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真面目で合同で章 8 (アキ&ブリザラ編) 中編6

 

 ガイアスの世界


ダンジョンにある罠


 ダンジョンを進んでいる者に進行を阻むトラップがある。ダンジョンの難易度によって、その種類は様々ではあるが基本的にどのトラップも命を削る、もしくは殺すほどの威力を誇っている。

 ダンジョンに入っていった者の死因の約半分はこのトラップによるもの

だとも言われており、ダンジョンに入って行く者は魔物のに注意しながらトラップにも注意しなければならないというわけだ。

 その点で自称油断しない男スプリングはトラップに引っかかったことがないという自慢を持っていたりするとかしないとか。


剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス



普段滅多に風などふかないダンジョン内では珍しく大量の砂が舞い上がっていた。その砂は薄暗ダンジョンの視界を更に悪くしていた。 


 「……ペッペッ……口に砂が入ったにゃ」


大型ロストゴーレムの拳による衝撃波は砂を舞い上げアキやブリザラ達を吹き飛ばしたが、その中でもロンキは不意を突かれた形になり自分が思っていた以上に吹き飛ばされていた。ロンキは視界の悪いダンジョンの周囲を見渡すが、アキやブリザラ達の姿や気配を感じ取れないことに顔は青くなった。


 「は、……はぐれてしまったのかにゃ……」


ダンジョン内で仲間や同行者とはぐれるということは、そのダンジョンが一人で走破できるほどの簡単なダンジョンでない限り、死に直結してくると言われている。何度もダンジョンに出入りしたことのあるロンキもそれは肝に銘じており、戦闘に巻き込まれない程度に距離をとりつつ、はぐれないよう細心の注意を払っていた。だが大型ロストゴーレムの攻撃は、距離を見極めて離れていたはずのロンキにまで届きアキ達とはぐれてしまうぐらいに吹き飛ばしていた。


「ど、どうするにゃ……、このままだと……」


そこで口を止めるロンキ。その言葉の続きを口にしたら、もうその運命が確定しまうのではないかと、不安にかられる。砂が舞っているダンジョンは不気味なほどに静であった。


「……と、とりあえず皆を探すにゃ」


幸いにもロンキには気配を感じ取るスキルが備わっている。そのスキルは人の何十倍もの範囲を察知することができ、ロンキが今置かれた状況を打破するには打ってつけのスキルであった。精神を集中させ、わずかな気配すらも救い上げようと自分が感じ取れるダンジョン内の気配を隅々まで拾い上げるロンキ。


「ムムム……一体私はどれだけ吹き飛ばされたにゃ……まったく周囲に皆の気配を感じないにゃ」


だがロンキはそれでもアキ達の気配を感じとれないでいた。それ以前にロンキはそのダンジョンの道にまったくの見覚えが無かった。ロストゴーレムの攻撃を受けて後方に飛ばされたはずのロンキは今まで歩いてきた場所に落下したはずだ。だがその場所はどう見てもロンキ達が歩いてきた道筋とは違っていた。


「もしかすると……通っていない道に飛ばされたのかにゃ?」


ダンジョンに入ってからしばらくして二股の道がありそこをロンキ達は右側の道に進んでいった。もしかすると左側に通じる隠し通路がありそこに吹き飛ばされてきたのではないかとロンキは考えていた。だがすぐにそれはありえないと考え付いた。なぜならばロンキ自身の気配を感じるスキルが周辺に魔物がいないことを証明していたからだ。


「だとしても……アキやブリザラ達の気配を感じ取れないのはおかしいにゃ……」


ロンキはアキやブリザラ達の気配を感じ取れないことに違和感を感じていた。考えられることは二つ。

 一つは大型のロストゴーレムの攻撃が想像以上に凄まじく気配を感じ取れない距離まで飛ばされたか。

 もう一つは、一番考えたくはないが、自分以外全滅したということであった。


「も、もしかして……皆やられてしまったのかにゃ……」


青かったロンキの表情は青を通り越し白くなっていく。ロンキが想像していたことは最悪の事態であった。自分が生き残ったとしても、アキ達が生きていなくては戦闘職ではないロンキはこのダンジョンから出ることはほぼ不可能になってしまう。

 後ろを振り返るロンキ。道に見覚えは無いが方角は間違っていないはずでその道を通っていけば入口に戻れるのではないかとロンキは考えていた。今ならまだ入り口まで魔物の気配を感じない。入口から現在ロンキが居る場所までの魔物はあらかたアキ達が倒してきたはずだし、たとえ今いる道が初めて来た道だとしても気配が無い今ならば魔物に出くわすこと無く安全に引き返すことができるかもしれない。ロンキはこのまま彼らを探しながらダンジョンの奥を目指すよりもよっぽど安全ではないかと考える。だがここは真光のダンジョン、ロンキが経験してきた今までのダンジョンとは段違いの難易度である。常識が通じない可能性もあるのだ。

 ぐるぐると思考するロンキの頭はどの選択肢も最悪の結末しか想像できず、八方塞がりであった。


 「……考えても……駄目にゃ……こうなったら野生の勘に頼るしかないにゃ!」


生まれてからずっとヒトクイのガウルドで育った野生が果たして役に立つのかというのは置いといて獣型の獣人であるロンキは己の中に流れる獣の血を信じることにした。

 己の五感をフル動員し、ゆっくりと歩きだすロンキ。舞い上がっていた砂は地面に落ち始め視界も舞い上がっていた頃よりはよくなってきていた。


「うん……前だ!」


視界が広がった前方をみてロンキの野生は前に進むことを示しており、ロンキはその野生を信じ前へと歩き始めた。

 ロンキの信じた野生の勘は正しかった。これはダンジョンに入った者を陥れるための罠であった。もしロンキが自分の勘を信じず怯んで後方に向かおうとしていれば、そこには気配を殺すことのできる魔物が待ち構えており、ロンキは一瞬にして肉塊へと変わっていただろう。

 後方へ歩いていくとそんなことになるなど知る由もないロンキは、前へと進んでいくのであった。 



― 真光のダンジョン 一層 二股の道 右側後半 ロストゴーレムの間 ―


 砂塵が解け、周囲の状況がはっきりと見えてくると、背を向けて逃げ出したくなる光景がアキ達の目の前に広がっていた。ロストゴーレムの集団がアキ達の行く手を遮るように立っていたからだ。アキが視界に捉えただけでも四体、その四体の後方からも地面が揺れるほどの足音を感じることから続々とこの場に集まっていることが分かった。


「こりゃ……不味いな……」


 ロストゴーレムがぞくぞくと終結しだすその足元で、アキ達はただ茫然とその光景を見つめることしか出来ないでいた。


『マスターどこか岩場の影に隠れてください、この数を相手にするのは無茶です』


伝説の防具、クイーンが所有者であるアキにその場から退くことをすすめた。


「ああ……これは……」


運がいいのかそれともロストゴーレムの気まぐれか、ロストゴーレムはアキ達の存在に気付いていないようであった。


「……アキさん……こちらに」


気配無くアキに近づいたピーランは小さな声でアキに話かけた。


「ああ……」


なるべく音を立てないようにピーランの後を追うアキ。ピーランと共に岩場にたどり着いたアキは、ブリザラとウルディネを確認すると浅く息を吐いた。


『さて……困ったことになったな……まさか大型ロストゴーレムの後にあれだけの数のロストゴーレムがやってくるとは』


岩場から少し顔を出すブリザラは直ぐさま頭を引っ込めた。


「凄い数だよ~」


声は小さいがどんな状況であってもブリザラはブリザラであった。ロストゴーレムの集団をみて怯えなど一切無く、目を輝かせ興奮し両腕をブンブンと上げ下げしている。


「お、落ち着けブリザラ……お前は……」


ブリザラを見ていると目の前のロストゴーレムに危機感を抱く自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。頭を抱えるアキはダンジョンの壁にもたれかけた。


「とりあえず、これからどうする……ざっとみて12体って所か……」


アキ達の視線の先には最終的に12体のロストゴーレムが集まっていた。だがそのどれもが、未だアキ達の姿を捉えられていないようで、アキ達の姿を探しているようであった。


「状況的に見て、気付かれずに奥の通路に向かうのが一番じゃないか」


ウルディネは戦闘をせずにこの場をやり過ごすことを提案した。一体ならば問題無いが、12体という数は、どれだけ凄い武具を装備したアキ達だとしても無事では済まない。ウルディネの提案は現状もっとも有効な手段と言えた。


『……待て……もしかすると……ロストゴーレム達の先には扉があるかもしれない』


ブリザラの背中でウルディネの提案に待ったをかけたキングの声は重々しかった。


「扉? それがとうした?」


キングの言葉の意図が分からないアキ達は首を傾げた。


『……鍵がかけられているかもしれない……』


「鍵?」


「まさか? ……」


ピーラン以外の者達は未だに首を傾げていた。ピーラン一人だけがキングの言いたいことを理解したようで眉間に皺をよせた。


「どういうことなのピーラン?」


キングを皆に見せるように背中を向けていたブリザラが顔だけをピーランに向けながら鍵の意味を聞いた。


「はい、王……多分キング殿が言いたいのは、その扉を開けるためには、あのロストゴーレムのどれか……もしくは全部を倒さなければならないと……」


「何だって……」


もしキングの読み通りならば、これからアキ達はロストゴーレム全部と戦闘をしなければならなくなるということであり、それはアキ達にとって絶望的であった。


「まだ、扉があると決まったわけじゃないよな……」


アキは岩場の影からロストゴーレムに気付かれないように頭を出し、ロストゴーレム達の先を見ようとするが、ダンジョン特有の薄暗さと、ロストゴーレム達の体が邪魔をして先が見えなかった。


「くそ、見えない……」


ロストゴーレムの視界から逃げるように岩場の影に素早く頭を引っ込めるアキは、ロストゴーレムの先に扉があるのか無いのか確認できないことに苛立っていた。


『……まずは扉があるのか無いのかの確認が必要ですね』


クイーンが冷静にそういうとピーランが小さく手を上げた。


「その役目私に任せていただけませんか」


ピーランの職業は忍者であり、ロストゴーレムに気付かれずに先に進み扉があるのか確認するのには適任であった。


『ピーランならば適任だろう、頼めるか……』


「はい」


短くキングの言葉に返事を返すとピーランは直ぐに準備に入った。


「《霊影隠レイカゲカクシ》」


足の先からゆっくりと風景に溶け込んでいくピーラン。気付けばそこにピーランの存在は無く、目を丸くするアキやブリザラ達。

 ガイアスの世界の忍者は、己の姿を隠し闇に乗じて敵を倒すというのが本来の姿である。その由縁となるのが《影隠カゲカクシ》という忍術である。この技は忍術の初歩中の初歩であり、忍者になる者は必ず習得しなければならない忍術の一つであった。

 《影隠カゲカクシ》はその名の通り影と己の体を同化させるという忍術であるが、それはあくまで比喩であり、相手の意識を自分から反らすというのが実態であった。基本的に無機物であるロストゴーレムには通用しない忍術でるのだが、ピーランの使った《零影隠レイカゲカクシ》は、名は似ているが、根本的からしてまったくの別物であった。

霊影隠レイカゲカクシ》は《影隠カゲカクシ》とは違い本当にその場から姿を消す高等忍術である。一流の者はその忍術に対峙した時、その場に姿は無いのに気配だけはそこで感じ取れ、まるで幽霊のようだと感じるようだ。

 《霊影隠レイカゲカクシ》の習得難易度は相当に厳しいものがあり、そうそう習得できる代物では無く、その技を知っている者が見ればピーランがどれほどに修練し己を鍛え上げてきたかすぐにわかるほどのものであった。 


≪では行ってきます≫


姿を消したピーランの声だけがその場に聞こえアキは気配のするほうに視線を向けてうなずいた。


「ピーラン頑張ってね!」


「ブリザラそっちじゃないこっちだ」


あらぬ方向に向けて手を振っているブリザラにピーランがいる方向に指をさすアキ。どうやらブリザラにはピーランの気配を感じ取ることはできていないようだった。


「姿を消す術か……私には無意味だな」


気配以前に、ピーランの姿形をはっきりと視認できているウルディネは、ロストゴーレムに向かって行くピーランの後ろ姿を見つめた。どうやら上位精霊であるウルディネにはまったく効果の無い技であるようだった。

 ピーランの気配を感じ取れるアキは、気配が感じ取れるほうに視線を向けた。ピーランの姿は見えないが順調に先へ進んでいるピーランの気配はロストゴーレムの集団達がウロウロとしているほうへ近づいていた。

 ピーランは息を殺しできるだけ気配を最小限に保ちながらロストゴーレム達に気付かれないように接近していく。


(……後少し……)


ピーランは緩急がはっきりとした動きで、ロストゴーレムの動きに合わせ目的の場所に向かって行く。姿が消えたピーランの潜入は大成功であった。ロストゴーレムは一切ピーランに気付くことなく周囲を警戒していた。だが完璧な潜入であるはずのピーランの表情は苦痛で曇っていた。

 自分の姿を視覚的に消し去る《霊影隠レイカゲカクシ》は精神的、体力的にかなりの負担をかける忍術であり、《霊影隠レイカゲカクシ》を扱える者がその状態で活動を続けられるのは約30秒といった所である。だが息を殺しながら素早く動くピーランの息はすでに限界を迎えようとしていた。


(……あの岩場に……)


ピーランは術が解けると同時に目の前にあった岩場に飛び込んでいった。


「はあはあはあ……」


肩で息をするピーランの顔は疲労で一杯になっていた。息を整えるピーランは視線を上げる。


「……扉は……」


キングの予想は当たっていた。目の前にはロストゴーレムが余裕で出入りできるほどの大きな扉があり、その扉は閉ざされていた。材質もこのダンジョンと同じ月石ムーンロックが使われているようで壊すことは不可能のようだ。


「……やはり……」


ピーランは岩場の影からロストゴーレムの様子を窺うピーラン。ロストゴーレムは未だにアキ達を捉えることができず探しているようであった。


「扉があることを報告しなければ……」


ピーランは再び《霊影隠レイカゲカクシ》を使おうとするが、そこで膝が折れた。


「くっ……なぜこのタイミングで……」


想像以上に体力を消耗していたピーランの体が《霊影隠レイカゲカクシ》の発動を拒否するように動かなくなっていく。


「……はぁはぁ……」


再び息が荒くなるピーランは、動くことすら拒否し始めた体を無理矢理起こし立ち上がる。


「それでも行くしかない……」


ピーランはゆっくりと重い足を一歩一歩踏み出し自分の体を隠していた岩場から離れていく。


《ゴゴゴゴ》


ロストゴーレムは瞬時にピーランの動きに反応し、後方へと振り返る。ロストゴーレムの不自然な動きに一番最初に気付いたのはブリザラであった。


「ブリザラ!」


アキの制止しようとする言葉を無視してブリザラの体は飛び出していた。


『王よどうしたのだ!』


キングの言葉にも反応しないブリザラは真っ直ぐ何かに向かって走っていく。


「くそっ……追うぞ!」


そういうとアキはブリザラの後を追って走りだす。その場にとどまったウルディネは両腕を上げ手に水流をため込んだ。

 ロストゴーレムはよたよたと歩くピーランを視界に捉えると腕を振り上げた。


「くそ……避けられない……」


歩くのがやっとなピーランはロストゴーレムが振りかぶった腕を見て自分の死を覚悟した。大型ロストゴーレムほどではないが、振り上げた腕の落下は死を連想させるには十分であった。


「不味い!」


腕を振りかぶったロストゴーレムの動きはブリザラの後を追っていたアキの視界にも入っており、そのロストゴーレムの下に飛び込んでいくブリザラの姿が見えた。次の瞬間、凄い轟音とともに再び砂が舞い上がり周囲に衝撃波が発生した。


「ブリザラ!」


視界が再び曇り、砂煙の外で衝撃波を回避したアキは、砂煙の中に入っていたブリザラの名を叫んでいた。


 ガイアスの世界


影隠カゲカクシ 霊影隠レイカゲカクシ


忍者特有の術であり、基本的に相手に見つからないように敵地へと侵入し情報収集したり暗殺をする忍者にとっては必須である影隠カゲカクシは相手の意識を自分から反らすという術である。これはどんな忍者でもまず習得しなければならない術であり忍者になるための必須であるという。

 そんな影隠カゲカクシと名が似ている霊影隠レイカゲカクシは使うタイミングなどは似ているがまったく原理の違う術である。これは本当に姿を隠す術であり、名に霊がついているように、幽霊のように消えるだとか、姿は見えないのに気配は感じるといったようなことからその名前が付いたと言われている。

 だがこの術は習得するのにかなりの努力と才能が必要らしく、忍者でも一握りの者しか習得できないといわれている。習得した後でも己の腕を磨き続けなければ、自分よりも実力が上の者には気配を感じ取られ姿は見えなくとも位置を特定されてしまうという。

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