真面目に合同で章 13 親離れ子離れ
ガイアスの世界
グランとランギューニュの関係
グランは先代の南地区最上級盾士と仲が良く、その弟子であり当時まだ盾士であったランギューニュともよく顔を合わせていた。
盾士でありながら最初からタメ口で最上級盾士であるグランに話しかけてきたランギューニュを物怖じしない奴といたく気に入ったようで、度々俺の弟子にならないかと冗談交じりに言っていたという。その度ランギューニュははっきりと嫌だと断っていたようだ。
グランはランギューニュの秘密に薄々気付いているようだが、ランギューニュが打ち明けてくれるまでそのことについては一切触れないようにしている。
真面目に合同で章 13 親離れ子離れ
剣と魔法渦巻く世界、ガイアス
サイデリーにある氷の宮殿内にある会議室、サイデリーの王であるブリザラに抱えられながら自我を持つ伝説の盾キングは、我々とビショップには深い溝があると語る。その言葉にその場にいた者達の視線は一斉にキングに集まった。
だがその視線はどれも、キング達とビショップに出来た溝が気になっているのではなく、自我を持つ伝説の武具達の過去に対しての興味からくるものであった。
なぜ皆がキング達の過去に興味を持っているのか、それは単純に自我を持つ武具達という存在が珍しいからというのもあるが、それ以上に彼ら自我を持つ伝説の武具達が、古代の遺産であるという所にあった。
現在ガイアスに存在する人間の歴史は、約二千年前後とされている。それ以前の人間達の歴史や文明はまるで隠されているというように二千年より前の痕跡は殆ど残されていないのだ。
唯一二千年より前の痕跡として周知されているのがガイアス各地に存在する遺跡であった。遺跡の内部で存在が確認された古代人形やその残骸も貴重な痕跡である。
しかし学者達が遺跡や古代人形の残骸を調べて分かったことと言えば、遺跡や古代人形が造られたのが二千年以上前の物であるということと、遺跡や古代人形に使われている材質が、現在の技術では加工不可能なものであるということであった。
現在の技術では加工不可能な素材を二千年前の人間達は加工することが出来たという事実は、現在よりも遥かな文明がそこにはあったとう証明になり遺跡や二千年より前の歴史を研究していた学者達に衝撃を与えた。
更にその謎を追及しようと学者達は競争するようにガイアス各地に散らばる遺跡へ調査に向かった。だが遺跡の調査が始まってから二百年、長い年月を費やし解明された事は、遺跡や古代人形が二千年より前に造られた物だけで一切の進展が見られなかったのだ。
サイデリーでもフルードにある遺跡へ数多くの学者達が戦闘職や冒険者達を連れて調査に向かっていたが、他の大陸にある遺跡同様、大きな成果は上がっておらず、その謎に包まれた時代を語ってくれるのではないかとガリデウスを含めたその場の者達はキングの次の言葉に興味津々であったのだ。
『……昔話をする気は無い』
その場にいた者達が、自分が話そうとしている事柄とは全く違う所に興味を抱いていることに気づいたキングは、その期待を裏切るようにはっきりと過去について話す気はないと言い放った。
キングの一言によって謎に包まれた時代の解明への期待に包まれていた会議室が一気に残念な雰囲気になる。
『……期待させてしまい申し訳ありません、その事柄について我々は話す権限を持っていないのです』
残念な雰囲気を察し、自分達にはその事について語る権限が無いと話すクイーン。
『すまない言葉が足らなかった……この場に集まった者達がそういうことをする者達では無いことは分かっているが、理解して欲しい、我々がその事について語れば、やがて我々に使われている技術を復元しようとする者が現れる、そうなれば技術はこの世界が地獄へと変える……』
会議室に集まった者達を信用していない訳では無い。だがそれでも自分達の過去について語ることは出来ないと言葉が足らなかった事を詫びながらキングは説明した。
「……」
キングとクイーンの話を聞き納得するブリザラ達。だがガリデウスは残念そうな表情を浮かべていた。
『さて、それでは話に入る、まず現在の状況だ……我々伝説の武具達は既に全員が目覚めている、だがこれは本来有り得ない状況なのだ』
「ありえない? どうしてだ?」
残念があるガリデウスを横目にキングの言葉に質問をするグラン。
『それは我々の力が大きくガイアスという世界に影響を与えてしまうからだ、強大すぎる力は世界の理すらも変質させる……今は王もそこの小僧も我々の力を十分に扱うことが出来ていない為問題無いが、もし二人が我々の力を完全に扱えるようになれば、国の一つや二つものの数分で消滅させることも可能だ』
「なッ!」
キングの言葉に驚くグラン。だが驚いたのはその場にいた者だけでは無い。謎に包まれた時代について話が聞けないと分かり未だそのショックから立ち直れないでいたガリデウス、春の式典の忙しさで眠そうな目をしていたティディ、キング達の話が終わりしだい、ガリデウスによる説教を受けなければならないと憂鬱になっていたランギューニュ、ブリザラの後ろで静かに話を聞いていた王専属お付であるピーラン、決して会議室の席に腰を下ろそうとはせず立ち続け話を聞いていたアキ、そしてキングを抱えたブリザラも驚きの表情を浮かべる。
ただ一人、少女の体に憑依している水の上位精霊であるウルディネだけが顔色一つ変えずキングの話を聞いていた。
「それは本当ですか!」
謎に包まれた時代の話が聞けないと落ち込んでいたガリデウスはすぐさま立ち直るとキングが口にした衝撃の言葉が本当なのかと聞き返した。
『ああ、本当だ……』
「……何と……今ですら底知れぬ力だというのに……」
キングやクイーンの力を話で聞いていたガリデウスは、キングの言葉に目を丸くしながらそう呟いた。
『国一つ簡単に消滅させることが出来る強大な力同士がぶつかり合えば、この世界は簡単に地獄と化します、そうならない為に我々は互いに目覚める時期をずらしていたのです』
アキが纏う漆黒の全身防具、自我を持つ伝説の防具クイーンがキングの話を補足する。
『だが同時期に目覚めないはずなのにも関わらず、現在ここにいる私とクイーンを含めた四つ全ての武具達が目を覚まし行動している』
「四つ? クイーンに盾野郎……それにビショップ……もう一つあるのか?」
『……伝説の武器と呼ばれその名はポーン、しかし現在行方知れずだ、こちらの呼びかけにも反応しない』
最後の一つが伝説の武器ポーンであるとアキに説明したキングは、続けてポーンと連絡が取れない事を説明する。
「反応しない……?」
『ああ……所有者が死に機能を停止したか、だが可能性としてはポーン自体が破壊されたという方が高い……』
その瞬間、一瞬にしてその場が凍りつく。キングが口にした言葉の意味をその場にいた者達は理解したからだ。
伝説の武器、ましてや自我を持つ伝説の武器を破壊できる存在、それは現在のガイアスでは存在しない。存在するとすれば伝説の武器と同等の力を持つかそれ以上の力を持つ存在。キングの言葉を聞いていた者達の頭の中に思い浮かんだ存在は皆同じであった。
『ビショップ……』
その場にいた者達全員が想像した存在の名を呟くクイーン。
「で、でもまだポーンさんが破壊されたっていうのは、可能性の話でしかないんだよね?」
重い空気をどうにか軽くしようと笑顔を作りながらそうキング達に尋ねるブリザラ。しかしその表情は引きつっており、すでにキングから返ってくる答えを知っているようにも見える。
『ああ……だが……それは限りなく低い可能性だ……』
「……」
はっきりと明言はしなかったものの、それでも伝説の武器が破壊されたという事実を強く印象づけたキングの言葉はブリザラ達から声を奪った。
「そ、それで……そのビショップが次は王を狙ってサイデリーにやってくるというのか?」
重い空気の中、更にその空気を重くする発言をするガリデウス。
『……いえ、正確に言えば……私と……』
『クイーン』
ガリデウスの問に次に皆に隠していた真実を明かそうとするクイーン。しかし先程と同じようにそれを止めに入るキング。
『ガリデウス殿、その通りだ……奴が次に狙うのは私の所有者である王だ、奴がサイデリーにやってくれば大きな被害が確実に出ることになる、そうならない為に一刻も早く王はサイデリーを離れなければならない』
ビショップが狙っているのはキングの所有者であるブリザラであると断言したキングは、サイデリーを守る為、直ちにブリザラはサイデリーから離れなければならないとガリデウスに提案した。
「王がサイデリーを離れる……ま、待ってくださいキング殿、それは……」
何かを言いかけ言葉を止めたガリデウス。ブリザラを守らねばというブリザラを育ててきた親としての感情と、サイデリーを守らなければならないという最上級盾士としての感情、二つの感情がガリデウスの心を揺り動かし表情を複雑な物にさせていた。
「もしそのビショップとやらが王を狙いこの国にやってくるというのならば、それをお守りするのが我々の役目! 王がこのサイデリーから離れる必要は無い」
「王を守れずして最上級盾士は名乗れません」
グランやティディは最上級盾士としてのプライドをかけて、ブリザラを守り抜くとキングに断言する。
「……」
だがランギューニュはその口を開こうとしない。それは既にアキと戦い伝説の武具の力をはっきりと理解していたからだ。
「我々とキング殿達が力を合わせたとして、そのビショップとやらに勝算はありますか?」
視線を落としたガリデウスはキングに勝算はあるかと聞く。
『……最上級盾士達の気持ちは有難いが、今の我々とガリデウス殿たちの力を合わせたとしても勝算は無い……』
「なっ!」
「そんな……」
衝撃を受けるグランとティディ。
『……奴は、ビショップの力は強大だ……奴が本気を出せば……いや本気を出さずともこのサイデリーを一瞬にして蒸発させることも可能……今の我々では全く歯が立たないだろう』
「……」「……」
それ程に強大な力を持っているのかとキングの言葉にグランとティディは言葉を失った。
確かに最上級盾士の力は目を見張るものがあると思うキング。だがそれはあくまで人間対人間の話だ。ビショップという存在の力は次元が違う。
現在消息不明となっている伝説の武器ポーンの力を合わせた伝説の武具三つでビショップに戦いを挑んだとしても今のままのキング達に勝算は無い。それほどまでにビショップと他の伝説の武具達には力の差があるのだ。数百数千の人間の力が加わった所で状況が変わるはずも無い。
ビショップが持つ力とは、いわば伝説の武具の完成系、各方面に特化したキング達の力をさらに強化したような存在、伝説武具の最高傑作なのである。
そしてキングが何より危惧するのはビショップの所有者だ。ビショップが再び世界に解き放たれないようキング達が厳重に封印を施したというのに、それを解除してしまったその人物の実力は計り知れない。きっとビショップの所有者となったその人物は、伝説の武具の所有者としても自力でもブリザラやアキを遥かに凌駕する力を持っているはず、既にビショップの能力を自在に操る事も可能であろうと考えているキングは、けして自分の言葉が過大評価では無いと思う。
『……分かってもらえたか? このままではサイデリーは消滅することになる、だが元凶である我々と王がサイデリーから離れればビショップはサイデリーにはやってこない』
「ですがそれでは王が!」
最上級盾士としての顔が潜みブリザラの父親代わりの顔がはっきりと表に出るガリデウスは、どうしていいのか分からないといった表情で自分の娘のように愛し育ててきたブリザラを見た。
『ガリデウス殿、それについては私に任せてくれないか?』
「任せるだと! キング殿達でもどうにもならない相手なのでしょう! 王が……ブリザラ様が何処とも分からぬ場所で命を落というのであれば、私はサイデリー全てをかけてブリザラ様をま……」
「やめてガリデウス!」
それ以上聞きたくないと耳を塞ぎながら叫ぶブリザラ。
「ガリデウス、それでもあなたは最上級盾士の長ですか!」
脳天に稲妻が走り抜けるガリデウス。ブリザラの言葉は父親代わりとしてのガリデウスの感情を否定する。
「長ならば王の命一つよりサイデリーに住む人々の命を心配してください!」
「……」
ブリザラのその言葉に、親代わりとしての自分と決別し王と最上級盾士としての関係で対峙しようとするブリザラの気持ちを感じるガリデウス。
「……私は明日サイデリーから離れます……ガリデウス、町の人々に事情を説明するのでその場を設けてください」
幼き王として頼りなかったはずのブリザラの表情は、国の危機を前に、一国の王の表情に変わっていた。
「……そ、そんな……」
そんなブリザラの前に、未だ親代わりとしての自分を捨てられないガリデウスは狼狽える。
「……ガリデウスよ、今回ばかりは王の勝ちだ、俺達はサイデリーの人々を守る盾だ、それを放り投げてしまったら、強固な守りを信念としてきたサイデリーに泥を塗ることなる、それは歴代の最上級盾士達の意思をも汚すことになるんじゃないのか?」
茫然とテーブルを見つめるガリデウスの肩を叩くグラン。
「だが!」
それでもとまだ悪足掻きを続けようとするガリデウス。
「それにだ、いい加減子離れをしろ……何時までもブリザラ様はお前の娘では無いのだからな……」
「……」
親離れ子離れ、親と子に当然のようにやってくるもの。しかし気付けばブリザラは自分から離れ一人の人間として大きく成長しようとしていることにガグランの言葉で気付いたガリデウスは、あれやこれやとブリザラに散々五月蠅く言ってきた自分が実はブリザラを手放そうとしていなかったことにも気付いた。
「……何か策があるんだろうキング殿?」
茫然とブリザラを見つめるガリデウスを横目にグランは何もかもうまく行く秘策があるのだろうとキングに聞いた。
『ああ』
短い返事。だがキングの返事には絶対の自信が伺える。グランは納得したように頷くとガリデウスの肩を小突いた。
「だ、そうだ、もう俺達がしゃしゃり出る状況じゃない、ブリザラ様の事はキング殿にまかせようガリデウス」
親離れをしようとするブリザラを前に、親代わりとしての役目は終わったんだよとガリデウスに優しく語り掛けるグラン。
「……き、キング殿……どうか……どうかブリザラ様の事をよろしくお願いします」
親代わりとしての最後の役目を果たすというようにガリデウスはキングに対して頭を下げる。
『ああ、サイデリーの王、ブリザラ=デイルは我命に代えても守り通す』
ガリデウスの想いに答えるようにキングは更に力を込めた言葉でガリデウスに誓うのであった。
「キング殿、その約束破ったら俺達最上級盾士達が容赦しないからな」
『ああ……心に命じておく』
全く曇りの無い笑顔でそう告げたグランの言葉をしっかりと心に刻むキング。
「それじゃ、とりあえずお開きでいいかな? これから忙しくなるからな俺は行くぜ、お前らもボサボサしてないで持ち場にもどれよ」
サイデリーの命運がかかった話が突然、親離れ子離れの話にすり替わり茫然とするティディとランギューニュにそう言ったグランは駆け足で会議室飛び足していく。グランの言葉で我に返ったティディは何かを察したのか横で茫然としているランギューニュの首根っ子を掴む。
「それじゃ私達も仕事に戻ります」
ティディはそう言ってランギューニュを引きずりながら会議室を出ていった。
「……王……ブリザラ様……」
自分の選択が正しかったのか、まだ悩んでいる様子のガリデウスは静かにブリザラの名を呼ぶ。
「……ありがとうガリデウス……私凄く嬉しかった……なり振り構わず私の事を思ってくれて……私にとってガリデウスはお父さんだったよ」
「ブリザラ様……」
鬼やなんだと言われいつもきっちりとした表情のガリデウスの目から一筋の涙が零れる。
「でも……もう私は一人で歩けるよ……ううん、歩かなきゃ駄目なの……だからガリデウス、私はサイデリーの王として……この国を守る為にサイデリーから離れます……」
一瞬普段の表情に戻ったかと思うとすぐにサイデリーの王としての表情に戻したブリザラは、自分が決めた意思をガリデウスに告げる。
「……王よ……どうかご無事で……」
親離れを決意し、サイデリーの王としての決断と覚悟を口にしたブリザラの姿に涙を堪え答えるガリデウス。
「はぁ……私も歳をとりました……」
そう言いながら会議室の天井を仰ぎ目頭を抑えるガリデウス。
「……それでは王、私も仕事に戻ります、王がサイデリーへ離れることの説明は、氷の宮殿テラスで、夜祭の時におこないます、しっかりと準備をしておいてください」
娘の旅立ちに泣く父親のような表情から一変、ブリザラの決意と覚悟に答えるように最上級盾士の表情に戻ったガリデウスは、ブリザラに後の予定を伝えると颯爽と会議室を後にした。
「……ガリデウス……ぐぅうぅぅぅうぅぅ……」
ガリデウスの背を見送ると、ブリザラは力無く床に座り込む。すると感情の糸が切れたように今まで我慢していた想いを吐き出すように泣きじゃくった。そこには箱入りの齢十五の少女の姿があった。
「ブリザラ……」
涙が止まらず震えるブリザラの肩に優しく手を添えるピーラン。
「ピーランさん……私、私……」
「大丈夫だ、立派だったよ」
すがりつくブリザラに優しく声をかけるピーラン。
「大丈夫だ、私もついて行く、絶対にお前を守ってみせるから、何もかも終わったらガリデウスに笑顔で会いに行こう」
ピーランはブリザラの頭を抱くとそう言って背中を優しく叩いた。
「ひぐぅ……あり……がとう……ありがとう……」
ピーランの細い腰に両手を回しその胸の中で更に声を上げて泣くブリザラ。
「アキよ、一人の少女の旅立ちだ、優しい言葉でもかけてやれ」
会議室の少し離れた場所で全て見ていたウルディネは同じく離れて見ていたアキの脇を肘で小突く。何とも居心地の悪そうな表情のアキはそんなウルディネの肘を鬱陶しいというように軽く弾くと泣くブリザラでは無くテーブルに置かれたキングの方へと足を進めた。
「なあ盾野郎、なんでそこのオウサマが旅立つ必要があるんだ?」
話の流れ上、珍しく空気を呼んで黙っていたアキは、キングに疑問をぶつける。ビショップが狙っているのは黒竜。その力を内に秘めるのはアキとクイーンであって、現在のブリザラやキングには関係無い。
「俺がこの国から出ていけば、ひとまずはこの国が狙われることはないのだろう? なのに、わざわざ自分達が標的にされているとか嘘つきやがって」
自分とクイーンの中に存在する黒竜の話をキングがガリデウスにしなかったのは、黒竜が『闇』の力を持つ存在だからというのはアキも理解していた。『闇』の力はそこに存在するだけで人間を恐怖に陥れかねない。最初は余計な気遣いをしやがってと思っていたアキであったが、キングの話を聞く内にただの気遣いでは無い事に気付いていた。
『ふん、あの時点で黒竜の存在が露呈すればややこしいことになるのは分かり切っていたからな……』
「それだけじゃないんだろう?」
上手く話しに乗って来たと思ったアキは、キングに仕掛ける。
『……ふむ、もう一つの理由としては、これから王と行動を共にするにあたってガリデウス殿たちに余計な心配をさせたくなかったという所だ』
「ふーん……はぁ? お前今何て言った?」
一瞬納得しかけたアキはキングの言葉の中に聞き捨てならない言葉があった事に気付き、聞き返した。
『ガリデウス殿たちに……』
「そこじゃない! その前!」
『これから王と行動を共にする……』
「そう、それだ! 誰がこのオウサマと行動を共にするんだ?」
『それはお前だ小僧』
「なぁああああにぃいいいいい!」
意味が分からないというように叫ぶ。
「俺はなこれからムハードに向かうんだ! 泣き虫なうえ甘えん坊なオウサマと一緒に行動する暇なんてないんだよ!」
ブリザラとガリデウスからムハードの調査依頼を受けていたアキは、ブリザラと行動を共にする暇など無いと否定する。
『そうもいかないのですよマスター』
「はぁ?」
苛立ちながらクイーンの言葉に反応するアキ。
『お前が王と行動をする理由は一つ……いや二つある』
「理由だと……それは何だ?」
ブリザラと行動を共にする事に納得していないアキは、キングのその理由を聞いた。
『まず一つ、王と小僧にはある場所に行き、己の力を高めてもらう』
「いや、だから俺はムハードに……」
『それについては問題無い、その目的地もムハードにある』
「なっ! 何と言うご都合主義……本当にムハードにその目的地やらがあるのか?」
あまりにも出来て過ぎたキングの言葉に疑いを持つアキ。
『ああ、ムハードにある……強くなりたいお前にとっては良い話だと思うがな』
「グゥ……」
痛い所を突かれたアキは言葉を飲み込む。
『そしてお前が王と行動を共にしなければならない理由の二つ目……』
『キング』
二つ目の理由を口にしようとしたキングを止めるクイーン。
『それは私に言わせてください』
『……ああ、では任せる』
そう言ってキングは二つ目の理由をクイーンに任せた。
『マスターがブリザラと行動を共にしなければならない二つ目の理由、それは黒竜の力をブリザラが抑え込めるからです』
「?」
言葉の意味が本当に分からないという表情でアキは自分が纏う漆黒の全身防具クイーンを見つめる。
『ランギューニュさんとの戦いで黒竜の力に呑み込まれたマスターを救いだしたのはブリザラなんですよ』
理解できていないアキに丁寧に説明するクイーン。
「……はぁ? 冗談だろ、何でこんなただの小娘オウサマが黒竜の力を抑え込めるんだよ」
強大な力を持つ黒竜。その力を前に抗うことを諦め飲み込まれてしまったアキは、今もまだ泣き続けているブリザラにそんな力があるのかと疑問を抱き、そして苛立ちを覚えた。
『それは……分からない、だが事実お前を助け出したのは王だ』
「いや違う……俺はこいつに助け出されてなんかいない、俺は……」
自分より圧倒的に弱いブリザラに助け出されたという事実を認めたくないアキは、キングの言葉を否定する。
「お前、どれだけブリザラがお前を助けようと必至で呼びかけていたか分からないのか!」
泣き続けるブリザラを母親のように抱きしめながらアキの言動に怒りを剥きだしにするピーラン。
「……ピーランさん、大丈夫です……」
ピーランの胸の中で泣いていたブリザラは、ピーランの胸から顔を離すと静かにそう言った。
「……アキさんを助けたのが私であろうと違う人であろうと、それは問題じゃない、アキさんが助かったという事実だけで私は満足です」
目と鼻を赤くしながら、まだ少し引きつった表情で笑顔をつくるブリザラ。
「はぁ……ここまでくると馬鹿が付くお人よしだなお前は」
ブリザラのぎこちない笑みになぜか怒りが抜けていくアキ。
「ええ、悪い人になるよりは馬鹿がつくお人よしの方がいいです」
ブリザラはそう言うと今度はしっかりとした笑顔をアキに向けた。
「……」
まるで花が咲くように笑うブリザラの笑顔を思わず見つめてしまうアキ。その時、アキの心に今まで感じたことのない感覚が走る。まるで心臓を握りつぶされそうな、だが苦しいだけでは無い感覚。アキはその感覚の正体を知らない。
『兎に角だ小僧、今のお前はいつ破裂してもおかしくない火薬庫のようなものだ、絶対に王の力は必要になる、お前が求める強さ、欲しているのなら私に付いてこい』
「……」
『小僧聞いているのか!』
「……あ、ああ勿論だ、何もかも黒竜頼りってのも、癪だからな……盾野郎の言葉に乗ってやる、それでいいなクイーン、ウルディネ」
なぜ自分がぼーとしていたのか分からないアキはそれを紛らわせるように矢継ぎ早に話を進める。
「ああ、私はそれでかまわない」
『はい、是非もなしです』
アキの言葉に頷くウルディネと同意するクイーン。
『それでは、解散としようか』
「ああ」
キングの言葉に頷くアキ。
ブリザラはピーランに手を引かれ立ち上がるとテーブルに置かれたキングを手に持ちブアキ達に軽く手を振って会議室を後にする。そのブリザラの姿を目で追ってしまうアキ。
『どうしましたマスター?』
「ああ、いや、何でも無い」
無意識にブリザラに視線が向いていた事に気付いたアキはすぐさまその視線を別の方向へと向ける。
「これで難しい話は終わりだな、それじゃクイーンの復帰祝いをしよう、町の出店に向かおうではないか!」
『……ウルディネさん、私食べ物は食べられないんですが……』
ウルディネの復帰祝いと言う割に全くメリットが感じられない不満を口にするウルディネ。
「大丈夫だ、その分私が食べてやる」
屈託のない笑顔でそう言うとウルディネはアキの腕を掴み会議室を出ようと引っ張る。
「お、おい……引っ張るな……」
ウルディネの復帰祝いと言いながら、既にそんな事はどうでも良く出店で売られる食べ物の事で頭がいっぱいになっているウルディネ。
「……はぁ……」
だらしなく食欲に緩んだウルディネの表情に、これからどれだけ食うんだと自分の財布の中身が心配になるアキ。会議室にはアキのため息が響き渡った。
ガイアスの世界
ガリデウスの謎の時代への興味
ガリデウスは趣味として謎の時代について調べている。だがそれはもう趣味とは言えないレベルで学者達が舌を巻く程である。
キングから謎の時代に付いて何か話が聞けるのではないかと期待したはいいが、結局話は聞けずかなり残念だったようだ。




