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真面目に集うで章 2 疑い、襲撃者の正体

ガイアスの世界


登場人物



名前 スプリング=イライヤ (上位剣士)


年齢20


 レベル99


職業 上位剣士 レベル マスター


今までにマスターした職業


ファイター 剣士 ソードマン 魔法使い? 拳闘士


装備


 武器 伝説の武器ポーン(剣) 戦続きの剣


防具


 頭 無


 胴 真紅の鎧


 腕 疾風の手甲


 足 疾風の足甲


アクセサリー 守りの指輪


 伝説の武器ポーンをある程度使えるようになり、本来の力が使えるようになった。

 現在スプリングは、一日で3回ポーンの能力である転職ジョブチェンジが使える。

 ポーンの能力によって色々な職業に転職できるようになったスプリングは何でもこなせるオールラウンダーとなった。三人の伝説の武具の所有者の中では俊敏さはずば抜けており、攻撃力も最大火力の攻撃ではアキに劣るが、手数が多い。


 名前 ブリザラ=デイル (サイデリー王)(盾士)


年齢15歳


レベル 65


職業 王 レベル 50 盾士 レベル マスター


 今までマスターした職業


 盾士


武器 無 (伝説の盾キング)


 頭 氷の髪飾り


 胴 日々平穏特性ライトアーマー


 腕 月石ムーンロックの手甲


 足 王の靴


 アクセサリー 王守の指輪


 真光のダンジョンで経験を積んだことにより、王としてのレベルも上がっている。まあ王という職業をレベルで現すのは難しいが、このレベルであれば、王がやらなければならない仕事は大抵こなせる。

 盾士としての経験を積んだブリザラはキングの能力もあり、三人の伝説の武具の所有者の中ではずば抜けた防御力を持っている。

 ちなみに旅に出てからブリザラは敵からの攻撃では一度もダメージを受けていない。



 名前 アキ=フェイレス


年齢21歳


レベル 99


職業 ダークドラゴンナイト(自我有)バーサーカー(自我無)レベル ???


 今までマスターした職業


 ファイター 剣士 弓使い


犠牲にした職業


 ファイター 剣士


使役、召還できる魔物


 ロストゴーレム (カングリア)


武器 月石ムーンロックの剣(可変して弓形態にすることができる)

 

 ダークドラゴンの爪 狂戦士バーサーカー状態にならなくても使えるようになった。


 頭 ダークドラゴンヘルム


 体全体 フルプレート(伝説の宝具 クイーン(ジョブブレイカー)


 アクセサリー 割れた遠見の眼鏡


 黒竜ダークドラゴンに宿っていた竜族の力によって力は安定しないが、使役、召還の力が使えるようになったことによってアキ自身への負担が減った。

 攻撃力だけで言えば三人の伝説の武具の所有者の中では一番である。



   四章 真面目に集うで章 2 疑い、襲撃者の正体



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 小さな島国ヒトクイの首都ガウルドにある城門前で、周囲にいる者の動きを止めてしまうほどの迫力を持ったブリザラの声が響き渡る。ブリザラの声を耳にしたガウルドの兵達は、体が固まったように硬直していた。

 凛としたブリザラの声はその場にいたガウルドの兵達の心を打ち抜き、戦意を奪っていく。ガウルドの兵達は自分達の君主ではないはずのブリザラの声に、剣を落とし、膝をつき忠誠を誓うような姿をとっていた。

 ガウルド兵達はそれぞれが驚きに表情を染め、自分達が今ブリザラに対して抱いている感情に戸惑っていた。

 それは絶対君主、誰しもが認めるほどの王としての資質が目の前の少女から滲みだしていた。


「はぁはぁ……話を聞いてください」


敵意が無くなったと感じ取ったブリザラは、ガウルド兵達に自分達の話を聞いてもらうよう声を上げる。ガウルドの兵達は、自分の体が膝をついて少女に向けて頭を下げていることに信じられないという表情を浮かべていた。

 目の前の少女に心も体も服従させられた感覚、だがその場にいたガウルドの兵達はその感覚に嫌悪を感じず、逆に何か温かい物に包まれ守られているような感覚さえあった。



「……お、お前……あなたは何者なのだ?」


ガウルド兵達の中から隊長らしき男が顔を上げ、恐縮した表情でブリザラ達に何者なのかと問いかける。


「わ、私は、サイデリー王国王、ブリザラ=デイルです」


ガウルド兵達の視線が一斉に自分に向けられた所為なのか、ブリザラは言葉を詰まらせながら、自分が何者であるのかを口にした。その姿は誰が見ても可愛らしい少女であり、一国の王には見えない。ガウルドの兵達は、目の前の少女が口にした言葉を信じたいという気持ちと信じたくないという気持ちが入り混じっており、なんとも複雑な表情を浮かべていた。


「その方は、正真正銘、サイデリー王国の若き王ブリザラ王だ」


 城の扉が開かれる音とともにそこから、重く鋭い声が響き渡る。扉から現れた者に視線を向けたガウルドの兵達はそこに立つ者をみて再度膝を付け、頭を下げる。数人の兵を横に従え扉の先にある階段を静かに下りるその者は、小さな島国ではあるが、ヒトクイを統一し、周辺諸国にも影響を持つほどの国を一代で築き上げた王、ヒラキ王の姿であった。

 ヒトクイを統一して数十年が経つというのにヒラキ王の姿は比喩無く若若しく初老の老人には見えない。


「そこの者達、王の御前だ、頭が高いぞ!」


ヒラキ王の横にいた兵の一人が感じの悪い態度でブリザラ達に向かって頭を下げるように指示を出す。ブリザラとアキはそれに従い膝を地面に落し頭を下げた。


「ふぅ……おや? どうした?」


空気を読まないのか、それともわざと読まなかったのか、シンと沈みかえった城門に続く長い橋から姿を現すピーランを担いだウルディネは、膝を地面に下ろしたアキ達に近づいていく。


「お、お前! 馬鹿頭を下げろ」


周囲の状況をまったく理解していないという顔でキョロキョロと見渡すウルディネの頭を掴み無理矢理膝をつかせようとするアキ。だがウルディネは嫌がりもがいた。


「な、何をする!」


「こ、コラッ! あ、暴れるな!」


ジタバタしているアキとウルディネを見ていたヒラキ王の横にいた感じの悪いガウルド兵が眉をピクリと吊り上げた。


「無礼であるぞ子供!」


だがアキとウルディネはその言葉を聞かずに小さな攻防を続けていた。


「このっ!」


剣を抜く感じの悪いガウルドの兵。


「よいよい、子供のすることだ」


全く頭を下げる素振りせず、嫌がっているウルディネを見てヒラキ王に仕える兵がウルディネに剣を抜こうとするがそれを制したヒラキ王は子供のすることと微笑んでいた。


「ん?」


だがその言葉を聞き勘に触ったのか、アキに頭を掴まれたままウルディネはヒラキ王を睨みつけた。


「ほっほう……私を子供呼ばわりか……まあ確かに見た目は子供であるが……私は子供ではない」


ウルディネは自分の力を誇示するように無詠唱で水を手の中に作り出す。そして精霊であるウルディネにとって人間界の地位などまったく興味が無い。目の前にいる者が王であろうが何であろうが関係無かった。


「お、おい、ウルディネ! 何考えている!」


手に水の玉を作ると同時に周囲に水の壁を作り出すウルディネ。ウルディネの近くにいたアキはその壁に弾き飛ばされる。


「精霊!」


周囲のガウルド兵達の何人かはウルディネの手に浮かぶ水の塊をみて精霊という言葉を口にした。

 ガイアスで人が扱う魔法の殆どは、詠唱を必要とする。だがそれはあくまで人間や亜人の理であり、上位精霊であるウルディネには関係無い。言わば無詠唱は精霊の代名詞といっても過言では無いのだ。

 精霊に対しての知識があったガウルドの兵の何人かは目の前のウルディネを見て、精霊だと確信していた。そして当然ウルディネが睨みつけている人物、ヒラキ王も無詠唱による魔法を見てウルディネが精霊であることに気付いた。


「これはこれは、失礼した、大精霊殿」


だがそれに動揺することなくヒラキ王は頭を下げる。その行動に周囲のガウルドの兵達はさらに動揺した。


「ウルディネ……それをしまえ」


吹き飛ばされたアキは再びウルディネに近づき、止めようとするのだが水で作られた壁に阻まれ、ウルディネの体に触れることさえできないアキは、困った表情でウルディネを何とかなだめようとしていた。


「お前もお前だ……か弱き子供の私にピーランを担がせるとは何事だ……」


「お、お前……今王の前で私は子供じゃないって言ったばかりじゃないのか?」


自分の立場をコロコロと変えるウルディネに困り顔のアキ。それを見ていたヒラキ王はクスクスと笑みを浮かべる。


「何を笑ってる!」


練り上げた水の玉をウルディネは綺麗なフォームでヒラキ王に投げつけた。


「おま、馬鹿!」


アキの頭の中で、自分達がこの国を追われる姿が手に取るように思い浮かんだ。


「王!」


 ヒラキ王に対して投げられたウルディネの水の玉は剛速球で対象であるヒラキ王に向かって行く。ヒラキ王の横にいたガウルド兵達がその水の玉から王を守ろうと前に出ようとする。ブリザラもがガウルドの兵達同様にヒラキ王の前に出る。だがそれよりも早くヒラキ王は動きだしていた。

 側にいた誰よりも前へとでるヒラキ王。その瞬間バチンと水が弾ける音とともにウルディネの水の玉が四方に霧散する。


「おお~!」


「なっ!」


「えっ!」


ウルディネは自分の投げた水の玉が、ヒラキ王に弾かれたことに歓声を、そしてアキとブリザラは驚いた声を上げた。


「お前!」


その場にいたガウルドの兵達はウルディネを囲み剣を抜く。


「いいのだ、剣を納めろ……」


剣を抜いたガウルド兵達に剣を納めるように指示を出すヒラキ王。ガウルドの兵達は王の言葉を聞き、剣を鞘に納めた。


「いやいや、再び申し訳ない、この立場だと周囲の者達の頭が凝り固まって……貴君達のそういったやり取りを久しく見ていなかったのか、楽しくなってしまった……久々に人としての感情を取り戻した気分だ」


ヒラキ王はウルディネの仕出かした事を咎めることなく、逆に感謝して頭を再び下げた。


「お前は!」


ウルディネの頭を鷲掴みにするアキはグリグリとウルディネの頭を振り回した。


「いいではないか、あの者も別段気にしていないようだし」


「馬鹿……」


全く反省の色が伺えないウルディネの言葉と顔をみて怒る気が失せたのかアキは深いため息をつき肩を落とした。


「ヒラキ王、大丈夫ですか!」


一定の感覚をとりつつヒラキ王に駆け寄るブリザラはヒラキ王の体を心配していた。


「ああ、私は大丈夫だ、それよりもサイデリーの王よ、私の兵達が無礼を働いたようだな、申し訳ない」


ブリザラを少女ではなくサイデリーの王として、ヒラキ王は自分の兵達が行った行動に対して深々と頭を下げた。


「お、王……王が頭を何度も下げるなど……」


王の横に仕えていたガウルドの兵の一人があまりにも頭を下げるヒラキ王を見かねて注意する。


「いいのだ……彼らには頼みたいことがあるのだから……」


「……」「……」


ヒラキ王の前にいたブリザラは当然として少し離れた所にいたアキにもヒラキ王のその言葉は耳に入っていた。


「少し、時間を貰いたいのだが……大丈夫かな伝説の武具の所有者達……」



ヒラキ王の言葉はアキやブリザラの表情を硬直させる。そして表情の無い伝説の武具であるキングやクイーンも動揺しているようであった。





― 小さな島国 ヒトクイ ガウルド ―



 建物が瓦礫と化し、まるで激しい戦争の後のような町並みになってしまっているガウルドを目のあたりにした伝説の武器の所有者であるスプリングは顔を青くしていた。


『何が……』


伝説の武器であるポーンは町の惨状に小さく声を上げる。


「まさか……まだ奴らが生きていて……」


スプリングが口にした奴らとは、少し前におこった『闇歩者ダークウォーカーという種族によるゾンビ化した魔物によるガウルド襲撃のことを意味していた。


『……』


ポーンもスプリングの考えに無言で同意した。


「……今どうなってるんだ?」


グチャグチャになった町を見渡すスプリング。するとそこには黒い煙を放つ城が見えた。


「そうか……この国の王を狙って……」


スプリングは正義感というよりは、自分が倒せなかった相手にもう一度戦いを挑むという、個人的感情から城に向かって走り出していた。

 城の方角に走り出したスプリングはしばらくして城から何かが飛びたつのをみて足を止める。


「何だ……?」


凄い速度で飛び立っていく何かを見送りながらスプリングは再び城の方角へ向かって走り出した。


『……主殿……どうやら奴らの仕業ではないようだ』


「何?」


『今キングから連絡があった……この町の惨状を引き起こした者と戦闘に入り、撃退に成功……話があるようで直ちに城まで来てくれだそうだ』


ポーンの声が少し暗いことに気付いたスプリングであったが、今はとりあえず城に向かうことを考えた。


「もしかして……城から飛びたったものは……そいつだったのか……」


城に入るための長い橋が目の前に現れ、スプリングは走る速度を上げた。




― ガウルド城 王の間 ―


 ウルディネはピーランを担いだまま、ガウルドの兵に連れられ医務室へと向かい、今王の間にはヒラキ王とアキとブリザラだけであった。

 ガウルド兵は王の間に入ることなく部屋の外で警備をしており完全に王の間には三人しかいなかった。

 王の間に入ると、アキやブリザラ達はその部屋に違和感を抱き、目を泳がせた。今までアキやブリザラ達が見てきたガウルドの部屋とはまったく違う内観をしていたからだ。いや王の間であるのだから、国民が住む部屋と比べるのはおかしいのだが、それを差し引いたとしても、城の外観や国民が住む建物の部屋の内装とは明らかに別系統の作りをしていた。

 しかも部屋に入るなりヒラキ王は靴を脱いで薄い緑色の床をスタスタと歩いて行った。アキやブリザラ達も一応ヒラキ王にならって靴を脱いで、薄い緑色の床に足を付けのだが、部屋の中で靴を脱ぐという習慣がない二人にとってそれは違和感以外のなにものでもなかった。

 

「少し失礼するが、二人ともくつろいでほしい……」


ヒラキ王はそういうと王の間の奥にあった引き戸式の扉を開き部屋へと引っ込んでいった。


「あ、くつろいでほしいって……どうすれば……」


アキは自分の知識の中には無い珍しい部屋を一通り見渡し、どうしたものかと腕を組んだ。それはブリザラ達も同じようでどうすればいいのか戸惑っていた。

 全く知らない異国の部屋に通されたという感覚に、アキもブリザラも立ったまま、落ち着き無くヒラキ王が戻ってくるのを待つしかなかった。


「いやいや待たせたな……」


引き戸式の扉が開くと中から着替えたヒラキ王が姿を現した。


「あ……はい……」


「……」


姿を現したヒラキ王の姿に皆目を丸くする。先程までは特注で作らせたであろう全身防具フルアーマーであった姿が、今は見たことの無い民族衣装を身に纏っていた。ヒラヒラとした部分があり、なんとも動きにくそうな恰好であった。


「ああ……すまない……貴君達には珍しい場所だろう、とりあえず座ってくれ」


そういうとヒラキ王は薄い緑の床に腰を下ろした。


「え、ああ……」


アキはヒラキ王が座ったように薄い緑色の床に腰を下ろす。


「……」


「ハイデリーの王よ、床に腰を下ろすのに抵抗があるかもしれないが、この床は直に座ることのできる床なのだ」


戸惑うブリザラに薄い緑色の床をポンポンと叩きながら座ってみるよう口にするヒラキ王。その言葉に頷いたブリザラはゆっくりと薄い緑色の床に腰を下ろす。


「あっ……いい香り……」


ブリザラが薄い緑色の床に腰を下ろすと、ほのかに香りが漂った。ブリザラの言葉に満面の笑顔を作るヒラキ王。


「おお……分かってくれるか……つい最近、新しい物に変えたのだ、新しいといい香りが漂う」


ヒラキ王はそれから薄い緑色の床のことを話始めた。薄い緑色の床はタタミという床らしく、ヒトクイが統一される遥か昔は、タタミが普通に国民の建物の中にもあった事を語った。

 それと同様にヒラキ王は部屋中に広がる異国感漂う部屋や品々もまた古きヒトクイで使われていたのだと語った。


「百年ぐらい前から、他の大陸の建築などが取り入れるようになって、気付けばこの国は他の国と変わらない町並みに変わり、国の人々もそれに染まって、今ではタタミなどを知っている者の方が少ない……」


少し寂しそうな表情でヒラキ王は廃れたヒトクイの文化を口にした。


「ああ、無駄話をしてしまったな」


「いえ、勉強になりました」


すっかりタタミになれたブリザラは肌触りが気に入ったのかタタミを触りながらヒラキ王の言葉に首を横に振る。


「アキさん……寝ないでください」


ブリザラの横でうつらうつらとしていたアキを小突くブリザラ。


「ん、ああ……話は終わったか?」


アキにとってヒトクイの文化など興味が湧くわけも無く、ヒラキ王の話の前半部分の時点で居眠りをしていた。


「いやいや、退屈な話をしてしまったようで……それでは本題に入ろう」


アキはヒラキ王の言葉に背筋を伸ばした。アキとブリザラはこの王の間に歴史の勉強をしに来たわけでは無い。


「それでは改めて……初めまして、私はこのヒトクイの王、ヒラキ王だ」


ヒラキ王はブリザラとアキに向かって簡単に自己紹介を始めた。ピクリと眉が動くブリザラ。


「あ……わ、私はサイデリー王国の王ブリザラです」


「ああ、俺は……あっ私は……アキ……です」


ブリザラとアキもヒラキ王にならって自己紹介をした。


「二人ともそんなにかしこまらないでくれ」


緊張が見て取れる二人に微笑みながら声をかけるヒラキ王。


「王、伝説の武器の所有者という者が現れました」


部屋の外から伝説の武器の所有者が来たという連絡が、ガウルドの兵からヒラキ王に伝えられる。


 「な、何?」


眉間に皺を寄せるアキ。


「私がキングに連絡を頼んでおきました……」


どうしてあいつがという表情をしていたアキにブリザラはキングを使い連絡を取ったことを伝えた。


「何で……」


と言いかけた所でアキはブリザラが何を考えているのか察したのか口をつぐんだ。


「分かった……こちらに通せ」


「はっ!」


ヒラキ王はアキとブリザラのやり取りを見ながら伝説の武器の所有者を王の間に通すよう、外のガウルドの兵に伝えると、ガウルドの兵は、返事をしてその場を離れていった。


「たく別れたばかりだっていうのに……すぐに合流とは……」


アキは小声でヒラキ王に聞こえないように今からやってくる者の事を口にした。


「伝説の武器の所有者とはお知り合いか?」


聞こえないように小声で口にしたはずの言葉をヒラキ王に聞かれぎょっとするアキ。


「え……あっハイ!」


自分の目の前にいるのが一国の王だということを思いだしたアキは少しだらしなくなっていた姿勢を正す。


「よいよい、楽にしてくれといったのは私だ」


アキの行動に微笑を作りながらヒラキ王は楽な姿勢をとることを進めた。


「あっ……はい……」


気まずそうな顔で足を崩すアキ。アキの痴態を呆れた表情で見ていたブリザラは深くため息を吐いた。


「伝説の武器の所有者を呼んでおいてくれるとは丁度よかった」


ヒラキ王はブリザラが伝説の武器の所有者をこの場に呼んでいたことに感謝を告げた。


「王、伝説の武器の所有者が参りました」


ガウルドの兵の言葉の後に王の間の扉が開く。するとアキとブリザラには見知った顔の男が入ってきた。


「王……?」


くつろいだ姿のアキとブリザラが視界に入り、その先にはこれまたくつろいだ姿のヒラキ王の姿があり、スプリングは飛び跳ねるように驚いていた。

 目の前にいるのがヒラキ王と気付くとスプリングは膝を落とし、ヒラキ王に頭をさげた。


「も、申し訳ありません、あまりにも知り合いが王の前でくつろいでいるので茫然としてしまいました」


自分の仕出かした事が一大事というように焦るスプリング。


「ははは……君もくつろいでくれ、スプリング=イライヤ」


「は、はい……ん? ……あのなぜ俺、あ、いや私の名前を……」


一国の王であるヒラキ王が自分の名前を知っていることに驚くスプリング。


「ああ、それに関しては色々と理由がある。一つは君が戦場で有名な傭兵であったこと……確か『閃光の双牙』だったかな。そしてもう一つは、君が伝説の武器の所有者である事……」


「な、なぜそれを……」


さらに驚くスプリング。


「だが……他にも君には色々と……」


そこで言葉を切るヒラキ王。


「えっ?」


「……すまない……今の話は忘れてくれ……さてでは伝説の武具の所有者が揃った所で、本題といこう」


明らかに何かを誤魔化したヒラキ王の顔は一瞬曇り、話を無理矢理切り替えた。


「え……あ、あの……」


それ以上は聞くなという意思に満ちた表情のヒラキ王の前にスプリングは口をつぐむしかなかった。その場にいた伝説の武具の所有者達は何処か煮え切らない感情を抱いたまま、目の前にいるヒラキ王を見つめた。


「伝説の武具の所有者である君達に集まって貰ったのは……この国の力になって欲しいのだ……先程の謎の襲撃者から……もちろん無償とは言わない、この国での君達の待遇は保証する」


伝説の武具の所有者達を前にヒラキ王が話した内容は、ヒトクイを狙う何者かから国を守って欲しいというものであった。少し目を細めるブリザラ。


「あの、すみません、ここに居るアキさんとスプリングさんには大変意味のあるお話であると思うのですが、サイデリーの王である私にとってはあまり意味の無いお話のように感じるのですが」


ブリザラがヒラキ王の申し出に首を傾げた。スプリングとアキにとってヒトクイ国内で優遇されるということはこれから先一生安泰ということを意味していた。だが、サイデリーの王であるブリザラにはヒトクイでの暮らしが一生保証されると言われてもはまったく旨みの無い話であった。


「ふふふ……以外に強欲だなサイデリーの王」


「い、いえ別にそういう訳じゃ……」


悪戯ぽく笑うヒラキ王にあたふたと自分の言動に動揺するブリザラ。


「ああ、確かにそうだな……ならばヒトクイとサイデリーで有効関係を結ぶというのはどうだろうか……互いに利益になる……悪い話ではないと思うが……」


アキとスプリングが見ている中、急に話が国同士のものとなり戸惑う二人。ブリザラは目をつぶり一呼吸置いた。


「……すみません、それは……私の一存で決めることができません……」


目を見開き真っ直ぐにヒラキ王を見つめるブリザラ。


「ほう……?」


ブリザラはサイデリー王国で自分の事を支えてくれている人々の顔を思い浮かべていた。たしかにヒラキ王の言う両国の友好関係を結ぶというのは、言葉だけ聞けばとても魅力的な話であるとブリザラは思った。だがそれを国の者達に話さず自分一人で決めてしまうのは違うと考えたからだ。それに……。


「……というか、実は私、外交とか国に関してのお仕事をしたことが無いんです」


どこにでもいる少女のように照れ笑いを浮かべるブリザラ。サイデリーの王であるブリザラではあったが、王がしなければならない仕事はまだ周りの大人達に任せており、ブリザラは殆ど王としての仕事をしたことが無い。


「まだ会議に参加するだけで、周りの人の話を聞くだけで一杯一杯です」


「お、おい……お前それを他国の王に言っちゃ駄目だろ」


自分の国の内部事情をペラペラと喋りだしてしまうブリザラ。それを慌てて止めようとするアキ。

 どうにもブリザラは国同士の腹の探り合いなどはむかないなとアキはヒラキ王の前で笑顔を作るブリザラを見て腕を組んだ。


「王、失礼します、大臣が、お話があると」


扉を叩き王の間に入ってくるガウルドの兵。


「なんだ、客人がいるというのに……」


「どうやら至急のお話らしく」


ヒラキ王の前で申し訳なさそうに体を小さくするガウルドの兵。


「はあ……わかった……すまない、少し席を外す」


ため息は吐くとヒラキ王は、立ち上がり小さくなったガウルドの兵の肩を優しく叩いて王の間を後にした。


「はあぁぁぁぁぁ……」


ヒラキ王が王の間から姿を消し、緊張から解放されたスプリングは長いため息を吐いた。


「おい、ブリザラ! 王としての経験は雲泥の差だとしても、お前も王だろ、虚勢でも他国の王と同じ立場だってことを見せとかないとこれから色々付け込まれるぞ!」


ヒラキ王を前にしたブリザラの態度に怒りを現すアキ。


「ええ……だから少しお芝居をさせてもらいました」


「はい?」


「ああ……やっぱり……ブリザラさんの性格からして、ヒラキ王の申し出を聞いたら優遇とかそんな話聞かずに頷くと思ったんだけど、頷かなかったからおかしいなと思っていたんだ」


「へっ?」


目を丸くするアキ。


「はい、本当はこの国の人達を守るためにすぐにでもヒラキ王の申し出を受けたかったのですが、少し気になることがあって……」


「えっ?……あの……どういうこと」


事情がまったく呑み込めないアキはブリザラとスプリングの顔を交互に見つめた。


「私が何も知らない操り人形のような王であるように思い込んでもらうためです、まあ何も出来ない王であることに変わりはないのですが……」


自傷気味に笑顔を二人に向けるブリザラ。


「今このヒトクイに伝説の武具の所有者である私達三人が揃っていますよね」


「あ、ああ……」


状況を理解できていないアキに視線を向けたブリザラは話始めた。


「伝説の武具の所有者の力は強力です、それが一つの国に集結している……これがどういうことだかわかりますか?」


「え……いや……」


顔を横にふるアキ。


「私達の現在の力は国一つを簡単に消滅させられるだけの力があるといっても過言ではありません。それをしって知ってしまった王ならば、その力を自国の戦力に取り込みたいと思ってもおかしくありません」


 伝説の武具とは色々な噂はあれど国を消滅させられるほどの力があるというのは、ガイアスの世界では有名な話である。事実伝説の盾であるキングは現在の自分の所有者であるブリザラやアキやスプリングの力を冷静に分析したうえでそれが可能であると結論づけていた。当然この中にそんなことを考えている者はいないが。

 そんな伝説の武具の所有者達が存在していることを知っているのはヒトクイの王であるヒラキ王と、ブリザラの国サイデリーの者達だけであるが、これが世界に広まれば、自国に伝説の武具の所有者を引き込もうとする国は増えてくるであろう。

 彼らの存在を知ったヒラキ王がどの国よりも先に伝説の武具の所有者を自分の近くに置こうと考えていたとしてもおかしくは無いのだ。

 国と国にある均衡を崩しかねない力を持った伝説の武具の所有者達は自分達の力が厄介なものであることをこの時痛感したのであった。

 

「キング達が言っていた事ってこの事だったんだな……でも……ヒトクイは他国と戦争をしないってサイデリーと同じ理念を持った国じゃなかったか?」


小さな島国ヒトクイは統一されたのち、ヒラキ王は世界に向けて自国が戦争をしないということを宣言している。これは統一されてから数十年守られていることである。


「はい、それは確かです……ただ……」


『……そこは私が話そう」


うまく伝えられないといった表情のブリザラに気付いたキングがブリザラの変わりに話を続ける。


『私が見る限りでは、自国を守る力としてはヒトクイの兵力はありすぎていると思う……兵達の動きも守るというよりは攻める感じであった』


橋の途中で魔法使い達に魔法を放たれたブリザラとキングはその行為に違和感を覚えていた。


「それに……頭が変われば……状況も変わる……」


「……頭? 何の事だ?」


ブリザラの言葉に首を傾げるアキ。


「……私小さい頃にヒラキ王にあったことがあるみたいなんです、戦争をしないと宣言したヒラキ王が、同じ宣言をしているサイデリーに興味を持って、その状況などをみたいということで視察に来と、周囲の者やキングから話は聞いていました」


ブリザラは自体は当時の記憶は無いが、ブリザラの周囲の者達がブリザラにそう言ったことがあったという話をしてくれたことを思いだしながら、サイデリーにやってきたヒラキ王のことを口にした。


『それは私も保証しよう……ヒラキ王はサイデリーにやってきたことがある』


当時宝物庫に保管されていたキングも、ヒラキ王がサイデリーにやってきた当時、宮殿内が騒がしかったことを記憶していた。


「ヒラキ王はこの場で私とアキさんに自己紹介した時、初めましてと自己紹介を始めたんです……」


確かにとアキが頷く。


「当時の私が幼かったとしても、私がサイデリーの王である以上、私に対して初めましてという言葉を使うのはおかしいです……ヒラキ王がサイデリーに行ったことがあるという話をしないのはおかしいと思います……」


ブリザラは先程までこの場にいたヒラキ王に違和感を抱いていた。段々ブリザラが何を言いたいのか理解し始めるアキとスプリング。


「確証はありません、でも……今のヒラキ王を信じるのは少し危険な気がします」


そう締めくくるブリザラ。


「お、お前……本当にブリザラか?」


今までどこかボケっとした所のあったブリザラの言動に、目の前の少女が別人のように思えて仕方がないアキ。


「えっ?……はい」


アキの言動にきょとんとするブリザラ。


「なるほど……確かに怪しいな……それに初めてヒラキ王とはあったけど……あまりにも若い……ヒトクイを統一してから数十年が経過しているのに、ヒラキ王の姿は初老には見えない。


アキの言葉が聞こえないのかスプリングは自分がヒラキ王に抱いていた違和感を口にした。そのスプリングの行動にムッとするアキ。


「ええ、私もそう思います……なので……少し様子をみようと思ったのです」


「それで……あの芝居か……?」


顔を引きつらせるアキ。


「女って怖ぇぇ……」


少し引くようにブリザラをみるアキ。


「あ、いえ、あの……あれはキングの提案で」


『そうだ、小僧! 王は至って純粋だ!』


突然会話に入ってくるキングは、ブリザラは純粋な娘であると声を高らかに宣言した。


「……いや……でも言われてできるか、普通……」


それでもアキは納得することなく顔を引きつらせていた。アキの頭の中にいる猪突猛進で天然であるブリザラの姿が、霧がかっていく。


「もう! 酷いです、まるで私が悪女みたいに!」


プリプリと怒り出すブリザラ。


「まあまあ、二人とも……その話はそれぐらいにして……今話した事が事実だとしたら、これは大問題だ……これからどうするかちゃんと決めよう」


少しだらけた空気を引き締めるスプリングは、この先どうするのかという話を口にする。


「そもそも俺達はビショップという奴の所有者を止めるのが急務だろ、この国を守る云々よりもガイアス自体を守らなければならないんだ、それに俺達が一国に加担すると国同士のバランスが崩れるって言うならヒラキ王の申し出は断るしかないだろ」


アキは自分達の本来の目的を口にする。だがブリザラとスプリングの顔色は暗い。


「そうですが……私達がこの話を断ったら、再びこの国はあの何者か分からない者達に襲撃されます……それは」


 これが本来のブリザラなのだと思うアキ。だが現状自分達に出来ることには限度がある。同時進行するということは不可能なのだ。そのことに苦悩するブリザラの気持ちは痛いほどわかるが、どちらか決めなくてはならない。そしてその答えはすでに決まっているのだ。


「……そういえば二人はその謎の襲撃者と戦闘したんだよな……どんな感じだったの?」


襲撃者のことを知らないスプリングは興味からそのことをアキとブリザラに聞いた。するとブリザラは違う意味で再び暗い顔になった。


「どんな感じ? ……襲撃者は女だったよ……全身真っ白で褐色の肌をした、ブリザラの顔に似た奴だ……」


自分の言葉がどういう意味を持っているのか理解した上でアキはスプリングに襲撃者のことを話した。


「なっ!」


「アキさん!」


アキの言葉に驚くスプリング。ブリザラは無神経だというようにアキを睨んだ。


「どうせ話さなきゃならないことだろ……そのためにキングやお前はここにこいつを呼んだんだろ? ……お前の元連れが、このヒトクイを襲撃したんだ」


はっきりとした口調で真実を突きつけるアキ。


「アキさんっ!」


「そ、そんな……どういうことだ……」


『主殿……どうやらアキ殿が言っていることは真実のようだ……ソフィアがガウルドを襲撃した』


みるみるうちに顔色が悪くなるスプリングは言葉を失いその場で茫然とアキとブリザラを見つめていた。

 小さな島国ヒトクイに突如としておこった騒動は、得体の知れない何かによってより大きなものへと動きだそうとしていた。ガイアスを巻き込む大きなものへと。

 




 ガイアスの世界


 伝説の武具とガイアスの国々の関係


 伝説の武具、特にポーンやクイーンやキングのような伝説の武具は、国からすれば喉から手がでるほど欲する武具である。

 伝説の武具のどれか一つでも持っていれば、国同士のパワーバランスが崩れ圧倒的優位に立てるからだ。

 国々はこぞって伝説の武具の捜索をしているというのはどこの国でも噂になっている。

 スプリング達が伝説の武具を所有しているということが知れ渡れば、各国から使者がスプリング達におくられ交渉が行われるようになるだろう。

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