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真面目で合同で章 11 (アキ&ブリザラ編) 後編 3 戦いの行方 過去の支配者再臨

 ガイアスの世界


人と大精霊の恋愛


 ガイアスの世界に置いて人と大精霊が恋愛するということはまずない。だが無いわけでは無い。

 童話や物語などでもこのての話は沢山あり憧れている者もいたりする。だが実際に恋愛に発展することは中々無く、そもそも精霊自体が希少な存在であり出くわすことが難しい。

 大抵は精霊を召還できる召喚士などが大精霊と恋愛をすることが多いとされているが恋愛対象となる大精霊を使役することは難しい。

 しかも大抵は大精霊が人間を認め恋に落ちない限り人と大精霊による恋愛は成就しないと言われている。

 大精霊と恋愛わ成就させた人間の子孫は大精霊の力を引き継ぐと言われていたりする。

 ちなみに人と大精霊の恋愛が成功した例をあげるならば時を司る大精霊と人の恋愛であり、その子孫は現在『サンタクロース一族』と言われている。


 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 大量の水によって水浸しとなっていたロストゴーレムのいた広間。今は水が引き、アキやブリザラ達の動きに支障が無い程度に落ち着いていた。

 水を司る大精霊ウルディネの放った激流の一撃はアキやブリザラ達を苦しめたロストゴーレム達を水に沈め機能を停止させた。

 アキやブリザラ達は戦いを終えロストゴーレムの広間は静けさを取り戻していた――はずであったのだが、今はロストゴーレムとの戦いとは別の戦いの火蓋が切って落とされていた。しかもその戦いは剣や魔法などは一切使わないダンジョン内では似つかわしくない男女の話――恋や愛などという本当にダンジョンにとって似つかわしくない戦いであった。

 愛や恋の話の中心にされているモテモテな男、伝説の防具クイーンの所有者アキは、周囲にいる自分に惚れた好きだと言う女性――いや、大精霊と未だよく分からない謎の防具に求愛を迫られている状況であった。

アキを好きだと囁く大精霊、ボーイッシュな少女ウルディネと、あなたから片時も離れないと豪語する文字通りアキの体を包み込んでいる伝説の防具クイーンはアキの言葉を固唾を飲んで待っていた。


「あ、あの……この間は……なんだ?」


アキは自分が置かれた状況を理解していない、というより理解したくない様子であった。


「はぁ……何を言っている、我々の求愛の答えを聞いているのだ」


まったく見当違いな言葉がアキから返ってきて深くため息をつくウルディネははっきりと自分とクイーンがアキに好意を持っていることを告げ、その答えを待っているのだとアキの逃げ場を無くした。アキの目は泳ぎに泳いでぐるぐると円を描いていた。


『マスターはっきりとしてください!』


全身防具フルアーマーであるクイーンは目を泳がせるアキにピシャリと言い放つ。クイーンの言葉に猫背になっていたアキの姿勢は正された。というよりも強制的に背筋を伸ばされたアキは苦々しい顔つきになった。


「……」


だがそれでもなお、アキは口を開こうとしない。どちらかを選ぶことを悩んでいるわけではなく、考えることを放棄したようなその目は宙を見ていた。


『何なんだこの光景は……』


蚊帳の外に追いやられていた伝説の盾キングは本来ならば男女の色恋沙汰が入る隙も無いはずのダンジョンでそれが繰り広げられていることに呆れかえっていた。

 キングの所有者でありこの騒ぎの発端であるブリザラは俯いており何時もの天真爛漫とした彼女の姿はそこに無かった。


「王……大丈夫ですか?」


そんなブリザラの姿を心配して行動を起こしたのは、ブリザラの身の回りの世話と護衛を任されているピーランだった。ピーランはブリザラとアキの突然のキスをみて本人達と同じくらいに動揺していたが、今は冷静を取り戻しこの中で一番動揺しているであろうブリザラの側に駆け寄った。


「……」


ブリザラはアキとのキスがショックだったのか、茫然としているようでピーランの声にも一切反応しない。


「……ブリザラ……」


ブリザラのその姿にピーランは思わずブリザラを名で呼んだ。それでもなおブリザラは反応しない。こういった経験が疎いピーランはそれ以上かけられる言葉がなく、オロオロとブリザラの周囲をうろつくことしか出来ないでいた。


『はぁ……ピーランでも駄目か……』


裏ではピーランがブリザラの良き理解者になってくれることを望んでいたキングでは、どうやら失敗に終わってしまったピーランをみて深いため息をついた。


「いい加減はっきりしたらどうだアキ?」


ダンマリを決め込むアキに痺れを切らし始めたウルディネの表情はイラついていた。


『そうです、マスター私の求愛にお答えください』


ウルディネの言葉に便乗するクイーンはさりげなく自分をアピールしながら、硬く口を閉ざしているアキに答えを迫った。

 今までずっと黙っていたアキであったがその表情は徐々にイラつき、そして爆発する。


「なぁああああ!」


頭を掻きむしりながら怒鳴り声を上げるアキは、自分を見ている仲間達を一瞥すると、ウルディネの所で視線を止める。


「好きだ嫌いだなんて今この場で話すことじゃないだろう! そもそも俺には幼女を愛する趣味も無ければ、鎧を愛でる趣味も無い!」


溜まりにたまったストレスを爆発させるアキの言葉はロストゴーレムの広間に響き渡る。


「なんだ、見た目が気に食わんのか?」


少女の姿をしたウルディネはアキの言葉に気負いすることなくそういうと、周囲に水柱を発生させ、その水柱の中に入って行く。


『マスターがお望みならば』


クイーンもまたアキの言葉にいっさい動揺を見せず、何かを始めた。


「は……はあ?」


まったく怯まない二人に逆に動揺し気負ってしまうアキ。だがその動揺は序の口であった。


「ふぅ……こんなものでどうだ?」


「……だ、誰だ?」


さきほどまでいたはずのウルディネの姿はそこに無く変わりに立っていたのは、男ならば誰でも見とれてしまいそうなこの世の者とは思えない美しい容姿を持った女性だった。上半身を水のように滑らかな布が覆い豊満な双丘を辛うじて隠してはいる。だが今にも双丘はこぼれ落ちそうで目のやり場に困るほどであった。

上半身と同じ素材と思われる布が女性の腰から足首にかけてロングスカートのようにして巻かれており、そのロングスカートには長い切れ目が入っていて程よい肉感に引き締まった長い足があらわとなっており、こちらも目のやり場にこまるものであった。


「ふふふ……アキの要望だ……幼女では無い本来の私だ」


そこに居たのはガイアスの世界において滅多にお目にかかることの出来ないと言われる水を司る大精霊、ウルディネ本来の姿であった。


「う、ウルディネ……!?」


今ここにいる面子の中では二番目に付き合いの長いウルディネの本来の姿を初めて見たアキは自分の知らないウルディネの姿に驚き眼鏡の奥の目が見開く。


「マスターそちらばかり見ないでこちらもみてください」


聞き覚えのある言葉が肉声として自分の後ろから発せられていることを感じ、後ろを振り向くアキ。


「えっ……だから誰よ?」


動揺を超えてすでに錯乱しているアキの前にウルディネとは違うタイプの女性が立っていた。ウルディネが静の色香を持った女性とするならば、アキの目の前にいる女性は剛の色香を持った女性であった。


「うふふ……私ですよクイーンです」


ウルディネとはタイプの違う美しさを持つその顔もまたウルディネ同様この世の者とは思えぬ容姿を持ち、ウルディネ以上に露出の高いその姿は殆ど裸といっていい姿であり、形の整った双丘はウルディネ以上の大きさがあった。


『ウルディネ、その姿を晒すな!』


キングの怒鳴り声がクイーンに向けて放たれる。


「ここまで来たのだから、もういいじゃないキング」


人の姿をしたクイーンは腰をくねらせアキにアピールする。全身防具フルアーマーであった頃よりも声の出し方が艶っぽくなっているクイーンはその声に合わせるように、アキに向かって己の豊満な体躯を見せつけた。


「……!」


アキは顔を真っ赤にさせながら目をそらす。その視線の先には少しだけ顔を上げたブリザラの顔があった。お互いの顔を見合い時が止まる。時間にしてみればほんの数秒であるが、二人の間では長い時間が流れたような感覚があった。


「……ちょっと……何見つめ合っているんですかマスター私がいるでしょう」


無理矢理アキの顔を自分の方へと向けるクイーン。


「ちょ……ちょっと待て!」


アキの視線はクイーンの豊満な双丘の谷間に釘づけになっており、顔は赤面していた。だがまだ理性は残っており、どうにかして視線を外そうと努力していた。


「待て待て、ならば私だろ」


クイーンの手からアキの頭を無理矢理奪ったウルディネはアキの頭を自分の胸元に埋めた。


「んぅぶ……ほ、んぐぅ……」


「おうおう、喜んでもらえてなによりだアキ」


ウルディネの双丘の谷間に挟まれ、苦しみもがくアキはなんとか離れようとするのだが、頭を抱え込んでいるウルディネの腕は見た目以上に強く中々はなしてくれない。


「ずるい!」


密着している二人をみてクイーンはアキに抱き付き、己の豊満な双丘をアキの頭頂部に押し当てる。


「ふ、ふが……ふがががががか!」


アキのくぐもった悲鳴がロストゴーレムの広間に響きわたった。


 『お前達いい加減にしろ!』


あまりにもくだらない状況にキングのカミナリが落ちる。一瞬にしてその場を支配したキングの声にクイーンはパッとアキを解き放った。キングのカミナリは蚊帳の外に追いやられていたピーランやブリザラの肩をも震わせた。


「なんだもう終わりか、つまらんの……」


ただ一人ウルディネだけが顔色をかえる事無く少し物足りなさそうに豊満な双丘をアキの後頭部から離した。


『まったくお前達は……我々の目的を忘れるな……』


「がっは……はぁはぁ……そ、そうだ、扉が開いたか俺みてくる」


アキはキングの言葉に助けられたように美女二人から逃れると、今まで閉ざされていた扉に走り出した。アキの背に視線を向けるウルディネとクイーン。


「……逃げられてしまったじゃないか……」


「ええ……キング邪魔しないでください」


自分達の恋の戦いを邪魔したキングを睨みつける二人の形相は美女とは程遠く例えるなら、冷徹な女帝と女王のようであった。


『ふん……お前達の恋時など知ったものか……そこにいる大精霊は知らんが、クイーン……お前は一応私の妻だろうが』


二人の鋭い視線に屈することなくキングが口にした言葉は他の者達を硬直させる。


「え……?」


「はい……?」


「……」


キングとクイーンが夫婦であったことを初めて知ったピーランの表情は茫然としており、ウルディネは首を傾げていた。


「クイーンさんがキングの奥さんなんですか?」


アキがこの場にいないからだろうか、先程まで俯いていたブリザラが顔を上げて人の姿であるクイーンに視線を向けた。その表情は先程の事を忘れたかのように明るくなり好奇心にかられているようであった。


「あ……まあもう何千年も前のことよ……」


ブリザラの表情に少し驚きながらもクイーンはキングとの関係をサラッと流した。


「……そういえば……クイーン、お前アキからこんなに離れて大丈夫なのか」


ウルディネはある事を思いだし疑問をクイーンにぶつける。


「はっ……マスターぁぁぁぁ!」


クイーンは叫び声を上げながらアキの後を追うために走り出した。


「……急に慌ててクイーン殿はどうしたのですか?」


凄い勢いで走り抜けていくクイーンを首を傾げながら見ていたピーランは、ウルディネに慌てて走り出したクイーンの事を聞いた。


「ああ、私も詳しくは知らないのだが、アキはクイーンを手に入れた時に一度死んでいるらしい」


「はい?」


「死んだんだアキは」


「えええええええ!」


ピーランの叫び声がロストゴーレムの広間に響き渡る。衝撃の言葉に自分が疲弊していることも忘れピーランはウルディネの下に駆け寄った。


「ど、どういうことですか?」


「えっ……ああ……」


 『それは私が話そう』


キングはウルディネの言葉に被せるようにそう言うとクイーンとアキの現状の関係を語り出した。


『小僧の心臓は今この時も停止している、現状死んでいると言っていい……その心臓の変わりをしているのがクイーンだ……私と王とは違い小僧からクイーンが離れればアキはすぐさま死体になってしまうだろう』


「えっ……」


キングの言葉を聞き、ブリザラとピーランはアキが向かった扉の方へと視線を向ける。


「あぁ……」


ブリザラ達が居る場所から扉まではそれなりに距離があり遠目でしか分からないが、アキは扉の前で倒れていた。すぐに駆け寄るクイーンの背中によってアキの現状は分からない。


「だ、大丈夫なの?」


思わずブリザラはキングに対して叫んでいた。ピーランやキングは聞いたことの無いブリザラの声色に少し驚きながらも、ブリザラの心の中にある『ソレ』に気付いてしまった。


『はぁ……』


キングはブリザラの表情をみて嘆息した。本人が『ソレ』に気付いているか定かでは無いが、親のようにブリザラを見てきたキングの心の中ではとうとうその時が来たのかとなんともいい合わせられないものが渦巻いていた。それもよりにもよってそれがアキだとは。


『大丈夫だ……クイーンが傍に行けば自然とアキの意識も回復するだろう』


キングの言った通り、クイーンがアキに近づくとすぐにアキは意識を取り戻したのか立ち上がった。その姿にホッと胸をなで下ろしたもつかの間、二人の様子がおかしいことに気付いたブリザラは、一瞬二人から目線を外しピーランの顔に視線を向けた。ピーランは『忍者』という職業上、視覚は常人よりも高くブリザラはその視覚でアキとクイーンが今どうなっているのか聞こうとしたからだ。


「皆逃げてぇぇぇぇ!」


クイーンの声が広間に響き渡り、ブリザラはその叫び声に肩をビクつかせる。ブリザラの視線の先にあったピーランの顔は驚愕に固まっていた。その表情をみて再び視線を二人に戻すブリザラ。


「な、何あの黒い……靄は……」


視線の先には、ブリザラ達が居る場所まではっきりと確認できる禍々しい黒い靄が広がっていた。


『……しまった……『ダークドラゴン』の存在を失念していた……皆直ちにここから離れろ!』


キングの怒鳴り声にすぐに反応したのはピーランであった。ピーランは目の前で起こっている異様な状況を『忍者』としての勘が不味いものだと感じ、キングの怒鳴り声と同時に隣に立っていたブリザラを担いでキングがいる場所へと走り出していた。


「……」


ブリザラは目の前で起こっている事が理解できず黒い靄の中心で立つアキの姿をじっとみつめていた。


「なぜそのこの可能性に気付かなかった……私が離れたら意識を乗っ取られる可能性を!」


クイーンは視界を覆う程の黒い靄の中でアキの姿を探す。


「ふふ……」


黒い靄の中から人の声がする。


「ふふふ……ふふふ……ふはあはははははははははは!」


最初は小さくだが徐々にその声は大きくなり、そして広間に響き渡るほどの笑い声となる。笑い声の主は高笑いを続けそして見合った。自分の目の前にいる女性を。


「お前が俺を閉じ込めていた奴だな……」


目を細めニヤリと口許を吊り上げる男。


「マ、マスター……」


クイーンの目の前にはそのままの姿をしたアキがいた。だがそれはもうアキであった者と言ったほうが正しかった。


「人間の感覚はこんな感じなのか……ああ……お前が俺の性欲に訴えかける極上の雌だってことも理解できるぜ……」


絶対にアキから発せられることの無い言葉がアキであった者の口から発せられ、クイーンの表情は絶望へと変わる。


黒竜ダークドラゴン……っ!」


奥歯を噛みしめるようにクイーンは苦々しくアキであった者の中で矮小に笑みを浮かべる者の名を口にする。


「ひゃははは……ああ……我こそは、世界を黒く染める黒竜ダークドラゴンなり!」


完全にアキの体を乗っ取った黒竜ダークドラゴンは名乗りを上げると黒い靄は一気に霧散した。


「さて……」


黒竜ダークドラゴンは残骸となったロストゴーレムの上にあぐらをかくと、頬に手をつきこれから自分が何をするか考え始めた。


「……あれが……黒竜ダークドラゴン……」


キングを文字通り盾にしながらブリザラとピーランは広間の中心であぐらをかいたアキであった者の様子をうかがっていた。


『ああ……このガイアスを支配していた竜族の生き残りだ』


まだ人が今よりも未熟だった頃、ガイアスを支配していた竜族。その生き残りが姿を現した瞬間であった。


 ガイアスの世界


 ガイアス過去の支配者『竜族』


現在ガイアスで確認されている竜、ドラゴンと言われているものはその殆どが魔物に分類されている。だがそのどれもが元の起源をたどれば『竜族』にいきついていく。

 『竜族』はまだ人が今よりも未熟であった頃ガイアスを支配していた知性を持った生物であった。

 ガイアスを支配していた『竜族』達ではあったが、ある時突然にガイアスの世界から姿を消していった。滅びたのかさえ分からない彼らは、竜やドラゴンに姿を変え姿を現したのだった。

 だがそもそも『竜族』という存在を知る者はガイアスの中では誰一人としていない。

 伝説の武具と言われているキング達以外は。

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