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真面目に合同で章 (ブリザラ&アキ編) 11 闇の牢獄より帰還する男

ガイアスの世界


ガリデウスの特命


 最上級盾士であり、王の右腕でもあるガリデウスは、まだ幼い王であるブリザラに代わり、サイデリーを任されている存在である。その為、命令権限が強く時には王であるブリザラの言葉以上の力を持つことがある。

 ガリデウスがこのような状況にあるのは、サイデリーの先代の王が突然亡くなり、今よりも更に幼かったブリザラが王にならななければなくなった事に理由がある。

 まだ国を任さられる程の王としての年齢に達していなかったブリザラに代わり、サイデリーを纏める為に先代の頃から右腕として仕えていたガリデウスにその役目が回ってきたのだ。

 先代の側でずっと仕えてその思想も同じく何よりサイデリーの人々からの信頼も厚いガリデウスならば問題は無いだうというサイデリーの人々や大臣、同僚たちの声によりガリデウスは今の地位を得た。

 他国ならば早々に国を私物化出来てしまう権限ではあるが、ガリデウスはそんな欲望に飲まれること無く、サイデリーの為、幼き王ブリザラの為にしっかりと国を支え続けてきた。

 そんなガリデウスが自分の部下である盾士達や、他の最上級盾士やその部下達に現在受けている命令を破棄して最優先で遂行される命令がガリデウスの特命である。

 この特命は、王の言葉と同じ力を持ち発動した場合、同僚である最上級盾士であっても従わなければならない。

 ただその効力故に、一度発動すれば国に混乱を起こす可能性がある為に無暗に発動することを良しとしてはいない。それを熟知しているガリデウスは、自分が特命という権限を与えられてから一度も発動した事は無いという。




真面目に合同で章 11 闇の牢獄より帰還する男



 爆発の影響で雪が吹き飛び地面は抉れそこが一面の銀世界であったなどとは思えない焦げた臭いと荒れ果てた雪原に変わったその場所に立つサイデリーの王ブリザラは、漆黒の全身防具フルアーマーよりも更に深く黒い『闇』の炎を纏ったドラゴンの顔を模した形のヘルムを被った存在と対峙していた。

 全く原形をとどめておらず、まるで人型のドラゴンのような姿をしたその存在がアキだとは認識しない。だが深紅に染まったブリザラの瞳はドラゴンの顔を模した形のヘルムに隠されたアキの顔を見通していた。


「喰エ人間! 絶対的ナ力ヲ!」 


ドラゴンの顔を模したヘルムを被ったアキは、別の存在の声と入り混じった声で、己の体に纏っている物と同じ『闇』の炎を纏わせた矢を禍々しい弓から一切の狂いも躊躇も無くブリザラに向け放った。

 周りに漂う空気さえ燃やし尽くしてしまうような矢を前に、それでもブリザラは一切怯むことなく歩き続ける。


「……!」


しかし次の瞬間、ブリザラに向かっていったはずの矢は、ブリザラの目の前で忽然と消失した。その光景に声無く驚くドラゴンの顔を模した形のヘルムを被ったアキ。


「どういうコトだ? 一体何が起キテイル!」


 目の前の光景が信じられず、二度三度と『闇』の炎を纏った矢をブリザラに向け放つドラゴンの顔を模した形のヘルムを被ったアキ。しかしブリザラに向け放たれた『闇』の炎を纏った矢は、ブリザラの目の前で次々と消失していく。

 気付けばドラゴンの顔を模した形のヘルムを被ったアキを見上げるブリザラの姿があった。


「アキさんを返して!」


ブリザラの言葉と同時に放たれる圧が、ドラゴンの顔を模した形のヘルムを被ったアキの体に纏わっている『闇』の炎を激しく揺らす。




「お前……ソノ瞳……王領域キングオブテリトリーか!」


ブリザラの力に気付いたドラゴンの顔を模した形のヘルムを被ったアキ。いや、『闇』の力を持つガイアスの生物の頂点の存在の一つと言われる黒竜ダークドラゴンはそう言いながら怯むように自分を見つめるブリザラから後ずさりする。


「くゥゥゥゥ……人間如キが我を怯ませたとイウノカ! 認めん認メンぞッ!」


 絶対的力を持つはずの自分が人間如きに怯むはず無いというように黒竜ダークドラゴンは、己の顔を模したヘルムの口を開く。そこにアキの顔は無くあるのは『闇』。その『闇』が漏れ出すように口の開いた黒竜ダークドラゴンの顔を模したヘルムから放たれる『闇』の炎の息吹ブレス。その息吹ブレスは一瞬にして周囲を『闇』の炎で燃やしブリザラを飲み込んでいく。

 だが、黒竜ダークドラゴンが放った闇息吹ダークブレスは次の瞬間、まるで霧が突発的な強風で霧散するように消失した。その霧散した闇息吹ダークブレスの中心には無傷のブリザラの姿があった。

 闇息吹ダークブレスのダメージを一切受け付けず自身が袖を通した服すら焦げていないブリザラはじっと睨みつけるようにその深紅に染まった瞳を黒竜ダークドラゴンに向けていた。


『これが……王の覚醒した状態なのか……!』


ブリザラに背負われたまま盾としての役目を果たしていない自我を持つ伝説の盾キングは、黒竜ダークドラゴンの攻撃を全く受け付けないブリザラの姿に驚きの声をあげる。


「フフフ……オモシロイ、おもしろいではないか人間! 我の絶対的力を無に帰すか!」


絶対的な力を持つと自負する黒竜ダークドラゴン勿論今までの攻撃が本気であった訳では無いがそうであったとしても己が持つ絶対的な力をいともたやすく打ち消したブリザラという存在に興味を持ち、そして笑みを浮かべた。


「アキさんの顔でそんな酷い笑みを浮かべないでください」


黒竜ダークドラゴンの顔を模したヘルムに隠され笑みを浮かべていることが分からないはずのアキの表情を見通すブリザラはそう目の前の黒竜ダークドラゴンに告げた。


「ふふふ、見通スカ我の表情ヲ」


「それはあなたの表情では無くアキさんの物です……返してください、アキさんを」


黒竜ダークドラゴンに対し、一切引かずアキを返すよう要求を続けるブリザラ。


「カエセと言うが人間よ……この半死は、我の力を欲したのだ……それがこの結果ダ! お前ガ何度この半死に語り掛けヨウと、こやつの心は既に我に支配されている……無駄なコトダ!」


そう言いながら振り上げた拳をブリザラに振り下ろす黒竜ダークドラゴン。矢や息吹ブレスが聞かないのならば直接殴ればいいという簡単な考えだった。


「ムゥ!」


しかしすかさずブリザラの背から飛び出したキングが黒竜ダークドラゴンの拳を防ぎきった。


「……ほう……鉄屑の盾か……鉄屑の鎧に吸収された時にモシヤと思ったガ、やはり復活していたかッ!」


キングを鉄屑の盾と呼んだ黒竜ダークドラゴンは拳に更に力を乗せキングを押し切ろうとする。


『……まさかクイーンが吸収していた力がお前だとはな……黒竜ダークドラゴン


お互いに知り合いというような口調で言葉を交わした盾と竜はお互いの力を相殺すると睨みあうように対峙する。


「鉄屑の盾よ……良い所有者を見ツケタナ……しかし、まだ甘い!」


突然背を向ける黒竜ダークドラゴン。するとその背からは『闇』の炎で出来た尻尾がキング目がけて振り下ろされる。


『甘いのはそっちだ!』


黒竜ダークドラゴンの攻撃を予測していたというように、キングはブリザラの体を守るように形を変化させ『闇』の炎の尻尾を弾き返す。


「ふふふ……防ぐか……まだこの体が我二馴染んでイナイということカ……」


弾き返されかき消えていく『闇』の炎で出来た尻尾に視線を向けながら自分の力とアキの体うまく馴染んでいない事を実感した黒竜ダークドラゴンはキングを手に持ち詰め寄ってくるブリザラから距離をとるように後方へと大きくステップする。


「……だが数千年ブリの自由、易々ト壊させぬ」


そう言って今度は背中に『闇』の炎の翼を生やす黒竜ダークドラゴンは上昇しようと飛び上がる。禍々しいつの翼はまさしく絶対的力を持つ黒竜ダークドラゴンそのものであった。


「アキさんを返して!」


上空に飛び上がった黒竜ダークドラゴンに対してブリザラがそう叫んだ瞬間、どこからともなく飛んでくる黒竜ダークドラゴンとは性質が違う『闇』の力を纏った矢が、羽ばたいた黒竜ダークドラゴンの翼を射抜く。


「何ィ!」


矢が黒竜ダークドラゴンの翼を貫いた瞬間、翼は一瞬にして消失し、飛ぶ力を失った黒竜ダークドラゴンは地面に向かって落下を始める。自分の体が落下しながらも自分の翼を射抜いた存在を探す黒竜ダークドラゴン


「お前は!」


黒竜ダークドラゴンの視界に映ったのは『闇』の炎を纏った矢で爆散したはずのランギューニュであった。


「ブリザラ様! 今です、アキに……アキの心に語り掛けてください!」


まだ完全回復とは言えないボロボロの姿のランギューニュがそうブリザラに叫ぶ。だがすでにブリザラは走り出しランギューニュが言わんとしている事を実現しようとしていた。

 地面に落下する黒竜ダークドラゴン。だが黒竜ダークドラゴン程の存在が地面に落下した所で体に傷一つ付かない。すかさず自分を落下させたランギューニュに攻撃を加えようと構える黒竜ダークドラゴン。だがその瞬間、黒竜ダークドラゴンへと飛びつくブリザラ。


「なっ!」


「お願い、元に戻ってアキさん……」


ブリザラに抱き付かれた黒竜ダークドラゴンは驚きの声を上げる。そんな中、黒竜ダークドラゴンに抱き付いたブリザラは、黒竜ダークドラゴンの胸でアキが元に戻る事を祈り願った。


「馬鹿メ、そんな事デ我が……」


ブリザラの行動を否定しようとした瞬間、黒竜ダークドラゴンの動きが止まる。体に纏っていた『闇』の炎が勢いを失っていく。


「何だと! ……我ノ中に入り込むというのかッ!」


「お兄ちゃん!」


動きを止めた黒竜ダークドラゴンの内で、ブリザラとは違う少女の声が響き渡るのであった。




― 場所不明 ―



 そこは『闇』をばら撒いたかのような場所。何処を見ても暗闇以外に物は無く、匂いや温度すら感じない。自分の体の重さも感じないそんな場所をアキは漂っていた。


「……静かだ……」


自分が何故そこにいるのか思いだせないといった虚ろな表情で、アキはポツリと呟いた。しかしその呟きは誰にも聞こえること無く暗闇に吸い込まれていく。

 アキが漂うこの場所は黒竜ダークドラゴンが作り出したアキの精神を閉じ込める檻であった。


『マス……ター……マスタ……マスター!』


時間の進みすら感じられないその場所で漂い続けるアキに向かって小さな叫ぶが響く。しかしとても小さなその叫びはアキの耳には届かず全く無反応であった。


「ア……アキ……アキ」


また違う声がアキの名を呼ぶ。だがやはりその声はアキの耳には届かない。聴覚を失ったかのように声に反応を示さないアキは、無限に続く暗闇を漂うだけ。


「……お兄ちゃん……」


また違う者の声がアキの名を呼ぶ。


「……テイ……チ……」


今までどの声にも反応しなかったアキの表情がはっきりと驚いたものへと変わる。そしてそのアキの口からムウラガで出会った少女の名が漏れた。


「お兄ちゃんは、何でこんな所にいるの?」


純粋故の疑問。以前アキが会話した時よりも少し大人ひだ口調の少女の声は、なぜ今アキが暗闇の中にいるのかと問う。


「それは……」


霧がかっていた頭の中が少女の声と言葉によって鮮明になっていくアキ。先程よりも人間味を帯びた表情になったアキは、自分は強くなる為に、自分を裏切った者を殺す為に、己の心を、精神を、黒竜ダークドラゴンに売り渡したなどと少女には口にできず戸惑った表情を浮かべる。


「お兄ちゃんは、強くなりたいんだよね?」


「……」


そう少女が言うようにアキの目標は強くなること。いかなる犠牲を払っても、どんな危険な力だと分かっていてもそれらを利用してこのガイアスという世界で、絶対的力を持つ存在になることがアキの目標であり夢であった。


「それは何で?」


「……」


少女の更なる問に、強者から搾取され続けた少年時代の記憶を思いだすアキ。自分に力が無いばかりに自分よりも力のある者から搾取される日々。苦痛と悔しさが永遠と続くそんな日々から脱出する為に、誰にも支配されず搾取されない為にアキは力を欲したのだ。


「……」


力を欲し立ち上がった理由は何であったか、アキは遠い記憶を探る。いや本当は探る必要など無くはっきりとその理由を覚えている。だが今まで思いだそうとしていなかっただけだ。

 自分に手を差し伸べてくれた手、自分が追いかけるべき背中、全てがアキにとって憧れであり理想であった。

 だが差し伸べてくれたはずのその手は突如として振り払われ、その背中は何も言わず消え失せたのだ。仲間である自分や他の仲間達を捨てて。

 あの男に再会するまで何故ここまでの強い感情を忘れていたのか不思議であったが、それもあの男の正体が分かれば理解できた。だが未だあの男はあの日消え失せた理由を語ろうとはしない。

 ならば力で知るしかない。支配され搾取され力のみが全てであるとその人生の中で学んだアキが選択できるのは戦うことだけであった。


「あれ? でもおかしいよね……だって今のお兄ちゃんは、何もかも奪われているよね」


「ッ!」


少女の言葉はあれほど支配され搾取される事を嫌った自分が、今再び支配され搾取されているというアキの行動の矛盾を指摘するものであった。少女の言葉にアキの表情は唖然となる。

 黒竜ダークドラゴンという絶対的力を前にアキは、自分の全てを差し出したのだ。あの日、強者に対して何も出来ず全てを差し出した幼い自分と同じように。

 どんな危険な力であろうと利用し力を得るとは言ったが、全てを差し出した先にあるその力は果たして自分の力なのかと少女の言葉に問答を始めるアキ。

 自分の全てを奪われ得た力は、はたして自分が欲した力なのだろうか、アキは自分に問いかけ首を横に振った。


「こんな所にいてお兄ちゃんは強くなれるの?」


「違うッ! ……俺は俺自身で強くならなきゃならないはずだ……」


あの日、憧れと理想を失いながらも、力を欲する事だけは諦めず忘れなかったアキは、自分が進むべき道を見つけたようなそんな感覚に抱かれた。

 すると今まで暗闇であったその場所に一筋の光が走る。まるで道のようにアキの足元にその光がたどりつくと微笑する少女の嬉しそうな声が広がる。


「テイチ……ありがとう……俺、これでまた進めるよ」


口元を少し緩めたような笑みを浮かべながら、自分に矛盾を突きつけた少女テイチに礼を言うアキ。


「お兄ちゃんなら大丈夫、きっと優しい強い人になれる……信じているから……」


上位精霊ウルディネの力によってその命を守られているテイチ、ムウラガで出会ってからまだ数週間程しか経っていないというのに、その大人びた言葉に違和感を抱きつつも、アキはテイチがウルディネに守られしっかりと成長している事を実感する。


「ああ、次にお前と再会した時、俺はお前に恥ずかしくないような人間になれるよう頑張るよ」


「うん、楽しみにしてる……さあ、この道を進んで……お兄ちゃんの帰りを待っている人達の声を聞いて」


テイチの言葉にゆっくりと頷いたアキは、自分の足元に伸びた光の道を歩きだす。


「ア……キ…………アキ……帰ってこい!」


「……ウルディネ……」


『マスター! マスター!』


「クイーンか……」


ウルディネやクイーンの声がはっきりと聞こえるアキは、二人の声が呼ぶ方へ、光の道が続く先へと足を進めていく。


「アキさん! 帰って来てください! 私は……私は……!」


「ブリザラ……」


二人の声に混じり、その存在感を濃くしていくブリザラの声に驚くアキは、私はと口にしたブリザラの言葉の先を聞こうとした。だがその瞬間、目の前が光に包まれるアキ。


「この光の道は、ブリザラさんの想いで出来たもの……温かく優しくそして強い、ブリザラが作った道……」


視界が光に包まれるアキの耳にテイチの言葉が響く。そしてアキの意識は一度そこで途切れるのであった。



― サイデリー東壁 外 雪原 ―


「ハッ!」


短い息を吐きながら目を覚ましたアキは勢いよく上半身を起こし周囲を見渡す。視界の先に広がる光景は、至る所が抉られた到底雪原とは呼べない場所であった。


「アキさん!」「アキ!」


上半身を起こしたアキに飛びつくブリザラ。


「お、おう? な、何だ?」


サイデリーの王の突然のタックルに動揺するアキ。


「心配したんですから……アキさんがもう帰ってこないんじゃないかって……」


そう言いながら涙を目に浮かべるブリザラ。その瞳は通常通りの黒色へと戻っていた。


「あ……ああ……なんか色々と迷惑をかけたみたいだな……」


あまり状況を飲み込めていないアキは、自分に抱き付いたブリザラを引き離しながら再び周囲を見渡し状況を理解しようとする。


「全くだ……まさかあそこまでお前が馬鹿者だとは思わなかったぞアキ」


テイチの姿をした上位精霊ウルディネは、ふぬけた顔をするアキに苦笑いを浮かべそう口にする。


「ウルディネ……そうだ……テイチが!」


「ん? テイチがどうした?」


アキの言葉に首を傾げるウルディネ。


「ああ……いや……悪い……何でもない」


自分が何を言いかけたのか分からないアキは、何でもないと言葉を止めた。


「ん? おかしな奴だな……」


そんなアキの様子に疑問を浮かべるウルディネ。しかし目を覚ましたばかりで混乱しているのだろうと思ったウルディネはそれ以上何も言わなかった。


「……そうだ……奴は、ペーネロッ……ランギューニュは?」


自分と対峙し戦った男の名を口にするアキは再度周囲を見渡す。


「僕ならここだよ、アキ」


少し離れた所から声がする。その方角へと視線を向けると焼け焦げた木に背を預け座るランギューニュとその姿を愉悦の表情で見下ろすピーランの姿があった。防具は殆ど大破し、その下に来ていた衣服も焼け焦げた姿のランギューニュは見た目よりも元気そうにアキに手を振る。


「見た目に比べてたいした傷じゃないみたいだな……」


手をふるランギュー二ュに戦った時と同じく鋭い眼光を向けるアキ。


「ああ、僕は混血ハーフだからね……多少の傷ならすぐに癒えるよ」


『闇』の力を持つ夢魔男インキュバスを父に持ち、人間の母を持つランギューニュは、自分が負った傷が急速回復する理由をそうアキに告げた。


「くぅ……今の俺じゃお前に致命傷を与えることも出来ないってことか」


そう言いながら勢いよく立ち上がるアキは、もう一度戦うとでもいうように更に鋭くランギューニュを睨みつける。


「止めてくださいアキさん! 私前にいいましたよね、私の目の届かない所でランギューニュさんと決闘なんてしないでくださいって! でもそれは私が見ている所でもしないでくださいって意味でもあるんですよ!」


ランギュー二ュに向けられたアキの視線の前飛び出しそう叫ぶブリザラ。


「ブリザラ様、これは違うのですよ、決闘などでは無くあくまで稽古、そうだろアキ?」


自分の前に立つブリザラの背に向かってそう告げたランギューニュは、顔を乗り出しアキにウインクする。話を合わせろという合図であった。


「稽古だと……俺をおちょくっているのか!」


だがそんなランギューニュの合図を理解していないのかそれともする気が無いのか、アキはランギューニュの言葉に対して語気を強める。


「まあまあ、落ち着けアキ、お前とあの男にどんな因縁があるのかは知らんが、今はもっと大事な話をしたい奴がいるんだ」


「何?」


ランギューニュへの怒りを表情に残したまま、ウルディネの言葉に首を傾げるアキ。


『お久しぶりです、マスター』


「ッ!」


自分の体から発せられる自分とは違う声に怒りの表情を浮かべていたアキの顔が茫然とする。


『……そして今まで沈黙を続けていた事をお詫びしますマスター』


何処か弱々しくアキにそう告げる声。


「……クイーン……」


その声の持ち主の名を口にするアキ。その声は、ムウラガから旅立ってから今までずっと沈黙を続けていた、自我を持つ伝説の防具、クイーンであった。



 ガイアスの世界


暗闇の空間からアキを救ったテイチの声とブリザラの力


そこは黒竜ダークドラゴンが作り出したアキの精神を閉じ込める空間、檻のような場所。そこには暗闇以外何も無くただ暗闇が続く場所。入れられた者は徐々に思考力を失いその存在までも消失させていく。

 今回アキは自分のまわりいた仲間の声によって助け出されたが、本来外の声は一切届かないし外の者達が助け出すことはほぼ不可能に近い。

 しかし黒竜ダークドラゴンが思いも寄らなかった二つの要因によって完璧な暗闇の檻からアキの精神は救い出されてしまう。

 その要因がブリザラとテイチであった。この二人がなぜアキを救いだせたのかは現在不明であるが、ブリザラに関しては深紅に染まった瞳、王領域キングオブテリトリーの力が関係していると思われる。

 テイチに関しては全く不明であるが、アキとムウラガで出会った頃に比べ大人びた口調が何か関係しているのかも知れない。

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