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真面目に集うで章 4 死神の宣戦布告


 ガイアスの世界


名前 ソフィア(偽名) (槍士ランサー?)


年齢 16


 レベル 不明


職業 槍士ランサー


今までにマスターした職業


盗賊 剣士?


装備


 武器 簡易型伝説の武具 ナイト 槍


 防具 上に同じ 全身防具フルプレート


 頭 上に同じ (あったりなかったり)


 靴 上に同じ


アクセサリー 手癖悪き指輪 謎の首輪


 スプリングとともに行動していたソフィアは、スプリングが真光のダンジョンに向かった後、人化したビショップによって拉致られる。それ以降のことは不明。

 スプリングといた時の明るい性格が嘘のように一切感情を表に出さない性格に変わっていた。



    


 真面目に集うで章 4  死神の宣戦布告



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ― 小さな島国、ヒトクイ、ガウルド城城門前 ―



 ヒトクイの王であるヒラキ王の願いを聞き入れた伝説の武具の所有者一行は、王の間から飛び出し、ガウルド城、城門前に向かっていた。

 ヒラキ王の命により伝説の所有者達よりも先にガウルド兵達は城門前に集まっており、襲撃者がやってくるのに備えて準備をして待っていた。


「……まだきてないようですね」


「まあ町で見かけたってだけだからな……もしかしたらもう襲撃してこないかもな」


飛び出してきたはいいが、そもそもソフィアが再び城にやってくる確証は無かった。その事を忘れていたアキやブリザラは頭を抱えた。


「……ソフィアは?」


 少し遅れてスプリングがガウルド城の城門前についてソフィアが来ているかアキとブリザラに聞いた。

 その瞬間であった。すでに城門前にいたアキやブリザラ、その他ガウルドの兵達が空から天使のように羽を羽ばたかせその場に漂う白い少女の姿を見つめていた。


「……きやがった……さっさと逃げた奴がすぐに帰ってくるとはどういう了見だ?」


呆れ半分、挑発半分といった具合で上空に漂う少女に言葉をかけるアキ。


「……そ、ソフィア……ソフィア!」


上空を漂う少女を一目みた瞬間、スプリングは上空の少女の名を叫んでいた。


「一人増えている……あの男……なんだこの感じ……」


ソフィアと呼ばれた少女の表情がピクリと動いた。


「ソフィア! ソフィアだろ!」


上空にいるソフィアに必至に声をかけるスプリング。何の感情も籠っていない視線と表情に違和感を抱いたスプリングだったが、その者がソフィアであるという確信はあった。


「なんだ、……胸が熱い……」


スプリングの呼びかけに何か感じたのか胸を押さえるソフィアの表情は戸惑っていた。今まで殆ど感情を見せていなかったソフィアの表情に何かが戻ろうとしていた。


「あ、ソフィアさん直ちに仕事をしてください」


戸惑いの表情のソフィアの後ろから、黒い煙が立ち、姿を現す死神のような姿をした者。その死神のような姿をした者の言葉で、ソフィアの表情は一瞬にして無表情となり、死神のような姿をした者の言葉にコクリと頷いたソフィアはスプリング達の前に降り立った。


「ソフィア……もういいんだ、こっちに来い」


スプリングはソフィアの後ろに現れた死神のような姿をした者など気にすることなく、舞い降りたソフィアに近づく。


「邪魔だ!」


槍を手に持ったソフィアは、スプリングに向けて槍を横に薙いだ。その表情には先程まであった迷いはなく、目の前に立ちふさがる敵を排除しようとするものへと変わっていた。


「ソフィア……」


唐突な攻撃に困惑しながらもバックステップでソフィアの横薙ぎを避けるスプリング。


「……くぅ……俺が分からないのか? 俺だよスプリングだ」


「……知らない……」


ソフィアの言葉に茫然とするスプリング。その隙を見逃さないソフィアはもう一度スプリングに向かって槍を薙いだ。


「危ない!」


「なっ!」


金属同士がぶつかり合う音が周囲に響き渡る。スプリングの前にはキングを前に出しソフィアからの攻撃をしのいだブリザラの姿があった。その瞬間ブリザラの横から飛び出すアキはソフィアに向けて剣を振りぬく。


「おっとあなたのお相手は私がしましょう」


ソフィアの影からヌラっと姿を現した死神のような姿をした者はアキの放った攻撃を持っていた大鎌で弾く。


「なぁ?」


突如として姿を現した死神のような姿をした者に驚くアキは、警戒するように一旦その場から離れる。


「なんだお前……」


アキは目の前に立ちはだかった死神のような姿をした者をみて嫌な汗を感じていた。それは絶大な力を持った魔物が発する猛った殺気とは違いとても冷たく凍てついた視線。それは生物では無く、無機質な物が発する視線とでもいえばいいのか、例えるならロストゴーレムが発する視線のようなものに近い。そんな得体の知れない者に出会ったような感覚をアキは感じていた。

 だがアキ以上にその冷たい視線を感じ取っていたのはスプリングであった。元々戦いの中で相手の視線から感情を読み取るのが長けていたスプリングであったが、その当時まだ心が幼かったスプリングはその能力をうまく扱うことが出来ず、戦いにおいて邪魔になると思ったスプリングは荒療治と称して無理矢理戦場に出ることによってその能力を鈍化させていた。

 だが今のスプリングは己の過去と向き合い、ポーンを覚醒させたことによってその能力を再び体得し、自分の力としていた。

 アキと対峙している死神のような姿をした者が発する視線。その視線には一切の感情が無くただただ冷たく目の前のアキを見据えているようにスプリングは感じていた。


「……お初です、私は……周りからは死神と呼ばれています」


 道化師が観客に挨拶するように、片方の手を胸に当て頭を落とす自分を死神と呼ぶ者。はたから見れば明らかに死神の今の姿は隙だらけであり、容易に攻撃を仕掛けられる状態である。だがアキは攻撃を仕掛けるための一歩が踏み出せずにいた。死神の不気味な視線は兎も角として、その存在自体がとてつもなく不気味であるとアキの感覚が告げていたからだ。


「ほう……仕掛けてきませんか……」


死神は髑髏の仮面の口元をカタカタと揺らし笑っているようであった。


「大抵の者達はチャンスとばかりに、攻撃を仕掛けてくるんですがね……まあその様子だと、その後どうなるかは分かっているようですね」


再度口元をカタカタと揺らす死神。


「へっ……突っこんでもよかったんだがな!」


アキは額に汗をかきながら死神を挑発する。自分が死神に突っこんだ時の事を頭の中で想像した時、そこにはボロボロになった自分がいたからだ。


「血の気が多いですね……ムウラガ大陸でおみかけした時と変わらない」


「ムウラガ大陸?」


アキは首を傾げた。


「ええ……村を襲った盗賊を皆殺しにした時みたいですよ」


死神の言葉にアキの表情が驚きに変化した。


「……どういうことだ」


俯くアキの声は低く響きドスが利いていた。


「いやはや、私はあの現場にいたのですよ……、あなたが盗賊達を無残に引き裂いていくのは見ていて楽しかったですよ」


「なぜ……あの場にいた?」


アキは死神に聞きつつ、心の中で一つの答えが出ようとしていた。


「ああ……それを聞いちゃいますか? ならお答えしましょう……あの盗賊達をあの村に差し向けたのは、サイデリーの王などでは無く……私ですよ」


芝居がかった口調で死神は、ムウラガ大陸にある小さな一つの村を壊滅させたのは自分であると告白した。その瞬間、アキはその場から飛び出し、死神の懐に潜りこんでいた。


「消し飛べ」


怒りを内包した静かなアキの声はそう呟く。死神の懐に飛び込んだアキは月石ムーンロック製の剣を鞘から抜くと、剣身に黒竜ダークドラゴンを思わせる黒い炎を纏わせ死神に向かって切り上げた。


「ふふふ」


切り上げられたアキの剣は黒炎を上げながら、死神の体を切りさく。だが死神はカタカタと笑いを上げる。


「手応えが無い……」


死神の髑髏の仮面だけを残し霧散していく死神の体。それを前にアキは苦虫を噛み潰した表情で髑髏の仮面だけとなった死神に攻撃を仕掛ける。


「速い速い……さすが伝説の防具の所有者だけはあるか……だが」


黒炎を纏った剣筋が幾多にも飛び散っていく。それを髑髏の仮面だけとなった死神は、避けていく。アキの攻撃を回避しながら死神はどこからともなく大鎌を出現させ、アキに向かって振り下ろした。その瞬間地面が爆発するような勢いでアキの下に近寄り死神の大鎌を防ぐブリザラ。


「くぅ……」


見た目以上に大鎌の攻撃は重く、ブリザラの体が沈んだ。だがその衝撃を見事に相殺したブリザラをみて死神の髑髏の仮面がカタリと音をたてる。


「ほう……」


「ブリザラ、無理するな!」「ブリザラさん!」


 今はキングのフォローもありブリザラはアキとスプリングの事を守れてはいるが、本格的に戦闘が始まれば、死神とソフィアから繰り出される攻撃からアキとスプリングを守る事は不可能の近い。だがそれでもブリザラはアキやスプリングを守ろうとしていた。


「ブリザラさん、俺の事はいいからアキことを頼む!」


「なっ!  いいや俺はいいブリザラ、スプリングの援護をしろ!」


スプリングの言葉にイラッとした表情になるアキ。


「余裕ですね」


「何処を見ているんですか?」


死神とソフィアは隙だらけとなっていたそれぞれの相手であるスプリングとアキに攻撃をしかけた。


 「くぅ!」


ブリザラはアキの前に立ち再び死神の攻撃を防いだ。それと同時にスプリングはソフィアの一撃を回避する。


「ブリザラ前に出なくていい」


ブリザラの肩を掴むとアキは前に出て髑髏の仮面に向かって剣を変形させた矢弓から黒い矢を放った。


「……次は弓ですか」


放たれた黒い矢を易々と避ける死神。


「ふん」


アキの口元が釣り上がるのと同時に黒い矢は爆発を起こした。爆炎に巻き込まれ消えていく死神。

 してやったという表情で爆炎を見つめるアキ。


「派手にやったな……」


スプリングはアキの放った爆発を見て言葉をこぼす。その瞬間ソフィアは手に持った槍をスプリングに向かって放った。


「いい加減にしろ!」


今まで一切ソフィアに攻撃を仕掛けなかったスプリングは伝説の武器ポーンを抜きソフィアの槍を上に弾いた。


「……!」


今の攻撃に絶対的自信を持っていたのか槍を弾かれた事に驚くソフィア。


「本当に俺のことが分からないのか……」


スプリングの言葉に何の反応も示さないソフィアは槍を構え次の攻撃に備えた。


「そうか……俺の事が分からないなら……思いださせてやる……ポーン!」


『了解した』


ポーンをかざしながらスプリングがポーンの名を呼ぶと、ポーンが返事をする。するとスプリングの体が光出し、次の瞬間、上位剣士の姿であったスプリングの姿は魔法使いの姿に変わっていた。剣の形をしていたポーンもスプリングと初めて出会った頃のロッドの形へと変わっていた。


「行くぞソフィア!」


ロッドに形を変えたポーンをソフィアに向けたスプリングは、そう宣言すると詠唱を開始した。


「魔法使い……放たれる魔法は、多種多様で援護攻撃を得意とするアタッカー、だが基本一人での戦いは不向きで、壁となる他のアタッカーがいなければ強力な魔法は放てない。戦闘の場で職業を切り替えられるのは驚きましたが、私相手に魔法使いとは選択ミスですね」


 魔法使いについて独自の分析を口にするソフィアは、その分析を言い終えると詠唱をしているスプリングに向かって走り出す。詠唱はさせないという動きでスプリングに迫るソフィア。だがスプリングは動くことなく詠唱を止めない。それを見たソフィアは容赦なく槍をスプリングに向けて放つ。


「仕留めた!」


手応えありの確信のある槍による突き。だが槍は空を切る。スプリングは最小限の動作でソフィアの槍による突きを避けていた。一瞬驚きの表情を顔に浮かべたソフィアであったが、すぐに表情を戻し次の攻撃動作に入る。


「十本突き」


 小さく技の名前を告げるソフィア。スプリングはソフィアから繰り出される高速の十本の槍を自分のペースを崩すこと無く、最小限の動作で避け切った。

 十本突きという技は、放たれた瞬間、驚異の速度から槍が十本に見えることが技の名の由来である。十本突きは槍を扱う職業である槍士ランサーなどにとっては基本中の基本技であるが、この技には別名『数え突き』、という隠名がある。

 基本は十本突きで敵にトドメを刺すのが槍士ランサーにとって通例である。だがこの技にはトドメを刺せなかった場合、そんな相手と対峙した時の奥の手、槍士ランサーを究めた者だけがたどり着く次の一手があった。


「……二十本突き!」


ソフィアの槍は速度を増す。十本の突きで仕留められないのならば、二十本の突きで相手を仕留めるという単純ではあるがとても難しい重ね技である。十本の時よりも速度を増した二十本突きの槍がスプリングを襲う。

 だがそれでもスプリングは平然とした表情でソフィアの二十本突きを掻い潜る。そんな状況にアキと戦った時の事が脳裏を過るソフィア。アキの時は避けられたものの、相手であったアキには野性的な勘というもので交されたという感覚があり、それなりに追い詰めたという感覚がソフィアの中ではあった。だが目の前の男、スプリングはソフィアの動きを的確に見切っているようであった。戦いを支配されたような感覚に感情が乏しいはずのソフィアの表情が曇る。


「くぅ……百本突き!」


 十本突き以降九十本突きまでは、本人の速度の限界で鋭い突きを放つ技であるが、百本突きになると今までの技とは概念的に違う突き攻撃に変わる。体内で練り上げた魔力を具現化させ九十九本の槍を作り上げ、相手に向けて放つというものだ。

 この技は最上級の槍士ランサーでも習得するのが難しいという大技であり、魔力の才能も関わってくるため、放てる者は少ない。そんな槍士ランサーとして最上級の大技を放つソフィア。

 ソフィアの周囲で魔力により具現化した九十九本の槍はスプリングに誘導するように放たれる。だがそれすらもスプリングは平然と避け切っていく。次々と放たれる具現化した槍を避けていくスプリングを見ていたソフィアは、同じ日に二回もしかも別の人物に大技を破られたという心の動揺がソフィアの表情に現れていた。

 だがソフィアには納得できない事があった。


「……魔法使いが百本の槍を避けられる体力はないはず」


百本目である自分の持つ槍を放ちそれを難なく交されたソフィアは平然とした表情で詠唱を続けるスプリングを見て口を開いた。

 魔法使いはその強力な魔法の変わりに接近戦は苦手としている。その理由の一つが極端な体力の低さにあった。それに比例して防御力も低く、ちょっとした攻撃が致命傷になりやすいことも魔法使いの短所である。スプリングも他の魔法使いと同様に、魔法使いに強制転職された当時、その短所が悩みの種ではあった。

だがそれでもなお魔法使いになろうとする者がいるのは、魔法という能力がそれだけ強力なものであるからに他ならない。発動条件さえ整えば、物理攻撃を主とする戦闘職のどの職業よりも攻撃力は高いからだ。戦闘を主とした魔法使いを目指す者は、その一撃に魅了された者が多く、その強大な一撃に憧れているのだ。

 そんな極端な短所と長所を持つ魔法使いに転職したスプリングは百本もの槍による高速による突き攻撃を全部交したというのに体力を消耗したような様子は見られなかった。

 ロッドに変化したポーンをソフィアに向けるスプリング。


「己の想いを糧とし、風の鎖となれ……縛れ、風鎖ウインドーチェーン


ソフィアの問に答える事無く、スプリングは詠唱を終えると、魔法の名前を叫んだ。するとロッドに変化したポーンから風の鎖が何十本と放たれ、ソフィアの体に巻き付き、自由を奪っていく。


「……そう魔法使いの弱点は体力だ」


風鎖ウインドーチェーンを放ち終わったスプリングは、ソフィアの動きを封じたことを確認すると、疑問を口にしたソフィアに答えようと口を開いた。


「だがそれなら、最小限の動きで動けばいい」


スプリングはまるで当然というように風の鎖で縛られたソフィアに体力を消耗しない真相を口にした。


「なに?」


無表情であるはずのソフィアの顔が先程から愕き続けていることに本人は気付いていない。

 スプリングは平然と言ってのけたが、状況確認や詠唱など集中力を必要とする魔法使いという職業でそれをやるということは、そうそうできるものでは無い。 勿論ポーンの援護があってこそということもあるが、極限まで鍛え上げられた剣士や上位剣士で養われた経験や、元々速度を重視していたスプリングの戦い方があってこそのものであった。


「さて動きは封じた、後はこの騒ぎを納めるだけだが……」


そう言いながらスプリングは視線をアキやブリザラの方に向けた。

 激しい爆発で上がった爆炎はすでに鎮火し、アキとブリザラの周辺には黒煙が立ち上っていた。状況的に伝説の武具の所有者達の勝利という状況に、周囲で見守っていたガウルドの兵達は歓喜の声を上げていたが、戦いの当事者であるアキとブリザラは苦い表情を浮かべていた。


「ブリザラ……」


「はい……分かってます」


言いしれぬ不安を感じるアキとブリザラは、互いに声をかけ、警戒を怠らないように周囲を見渡していた。


「やっかいですね……伝説の盾というのは」


どこからともなく聞こえる死神の声に周囲を見渡すブリザラとアキ。


『王右だ!』


最初に異変に気付いたのはキングであった。その声に右を向き防御体勢に入るブリザラ。


「う、うがぁあああああああ!」


周囲でアキやブリザラの戦いを見ていたガウルドの兵が急に苦しそうに叫びそしてブリザラに向かって飛び出した。


「な、何!」


飛び出したガウルドの兵の顔には死神がかぶっていた髑髏の仮面があったからだ。一瞬躊躇したアキは拳を握りしめ髑髏の仮面目がけて拳を振りぬく。その瞬間髑髏の仮面はガウルドの兵から離れ、アキの拳はガウルドの兵の顔面へとめり込む。


「アキさんその方法ではガウルドの兵さん達に攻撃が当たってしまいます!」


「くそっ!」


宙に浮かぶ髑髏の仮面を目で追うアキ。髑髏の仮面の行先はガウルドの兵であった。違うガウルドの兵の顔にすっぽりと収まった瞬間、ガウルドの兵は苦しむような悲鳴を上げ、先程と同じようにブリザラ目がけて飛びこんでいく。そのガウルドの兵を追おうとするアキ。


「アキさん、私が押さえます!」


 ブリザラはアキに留まるよう言うと向かって来る髑髏の仮面をかぶったガウルドの兵を迎え打つ。


「うがぁぁぁあ!」


体全部でキングに覆いかぶさるように迫ってくる髑髏の仮面をかぶったガウルドの兵から一歩下がるブリザラはキングを押し出し髑髏の仮面を被ったガウルドの兵を弾き飛ばした。すると再びガウルドの兵から離れていく髑髏の仮面。


「そういうことか!」


ブリザラの考えを理解したアキは弓の弦を振り絞り、黒い矢を髑髏の仮面目がけて放つ。

 ブリザラの考えはガウルドの兵から髑髏の仮面を切り離すことによってアキが髑髏の仮面に攻撃に専念できるというものであった。ブリザラの考えが的中しアキの放った黒い矢は髑髏の仮面に当たり爆散する。


「手応え……ねぇな……」


爆散したものの手応えを感じていないアキは、再び周囲を警戒する。


「いやはや……想像以上ですね……」


視線をガウルドの兵達に向けるアキとブリザラ。さすがのガウルドの兵達も自分の体が乗っ取られないよう警戒を強め、周囲を見渡していた。


「あははは……こちらですよ」


声のする方へ視線を向けるアキやブリザラ、そしてスプリング。その視線の先には、髑髏の仮面をかぶったソフィアの姿があった。


「お前!」


「いやはや、あなたはソフィアさんにとってとても厄介な存在のようですね」


ソフィアの体に乗り移った死神は、宙から大鎌を取り出し、スプリングが発動していた『風鎖ウィンドチェーン』を切りさいた。

 その瞬間スプリングはポーンを構えなおし新たな魔法の詠唱を始める。


「おっとまたソフィアさんを縛られるのは御免ですからね……仕事を済ませて退散するとしましょう」


死神はそういうと、ソフィアの背中から羽を早し上空に飛びたつ。その行動を見ていたスプリングはすぐさまポーンを死神がいる上空へと向ける。


「ブリザラ!」


アキは叫びながらブリザラの下へと走り出した。


「はいっ!」


ブリザラは自分に向かって来るアキをみてキングを構えた。それを確認したアキはキングに向かって飛びたつ。


『お、王、何をするきだ!』


ブリザラとアキがしょうとしている行動に気付いたキングは焦るような声をあげる。

 アキが飛び上がり、キングに着地する。それと同時にブリザラは力を振り絞ってキングに乗ったアキを上空へと飛ばす。


『わ、私を……踏み台にしたっ!』


驚愕したように叫ぶキング。ブリザラの渾身の力で空に打ちあがったアキは攻撃範囲内に入った死神に向けて弓を向ける。


「近くなら当てる!」


アキはそういうと弓の弦を引き絞った。


「仕事の邪魔ですね……」


どこからともなく死神は大鎌を取り出し、アキに向けて振りかぶった。


「ぐぅ!」


飛び上がっていたアキは無理矢理体をねじらせ、大鎌の一振りを避ける。だがその瞬間、その場の空間が引き裂かれたように口をあけアキを飲み込んでいく。次の瞬間死神が飛んでいる場所から少し離れた場所の空間に切れ目がはいり、そこからアキを吐き出し、アキは地面に向かって落下していた。


「がはぁ!」


地面に落下した襲撃で口から体中の空気が吐き出されるアキ。


「アキさん!」


落下したアキに駆け寄るブリザラ。


「己の想いを糧とし、風の鎖となれ……縛れ、風鎖ウインドーチェーン


再び動きを封じる風の鎖の魔法を発動するスプリング。舞い上がった風鎖ウインドーチェーンは死神に向かっていく。


「縛られるのは御免ですね」


再び大鎌をどこからともなく出現させた死神は自分の前を切りさく。するとアキの時と同様に空間に切れ目が発生してその切れ目の中に吸い込まれていく。すると次の瞬間アキとブリザラのいる場の近くの空間に切れ目が現れ、風鎖ウインドチェーンを吐き出した。風鎖ウインドチェーンはそのままアキとブリザラに向かい体に巻き付き動きを封じた。


「きゃ!」


「くぅ」


「なっ!」


縛られたアキとブリザラ。その光景に驚きの表情を浮かべるスプリング。


「さて……それでは」


邪魔者がいなくなったことを確認した死神はガウルド城に視線を向けた。


「ヒトクイの王、ヒラキ王……我々は伝説の本、ビショップの名において、宣戦布告をする、猶予は三日! それまでに我々に降るか否か決めることです」


ガウルドの上空で死神はガウルド城にいるであろうヒラキ王に向けて堂々と国を奪うと宣戦布告を告げた。


「……」


 スプリング、アキ、ブリザラ三人の表情が固まる。死神が口にしたヒトクイへの宣戦布告、それ自体も驚きではあったが、それよりもこの騒動を引き起こしていた者が伝説の本であるビショップであったことが一番の驚きであった。死神は存在さえ言葉にすることは無かったが、それは即ちビショップの所有者の意思であるからだ。

 そしてスさらにプリングはソフィアの後ろにいた者がビショップやその所有者であったことも驚愕であった。

 

「それでは三日後に良い返事をお待ちしておりますよ……」


死神はソフィアの体を使い、道化が観客の前でやるような胸に手を置いて頭を下げる動作をすると大鎌で空間を切りさきその中に飲み込まれるように入って行き姿を消した。


「ど、どういうことだよ……」


アキはスプリングの放った風鎖ウインドチェーンに縛られたまま姿を消した死神のいた空間を見つめていた。





 ガイアスの世界


   死神


どうやら伝説の所有者全員と因縁がある模様の死神は、その姿以外まったくの不明である。

 そもそも人であるのかも定かでは無い。髑髏の仮面が特徴的でその仮面単独で行動したり、かぶった者を操ったりできるようだ。

 だが死神の力はそれだけではないようで、自身の武器である大鎌を一振りするだけで、時空を切りさき対象を飲み込み別の場所へとおくることができるようだ。

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