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真面目で合同で章 10 (アキ&ブリザラ編)後編2 女の戦い開戦

 

 ガイアスの世界


絶対防御パーフェクトディフェンス


月石ムーンロックの波長を最大限にまで引き上げさらに硬度を増したキングの防御形態。所有者を球体で包みこみどんな攻撃からも防ぎきる。だがその最中所有者は周囲を確認することが出来ず、キングの状況確認の言葉を待つしかない。

 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 舞い上がった砂煙が広い空間に広がる中、その場所でロストゴーレム達と戦いを繰り広げているアキとブリザラ達。視界が悪い中アキは必至でロストゴーレムから繰り出される攻撃を回避し、ブリザラ達がいるキングが作り出した球体を目指していた。

 ブリザラとピーランは再び始まったロストゴーレム達の攻撃を伝説の盾キングによる完全防御で防いでいた。止まぬ攻撃をキングは防ぎきってはいたが、中々隙が出来ず次の行動に移すことが出来ないでいた。


『王よ、すまない……攻撃は防ぎきれているのだが、攻撃に転じる手段が無い……』


「大丈夫……」


ロストゴーレムによる攻撃の地響きがキングの完全防御の内部で守られていたブリザラとピーランに伝わってくる。


「くそっ……私があそこで力尽きなければ……」


「そんなことは無い……」


俯きかけたピーランの顔を両手で鷲掴みにしたブリザラは、自分の顔にピーランの顔を向けた。


「ピーランは間違っていないっ!」


ブリザラの大きく見開かれた瞳はピーラン自己否定を許さない。一瞬にしてピーランの心を掌握したブリザラはただただ驚いた表情で自分を見つめるピーランから目をそらすと、今は見えない外の状況をみているかのようにキングが作り出した《絶対防御パーフェクトディフェンス》の暗い壁に視線を伸ばした。


「大丈夫……もうすぐその時がくる……」


ブリザラは何かを信じるように絶対防御の壁を見据えた。



「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 キングの作り出した《絶対防御》の球体に向かってアキは駆け抜けていく。球体を攻撃していたロストゴーレムの一体がアキの接近に気付き攻撃対象を球体からアキに切り替え巨大な腕を振り下ろす。それを伝説の防具クイーンの力で加速した速度で回避し、振り下ろされたロストゴーレムの巨大な腕に飛びつくアキ。


【……力が……】


「くぅ……」


アキの頭に黒い声が響き渡る。


「五月蠅い……お前の力など必要ない」


【……本当に? ……】


響く声がアキの顔を曇らせる。


『マスター……黒竜ダークドラゴンの声を遮断してください』


 クイーンの声がアキの耳に響く。だがクイーンの声に相槌が打てないほど、アキには余裕がなかった。迫ってくるロストゴーレムの攻撃、それに加え遮断しようとしても大きくなっていく黒竜ダークドラゴンの精神攻撃にアキの体力は削られていく。


「があぁぁぁぁぁ!」


アキはロンキが作った剣を弓の形へ変形させるとロストゴーレムの顔に向けてゼロ距離で黒い矢を放つ。


≪ゴゴゴゴ……≫


小規模な爆発を起こしその爆風に巻き込まれるアキは、空中で体勢を立て直し他のロストゴーレムに飛び移った。


【……ゆだねれば楽になるぞ……】


「くぅ……」


『マスター!』


ロストゴーレムの肩で着地したアキの視界が急にぼやけ、フラつき膝を落とし落ちそうになった。


 「くぅ……!」


落ちる寸前の所で足や手に力を入れ踏ん張り落ちることから逃れたアキは眉間に皺をよせる。


「クイーン……視力が落ちている……どういうことだ!」


アキの視力は元々悪く、現在はクイーンの力のお蔭で視力がよくなっていた。


『えっ……こちらはちゃんと機能しています』


「くそっ……どういうことだ」


クイーンに出会うまでは、アキは使い古されたメガネを着用していた。

 アキの視力はそのメガネがなければ何もできないほどであり、現在アキの視界は機能していないといってもおかしくなかった。


【そんな視力で目の前の敵を倒せるのか? 我に力を委ねろ……そうすれば】


『まさか……くっ……マスター、黒竜ダークドラゴンの影響でマスターに私の力がうまく供給されていないようです』


呪いのようにまとわりついてくる黒竜ダークドラゴンの精神攻撃はアキとクイーンの間に壁を作っているようでクイーンの力をアキに流さないようせき止めていた。それは即ち、黒竜ダークドラゴンの力が増してきているということであり、アキの心が黒竜ダークドラゴンの力に屈し始めているということでもあった。


『マスター、聞いてはいけません!』


必至にクイーンはアキが黒竜ダークドラゴンの力に囚われぬよう叫ぶ。


【委ねろ我に!】


後一押しと踏んだ黒竜ダークドラゴンは声を荒げアキの頭の中に響かせる。クイーンと黒竜ダークドラゴンの声がアキの頭の中と耳に響き合う。


「うぅぅぅぅるぅぅぅぅぅせぇぇぇぇぇ!」


その叫びが黒竜ダークドラゴンに向けられたものなのか、クイーンも含まれていたのか定かではないがアキの怒りが爆発する。


「俺の頭の中でピーチクパーチク騒ぐんじゃねぇえぇぇぇぇぇ!」


アキは弓の形をしていた己の武器を再び剣の形に戻すとロストゴーレムの脳天にその剣を突きさした。アキの放った剣の鋭さは、ロストゴーレムの脳天がケーキのように抵抗なく突き刺さっていく。ロストゴーレムは悲鳴をあげるように金属が軋む音を響かせると動きを止め爆散した。

 ロストゴーレムの爆散により周囲の砂煙は吹き飛び、粉々になったロストゴーレムの破片が散乱していた。


「はぁはぁはぁ……」


爆散から逃れ地面に着地していたアキは肩で息をしながらぼやけた視界で周囲を見渡す。


「ちぃ……クイーン……俺のメガネを出せっ!」


苛立った口調でアキはクイーンにメガネを出すように指示をだす。すると全身鎧フルアーマーの腕の部分から異物を排出するようにメガネが姿を現した。排出されたメガネをとるとすぐに自分の顔にかけたアキはもう一度周囲を見渡した。


「よしっ……」


ぼやけた視界がクイーンの力ほどではないもののひらけたことを確認したアキは近くにいたロストゴーレムは無視して、未だ《完全防御》を続けているキングに攻撃を繰り出しているロストゴーレム二体の下へと駆けだした。


「キング! 俺が一体倒したらすぐにその場から離れるよう中の二人に指示をだせ!」


アキに立ちはだかるロストゴーレムの股を素早く抜けながらキングに指示をだすアキ。


『分かったっ!』


攻撃を受けながらキングはアキの言葉に同意すると、中の二人にアキの指示を伝えた。


「よし……」


キングや中の二人に指示を出したアキは頷くと自分の仕事を全うするべく《完全防御》を続けるキングのまわりにいるロストゴーレムの一体に足を向け走り出す。


『マスター後ろ!』


股を抜いたロストゴーレムの旋回行動が以外に早く、アキの後方から追ってきていることを伝えるアキ。だが完全にアキは後ろのロストゴーレムを無視して前方のロストゴーレムにターゲットを絞っていた。


「うおおおおおおお!」


アキの咆哮、走りながらアキは弓を構え黒い矢を連射する。矢はキングを攻撃しているロストゴーレムに直撃し、小規模な黒い爆発を起こして体の体勢を崩し怯怯んだ。アキはその瞬間弓を剣に変形させ、跳躍する。

 上空に跳ねたアキに視線を向けるロストゴーレムは状態を崩しながらもアキに向けて拳を振う。


「くうぅぅぅぅ!」


迫ってくるロストゴーレムの拳を剣で滑らすようにいなし、クルリと一回転しながらその勢いを利用して上空で体勢を変えるアキはロストゴーレムに突貫していく。


「おらぁぁぁぁぁぁ!」


小さくなったものの黒竜ダークドラゴンの囁きが未だ頭に響く中、それをかき消そうとするように叫ぶアキはロストゴーレムの腹に激突していった。


『今だ!』


とてつもない重量を持つロストゴーレムの足が宙に浮き、ダンジョン内の壁に激突する中、タイミングを計っていたキングは中で守られていたブリザラとピーランにそういうと、完全防御を時、普段の盾の形に戻った。


「参ります!」


ブリザラとピーランはわずかな時間を使い、目の前のロストゴーレムから逃げるのではなく倒す算段をしていた。キングの中で体力を微量ながら回復させたピーランはブリザラの後ろから飛び上がると自分達を狙っていた最後のロストゴーレムに向けて小さなナイフのような物を三本と飛ばした。


《紅蓮爆破!》


ピーランが投げたナイフは、クナイと呼ばれるナイフのような刃物であり、接近戦で扱う以外に、投てきすることによって飛び道具にすることもできる忍者が最も扱うことの多い忍具であった。

 だがただクナイを投げただけではガイアスの世界の中で一番堅いと言われる月石ムーンロックにダメージを与えられる訳も無く、高い金属音を響かせながら、弾かれるクナイ。

それでもピーランの表情は変わらない。弾かれた瞬間、散った火花を着火元にしてクナイに付けられていた火薬が爆発を起こす。爆発によってロストゴーレムの周囲は爆炎に包まれた。


《紅蓮障壁!》


《紅蓮爆破》によって巻き上がった爆炎は渦を巻いてロストゴーレムの周辺を壁のように包み込む。爆炎の壁は徐々に狭まりロストゴーレムを押し潰していく。


【ゴゴ……】


「ピーランっ!」


ブリザラの叫びに即座に反応したピーランは現在の場所から跳躍し、キングを構えたブリザラの後ろまで飛んだ。


「キング!」


『ああ』


大盾だったその形状をさらに大きくし、後方にいるブリザラとピーランを守る特大盾となるキング。その直後、押し潰されたロストゴーレムは爆発し、爆風がブリザラ達を襲った。


「ブリザラ! ピーラン!」


少し離れた所で吹き飛ばしたロストゴーレムにとどめを刺し終えたアキは、爆発したロストゴーレムに視界を飛ばす。


『マスター大丈夫です、キングが二人を守っているのを確認しました』


「わかった」


言葉では納得しているもののアキは爆発したロストゴーレムのもとへと走り出していた。


「はあはあはあ……」


特大盾となったキングの後ろで荒い息をあげるピーラン。先程使った《霊影隠レイカゲカクシ》と今使った《紅蓮爆破》と《紅蓮障壁》の合わせ技により、ピーランの体力は底をついていた。


「大丈夫ピーラン?」


キングを構えながらブリザラは後ろで膝を落としたピーランに声をかけた。


「は、はい……まだ、行けます」


無理矢理立ち上がるピーラン。目の前の自分の主、いや友達に迷惑はかけられない、かっこ悪い姿は見せられないと無理矢理落ちた膝を上げ立ち上がる。だがブリザラにはピーランが無理をしていることはばれていた。


「後……八体か……」


ブリザラ達のもとにたどり着いたアキはこちらを見つめ迫ってくるロストゴーレムの残り数を口にして絶望感を味わっていた。横で盾を構えるブリザラは気丈に振る舞っているが体力の消耗が表情に現れており、その後方では立っているのがやっとといった様子のピーラン。そして未だ止まない黒竜ダークドラゴンの声が響き渡る自分の状況、後八体を相手にするのは難しかった。今もまた黒竜ダークドラゴンの甘く魅力的な呪いの言葉が頭に響いていた。


「アキさん、メガネ姿もいいですね!」


横で盾を構えていたブリザラが顔をほころばせながらアキのメガネ姿を褒めた。


「あ? ……ああ、ありがとう」


こんな緊急事態に何を言っているんだこのオウサマはと呆れるアキ。だが自分の口許が緩んでいることに気付き目の前の小さな少女の底知れぬ強さに気付くアキは表情を引き締めた。ブリザラの言葉の力は絶大であり、頭に響いていた黒竜ダークドラゴンの言葉が気にならなくなっていたアキの精神は安定していく。


「こんな半人前の奴に負けられないよな!」


戦う者として未だ半人前であるブリザラがあれほどの頑張りをみせているというのに自分だけ勝手に絶望に落ちていたことを反省したアキは、目の前にいる後八体のロストゴーレムを見据え剣を構えた。


「そういえばウルディネさんは何処にいったのかな?」


目の前のロストゴーレム達に集中していたアキやブリザラ達は、後方で援護をしていたはずのウルディネの姿が無いことにこの時初めて気付いた。

 八体のロストゴーレム達は全部がこちらに向かってきており、ウルディネが戦っている気配は一切無い。


「まさか……」


アキは嫌な想像をしてしまった。あの八体のうちのどれかにやられてしまったのではないか、それとも爆発に巻き込まれて――せっかくブリザラのお蔭で意識を前へと向けられたアキの心がまた後ろ向きになろうとした瞬間であった。


「みんなどうにかよけろ!」




ウルディネの声であった。ウルディネの声がするほうにアキ達が視線を向けると天井近くで自分の十倍以上はあるかという最大級の水玉を練り上げているウルディネの姿があった。


「きゃあああ」「うおおおお」「くぅ……」


アバウトなウルディネの指示に意図をすぐに汲んだ伝説の盾であるキングは周囲にいたブリザラ、アキ、ピーランを巻き込み、再び《絶対防御パーフェクトディフェンス》の形になった。


「はあああああ!」


 《絶対防御》を確認したウルディネは大きく膨れ上がった水玉を地面に放り投げた。ゆっくりと地面へと落下していく水玉。ロストゴーレムはその水玉に反応することができずただ落下してくる水玉を茫然と見つめることしかできなかった。

 地面に激突すると同時にはじけ飛ぶ水玉。水玉は大きな波のようにうねり、何もできないロストゴーレム達を飲み込んでいく。地面で《絶対防御》の形をとっていたキングにもその波は襲いかかってくる。


「な、何が外では起こっているのだ」


ピーランは暗く殆ど何も見えない《絶対防御》の中で、激しい水の音だけが聞こえいる状況に外で何が起こっているのか気になっていた。

 水流は巨大な体躯を持つロストゴーレムでさえも流していってしまう。月石ムーンロックでできた壁に激突していくロストゴーレム達。しばらく抵抗を続けたものの、水圧と互いにぶつかりあうことによって、すぐに動きを停止していった。動きを止めたロストゴーレム達を確認すると、水玉の発動を止め、ゆっくりと《絶対防御》で球体になっているキングの上に着地するウルディネ。しだいに水流の威力は弱まり、数分もしないうちにロストゴーレム達のいた広場から水は引いていった。


「もういいぞ」


ウルディネは周囲に動くものが無いことを確認すると《絶対防御》で球体になっていたキングから飛び降りた。それとほぼ同時に《絶対防御》を解くキング。

 《絶対防御》が解かれアキやブリザラの姿があらわになると、他の者達の視線は二人の姿に釘づけとなった。


「……」


「……」


その状況に誰もが思考停止したような表情を浮かべており、特にアキとブリザラの頭の中は真っ白になっていた。

 アキがブリザラを押し倒す形で、お互いの唇が触れていたのである。


「あらま……大胆」


すぐに思考停止から復活したウルディネは、その状況を面白がってかなんとも意地悪な笑みを浮かべる。


「な、こんな時に何をしている! は、破廉恥だ!」


こういう事に耐性が無いのか、顔を真っ赤に染めたピーランは手で顔を覆う。だが指の隙間からチラチラとアキとブリザラの状態を何度も確認していた。


『ちょ……ちょっと何をやっているんですか……は、離れなさい!』


アキの体を覆っている伝説の防具クイーンは、本来漆黒であるその肌を真っ赤にそめ苛立ちを現していた。

 皆の騒がしい声に我に返ったアキとブリザラは飛び跳ねるように離れ、両人ともに顔を真っ赤にさせる。アキはよく分からない汗を顔からダラダラとだしながら焦点の合わない目を関係ない方向に向けていき落ち着きが無い。

 アキとは逆にブリザラは静かに俯き前髪で表情は確認できないが前髪から覗く頬は真っ赤に染まっており自分とアキの間で何があったかは理解しているようであり、手で唇に触れていた。


『こ……小僧…… 覚悟は出来ているのだろうな……』


周囲の騒めきとは声色が違うキングの言葉が周囲に静に放たれる。キングの低音に響く声は震えており、周囲に地鳴りが起こるのではないかというぐらいに緊張感が走る。キングの声に視線が定まらなかったアキの視線はビクリと反応し、ブリザラの手から離れているというのに自立しているキングの姿に視線が釘付けとなった。


「え……あ、いや……これは……」


キングの様子が明らかに違うことを感じたアキは、自分が不可抗力であったことを訴えようと口を開く。


『黙れ!』


キングの低音から放たれた声にウルディネ以外の者達は肩をビクリと跳ね上げる。まったく関係ないピーランまでが、叱られているよう表情になっていた。それほどまでにキングの一声は恐ろしいものであった。


『……どんな理由があろうと王の唇を奪ったことには変わりないな……小僧?』


低音に響くキングの声は穏やかであった。その穏やかさが逆にキングに漂う不穏な雰囲気を増長させているようであった。


「ふふふ……まるで父親のようだな……」


周囲に聞こえぬようにそう口にしたウルディネは何か思いついたのか再び意地悪そうに笑みを浮かべる。


『王も王です、もう少し危機感というものを持って――』


「そのぐらいにしておいたらどうだ」


キングのお説教がアキからブリザラに飛び火し始めた瞬間、それを待っていたようにウルディネは口を開いた。


『ん?』


キングの言葉が止まり、アキやブリザラ達の視線はウルディネに集中する。その視線に満足したようにうなずくウルディネは、アキではなくアキが来ているクイーン、そしてブリザラを視線に捉える。


「女の戦いの火蓋は切って落とされた……私はアキ、お前の事を好いているぞ」


「……?」


目の前の大精霊の言葉を理解できないアキやブリザラ達の時が止まったように硬直する。それは大精霊が人間に求愛したという事実であった。大精霊と人間が恋愛をするということはガイアスの世界に置いて稀であり、その恋愛が成就すればガイアス中の者達が驚く話題であった。

 だが彼ら彼女らの中で今はそんな話題はどうでもよかった。


『なるほど……宣戦布告というわけですか……』


硬直しているアキを尻目にクイーンが口を開いた。


「……イヤイヤ……状況はどうあれ、宣戦布告をしたのは私じゃない……そこの王様だよ……」


ウルディネは未だに状況が呑み込めていないブリザラを指差した。


「えっ?」


突如として話題の中心となったブリザラは小さく声を漏らす。


「あんなものを見せられちゃ乙女心に火が付くというものだ……なあクイーン?」


ニャけた表情でアキでは無くクイーンに視線を切り替えるウルディネ。


『なるほど……精霊に乙女心があるのかは疑問ですがその話は理解しました……その宣戦布告乗りましょう』


「何を言う……この体は立派な乙女だよ」


己の胸に手を当てて自分が乙女だということを、自信を持って言い放つウルディネ。


『ふふふ……ならば私も乙女です』


クイーンが乙女なのかはさておき、ウルディネが突如放った爆弾といってもいいその言葉はそこにいた者達を混乱の渦に迷い込ませた。


『今はそんな戯言をいっている場合じゃ――』


「外野は黙ってろ!」『外野は黙ってください』


 

二人の乙女の言葉がキングの言葉をかき消す。キングは二人の言葉に気圧されたかのように口にしようとしていた言葉を引っ込めた。

 蚊帳の外に追いやられたピーランはブリザラとアキの顔を右往左往しながら見つめることしかできないでいた。


「お前も参加するかピーラン?」


悪戯な笑みを浮かべながらピーランもこの戦いに参加する意思があるのか聞くウルディネ。


「へ? ……あ、いや……私は……」


再びブリザラとアキに向けた視線を右往左往させるピーラン。


「さあ、アキ……どうするのだ?」


ピーランの混乱を見たウルディネはピーランを無視して話を進めた。

 突如ウルディネに選択を突きつけられるアキは、動揺がただ漏れの表情でブリザラをみた。ブリザラは俯いたままアキと目線を合わせようとしない。


「私かクイーンか……それともそこの王様か……」


「どっちだ!」『どっち!』



難易度SSの真光のダンジョンの第一層の中心で、一人の男をめぐる女の戦いが始まった。まともな女性はブリザラ以外いないのだが……。


 どうも山田です。


 特別で章でも一応ご挨拶はしたのですが、今回が今年最後の掲載なので、再度ご挨拶を。

 今年一年、伝説の武器が装備できませんを読み続けていただいてありがとうございます。すでにタイトルと主人公達の辻褄が合わなくなり、その他誤字脱字、物語の辻褄が合わないとうとう思われていることもあると思いますが、生暖かくこれからも彼らとガイアスの世界を見守っていただければと思います。

 それでは短くはありますが、挨拶はこの辺で。皆さま良いお年を!


※多分2016年1月2日土曜日の更新は無いと思います。

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