鈴の音は別れの合図
ガイアスの世界
今回ありません
鈴の音は別れの合図
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
「ブリザラ!」「ブリザラ様!」
ブリザラと大聖堂前で別れてから1時間も経っていないというのにまるで数か月もの間離れ離れだったというような反応を見せるピーランとハルデリア。
「……ど、どうしたの2人とも」
駆け寄ってきた2人の様子に少し動揺しながらもブリザラは柔らかい笑みを零した。
「お帰りなさい、ブリザラ様」
再会に騒ぐピーランやハルデリアとは違い、穏やかな笑みを浮かべながら帰還を喜ぶのは精霊王。
「ただいまッ!」
再会の嬉しさから理性を何処かに落としたピーランの穴が空く程の熱視線を横目にブリザラは、良い収穫があったというように嬉しそうな表情で魔王城から無事帰還した事を精霊王へ伝えた。
「……ああ、騒がしいと思えば……何だ、嬢ちゃんの連れが来ていたのか」
「……ッ!」「……ッ!」
何処か全体的に浮ついた雰囲気が流れる中、突如ブリザラの背後から姿を現す男。
「はぐぅ!」「うぅぅぅぅ!」
その男の登場によって浮ついた雰囲気が一瞬にして吹き飛んでいく。場の空気を一瞬にして塗り替えた男の圧。まるで重量級の魔物が降ってきたような衝撃と重量が体に圧し掛かり一切の身動きが取れなくなるピーランとハルデリア。
「おうおうッ! 頑張る頑張る、流石嬢ちゃんの連れだな」
赤と白を基調とした派手な姿や漂々とした物言いや態度とは裏腹に、その男から放たれる気配は明らかに人のそれでは無い。先程精霊王から感じたものが可愛くみえると思うピーランとハルデリア。
先程の精霊王と同様、敵意は感じられない。しかし男から発せられる気配は、物理と精神その両方からピーランとハルデリアを支配しようとする意図が感じられる。一度でも意識が逸れればもう目の前の男には抗えない。それを確信できる程に圧倒的な気配は、ピーランとハルデリアの心と体を勝手に男へ跪かせようとする。
「くぅぅぅ」「うぬぬぬぬぬ」
しかしピーランとハルデリアは耐える。耐えてみせる。何故なら二人には心から跪く相手が既に決まっているからだ。
「はぁ……子供みたいなことしないでくださいサンタクロース様」
ブリザラの前で他の者に跪く訳にはいかない。その一点だけで男ことサンタクロースが発する圧倒的な気配に耐えるピーランとハルデリアを救ったのは、何処か不機嫌な精霊王だった。
「あー悪い悪い、俺男の子だからこういう時どうしても試したくなっちゃうんだよな」
「……あッ!」「……はッ!」
拘束から解かれるように体が楽になるピーランとハルデリア。
「謝るなら私にでは無くお二人にどうぞ」
その物言いに呆れながら精霊王は謝罪の矛先をサンタクロースに示した。
「あー悪かったな……それにしても俺の圧に屈しないなんて強い忠誠心を持っているな……」
ピーランとハルデリアに詫びると共に二人のブリザラに対する忠誠心をサンタクロースは素直に褒めた。
「そして、いい部下を抱えているな嬢ちゃん」
続けてサンタクロースはそんな忠誠心の高い二人を部下に持つブリザラを褒めた。
「いいえ、二人は部下ではありません、友人のピーランとハルデリアさんです」
一切迷いの無い目でサンタクロースに二人は部下では無く友人だと紹介するブリザラ。
「……ッ」「そ、そんな恐れ多い」
部下では無く友人であるというブリザラの発言に少し暗い表情を浮かべるピーランと、慌てるハルデリア。
「なるほど友人か、それは重ねて悪かったな、お前さんたちが嬢ちゃんの友人だって知っていれば最初からこんなことをしなくてよかった……なんせここは一応敵地だからな」
「ッ!」「ああッ!」
忘れていたと思わず声を上げるピーランとハルデリア。ここはインギル大聖堂。ピーランとハルデリアは、ブリザラと共に洗脳や生体実験と言った怪しい噂の絶えないインギル大聖堂の視察と、それを管理運営するインギル一族の調査の為にやってきたのだ。
今ピーランとハルデリアが居るのは敵地なのである。いつ何時敵に襲われてもおかしくないのだ。だからサンタクロースは自分が見知らぬ人族、ピーランとハルデリアに対して威圧したのだ。
「不覚……でした」「……すみません」
サンタクロースの言葉で本来の目的を思い出したピーランとハルデリアは自分の非を認めると浮足立っていた気持ちを正すように背筋を伸ばした。
「わかればいいんだ、精進しろよ若人たち」
そう言いながら、ガハハハと豪快に笑うサンタクロース。
「ああ、なるほど……私、誤解していましたすみません、てっきり恰好をつけた今の言葉はただの後付けで先程の言葉が真実なのかと……」
ブリザラとの再会で気分が緩んでいたピーランとハルデリアを引き締めましたと言わんばかりに恰好を付けているサンタクロースへ問答無用で釘を刺す精霊王。
「……ギクッ! ……お、おお、おおう、言うね精霊王……」
精霊王に言われたこと全てが図星だったのか声を震わせるサンタクロース。
「ん? ……せいれいおう……セイレイオウ……」
サンタクロースの言葉に引っかかるもの感じたのかハルデリアは、何かを思い出そうと精霊王という名詞を呪文のように繰り返し始めた。
「サンタクロース殿……身の引き締まるお言葉をいただきありがとうございます……」
ブツブツと呟き考え事を始めたハルデリアを他所に、ピーランは浮かれていた自分の心を引き締めてくれたサンタクロースへ感謝を口にする。
「……一連の流れで王の敵……いえ、お知り合いだということは大体把握させて頂きました……」
サンタクロースに対して何処か棘のある物言いで話を続けるピーラン。
「……ですが、仕事の性質上、王の交友関係を大体把握しているこの私の記憶の中に、あなたの記録は無い……」
ブリザラに関するあらゆる交友関係についてピーランは大体把握している。即ちピーランはブリザラが関わっているサイデリー王国に住む全員のことを完全に把握しているという意味であり、そして他国でブリザラが出会った人々のことすら大体把握しているということになる。本人は仕事の性質上と言ってはいるが、ブリザラやサイデリー王国はピーランにそこまでのことを求めているわけではない。既に仕事という領域を越えているピーランのその行動は、ブリザラに対する並々ならぬ想いの強さの現れと言えるのである。
「へ、へぇぇぇぇ……」
ピーランのブリザラの交友関係は大体把握しているという異常発言にサンタクロースは背筋に冷たいものを感じていた。
「ね、ねぇ……嬢ちゃんのお友達の頭はだいじょ……」
「失礼、王にこれ以上近づかないでくださいッ!」
やんわりとお友達が変人であることを伝えようとサンタクロースがブリザラへ耳うちしようとした瞬間、二人の間に割って入るピーラン。
「お、おう」
傍から見れば王に対して忠実なお付兼護衛の行動に見えるが、その真意に気付いてしまったサンタクロースには、ピーランの行動が異常にしか見えない。
「へへへ、ピーランは仕事熱心なんです」
しかしピーランのその異常言動、異常行動を誇らしげに仕事熱心で済ませてしまうブリザラ。
「……ああそう」
この王にして、この部下、いや友人かとサンタクロースは何か末恐ろしいものを見たように身震いした。
「……『あくまで王のお付兼護衛』として私は知りたい……あなたが誰なのか……王とどのようなご関係なのか……教えていただけませんでしょうか、サンタクロース様」
その正体、そしてブリザラとの関係を直球に尋ねるピーラン。
「あ、ああ……」
『あくまで』と強調しておいて、その真意が丸見えであり、もはや隠しもしていないようにも感じるピーランの圧を受けたサンタクロースは顔を引きつらせた。
「……何者……俺の正体を聞きたいか……」
別段やましい関係でもなければはぐらかす理由も無い。それでも何故か言い辛い空気感になっているのは、目の前のピーランから発せられる圧の所為なのだろうと、人間に対してここまで怖気づいたのは何時ぶりだと、人の想いって変な方向に向く怖いなと思いながら引きつった笑みを浮かべるサンタクロース。
「……わかった……教え……」
何の決心かはわからないが、サンタクロースが心を決め自分の正体をピーランに明かそうとしたまさにその時。突然周囲に鈴の音が響き渡る。
「……ああ、活動限界がきちまったか……どうやら時間のようだ」
現実に引き戻されるというように、サンタクロースの顔が真顔に戻る。
「活動限界? 時間?」
何故鈴の音が聞こえてくるのか、活動限界とは一体何の事か、さっぱり話が見えてこないピーラン。
「悪いな、俺の能力は強過ぎるが故に、制限が設けられているんだ」
「はぁ?」
突然訳のわからないことを言い出すサンタクマロースに首を傾げるピーラン。
「まぁ、俺についての詳しい説明は嬢ちゃんと精霊王に訊いてくれ……」
自己紹介する暇も無いというようにそう言って慌ただしく身支度を始めるサンタクロース。
「待てッ! ちゃんと自分の口から説明しろッ! 王と……ブリザラとはどんな関係なんだッ!」
慌ただしく身支度を整え始めたサンタクロースの態度が自分から逃げているように見えるピーランは発狂する。
「ピーラン落ち着いてッ!」
鬼の形相でサンタクロースへ飛びかかろうとしたピーランを寸での所で羽交い絞めにして抑え込むブリザラ。伝説武具、自我を持つ伝説の盾の能力によってその見た目に反して怪力であるブリザラ。しかしその怪力で自分を羽交い絞めするブリザラを引きずりながら、ピーランはサンタクロースの下へ近づいてく。
「嬢ちゃん、羽交い絞めじゃダメだ抱きつけッ!」
この短い時間でピーランという人物をある程度理解したサンタクロースはブリザラに対して抱きつけと指示を出した。
「は、ハイ!」
サンタクロースの指示に素直に従うブリザラは、ピーランの腰に両腕を回す。
「ハッ! は、は……ほほほほ」
ブリザラが抱き付いたことで鬼の形相だったピーランの顔は一瞬にしてだらしないものへと変わった。
「嬢ちゃんに精霊王、そのトチ狂ったお友達にちゃんと説明しておいてくれよな」
「は、はい!」
既に戦意を喪失し何処かご満悦な表情のピーランを抱きしめながらブリザラはサンタクロースの言葉に頷く。
「相変わらず、悪知恵だけは働きますね」
サンタクロースがブリザラと共に返って来てから妙に当たりが強い精霊王は、そう言いながら目を逸らした。
「はぁ……悪かったよ、そういや言ってなかったな……ただいま……」
「ふん……知りません」
未だ不機嫌ではあるが、聞きたい言葉が聞けたからなのか精霊王の表情が僅かに緩む。
「あとは任せたぜ、精霊王……」
これからブリザラたちに立ちはだかるだろう難敵を前に、戦線離脱しなくてはならないサンタクロースはそう言って精霊王に全てを託した。
「……」
精霊王からの返事は無い。だがその表情が物語っていると、それ以上何も言わないサンタクロース。
「ああ、そうだ忘れていた……ああ、全く締まらないなぁ」
別れを惜しむように見つめ合っていた二人。しかし精霊王の顔を見つめていたサンタクロースは、何かを思い出したというように突然何も無い所を軽く切り裂いた。
「ほれ精霊王(仮)を返すぜ」
そう言いながらサンタクロースは、その切裂いた場所から眠っている少女を引きずりだすと不満そうな表情をしている精霊王へその少女を託した。
「……縁があればまた出会うこともあるだろう、じゃあな!」
サンタクロースがそう言い終えると同時に鈴の音が最高潮に達する。その瞬間、サンタクロースの姿は、その場から忽然と消えるのだった。
「……いつかまた」
まるで永遠の別れとでも言うように、サンタクロースが消えた場所を悲しげに見つめる精霊王。しかしその言葉はその表情に反して前向きであった。
サンタクロースが消えた後のインギル大聖堂に再び耳が痛くなるほどの静寂が戻る。忽然と姿を消したサンタクロースに対し、再会を願う者、教えを心に誓う者、怒りを抱いていた者、とその思いは様々である。しかしその中でただ1人、サンタクロースの事などそっちのけで別のことを考え続けていた者がいた。
「……セイレイ……オウ……せいれいおう……精霊おう……精霊王……そうかなるほど……精霊を統べる存在……即ち精霊王……テイチさんのその姿は精霊王だったんで……」
あの騒ぎに一切関与せず、ただひたすら頭に浮かんだ謎を解明しようと集中し考え続けた結果、ようやく納得のいく答えに行きついたハルデリアはそう言いながら精霊王に視線を向けた。
「て……アレ?」
しかし1つ謎を解けば新たな謎が出てくるのはこの世の理である。
「……テイチさんが二人?」
二人のテイチという新たな謎を前に、限界を迎えたハルデリアの思考は停止するのだった。
ガイアスの世界
今回ありません




