黒い襲撃者
ガイアスの世界
今回ありません
黒い襲撃者
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
「……」「……」
自分は別世界のテイチであること、今は転生を果たし精霊王になったことをピーランとハルデリアに明かした精霊王は、自分が腕に抱く私の未来のため力を貸してほしいと頭を下げた。
「……」「……」
精霊王の言葉にピーランとハルデリアは戸惑い困惑し言葉を失う。しかしその戸惑いと困惑は、目の前にいる精霊王という存在が口にした言葉を疑っているからでは無い。
ハルデリアはまだしも、ピーランは明らかに人とは違う気配を精霊王から肌で感じ取っている。その人智を越えた気配を感じるからこそ、ピーランは目の前の存在が口にした言葉が嘘偽りの無いものだと納得出来てしまう。しかし頭では理解していてもピーランとハルデリアの心は戸惑い困惑を続ける。
なぜ二人は戸惑い困惑しているのか。それは精霊王という存在からの頼みが人である二人にとって許容を越えたものだからだ。
王専属のお付兼護衛という立場にあるピーラン。異例ではあるもののその実力を認められ中級盾士へ出世したハルデリア。両者共に周囲に対してそれなりの影響力を持つ立場となった。常識の範疇であれば、周囲からの頼み事を解決できるだけの力と立場を二人は持っている。
「……ただの人族でしかない私が、あなたのお力になれるでしょうか?」
感情が状況に追いつかないまま、それでも口を開いたのは意外にもピーランではなく先程までテイチは双子だと信じていたハルデリアだった。
「……そ、そうだ……ただの人族でしかない我々が精霊王であるお前……いや、あなたの力になれるとは……到底思えない」
ハルデリアに先を越されたと思いつつも、その言葉に続き自分の正直な気持ちを口にするピーラン。
例えはこれが国や町、守らなければならない者たちや大切な人からの頼みであれば、二人とも早々に頭を縦に振ったことだろう。しかし精霊王はそのどれにも当てはまらない。精霊の王にして精霊の神とも言われる存在であり、自分たちとは格や次元が違うと思うピーランとハルデリア。たかだか人族の枠にしかいない自分たちが、そんな神にも等しい存在の頼みを聞き期待に応えることなど出来ないと奇しくもピーランとハルデリアの意見は一致していた。
「……」
そんな二人の言葉に精霊王は寂しそうな表情を浮かべた。例え人の生を終え精霊へと転生したとしても魂が持つ記憶や思い出は変わらない。既に終末を迎えた別世界で立場は違くとも最期まで対等に肩を並べ戦場を駆けた戦友。その戦友と同じ顔をしたピーランとハルデリアから人と精霊の間に境界線を引かれてしまった。肩を並べ戦場を駆けた戦友である二人と今この世界で対峙するピーランとハルデリアが別人であることを頭では理解しつつも、精霊王では無い部分、テイチであり続ける部分が寂しさを感じてしまう。自分が既にテイチとは別の存在であることを突きつけられているようで精霊王はピーランとハルデリアから超えられない壁のようなものを感じてしまっていた。
「二人ともなにか勘違いしてない?」
そんな重い空気に穴を空けたのはブリザラだった。
「別の世界からやって来て精霊王っていう凄い力を持っていても、テイチちゃんはテイチちゃんでしょ? 人族と精霊とか立場は関係ない……今自分がどうしたいのかが大事だと私は思うよ」
「「「……ッ!」」」
それが元々持っている誰に対しても物怖じしない社交性からくるものなのか、はたまた精霊王と近しい存在である女神から影響を受けているからなのかはわからない。どちらだとしてもブリザラは、両者の力や立場は関係無く、自分がどうしたいのかという気持ちが大事だとピーランとハルデリアに問いかけた。
「……ブリザラの言う通りだ……悪かった精霊……いやテイチ……お前の頼み、応えられるかはわからないが引き受けるよ」
「私に何ができるのか……わかりません……足手まといになるかもしれません……けれど私はあなたの力になりたい!
ブリザラの言葉で気付かされたピーランとハルデリアはそれぞれ自分の意思を精霊王へ告げる。
「……ありがとう……二人とも……ありがとうブリザラ様……精霊王では無く、私を見てくれてありがとう……」
これまで悲しいことは星の数ほどあった。救えなかった戦友を思い数えきれないほど頬を濡らした。しかし今頬を伝うのは悲しみでは無い。あなたはいつもそうだ、誰もが悩む問題を容易く飛び越え懐に飛び込んできてしまう。そんなことを思いながら精霊王は腕に抱くテイチのような幼さのある顔でそう感謝を口にしながら大粒の涙を頬に伝わすのだった。
「うん、よしッ! それじゃテイチちゃんの未来の為、果てはこの世界を救う為……進もうッ!」
しばらくして精霊王の気持ちが落ち着いたことを確認したブリザラは気合を入れるようにそう言うと、広間の奥にある扉を見つめる。
「……他の場所はハズレだった……残るはこの扉の奥、執務室だけだ……」
先行してインギル大聖堂に潜入していたピーランの調査の結果、残るは当主の執務室だけ。
「で、でも……これだけ広間が騒がしくても誰も出てきませんでしたよ?」
テイチの悲鳴から始まりブリザラと大精霊たちの接敵、ピーランとハルデリアの突入など広間は途切れることなく騒がしかった。それにも関わらず広間と隣接している執務室へ続く扉が開かれることは一度も無かった。そこに違和感を抱くハルデリア。
「……執務室には誰もいないでしょう……現当主がいるのは執務室の更に奥……地下です」
現インギル当主がいるのは大精霊たちの肉体が封印されている地下だと推測するブリザラは、執務室へ続く扉へと向かう。
「待て待てブリザラ……」
躊躇なく執務室へ続く扉に触れようとするブリザラを止めるピーラン。
「どんな罠があるかわからない、ここは私に任せろ」
扉前に立つブリザラを引き剥がし距離をとらせたピーランは、そう言うと周囲に罠が仕掛けられていないか探り始めた。
「……テイチちゃんはなにか感じる?」
扉の周囲に罠が仕掛けられていないか探るピーランの背中を見つめながらブリザラは、隣に立つ少し目が腫れた精霊王へ話しかけた。
「ブリザラ様……お気遣いありがとうございます、ですが私の事は今まで通り精霊王とお呼びください」
ピーランたちとのやり取り以降、ブリザラが気遣って自分のことをテイチと呼んでくれていることに感謝しつつも今まで通りの呼び方でと晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「でも……」
テイチでありたいという気持ちに寄り添いたいと思っていたブリザラは、そんな事を言う精霊王に異議を唱えようとする。
「……この子が起きた時、私がテイチと呼ばれていたら色々と混乱してしまいますから」
未だ意識が戻らず腕の中で眠るテイチを見つめながら精霊王は、己の気持ちでは無く状況を優先する。
「……うん、わかった……」
それでいいのならと精霊王の言葉に納得し頷くブリザラ。
「それじゃ改めて聞くけど、精霊王は何か感じる?」
自分の感情よりもテイチと状況を優先したその思いを尊重したブリザラは、改めて精霊王に扉の奥から何かを感じるか尋ねた。
「いいえ……これと言って特には……ただ……少し」
「問題無い、扉を開けるぞ……」
ただの気の所為程度で済ませてしまえるほどの感覚。僅かで些細な何かを感じた精霊王とピーランの声が重なる。
「……」
警戒しながらもピーランは扉を勢いよく開け放つ。
「「「「……ッ!」」」」
扉を開け放ったと同時に執務室に舞う血煙。その光景はブリザラたちに衝撃を与えた。
「アキ……さん」
確かに血煙や執務室で起った惨状にも皆驚いていた。しかしそんなことどうでも良くなるほどの衝撃を受けるブリザラたち。そしてその場にいた全員の脳裏に浮かぶある者の名。
そこにはインギル大聖堂の管理者兼責任者であるインギル現当主を剣の一振りで両断し絶命させた人物。黒い全身防具というこの場にいる全員の琴線に何かしら触れる姿をした者が立っていた。
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