表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
397/513

真面目で合同で章 9 (アキ&ブリザラ編) 後編 1

 ガイアスの世界


滅びていった種族達


 ガイアスには多種多様な種族がいたとされている。だがその殆どがある時期を境に滅びの道を歩むことになっていった。

 人間文化の発展がその要因の一つとも言われているが、実際の所は分かっていない。

 

剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス


ダンジョンの高い天井にまで砂煙が舞い上がり、周囲一帯の視界がぼやけその場にいた者達がお互いを視認できない状態であった。そんな砂煙が視界が奪われている中で、大きな黒い影が何体もひしめきあっているのだけは、その場にいた者達全員が理解出来ていた。自分達よりも二倍、三倍の大きさがあるソレは、目を赤く不気味に光らせていた。


『王よ……本当に無茶をする』


砂煙が舞い上がる中、ロストゴーレム達のど真ん中に立っていたブリザラとピーランを包み込む瑠璃色をした金属の球体。ロストゴーレムの拳からは激しい攻撃が繰り返される。だが瑠璃色の金属の球体はその激しい攻撃をすべて防ぎきっていた。

 球体の中ではぎゅうぎゅうに詰め込まれたブリザラとピーランが荒い息を上げながらロストゴーレムの攻撃が止むのを待っていた。

 後先考えずロストゴーレムがひしめくど真ん中にピーランを助けるために突っこんでいったブリザラを叱るわけではなく半ば諦めたような声で話しかける低く響く声。

 瑠璃色の球体の正体は伝説の武具の一つ、伝説の盾キングであった。キングは自分の所有者であるブリザラと、ロストゴーレムから攻撃を受けそうになっていたピーランを守るため、《絶対防御パーフェクトディフェンス》の形をとっていた。その効果は絶大で、ブリザラもピーランも傷一つ負うことなく、キングの作った球体の中は、狭かったがそれ以外は快適であった。

 真っ暗である球体の中、目が慣れたのかうっすらとブリザラとピーランはお互いの表情を確認することができた。


「大丈夫ピーラン?」


心配が顔に現れているブリザラを見てピーランの眉間に皺がより、眉が吊り上がった。


「王……何度言ったらわかるのですか、自分の命を大切にしてください!」


キングが諦めた言葉をピーランは諦めることなく口にする。自分の命がどれだけ大切なのか理解できていないのかとピーランはブリザラが無茶をするたびに眉間に皺を寄せていた。ピーランの叫びは完全防音である球体の外には漏れず、球体内部にだけ響き渡った。ピーランの怒鳴り声に思わず耳を塞ぐブリザラ。ピーランの真剣な表情に気後れするブリザラは眉毛をへの字に曲げて、今にも泣き出しそうな表情であった。


「あっ……」


その表情は反則だと思うピーランは強く言いすぎたと困った表情になった。


「……そ、その……でも助けてくれてありがとう……ブリザラ」


うっすらとしか分からない表情ではあったが、ピーランの頬は赤く染まっていおり、かき消えるような声で自分を助けてくれたブリザラに感謝の言葉を告げた。

 ブリザラとピーランの関係は一国の王とその王の身の世話と護衛をする者という立場であった。だがそれ以上に彼女達の関係は、王と王の身の世話をする者以上に地位も立場も関係の無い、友達という仲であった。

 ピーランの言葉に花が咲いたように華やかになるブリザラの眉毛はへの字から柔らかい山なりへと変わる。


「ピーラン!」


嬉しさがブリザラの声を跳ね上げピーランに抱き付いた。


『王……ピーランと仲良くすることはまったくもって異論ないが、時と場を考えてくれないか、今は戦闘中だ』


キングの声が球体の中で響いた後、すぐに一時止んでいたロストゴーレムの攻撃が再開されたのか縦揺れの衝撃がブリザラとピーランを襲う。


「キング殿、今外はどんな状況ですか?」


キングが作った球体に窓が付いているわけでもなく、キングに包まれているピーランとブリザラには外の状況を確認する術は無かった。


『現在三体のロストゴーレムが我々を攻撃している、その他のロストゴーレムは全部小僧とウルディネが相手をしている状況だ』


キングは的確に現在自分達が置かれている状況を告げる。キングの声色を他所にそれは危機的状況を告げていた。


 未だ晴れない砂煙に苦戦しながらもロストゴーレム達から繰り出される凄まじい威力の拳を何度も避けていくアキ。ロストゴーレムの拳が砂煙を切りさくと少しの間両者の姿が見える、アキは目の前のロストゴーレムの姿を確認すると、姿勢を低くし足に力をためその場から跳躍し、ロストゴーレムに飛びつく。頭にとりついたアキは振り落とされないよう必死にしがみついた。

 ロストゴーレムは自分の頭に手を回せないのか、両腕をバタバタさせ、飛びついたアキを振りほどこうとする。


「おとなしくしろっ!」


隙を突いて、ロンキの作った月石ムーンロック製の弓の形を変化させ剣形態にするとアキはそれを力いっぱい振り下ろした。振り下ろした剣はアキの力に共鳴するように黒い闘気を放ちながらロストゴーレムの頭頂部に突き刺さる。


「なぁ……!」


装甲が月石ムーンロックで出来ているロストゴーレムに剣が突き刺さったことにアキ自身が驚いていた。手にした時から凄い物だと思っていたが、その攻撃力は天上知らずの如く跳ね上がっているように感じるアキ。


「はぁああああああああ!」


そのままアキは剣の威力に任せてロストゴーレムを一刀両断にした。真っ二つになったロストゴーレムの足元に着地するとアキはすぐに後ろを振り返った。左右が切り離されたロストゴーレムの間からみえる瑠璃色の球体。そこにブリザラとピーランがいることを直ぐに理解したアキは、心の中で二人が無事であることに安堵すると視線をすぐに次のロストゴーレムに向けた。


「ロンキ、本当に感謝してる、あんたも無事でいてくれよ!」


 アキが持つ月石ムーンロックで作られた武器を作り上げた鍛冶師ロンキ。現在ダンジョン内で行方知れずとなっていたロンキの無事を祈りながらアキは、瑠璃色の球体を目指し走り出したのであった。




 ― 光のダンジョン 現在地不明 ―


 大型ロストゴーレムによる攻撃によって吹き飛ばされたロンキは、魔物の存在に怯えながら見覚えの無い道を歩いていた。しばらく歩いたロンキは少し冷静になり気付いたことがあった。自分を襲ったロストゴーレムによる衝撃波は、今自分が歩いている通路までとどいていた事だ。その影響か自分と同じくロストゴーレムによる衝撃波で吹き飛ばされてきたであろう魔物の死骸が転がっていた。ロストゴーレムの衝撃波の凄まじい威力を痛感するロンキ。


「ん……どういうことにゃ?」


 ロンキは首を傾げた。衝撃波で吹き飛ばされてきたであろう魔物の死骸の中には、直接の死因がロストゴーレムの衝撃波と違う物が幾つもあったからだ。周囲を見渡すロンキは、そこで激しい戦闘が行われていたことに気付いた。それもまだ新しい。真新しい戦闘の痕と魔物の死骸を見ながらアキやブリザラ達よりもこのダンジョンを先行している者がいるのではないかとその戦闘痕や魔物の死骸を見ながら想像するロンキ。

 魔物の死骸にはアキやブリザラ達ではつけることの出来ない、打撃による痕が残っていたからだ。ロンキはすぐさま周囲を見渡しダンジョンを先行している者の気配を捉えようとしたのだが、やはり何一つ気配を感じることは無かった。


「……もう何がなんだかわからないにゃ……」


 アキやブリザラ達とはぐれたこと、気付けばダンジョンで迷子になっていること、そして謎の戦闘の痕、自分の許容範囲を逸脱した現状に再び混乱するロンキは猫型の獣人特有のピンとした耳を触りながら困り果てていた。

 だが今のロンキに選択肢は無い。とにかく前に進み、先を目指すしかなかったのだ。混乱と恐怖、おおよそ正常では無い心の動きをどうにか抑えこみ律して、ロンキは前へと進んでいく。しばらく歩いていると何かを感じ取ったのか、ロンキは足を止め周囲を見渡した。

 幾度となく繰り広げられたであろう戦いの痕を視線で追いながら進んでいたロンキの目の前に、拳闘士が装備するナックルが落ちていた。すぐさまロンキは道すがら見てきた戦闘の痕を作ってきたその者の武器であると気付く。それはロンキが一流の鍛冶師だったからなのかもしれない。ロンキが鍛冶師ではなくただの冒険者ならば視線に捉えてもそれはただのその場の風景と流していたに違いない。その落ちていたナックルを見てロンキはピタリと動きを止めた。


「これは……」


自分の中にあった不安や恐怖が何処かに仕舞われたかのようにロンキの目の色は、鍛冶師としてのソレに変わっていた。ナックルが落ちていた場所までかけよりすぐに手にとるロンキは、大きな両目でナックルを見始める。そこになぜ落ちていたのかなどいっさい気にすることなく、ロンキは何かに憑りつかれたかのように、それこそ舐め回すほどに一心不乱に手にしたナックルを見つめる。   

 一通り見終えるとロンキは恍惚とした表情で頬を赤く染めながら深いため息をついた。


「……これは……あの青年が持っていた物だにゃ……」


落ちていたナックルに見覚えがあったロンキは、その持ち主である拳闘士の青年の顔を思い出していた。察するにあまりレベルは高くなかった拳闘士の青年。はっきり言ってその青年が装備するには不釣り合いなナックルだという印象がロンキにはあった。しかもその拳闘士の青年が持っていたナックルは一流鍛冶師と呼ばれるロンキを持ってしても解析が出来ない武器であった。使われている素材も、使われている術も。そもそもなぜ喋っていたのかも。

 その武器は言葉を喋ったのである。後にアキが持つ防具クイーンや、ブリザラが持つ盾キングが言葉を喋り意思を持っていることを知り、あの拳闘士の青年と同じ種類の物であると理解したロンキは、自分でも解析できない代物を調べるために、無理を承知でアキやブリザラの後について真光のダンジョンに足を踏み入れたのだ。そこでクイーンやキングがガイアスの世界では希少な月石ムーンロックで出来ていることは分かったが、やはり、それでもロンキにとっては謎な代物であった。


「そうか……彼も……」


ロンキはアキやブリザラ達の目的を思い出していた。この真光のダンジョンで己を鍛え上げる。確かそんなような事を言っていた。ならばこのナックルの所有者である拳闘士の青年も同じ目的であったのだろうと、ロンキは手に持ったナックルを見つめながら、考えに吹ける。


「あの拳闘士もここで修行を……だが気配を感じないということは死んでしまったのかにゃ……」


 俯くロンキ。名前も知らない一度しか会ったことの無い拳闘士の死を悲しんでいるのかと思いきや、俯いたロンキの顔から悪い笑い声が漏れる。


「……これは棚からマタタビだにゃ……」


悪い笑みを浮かべるロンキは再び手に取ったナックルを見つめる。


「ナックルさんにゃ、所有者が死んでしまってお悔やみ申し上げるにゃ……ただこれからは私が所有者にゃ……調べに調べ尽くしてやるからにゃ」


 ロンキの言葉にうんともすんとも言葉を発しないナックル。だがそれでもロンキの顔を自分の欲望の色を隠すことなく笑っている。

 美しく光るナックル。月石ムーンロックで出来たナックルは芸術作品としてだけでも一生遊んで暮らせる額が入ってくる程だ。だがそんなナックルをみてロンキの大きな瞳が細くなった。


「……ん~たしかに素晴らしい物ではあるがにゃ……これは不完全……いや少し破損しているにゃ」


別段ナックルに傷があったり欠けていたりする部分は見当たらない。だが一流鍛冶師としての眼力が、今手に持っているナックルが不完全であると告げている。


「ん~直したいにゃ……うううううう、うん直すにゃ……!」


鍛冶師としての性か、喜びに似たうめき声とともにロンキは自分が持っていたバックから携帯式竈や、ウルディネから分けてもらった水、鍛冶で使う道具などを引っ張りだすとダンジョンの通路ど真ん中でナックルの修復作業へと没頭していく。この時ロンキにはすでに周りに対する恐怖は一切なく、自分の欲望に忠実になっていた。



 ― フルード大陸 サイデリー王国領土 ブルダン ―



 雲一つない空から太陽が落ち、月が顔を出し始めた頃、ブルダンの町には賑わいがやってくる。煌びやかな光がブルダンを包み込み、春を迎えたとはいえ夜はまだまだ寒い極寒の地であることを忘れさせるほどであった。

 ほんの十年ほど前までは、町ではなく村であったブルダンは、あることをきっかけに今ではフルード大陸一の繁華街と言われるまでに成長していた。

 ブルダンがフルード大陸一の繁華街になったあることとは、二人の冒険者の村への来訪であった。一人は体格のいい男、そしてもう一人は少年であった。その二人が村に滞在することで、当時ブルダンが悩まされていた魔物や野党の問題を解消していったからであった。

 二人の冒険者の一人が村を去る時にサイデリー王国の王に話をつけて、常時サイデリーの兵が村を守る約束を取り付けたことも大きく、それ以降ブルダンは平和な村へと変わっていった。

 だがそれだけがブルダンがここまで成長した理由では無い。ブルダンが町にまで成長したもう一つの理由は町の女性達にあった。ブルダンは元々女性の多い村であり、数少ない男達も、当時異常気象が多発していたフルード大陸で作物を作ることが出来なかった村を守るために他所の町へと出稼ぎに出ていた。

 寂れていた村は閉鎖的であり、村を訪れる者もいなく、村自体の存在も知られていたかどうか怪しいものであった。だが村が平和になったことにより、周囲にブルダンという村の存在が知れ渡った。そしてある一つの噂が広がったのである。


 ―ブルダンには美人が多い―


その噂はすぐさまフルード大陸に広がり、男達の心に火をつけた。それ以降ブルダンは、金を落としていく男達によって成長していったのであった。

 美人が集う町、現在ブルダンはそう呼ばれ男達の欲望を利用する町となっていたのである。

 男の性を逆なでるような恰好をした女性達が夜になったブルダンを闊歩する。そんなブルダンの女性達を鼻の下を伸ばし見つめる男達。右を見ても左を見ても美女ばかりであるブルダンは、男達にとってはある意味天国と言っていい場所であった。

 そんな煌びやかなブルダンの町の中心に、周りの建物に比べると地味ではあるが大きく存在感のある建物の中で、町の長老である美しい女性と特大剣を背負った男の姿があった。


「……」


 長老というには若く見えるその者の年齢は初老を遥かに超えており、人間離れした美しさは誰もが見つめてしまうほどの美しさであった。だがその長老を目の前にして、特大剣を背負った男の表情は一切緩むことなくその視線は美しいものを眺める目ではなく、何かを求めている目であった。

 長老は、かぶっていた帽子を取った。すると金髪が腰まで流れ、女性の長い耳がピンと跳ね上がる。


「……エルフ……」


男はそういうと背負っていた特大剣を背中から引き抜き長老である女性に向けた。


夜歩者ナイトウォーカーのことは知りませんよ……聖狼セイントウルフ


二人は互いの秘密を交換するように口にした。

 エルフと呼ばれたブルダンの長老であるイングニス=テイラーと聖狼セイントウルフと呼ばれたガイルズ=ハイデイヒは対峙する。一切表情を変えないガイルズに対して、イングニスはにこやかにガイルズに笑みをおくった。

 


 ガイアスの世界


ブルダンの長老


 美女が多いブルダンの中で一番の美貌を持つと言われている長老イングニス=テイラー。彼女には謎が多く、不明な点が多い。

 その一つが彼女の若さである。ブルダンがまだ村であった頃から現在に至るまで彼女の顔には皺一つ現れず一切老けていないのであった。

 彼女の正体は軽く千年以上生きると言われ、ガイアスの世界に魔法という概念を産み落とした種族であるエルフであった。そのピンと尖った耳と、異常とも思える美しさから、森を守る美女達と言われていたりする。

 現在のガイアスではすでに滅んだと言われているエルフ。彼女はそのエルフの生き残りであった。ブルダンに住まう女性達はすべての者が彼女の血筋であるハーフエルフである。ハーフエルフとは、エルフと人間の間に生まれた子供のことであり、イングニスは人間の男性と子を成していた。だがすでにイングニスの血も薄まりブルダンの女性達のほとんどは人間に近いハーフエルフであり、寿命も魔法に対しての才能もほとんど人間と変わらぬものとなっていた。

 これはブルダンでも年配の者しか知らない事であり、若い者達は自分がハーフエルフであることを知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ