黒い『剣聖』
ガイアスの世界
今回ありません
黒い『剣聖』
― 場所不明 ―
何者の侵入も許さず、何者にも干渉されない場所。時と時空を司る神の隠れ家的な場所であるこの白い空間に怨念や怒りの籠ったサンタクロースの罵詈雑言が響き渡る。
白い空間に帰還後、強制的に見せられた光景に怒り抱いたサンタクロースは、本来何者にも干渉できないはずのこの白い空間に干渉することができる存在へ罵詈雑言をぶちまけた。
あまりにも酷い為、内容については割愛するが約二分半に渡ってサンタクロースは創造主と呼ばれる存在への思いのたけを罵詈雑言に乗せ言い続けた。
「はぁはぁはぁ……ちぃ……こんなことしている場合じゃない」
息継ぎを忘れるぐらい、肩で息をするほどの罵詈雑言を発したことで多少なりとも溜飲が下がったのか冷静になったサンタクロースは無駄な時間だったと自分の行いを反省した。
「……このままあの糞創造主の思惑通りに事が動けば必ずお嬢ちゃんたちにも被害が及ぶ……なんとしてもそれだけは阻止しなきゃならない……兎に角まずはもうもう一度嬢ちゃんたちの下に……」
そこまで口にして口が突如止まるサンタクロース。
「だああああああああ! 今し方新力を使い果たしたばかりじゃねぇか! これじゃ嬢ちゃんたちにこのことを伝えられねぇ!」
時と空間を司る神であるサンタクロースは、その神名が差す通り時と空間を操る能力を持つ。今いる場所から別の場所へ瞬時に移動する瞬間移動は勿論、未来や過去を行き来する時間移動、別の世界へと行き来する異世界転移をすることが出来る。
しかしあまりにも理を逸脱した能力のためそれ相応の対価をサンタクロースは払わなければならない。瞬間移動は兎も角、時間移動や異世界転移には莫大な対価が必要となる。それらの能力を使用するために支払わなければならない対価というのが、神が持つ力、神力である。
神力とは神が神であるための力のことで、神力が枯渇すれば神は神でいられなくなる。神名に冠した特有の能力は愚か神と呼ばれる存在が当然のように持っている不老や不死、神威などが一時的、場合によっては永久的に失われることを意味する。
「今から神力を溜めて……いやいやそんな悠長な時間があるわけねぇ!」
サンタクロースが無暗に能力を使わないのは、自分の能力が理から逸脱していることをしっかりと認識しており下手に干渉して様々な世界に影響を与えないようにするためというのもあるが、一度神力が枯渇すると神として復帰できるようになるまで神力が溜まるのに時間がかかってしまうからでもあった。
だがどうしても能力を使わなければならない、そんな場面や状況は当然やってくる。そんな時の為にサンタクロースは神力が枯渇した自分の身を隠す場所、何者の侵入も許さず、何者にも干渉されない白い空間を用意していたのだ。
「くぅ……しかし彼奴の思い通りに事が運ぶのは絶対に嫌だ」
創造主と呼ばれる存在が何をしようとしているのかサンタクロース自身全部を理解した訳では無い。だが創造主と呼ばれる存在は嫌がらせの如くこれから事を起こすと宣言するような光景をサンタクロースにわざわざ見せつけたのである。サンタクロースにとって到底よろしくない状況になることは目に見えている。
「仕方ない……この世界を神力に変換するしかない……」
そう言いながらサンタクロースは禁じ手を使うことを決意し、これまで幾度も無防備となった己の身を守ってくれた白い空間を見渡した。
世界というには小さく何も無い空間。しかしそれでもサンタクロースにとってこの場所は神力が枯渇した自分の身を守ることができる唯一の場所。そんな唯一の場所を神力に変換するということは、無防備な自分を守ってくれる場所が無くなるということ。それはサンタクロースにとって大きな決断だった。だがそれでもやらなければならない。
「……」
覚悟を決めたサンタクロースは、無防備な自分を守ってくれる場所を対価に神力を得ようと両腕を上げた。
「……なッ! 歪みだと?」
自分の世界を神力へ変換する覚悟を決めサンタクロースが両腕を上げた瞬間。何もないはずの白い空が突然歪む。
「……侵入者だとッ!」
本来何者の侵入も許さず、何者の干渉も受けないはずの場所ではあってはならない事象。何者かによる外からの干渉だった。そして空間を歪ませ渦を巻くように穴をあけて何者かが侵入してくる。
「ッ! あの糞野郎……」
白い空に穴をあけやって来た何者か。侵入者を見つめながら裏で糸を引いているだろう創造主と呼ばれる存在に対して今まで落ち着けていた怒りを再燃させるサンタクロース。
「やりやがったなッ!」
サンタクロースは創造主へ向けていた怒りを穴から姿を現した望まぬ侵入者へ向ける。だが次の瞬間。
「ゴフゥ……」
鋭い光波の一閃がサンタクロースを襲う。
「グフゥ……」
侵入者から放たれた一閃を受け腹部を負傷したサンタクロースは吐血した。
「……なるほど……なーるほどな……」
サンタクロースに対して一閃を放ったのは侵入者。黒い全身防具を纏った剣士らしき存在。吐血しながらもその黒い剣士の姿に、なるほどとサンタクロースは納得したような表情を浮かべた。
「……俺の神力が枯渇した瞬間を……この時を待っていた訳だ」
もしサンタクロースの神力が枯渇していなければこういう状況にはならなかっただろう。相手が同じ神や女神で無い限り侵入者である黒い剣士が放った光波の一閃はサンタクロースに届くことは無かったはずだ。極論を言えばそもそもサンタクロースの目の前に侵入者である黒い剣士が現れるという状況にすらなっていないはずだ。
起った状況を無かったことにしてしまう、それほどまでにサンタクロースが持つ時と時空を操る能力は強力で理を逸脱したものなのである。しかし神力が枯渇した今、サンタクロースは無力である。
「……やりやがった……やっちゃいけねぇことをやりやがったなぁぁぁ」
黒い剣士はサンタクロースが無力になるその時を、神が弱点を晒す時を待っていたのだ。
「……なぁ何処かで見ていて笑っているんだろう糞創造主っ!」
サンタクロースが無力になる瞬間を黒い剣士に吹きこんだ奴がいる。本来なら何者の侵入や干渉もできないはずの場所を無理矢理こじ開けてくる奴がいる。そんなことができるのは奴しかいないと言わんばかりに何処でこの状況を見ているともわからない創造主と呼ばれる存在に対して激昂するサンタクロース。
「はぁ……なぁ? 新しい左腕と右足を生やしてもらって嬉しかったかよ……」
負傷した腹部を手で押えながらサンタクロースは黒い剣士への歪な左腕と右足を嘲笑った。
「はぁはぁはぁ……お前は……糞創造主が俺に見せた……あの光景にいた男だな……」
左腕と右足を失い夢への道を絶たれ全てに絶望し今にも死にそうな表情を浮かべていた人族。兜で顔が覆われているためその表情を拝むことはできないが、サンタクロースは目の前に立つ黒い剣士が創造主の見せた光景に出てきた男だと確信する。
「……」
黒い全身防具で覆い隠すように一切の感情を見せる事無く沈黙を保ったまま満身創痍なサンタクロースへ近づいていく黒い剣士。
「……ふッふふふ……アッハハハハ! 堕ちたか、堕ちたのか……何度繰り返した……何度時を繰り返してこの状況を作り出したんだ『剣聖』?」
精一杯の威勢を見せ黒い剣士を『剣聖』と呼び、何度時を繰り返したと煽り問いかけるサンタクロース。
「幾度も時を繰り返したことで、その心はボロボロに擦り減らしただろう……目指す夢までその鎧のように黒く染め上げて……禍々しい存在と成り果てたな『剣聖』……いや黒い『剣聖』ッ!」
既に創造主と呼ばれる存在の手の中にあり、言葉が通じないことは理解している。それでもサンタクロースは僅かに残っているかもしれない黒い剣士に残る心へ呼びかける。
「……」
しかし黒い全身防具に阻まれるようにサンタクロースの言葉は黒い剣士の心には届かない。
「カハッ……ッ!」
そして黒い剣士、いや黒い『剣聖』はその言葉を断ち切るように一切の躊躇なくその刃をサンタクロースへ振り下ろした。
「……そうか……」
黒い『剣聖』に斬られた傷口から溢れだす光の粒子を見つめるサンタクロース。
「……神殺しという偉業だけでは飽き足らず……俺の能力すら奪うつもりか……」
光の粒子へ変わっていく自分の体の行先が黒い『剣聖』の左腕へ吸い込まれていく光景を見つめそう力無く問いかけるサンタクロース。
「だが……お前の思い通りにはさせねぇ……悪足掻きだけはさせてもらうぞ……」
そう言い残しサンタクロースは光の粒子へと変わる。その殆どが黒い『剣聖』の左腕に取り込まれていく中、塵にも満たない僅かな残りカスが悪足掻きという言葉を体現するようにひっそりと気付かれること無く黒い『剣聖』が持つ剣に吸い込まれていった。
「……」
時と時空を操る能力を取り込んだことを確認するように左腕を動かす黒い『剣聖』。
「……」
確認を終えた黒い『剣聖』はその左腕を白い空へ掲げた。すると白い空間は崩壊を始める。崩壊し破片となった白い空間は黒い『剣聖』が掲げた左腕へと吸い込まれていった。
「……跳躍」
白い空間、サンタクロースの世界を吸収したことで神力を得た黒い『剣聖』は、次の目的地へ向けそう呟くのだった。
ガイアスの世界
今回ありません




