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覗かせる世界

 ガイアスの世界


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 覗かせる世界




― 小さな島国ヒトクイ ガウルド 幻の防具屋『日々平穏』本店 ―




 今や小さな島国ヒトクイを飛び出し他の大陸に続々と支店を展開する程の一大防具屋となった『日々平穏』。そんな『日々平穏』には腕の立つ鍛冶師が数多く在籍しており、高性能な一点物オーダーメイドの防具を頼むならば『日々平穏』と言われるほど、冒険者や戦闘職たちからの人気は高い。

 ここまでの流れで一見『日々平穏』は資金力のある冒険者や戦闘職をターゲットにした高級店なのかと勘違いされることが多いが実はそれだけではない。『日々平穏』が持つ特殊な技術によって防具の生産性と性能を両立させた量産品の販売もしており、資金力が乏しい中堅や初心者冒険者や戦闘職にとっても人気な防具店なのである。

 そんな世界各地に支店が出来るほど、大盛況大人気な『日々平穏』には面白い噂がある。ヒトクイの首都ガウルドの何処かにあるとされる『日々平穏』の本店。そこには創業者にして超一流の鍛冶師がいる。その人物に認められれば、伝説級の防具を作ってもらえる、という噂だ。

 既に噂が出回るようになって十数年。未だ廃れることなく広まり続けるこの噂によって『日々平穏』の知名度は広がり続け、伝説級の防具を求め世界各地から冒険者や戦闘職がヒトクイへ集まるようになった。

 この噂によって『日々平穏』は、ヒトクイ経済の一翼を担っているのではと言われていたりするようだ。事実この噂によってヒトクイにやって来る冒険者や戦闘職は増加し町や村にある宿屋や食堂などは繁盛しているのがそれを物語っていると言えるだろう。

 しかし十数年廃れる事無く大きな富を生み出す呼び水となっているこの噂には殆ど進展がみられない。

『日々平穏』本店が首都ガウルドに存在することまでは誰もが理解しているものの、創業者兼、超一流鍛冶師に出会えたという者は愚か、その本店の所在地を発見したという冒険者や戦闘職は未だいないのだ。

 業を煮やした冒険者や戦闘職の中には『日々平穏』の経営陣や関係者に本店の所在や創業者のことを直接尋ねるようとする者もいた。しかし経営陣や関係者はどんなに詰められ、時にはお金を積まれても本店や創業者についての情報は語らなかったという。

 詰めてもお金を積んでも駄目ならと経営陣や関係者の後をつけて本店を見つけ出そうとする者たちも現れた。しかし追跡は何故か全て失敗。経営陣や関係者の後を追跡した者たちの証言によれば、突然姿を消したという何とも言えない文言ばかりが返ってくるのみだった。

 痺れを切らし武力を行使しようとする者もいた。しかし当然それは犯罪である。ヒトクイの兵たちによって武力行使に出た輩たちは即刻取り押さえられお縄になった。

 挙句の果てには『日々平穏』の噂を利用した詐欺行為をする者が現れた。噂を利用し自分は本店を見つけた、創業者に会ったと冒険者や戦闘職を言葉巧みに騙し信じこませ、その情報料という名目で金品や装備を奪うという詐欺が横行したのだ。しかしこれも犯罪である。当然被害者からの訴えによって動いたヒトクイの兵たちの活躍により多くの詐欺師がお縄になった。

 この話からわかるように、ヒトクイと『日々平穏』の間には深い繋がりがある。だがこれはヒトクイと『日々平穏』が水面下や裏で癒着しているという意味では無い。国に利益をもたらす技術団体として『日々平穏』が国の保護下にあるということを意味しており、これは公にもなっている。

 ヒトクイの後ろ盾を得たことでこれが抑止力となり、『日々平穏』に対して不利益を行おうとする者や危害を加えようとする者はかなり減少したようだ。

 こうして様々な問題はありつつも『日々平穏』に纏わる噂は、今日も冒険者や戦闘職たちをはやし立てるのだった。



― ガウルド 商業区端 ―




 噂に振り回され『日々平穏』本店を血眼になって探す冒険者や戦闘職たちを横目に、1人の猫獣人ロンキ=シュルイドは、ガウルドの商業区端にある目立たない路地へ入って行く。すると途端にその路地は跡形も無くなりただの壁へと変化していった。


 幻のように忽然と消えた路地の奥。ロンキは『日々平穏』と書かれた看板が置かれた一軒の小さな建物へと入っていった。

 一階の鍛冶場兼応接間を通り過ぎ、奥にある階段を上がり二階にある自室プライベートルームに入ったロンキは、自分のベッドで眠る一人の男を見つめた。


「……恩人であるあなたの夢は、私が絶対守るニャ」


 まるで祈るように自分のベッドで眠る男にそう告げるロンキ。


「……そう、あなたは私にとっての切り札……このまま死なせはしません」


 続けるようにロンキは別人のような声で眠る男にそう告げた。


 ロンキが店の前で倒れている男を発見したのは一カ月以上前。太陽が消失してから数日後のことだった。

 迫りくる脅威に対抗する為、『日々平穏』の創業者であるロンキに対して防具の大量発注を打診したヒトクイ。ロンキがその旨を経営陣に伝えた帰りのこと。自宅兼仕事である店の前でロンキは左腕と右足を失い倒れていた男を発見したのだ。

 最初ロンキは男を見て凶暴化した魔物にやられた冒険者か戦闘職かと思った。例え死んでいたとしても店の前に倒れていたということは自分と何か縁があるのだと考えたロンキは生死を確認する為に、店の前で倒れている男に近寄っていった。

 弱々しくではあるが上下する肩と背中。どうやらまだ息はあるようだとロンキは安堵し男の顔へ視線を向けた。

 次の瞬間、ロンキは言葉を失った。そこに倒れていたのは知り合いだったからだ。ロンキすればその男は命の恩人と呼べる人物だった。

 左腕と右足を失っていた恩人の男は一見酷い状態のように見えたが、傷口は適切な処置を施されており、命に別状は無いようだった。ただロンキは悟る。戦闘職としての男の人生は絶たれたのだと。


 恩人である男を自室プライベートルームへ運びベッドに寝かせてから数日。未だ目覚めない恩人の男を眺めながらロンキは、かつて男が言っていた夢について考え続けていた。


『剣聖』。剣や刀を使いこなす最上級戦闘職。恩人の男にはその才能が十二分にあった。戦闘の才能が全くないロンキでも『剣聖』としての才を恩人の男が持っていることは理解出来る。何故なら恩人の男が持つ武器にはそれを証明するだけの説得力があるからだ。

 防具を専門とする鍛冶師であるロンキだが、これまで積み重ねてきた経験によって物の良し悪しについては、専門外であってもある程度は判断出来る自信があった。

 しかしそもそもそんな良し悪しで判断する必要が無いほどに恩人の男が持つ武器は専門外のロンキから見ても一級品であった。なにせ恩人が持つ武器は伝説と呼ばれる代物。自我を持ち人語で意思疎通がとれるという今の技術では再現不可能な一本であるからだ。そんな伝説の武器が選んだ人物。当然『剣聖』としての実力はお墨付きなはずだ。

 だがその夢は半ばで絶たれた。利き腕ではない左腕はまだしも、戦う上で重要となる機動力、剣技を放つ上での体重移動に必要な脚を失ったのは戦闘職としては致命的である。そもそもそんな状態で意識を取り戻した男が冷静でいられるのかもわからない。下手をすれば精神が壊れ廃人になってしまうかもしれない。

 そんな不安を抱えつつもロンキは、まるで自分のことのように恩人の男の夢について考え続けていた。恩人の男が『剣聖』への道を再び歩むことが出来るよう力になれないかと。


「ならば失った手足を作ればいい……」


 まるでもう一人の自分が囁いた天啓の如く、ロンキの思考に閃きが過り刺激と新たな発想が浮かぶ。


「無いなら作ればいいニャッ!」


 決意し立ち上がったロンキが口にしたのは、凡人であれば辿りつかない突拍子も無い発想。ロンキは恩人の男が失った左腕と右足を自分の専門分野である防具を応用して作ればいいと考えたのだ。


「名付けて義肢防具ニャ!」


 失われた手足を補う簡易的な義肢が存在していることはロンキも知っている。だがロンキが知るその義肢では手足を失う前と同じ動きをするのは不可能。ロンキが目指すのは手足を失う前と同様、それ以上の性能を持った義肢である。それこそ戦う上で違和感にならない自然な動きが出来る高性能なものでなければならない。


「重くも無く、軽くも無い丁度いい重さの素材……」


 義肢として使う素材は使用者にとって丁度いい重量の物が必要。ただの木は論外。鉄や他の鉱石では重量に問題があると次々思考を巡らせるロンキ。


「でも一番の問題は……どうやって生身の手足のように思い通り動かすかニャ……」


 やはり一番の問題は使用者の考えをどうやって義肢である手足に伝えるのか。魔法なのか、それとも機械カラクリを使うのか。ロンキの思考は止まらない。


「ッ!」


 再び別の自分が囁いたように降って来る天啓。


「……あるじゃないかニャ……」


 鍛冶師としての今までの経験と天啓とも思える発想によってロンキはその答えを導き出す。


「……使用者にとって丁度いい重量でありその上強度が高い……なによりも思いを力に変えることが出来る金属……そう月石ムーンロックニャ!」


 思いを力に変えると言われている金属、月石ムーンロック。産地不明のその金属は、ガイアスで最も堅い金属とされている。だが月石ムーンロックはガイアスには存在しない金属、伝説や想像上の金属だと世間では言われている。

 しかしロンキは知っている。月石ムーンロックが実在することを。月石ムーンロックを素材とする武器が存在することを。


月石ムーンロックは……」


 以前恩人の男と一緒に潜った迷宮ダンジョン。そこでロンキが命を賭けてまで手に入れた月石ムーンロック


「鍛冶場ニャ!」


 月石ムーンロックが保管されている鍛冶場へ一目散に向かうロンキ。


「設計図は既に頭の中にある……後は作るだけニャ……」


 転がり落ちるように階段を下り鍛冶場に到着したロンキは、大切に保管されていた月石ムーンロックを手にするとすぐに作業へと取り掛かった。

 それから三日三晩、尽きることの無い狂人的な集中力でロンキは月石ムーンロックと向き合った。


「ん……」


 四日目の朝。月石ムーンロックを加工する作業音の所為か、はたまたこれは運命なのか。今まで眠り続けていた男がゆっくりと目を開く。


「……また……これか……」


 節目にはいつも意識を失い気付けば見知らぬ天井を見つめることになる男は、何度目とも分からない見知らぬ天井を仰ぎため息を吐く。


「……ここは……ッ!」


 ここが何処なのか確認するため体を起こそうとした瞬間、男は今までと状況が違うことに気付く。


「……」


 体に走る違和感。今までに感じていたものの喪失。顔から血の気が失せる男。


「はぁ……はぁ……はぁはぁはぁ……」


 違和感が事実であることを直視したくないという気持ちが男の息を荒くする。


「……ッ!」


 これは何かの間違いだ、そう祈りながら感覚のある右手で体の上にかかっている毛布ブランケットを剥いだ。


「……あぁぁぁ……」


 一瞬の静寂の後に突きつけられる容赦のない事実。


「あぁぁぁあああ……あぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!」


 漏れ出す嗚咽は、拒絶となって溢れだす。絶望に呑まれた男の悲鳴が『日々平穏』本店に響き渡るのだった。




― 場所不明 ―




 濃霧に覆われた白い空間。そこに白と赤を基調とするド派手な恰好をした男が立っている。


「……帰って来て突然何を見せられたかと思えば……」


 世界が世界なら一年に一度、世界中の子供たちの人気者になれるだろう姿をした男サンタクロースは、雪のように白い空間に入った亀裂から映し出される光景を見て気分を害し眉間に皺をよせた。


「……俺以外に時を弄っていた奴は……お前か……」


 亀裂から映し出される光景。ベッドの上で悲鳴をあげる男に対して話かけるようにサンタクロースは呟く。


「……なるほど……なるほどな……やたら無駄な情報を垂れ流す前置き……特に最後の終わり方何てクソだし……そして安いお涙頂戴演出……そんなペラペラな内容で泣けるか馬鹿野郎ッ!」


 ぶつくさとよくわからない文句を垂れるサンタクロース。


 「存在を感じないと思ってはいたが、そうやって裏で動いていたんだな……お前は……」


 男の悲鳴に駆け付けた猫獣人。だがサンタクロースはその猫獣人を見てはいない。見ているのは猫獣人と重なる何者かの姿。その何者かの姿に心当たりがあるのか、そしてその存在が気に食わないのかサンタクロースの眉間の皺は更に濃くなった。


「お前がこれ以上そいつをいじくり回すっていうなら、俺も手段は選ばねぇぞ……覚悟しろよ創造主ッ!」


 サンタクロースの怒りに呼応し周囲の濃霧が吹き飛んでいく。だがそこには何も無い。建物も山や川も無い。あるのは何処までも続く雪のように白い空間だけだった。




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