して呼び止めた。
「なんだ?」
案外普通に私の呼びかけに応じ振り向くヒラキ。だがそれでも今はあの漂々とした姿は影を潜め、戦う体勢に入っているヒラキは夜歩者である私に恐怖を植え付ける。
「わ、私は……これからどうすれば」
恐怖で声が上ずる私を見てヒラキは少し申し訳なさそうな表情を浮かべぎこちなく笑った。
「ごめんな……怖い顔してたか?」
「えっ……はい……」
闇歩者であるスビアと対峙した時ですら見せなかったヒラキの本当の顔。いつも呑気な表情をしていた事を忘れてしまったように笑顔が不自然なヒラキを見て、私は理解した。
あの表情が本当のヒラキなのだと。きっとヒトクイを統一するまで戦場を駆け巡っていた時の表情なのだと。
ならば今まで私に向けていたあの表情は嘘なのだろうか?
「ふっ……正直だな……もうこんな顔せずに済むと思っていたんだがな……」
ヒラキはそういいながら今度は私の知っている表情で笑い、私の頭に手を置いた。
ヒラキはなぜヒトクイを統一しようと思ったのだろう。こんな非常事態に聞ける話では無いことは分かっている。この騒動が終結したら聞いてみようと私は浮かんだ疑問を胸に仕舞いこんだ。
「さて……ではこれからの事について話そう……なんせ時間が無いからな」
この時私は純粋にヒラキの言葉を受け止めていた。これ以上戦火が広がる前にこの騒動を納めるという意味でヒラキは時間が無いと言っているのだと。
「俺が考えるに、どうもこの反乱の仕掛け方はイライヤ一族らしくない……多分、この反乱を企てた奴は他にいる……そいつを叩くため一緒についてきてくれ」
ヒラキは冷静に今回の反乱を分析しているようであった。
ヒラキが言うようにこの反乱の仕方はイライヤ一族らしくない。イライヤ一族は武人の一族であり、戦いに誇りを持っている。反乱を起こすにしても武人の誇りを持つイライヤ一族ならば、こんな不意を突いたような仕方はしない。確かにイライヤ一族の後ろで糸を引いている人物がいるようなそんな気配を私も感じた。
「そしてその者はきっと人じゃない」
どうやらヒラキはすでにこの反乱を企てた者がだれであるのか分かっているようであった。ヒラキの言葉に私も誰がこの反乱を企てたのか理解した。
「それって……」
軽く頷くヒラキ。
「お前はこのガウルドの地下に大きな空間があることを知っているか?」
ガウルドの町には、ガウルドの半分ほどの大きさがある空間があるといことは知っていた。
「ええ……でも存在自体は知られているけど、そこまで行く方法が分かっていないとか」
存在自体はガウルドの人々も知っている者が多かったが、その場所に行きつくための道が不明であり、その空間に何があるのかというのは未だに不明であった。噂では金銀財宝があるとか、世界の謎が納められているとか色々と飛び交っており、その空間を目指す冒険者も少なくは無い。
「お前は忙しくて知らないだろうが、どうやらその道を見つけた者がいるらしい」
「えっ? ……でもそれが今回の反乱とどんな繋がりが……」
話が見えなくなった私はヒラキの話に困惑した。
「そこが今回の反乱を企てた者のアジトだ……俺が酒場で拾い上げた情報によれば、ヒトクイの各所からそのアジトにならず者達が向かったようだ」
「ヒラキ……」
私は勘違いしていたようだ。王としての責任を果たさず、毎夜酒場街に向かい浴びるほどの酒を飲んで帰ってくる駄目な王だと思っていたが、実は酒場で情報を色々と集めていたなんて。
「何で泣いているんだよ……」
少し不満そうな表情をするヒラキ。
「だって……まさか影でヒラキがそんな事をしているなんて……ただ酒が大好きな駄目人間だと思っていたから……」
感動から思わず本音が漏れる私を見て深いため息をつくヒラキ。
「はぁ……冗談は置いとけ、話を戻すと用はその場所にこの反乱を企てた者がいる……いまからそこに俺とお前で向かう」
冗談では無いのだがと思いながら、流れた涙をぬぐう私。そんなやり取りをしていると、気付けば私とヒラキは城の門まで来ていた。
「レーニ、ここからは戦場だと思え……行くぞ」
するとヒラキはガウルド城の門を飛び出し走り出した。あっという間にヒラキの姿が小さくなり慌てて追いかける私は、ヒラキの身体能力の高さに驚いた。ヒラキの走る速度は身体能力の高い夜歩者である私でも追いつくのがやっとな速度であったからだ。
「おい、ついてこられるか?」
ヒラキは余裕があるのか私を気遣い、後ろから追いかける私に視線を向けた。しかも襲いかかってくるイライヤ一族を切り捨てながらだ。だがヒラキはまだ本気を出していない事がわかる。闇歩者の時に感じた底知れないヒラキの持つ力を再び私は感じていた。
「ど、どこに向かうのですか!」
走る速度がどんどん上がるヒラキ。ヒラキのお蔭で私に襲いかかってくるイライヤ一族はいないが、それでもヒラキとの距離は中々縮まらない。それ以上にこのままでは引き離されると思った私はどんどん距離が離れていくヒラキに目的の場所を聞いた。
「ガウルド墓地だ……そこに向かう」
「分かりました!」
ガウルド墓地。ガウルドの人々の殆どが死んだ後その場所に埋葬される場所である。
目的の場所を聞いた私は、ヒラキを追うことを諦め、自分のペースで目的の場所に向かうことにした。私の考えを察したのか、ヒラキは私を一瞥すると、さらに速度を上げガウルドの町を駆け抜けていく。気付けば姿が見えなくなっていた。
「……あの人本当に人間なのか?」
ヒラキが本当に人間なのかどうかは置いといて、反乱を企てた者のアジトへ向かう入口が墓地にあるというのは驚きであった。確かに墓地ならば、無暗にうろつく者もいない。そもそも有力な情報が無ければ、墓地なんて調べたいと思う人はそうそういないはずだ。昼に行けば人目につく可能性があるし、夜に行けば下手をすればアンデットやゴーストに出くわす可能性だってあるのだから。
だがそう考えると、反乱を企てた者や、ヒトクイ各所で悪さをしていた者達が隠れるにはもってこいの場所でもある。
「先行したヒラキは大丈夫だうか……」
走っていることで起きる胸の動悸とは違う妙な胸騒ぎが私を不安にさせる。先行するヒラキにもしもの事があったら。
「はぁ! 私は何て事を……ヒラキはこの国の王だぞ……先行させてはいけないじゃないか!」
自分が犯した過ちに気付くのが遅れた。今のヒラキはいい意味で王には見えず、一人の頼れる冒険者のように私は思っていた。
「急がなければ、たとえヒラキが強いとしても……何があるか分からない……油断しちゃいけないんだ」
私はバラライカの言葉を思い出し気持ちを引き締め、足を速め目的の場所へと向かった。道しるべのようにヒラキが倒したイライヤ一族の者達が転がっていたため何も考えること無く、墓地に向かうことが出来た。
「よぉ、思ったより遅かったな」
ガウルドの墓地にたどり着いた私の目に最初に入ってきた光景は、ボロボロになった盗賊まがいの者達の山であった。その盗賊達の山の頂上にヒラキの姿はあった。息を切らす素振りも無くヒラキは私を見つけると手を振った。
「大丈夫ですか?」
盗賊の山の頂上で手を振るヒラキに私は、怪我はないかと尋ねる。だがそれは無意味なものとなる。
「え、ああ……怪我は無いよ」
盗賊の山から飛び降り私の前に着地するヒラキ。
「ヒラキ……口から血が……」
「あ、ああ……返り血だ……気にするな」
ヒラキはそういうと口元についた血を拭った。
「よっしゃ! 入口も見つけたし、行くとするか」
そう言いながらヒラキは墓地に紛れるようにしてポッカリと開いた地下への入口を見つめた。
「あそこが……」
「ああ……行くぞ、時間が無い」
ヒラキはそう言うと、何か焦るようにして地下への入口に足を向け歩き出した。
「は、はい」
何十人もいた盗賊達を人の山にしたというのにヒラキの表情には焦りの顔があった。私はズンズンと進んでいくヒラキの後を追った。
地下へと続く長い横穴。急ごしらえなのかそれとも全く手が加えられていないのか、階段なんてものは無く、足場が悪い。
「な、何も見えないな……レーニお前はどうだ?」
地下へと続く長い横穴は、光になるようなものも無く、人間であるヒラキにとっては歩きづらい場所のようで、躓きしそうになったり、ぶつかりそうになったりしていた。
「ええ、私ははっきりと見えますけど」
夜歩者である私は、名前の通り暗い場所でも目が効いた。
「そうか、それじゃ目が慣れるまで道案内を頼む」
そういうと今まで先頭をきって歩いていたヒラキは私の後ろにまわり、私の手を握った。
「は、ハイ……」
声が裏返る私は、この時初めてヒラキを一人の男性として意識した。今までは私の恩人であり、気の良いお兄ちゃん程度に思っていた私であったが、手を握られるだけでこうも印象が変わってしまうのかと緊急事態の中不謹慎だと思いつつ、私の顔は熱を帯びた。
「ど、どうしたレーニ?」
私の挙動がおかしかったのか、握っている手から感じ取ったヒラキは私に声をかけてきた。
「え、いや……大丈夫です……進みますよ」
私は勘の鋭いヒラキに悟られまいとすぐに話を切り、歩き出す。
「あ、ああ……」
しばらく進むと広い場所にたどり着いた。その頃にはヒラキも目がなれ、うっすらではあるが周囲を確認できるほどになっていたようだ。
「ここか……」
簡易的に作られた建物を一瞥するヒラキ。
「あ、あの……見えるようになったのなら、手を離してください」
「あ、ああ……すまない」
そういうとヒラキは私の手から手を離した。私は握られていた手をもう一方の手で包むと、少し鼓動が早くなった胸の前に押し当てた。
「さて……顔を出せよ、お前がいることは分かっているぞ!」
ヒラキは簡易的に作られた建物に向かって声をかけた。
「ここまでやってくるとは……」
少年のような声が建物の中から聞こえてくると同時に今まで何の気配も感じなかった私の背筋に悪寒がはしるほどの気配が膨れ上がる。
「やっぱり……」
思わず私は口に出していた。その気配だけで、建物の中にいる者が分かった私はすぐさま戦闘態勢に入った。
建物の入口から出てくる黒い影。その黒い影が霧散すると同時にそこに現した少年。
「やってくれたなガキィ……さすがの俺も許さねぇぞ」
語気を荒げるヒラキも腰に差した殺魂刀を抜く。
「……それはこっちの台詞だ、ヒラキ王ぉぉぉぉぉぉぉ!」
少年の声は怒りに満ちており、その声と同時に闇歩者スビアはヒラキに飛びかかるのであった。
ガイアスの世界
ガウルドの地下にある巨大な空間
ヒトクイ、ガウルドの文献にも何も記されておらず、スビアがその場所に到達するまでは噂の範疇でしかなかった。
噂ではその場所には金銀財宝が眠っているや、世界を手に入れる力があるなどと色々な噂が飛び交っていた。だが実際は何も無い空間しか無くその空間が一体何なのか分かっていない。
後にスビアがその場所に一つの町を作ることになる。




