真面目に集うで章 12 異変の兆候
ガイアスの世界
イライヤ一族
ヒトクイではバラライカの一族と双璧をなす武人の一族。バラライカの一族が魔法使いの一族であるのに対してイライヤの一族は主に近接戦闘を得意とした一族であった。
そのため戦い方から二つの一族は衝突する事が多く、揉め事が絶えなかった。
だがそんな不仲を解消するため立ち上がったのが両者の穏便派の者達であった。
穏便派の者達は、両一族のバラライカとリューを結婚させることで、互いの一族を仲良くさせようともくろんだのであた。
バラライカとリューはその事を知りつつも結婚することを決める。
そもそもリューはその話がでる前からバラライカに想いを寄せていたようであり、その想いをインセントも知っていたようである。
真面目に集うで章 12 異変の兆候
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
小さな島国ヒトクイの中心でもあるガウルド。その地下にあるその場所は以前まで、ならず者が住む町ギンドレッドと呼ばれ、ガウルドの人々に恐怖を与えていた。だがその場所は突如として原因不明の大爆発、その後に起こった謎の光の柱によって跡形もなく消し飛ばされ今では人の気配というよりも命の気配がまったく感じられない荒地と化していた。
建物の瓦礫が散乱し、荒廃した人気も命の気配すら感じられなくなったその場所で、少年は一人佇み天井に空いた巨大な大穴から覗く月を見つめていた。
少年の名はスビア=スネッグ。世界各地に散らばった同族である夜歩者の頂点に立つ者、闇歩者であった。
数十年という年月をガウルドの地下の町ギンドレッドで過ごしそのギンドレッドの王、そして盗賊団、闇王国の団長としてとして君臨していたスビアであったが、今はその面影も無く、痩せ細った肢体は風に吹き飛ばされてしまうのではないかというほどに衰弱しているようにもみえた。
スビアは自分を、町をこんな姿にしてしまった少年を思いだし、怒りから吠えようと声を上げようとするが体にそんな気力は残っておらず、発散されない怒りが体中を這うようにグルグルとめぐっていた。
「元を正せば……ヒトクイの王……ヒラキ……お前の呪いが俺を弱くした……」
月を見上げながらすでにこの世にはいない王の名を呟き弱々しく拳を作る。
「あの呪いさえなければ……俺は……今頃この世界を混乱に陥れることができたのに……」
自分を呪った男を呪うように、ガイアスという世界に呪いを吹き込むようにスビアは呟く。スビアの闇歩者としての力は強大であり、凶悪であった。その腕を一振りすれば、山は砕け地面は割れるほどに。だが今のスビアにその力は無い。
過去にヒトクイの王ヒラキが持つ殺魂刀という呪われた武器によってその力の殆どを持っていかれてしまったからだ。
今のスビアの本調子は精々一瞬にして数十人の人々を蒸発させる程度だ。それでも十分強大であり凶悪である力なのだが、その力では再度戦った過去のヒトクイの王ヒラキにも、突然自分の前に現れた少年にも勝つことは出来なかったのだ。無くしてしまつた自分の力に絶望すら感じるスビアの顔には死相がうかんでいるようであった。目的を消失してしまったスビアの目は虚ろに月の光を反射させていた。
何をする気力も失ったスビアは少年に負けたその時から、この命の気配が感じられなくなつたギンドレッド跡地を彷徨い続けていた。
いつものようにギンドレッド跡地を徘徊していると突如として何者かの気配を感じ取るスビア。瓦礫が落ちる音に反応するスビアは、気だるげに瓦礫が落ちた所に顔を向ける。
「……闇の気配……同族か……?」
スビアは突然現れた同族の気配に喜ぶでも無く悲しむ訳でもなく無感情に反応した。
「あらあら灯台元暮らしとはこのことですね、ここに居ましたか、闇歩者」
落ちた瓦礫から立ち上る漆黒の闇。それはギンドレッドを覆い尽くす闇よりも深く禍々しい。だがそこから発せられる陽気な声がその禍々しさを台無しにする。それでもスビアは顔色を変えることは無い。
「……死神か?」
この場でスビアは初めて感情を現した。それは皮肉からくる自虐的な笑いだった。
「……まだ姿も現してもいないのに私を死神と呼びますか……」
死神と呼ばれた漆黒の闇から発せられる声は残念そうにそういうと姿を現す。そこに現れたのはスビアの言葉通り、髑髏の顔を持つボロボロの漆黒のフードを被った死神そのものであった。
「俺の命でも狩りにきたか?」
自分の行く末を案じたのか、再び皮肉交じりに笑みを浮かべるスビア。
「ははは……もうその問答あきましたよ」
「なんか言ったか?」
「いえいえ……」
死神は髑髏を左右にふる。
「死神なのに大鎌を持っていないなんて間抜けな死神だな」
スビアは死神の特徴の一つである身の丈以上ある大鎌を持っていないことを口し、目の前の死神を馬鹿にした。
「あ、いやお望みだったら出しますけど……って私あなたに死神だって言ってませんよね、別にあなたの魂を狩りに来た訳じゃないのですが」
不気味な姿の割にノリがいい死神は自分は魂を狩りに来たのではないと否定する。
「魂を狩らないって職務放棄か……とんだ死神もいたもんだ……名前変えたほうがいいんじゃないか?」
死神だというのに魂を狩らないという目の前の死神に無表情で呆れるスビア。
「あ、あの私死神だって名乗ってませんよね、あなたが勝手に私を死神って呼んでるだけですよね」
「それで……命を狩る死神が闇を生きる闇歩者に何のようだ?」
死神の言葉を無視して話を進めるスビアは、命を狩るはずの死神が自分の命を狩りにきた訳では無いということに首を傾げた。
「無視ですか……私、死神ではないのですけどね……まあいいや……あなたの力をお借りしたいと私の主の命を受けてやってきました」
死神は道化師がやる挨拶のように、スビアに対して頭を下げた。
「……俺の力を借りたい? ……ふん、呪いで本来の力も出せないこんな俺が必要だと? お前の主は馬鹿なのか?」
スビアは鼻で笑った。
「……たしか主は……赤き月の晩以上の力をあなたに……と言ってましたか?」
死神は自分の主から言い渡された言葉をゆっくりねっとりと口にする。
「なん、だと……?」
死神の言葉にスビアの表情は一瞬にして血の通うものとなった。
「ふっ……お前の主……本当に馬鹿だな」
気付けば口を吊り上げ笑いが込み上げるスビア。自分が笑っていることに気づき、笑ったのはいつぶりだろうと白く輝く月をみつめた。
― 小さな島国ヒトクイ、ガウルド城 王の間 ―
王の間の扉の前の守りを任せされていたガウルド兵は、もう夜も更けているというのに先程から聞こえてくる騒ぎ声や異様な叫び声に入るべきか入らざるべきか悩み苦しんでいた。
王の間の扉を守っていたガウルド兵は、王の間にヒラキ王や伝説の武具の所有者達が入る寸前、ヒラキ王からは絶対に部屋には入ってくるなという命を受けていたからだ。
王の間の中から聞こえる叫び声は、ヒラキ王のものではないがどう考えてもおかしい状況に何かヒラキ王に起こったのではないかと焦りを募らせるガウルド兵。王の命を優先するべきか、それとも王の命を破っても部屋に突入し、ヒラキ王の安否を確かめるか、それは扉の守りを任されたガウルド兵の中で一世一代の選択となっていた。
「くぅ……どちらで失敗しても俺の首は飛ぶかもしれない……ならば!」
扉の守りを任されたガウルド兵は覚悟を決めた表情になる。
「ヒラキ王、入ります!」
扉の守りを任されたガウルド兵は王の間に突入するという選択をした。引き戸に手をかけ、引き戸を開け放つ扉の守りを任されたガウルド兵。そこには……
「あ、いや……ゴホン……」
衣服が少し乱れたヒラキ王と、その周辺で叫び声を上げる伝説の武具の所有者であるアキ、俯き静かな伝説の武器の所有者であるスプリング、そしてヒラキ王をなぜか隠そうと伝説の盾の所有者であるブリザラが伝説の盾である大盾キングを構えていた。
「ぎゃぁあああああああ!」
アキの咆哮、いや悲鳴に肩をビクつかせる扉の守りを任されたガウルド兵。
「だ、大丈夫ですか、ヒラキ王」
「あ、ああ……大丈夫だ、心配をかけたな、持ち場に戻ってくれ」
「は、はい……」
異様な光景を目の当たりにした扉の守りを任されたガウルド兵は、顔を引きつかせながら王の間を後にした。
「……」
「……」
互いに見合うブリザラとヒラキ王の姿をしたレーニは、一瞬間を置いて噴き出した。
「あっははは……気もが冷えた、あは、あははははは」
「私もです、ぷ、あはははははは」
今度は笑い声が王の間から響いてきたことに扉の守りを任されたガウルド兵は、首を傾げ何が何やらという困った表情で自分の任務に戻ってい行くのであった。
「はは……さて……少し邪魔が入ってしまったが……話を戻すとしよう」
「あ、少し待ってください」
自分の過去について再び語りだそうとする現ヒラキ王であるレーニを止めたブリザラは、いまだ錯乱しているアキに近づいていく。
「いい加減治まってください」
騒ぎ続けているアキに冷静になれと問いかけるブリザラ。だがブリザラの声が聞こえていないのかアキは叫び、いや悲鳴を上げ続ける。
『これじゃ話が進まないわね、私に任せてブリザラ』
そこで声を上げたのは伝説の武具であるクイーンであった。
「クイーンさん」
クイーンはそう言うとまず始めにアキの行動の自由を奪った。全身防具であるクイーンにとって普段のアキの行動を制限することは造作も無いことであった。
体の自由を奪われたアキがタタミの上に倒れ込む。だがそれでもアキは悲鳴を止めない。
『はあ……そんなにスプリングと兄弟だった事がショックだったのかしら』
少し困ったような声で自分の所有者であるアキが我を忘れている姿にため息を漏らすクイーンは、容赦なく全身防具の首筋から伸ばした兜でアキの顔を覆い隠した。するとアキの声がピタリと止む。
『防音完備だからマスターの声は響かないわ……それじゃ話を続けて』
クイーンはそういうとだまり、その場には何ともおかしな状態で固まっているアキの姿だけが残された。
「あ、あっ……あはははは……」
「は、はは……ははは」
先程とは違う何とも乾いた二人の笑いが王の間に響き渡った。
バラライカの婚約騒動から数カ月後。その数カ月の間にバラライカはリューと結婚を果たしバラライカは、バラライカ=イライヤと名前を改めていた。
結局インセントは私と話して以降、バラライカの結婚については無言を突き通した。
結婚式当日は二人の意向により近親者のみでの式となり、我々の中では私だけが二人の結婚式へと足を運んだ。ヒラキは公務が忙しいと式に行くことを拒否、ということになっているが事実は二人の結婚式がめでたいと前日から祝い酒を飲みすぎての二日酔いだった。
公務で忙しいと私がバラライカに話すと、バラライカはすべてを悟ったように少し困ったような切なそうな顔をしながら笑いを浮かべていた。
インセントもまた結婚式は欠席していた。まあ当然といえば当然なのだが、私は知っている。草場の影にその巨体を隠し結婚式を見つめていたインセントを。
バラライカのウエディングドレス姿はとても綺麗でうっとりしてため息をついてしまうほどであった。いずれ私もと過ぎた考えを浮かべてしまうほどに。
結婚後もバラライカはヒラキの腹心として、インセントとともにヒラキの横に立ち、ヒトクイという国を支えた。
それから五年の歳月が経った。ヒトクイ、ガウルドは目まぐるしい復興を遂げ、ヒトクイの顔と言っても恥じない大きな町へと変貌を遂げ、その頃には他の大陸から足をのばしてくる者達も増えヒトクイという小さな島国の名は世界各国に響き渡り、ガイアスの中でも有数の国の一つに肩を並べるまでとなっていた。
だが他の大陸から足をのばす者達が増えてきたということは、当然揉め事も増えていった。そんな輩を抑えるため暗部として任務をこなしていた私は、他の大陸からやってくる者達がヒトクイに不利益をもたらす事をしないよう目を光らせヒトクイを飛び回っていた。そのためガウルドに足を運ぶ機会が減り、ヒラキやバラライカ、インセントとも顔を合わすことが少なくなった。だから私は異変に気付かなかった。ガウルドやヒラキの異変に。
「な、何……ヒラキ王が倒れた?」
その報告が入ったのは、ヒトクイに密入国してきた他の大陸の者達を殲滅した後のことだった。私はすぐさまガウルドへと向かった。
「ひ、ヒラキ王!」
ヒラキの自室に飛び込むように入り込んだ私は、すぐにヒラキが寝ているであろうヒラキのベッドに視線を向ける。そこには目をつぶったまま息をしていないヒラキの姿があった。
「そ、そんな……」
ヒラキのベッドの横には暗い顔をしたインセントと俯むき肩を震わせるバラライカの姿があった。私は信じられないという表情で二人の顔を見た。二人は何も語らず視線を合わせようとしない。
「嘘……嘘だぁぁぁ!」
私の声は小さく叫んでいた。涙声にもなっていただろう。私は動かなくなったヒラキに近寄りヒラキの手に触れる。まだヒラキの手は温かい。その温もりが私にヒラキの死を否定させる。
「だって……まだ温かいもの……死んでなんか……死んでなんか……」
「……ああ、うん、死んで無いよ」
「ほら、ヒラキ王だって死んでいな……いって……えっ?」
一瞬にして私の目から流れていた涙が枯れる。私の言葉に答えるかのように聞き覚えのある声が返ってくる。私は茫然と寝ているヒラキの横に立っていたインセントとバラライカの顔を見た。そこには暗い顔をしていた訳では無く、笑いを堪えていたインセントと、俯いていたのではなく笑いを我慢できず顔を隠していたバラライカの姿があった。
「お前が俺に死んでほしくないのはよく分かったよ」
ポンと私の頭の上に手を置くヒラキ。何か良い話のようなまとめ方をするヒラキの態度に私の肩はガクガクと揺れ出す。当然この肩の揺れはヒラキが生きていたことによる嬉しさからくる揺れなどでは無く、怒りがせりあがってくる時の揺れである。
「お前……何してんだぁぁあああああ!」
正直この時の自分を思いだすと、自分もここまで起こることがあるのだなと驚きを隠せない。生涯で私が怒りに我を忘れたのは、多分この時ともうもう一つの二回ぐらいであろう。
夜歩者が怒り暴れ出したとなれば、当然ただでは済まない。私が我を取り戻した時、ヒラキの自室はボロボロになり、ヒラキもインセントもバラライカも冷汗をかきながら苦笑いを浮かべていた。
「わ、悪かったよ……機嫌を直してくれよ」
凄い剣幕だったのであろう、覚えていないがヒラキはここから終始私の機嫌を取ろうと両手を擦りながら私に謝ってきた。
「だから俺は言ったんだ……こんな騙すような事」
「ヒラキと一緒になってやったんだから同罪ですよね、インセントも」
私はインセントを睨みつける。するとピタリと言葉を止めるインセント。
「ご、ごめんね、レーニ」
手をモジモジさせながら謝ってくるバラライカ。
「バラライカももう後少しでお母さんになるんですから、しっかりしてください」
この時バラライカのお腹の中には赤ん坊がいた。リューとの間に子供を授かったバラライカは後数カ月で母親になる。そんな人がというかいい大人が三人揃って何をするかと思えばと、私はこの時三人に説教をした。
今思えばこの時から三人の事を呼び捨てにし始めていた事に今になって私は気付いた。
「倒れたと聞いたから、私は心配で心配で」
体を小さくしながら私の説教を喰らっていた三人に対してその後私は本当に心配した事を口にした。
「で、でもさお前も忙しいからこうでもしないと四人揃わないし」
ヒラキが言い訳のように口を開く。
「だとしてもついていい嘘とついてはいけない嘘があります! ちゃんと言ってくれれば私だってすぐに会いにいきますから」
私は少し嘘をついた。正直今のヒトクイにそんな暇はない。現在いつどこで争いの火種が生まれるか分からないヒトクイで、私が軽々とヒラキやバラライカ、インセントと揃って会うことは難しい、私が口にした言葉は、願いに近いものであった。
「まあやり方は酷かったが、忙しいレーニに会えて俺は満足だ、これで俺も心起きなく旅立つことができるよ」
そういうと今まで気付かなかった大きな袋を担ぐインセント。
「どういうことですか?」
私はインセントのその姿を見て首を傾げた。
「ああ、ヒトクイはだいぶ安定してきたし、俺はこれから旅に出ようと思っている」
インセントの口から出た言葉は、この国から出ていくというものであった。
「ま、まってください、確かにこの国は安定しました、でも今は他の大陸から厄介事が舞い込んできています、安定なんてしてません」
正直他の大陸からヒトクイへとやってくる者達が増えると同時に、今は小さいものではあるが揉め事なども増加していた。それを抑えるという事を放棄してこの国を出ていくのはあまりにも無責任ではないかと私はインセントを批難した。
「悪い、お前に負担がかかることは知っている……だがすまない俺の我儘を聞いてくれ」
インセントの意思は強く、これに関してはバラライカの結婚騒動の時と同じく意思を曲げようとしないインセント。正直私はそんなインセントに少なからず失望に似た感情を抱いた。
「まあ許してやってくれ、レーニ……この国の兵達も育ってきているし、インセントが抜けたぐらいでこの国は揺らいだりしない、というかいなくなった方がもっとこの国はよくなるよ」
それをあなたが言うのかと私は唇を噛みしめながらヘラヘラと笑うヒラキを見つめた。
確かにヒラキが言うようにこの国の兵士達の質は上がり、余程のことが無い限り、この国が揺らぐことは無いだろう。だとしても今まで右腕として自分を支えてくれたインセントをそんなに簡単に手放すことができるのだろうか。
「バラライカはどうなの? インセントがこの国を出ていく事、無責任だとは思わない?」
「わ、私は……」
バラライカにこの質問をすることは酷いと私も思う。お互い両想いであった二人の関係をしている私のこの質問は意地悪のなにものでもない。だが私はそうでもしてインセントにこの国に留まってもらいたかった。
苦笑いを浮かべながら返事に困るバラライカ。インセントもまた困った表情を浮かべたまま、黙りこんだ。
「もう、分かりました……私だけが良い子ちゃんになればいいんですね」
私はそう言いながらヒラキの自室を飛び出したのであった。四人が集まった本当の理由、そしてインセントが出ていく本当の理由を知らずに。
それから数日後、インセントはヒトクイを後にして他の大陸へと旅に出た。私は任務かあるからと言い訳をして見送りにいかなかった。
それから数カ月後、バラライカは子供を産んだ。双子の男の子だった。私は任務で忙しく、バラライカにも双子の男の子にもあうことが出来ず、再び数カ月が経った頃、私は不穏な動きをしていると思われる組織の情報を入手して調査に乗り出したのであった。
― 小さな島国 ヒトクイ ガウルド城 王の間 ―
気付けばレーニの話に耳を傾けるスプリングの姿がそこにあった。体をガチガチに固められたアキも見た感じでは分からないが冷静さを取り戻し、レーニの話に聞き入っているようであった。
「これがスプリング殿やアキ殿が生まれた時のヒトクイの状況……二人が離れ離れになる数年前の話だ」
レーニは一旦話を締める感じで語るのをやめる。
「あの、何でインセントは国を出ていったのですか?」
伝説の武具の所有者達は皆、インセントの突然の行動が何か引っかかっていた。その中で剣の師でもあるスプリングが口を開いた。
「……そう、私もその時は君達と同様に、なぜと思った……インセントが国を出ていく理由がはっきりしなかったからね……インセントが出ていってから数日後、ある大きな事件でインセントが出ていく理由を私は知る事になる……そしてその事件でインセント殿とアキ殿は離れ離れになった」
そう言うとレーニは再び自分の過去に何があったのか話はじめるのであった。
ガウルドの夜が終わり、朝を迎えようとしていた。レーニの語る自分の過去語りも佳境を迎えていた。
― ガウルド ならず者の住む町 ギンドレッド跡地 ―
ガウルドの地下に作られたその場所は現在、人の気配は無く、建物の殆どが瓦礫へと姿を変え、町を覆っていた天井には大きな穴が開いていた。夜が終わり、朝の気配が漂いはじめ、その大穴に外の光が入り込み始めた頃、死神と闇歩者の話は終わりを迎えていた。
「お前の主に言っておけ、お前の企みにはのってやるが、お前の下についた訳じゃないと」
闇歩者であるスビアの表情は先程とは違い生気を纏ったようなしっかりとした表情となっていた。その表情からは己の野望が垣間見える。
「私の主とほぼ目的は同じなのですから、仲良くしてくれればいいのに……」
見た目は恐怖を醸し出すそんな姿であるが、明らかに言葉の軽い死神は、ため息をつくように自分の顔である髑髏の顎をカタカタと震わせる。
「……目的が同じ……冗談じゃない俺は自分の手でこの世界を壊す……この一戦が終わったら次はお前達だ覚悟しておけよ」
好戦的な表情で目の前の死神にそう言い放つと、スビアは座っていた瓦礫から腰を上げる。
「それじゃな」
死神に別れの言葉を告げるとスビアは体から黒い霧を出してその場から姿を消した。
「あらら、私の専売特許が奪われてしまいましたね……」
死神は自分よりも先に姿を消してしまったスビアを見て残念そうに肩を落とした。
「……さて役者は揃ったということでいいのでしょうか……ひとまず私も主の元にもどりますかね……」
漂々と明るく喋っていた死神は、それが演技であったかのように抑揚の無い言葉を発するとギンドレッド跡地の暗闇に溶け込むようにして姿を消した。
伝説の武具の所有者達は知らない。自分達が知らない所で起こったこの出来事が自分達にとって大きな試練になるということを。
ガイアスの世界
一気に知名度を上げたヒトクイ
統一後、短い年月で急成長を遂げ、小さな島国から世界に注目されるまでになったヒトクイ。それを成し遂げた立役者はバラライカであった。
王としてあまりにも頼りないヒラキに代わり、国の舵をとり、短期間でヒトクイという国を大きくはたのである。
だからといってヒラキが無能であったという訳では無く、時にヒラキの無責任な発言がバラライカを救うことも多々あったようで、バラライカは常々ヒラキは無能では無く単に面倒臭いだけで爪を隠しているだけだと言っていた。
ただの無能がヒトクイという国を統一したということはおかしいく、やはりヒラキは道化を演じているだけで締めなければならない所はきっちり、まわりからは分からないように締めていたようだ。




