真面目に合同で章 10 (ブリザラ&アキ編) 王と竜
ガイアスの世界
アキの食事事情
ムウラガで一度死に、クイーンの能力によって半分死んでいて半分生きている状態にあるアキ。そんな状態のアキの原動力は全てクイーンが補っている為に、本来人間が必要とする食事が必要ない状態にある。その為アキはムウラガから今まで食事を一切とっていない。
だが食欲が無い訳では無く食べたくなることはあるようだ。
真面目に集うで章 10 (ブリザラ&アキ編) 王と竜
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
「力に溺れ、死ぬかアキ?」
最上級盾士ランギューニュが放った巨大な盾に叩き潰され地面にめり込む漆黒の全身防具を身に纏ったアキは、口元を歪ませその顔をランギューニュに向けた。
「その面を俺に向けるなッ!」
ムハードで右も左も分からず強者から搾取され続ける少年時代だったアキの人生を良くも悪くも変えた男の厳しくも優しいその表情にアキは激昂する。
「……アキ……」
全く聞く耳持たないといった感じのアキにランギューニュは少し困ったような表情になった。
「俺は、俺は……無能なんかじゃない……どんな力を利用してでも俺は強くなる……この世界に存在する誰よりも俺は強くなる!」
まるで自分に言い聞かせるようにアキはそう叫ぶと体に力を入れ自分に圧し掛かるランギューニュの巨大な盾を持ちあげ始める。
「アキ……例えどんなに強力な力を持っていたとしても、一人では限界がある……人は一人では生き……」
「黙れッ! ……人間でも『闇』でも無い半端者のあんたが……仲間を裏切り見捨てたあんたがそれを言うか!」
更に体に力が入るアキ。すると圧し掛かっていた巨大な盾はアキの力によって徐々に持ち上がっていく。
「そうか……僕の言っていることはお前には伝わらないか……ならば、徹底的にお前一人の力では限界があることを教えてやる」
怒りに染まるアキの表情を見たランギューニュは、まるで弟子へ助言する師匠のようにアキに言葉を送る。
「……ケッ……何が教えてやるだ! 今更師匠みたいなこと言ってるんじゃねぇよ!」
ランギューニュの一言一句が癇に障るアキは、更に怒りを露わにすると自分の上に圧し掛かっていたランギューニュの巨大な盾を吹き飛ばす。
「俺はな、力を欲しているんだ、それが自分の力であろうと他人の力であろうと関係無い!その力が俺の為に働きさえすればそれでいい、仲間なんてどうでもいいんだよ!」
体が自由になったアキは自分を見つめるランギューニュにそう言い放つと腰を落とし再び戦う態勢に入る。
「アキ……」
それはランギューニュに向けられた言葉であったが、少し離れた所から二人の戦いを見ていたウルディネの表情を暗くさせる。幼い頃のアキに何があったのか知らないウルディネにとってアキの放った言葉は、痛みとして心に突き刺さった。
「どうした? ただ突っ立っているだけなら、俺から行くぞ!」
バチリという弾ける音と共に、今までなぜかなりを潜めていた黒い気配がアキに纏わりつき始める。
「……ッ!」
今までと雰囲気が一変したアキに表情が硬くなるランギューニュ。
「……そう、力さえ、力サエアレバ……」
そう呟くアキの漆黒の全身防具に纏わりついていた黒い気配が禍々しい黒い炎に姿を変えアキを包み込んでいく。
《マスターダメ! 今、黒竜の力を使ってはッ!》
突然アキの脳裏に響く女性の声。だが禍々しい黒い炎を纏い、闘争と怒りに心を委ね、自分が自分である事を辞めた今のアキにその声は届かない。
「思い知レ……」
手甲を禍々しい形をした弓へと変化させその弓の弦を引き絞るアキ。するとアキの体を包む黒い炎と同じものを纏った矢が形を現した。
「絶対的力ってヤツヲ!」
弦から指を離すアキ。禍々しい形をした弓から放たれた黒い炎を纏った矢は、先程の矢よりも速い速度でランギューニュに向かって放たれる。
「なっ!」
明らかに今までと違う力の質量。そしてその黒い炎を纏った矢が放つ力の性質がなんであるかに気付いたランギューニュは、その驚きで一瞬反応が遅れる。反応した時には避ける暇もなくランギューニュは自らが持つ盾でその黒い炎を纏った矢を防ぐことしか出来ない。
「ぬぐっ!」
一瞬で体を持っていかれそうになる程の衝撃。それが一本の矢の威力とは思えない程の衝撃にランギューニュからは奥歯を強く噛んだような声が漏れる。それはもう矢とは言えないはいえない。圧倒的な力を持つ存在の放つ拳のような衝撃と重さであった。
「おらアアア!」
だがアキの攻撃はそれだけでは終わらない。防ぐのに精一杯のランギューニュに対し容赦無く二射目の矢を放つアキ。
「爆ぜろぉおおおお!」
二射目を放った直後、アキがそう叫ぶと一射目の矢を巻き込み二射目の矢が黒い光を発しながらランギューニュを飲み込み、爆炎をあげる。
「くぅ!」
周囲一帯を爆ぜさせるその威力は少し離れた所で二人の戦いを見ていたウルディネにまで及ぶ。咄嗟に水の壁で作り爆風を防いだウルディネは、アキの変貌に茫然とするしか無かった。
― サイデリー王国 商業区 ―
アキの放った黒い炎を纏った矢の爆発は、微弱な振動となって頑強で高くそびえる壁に囲われているサイデリー全体に響いた。しかし現在春の式典の真っ最中で何処もかしこも騒がしいサイデリーの人々は、僅かに揺れた地面の振動も、壁の外で起こった爆発の音すらも気付きはしない。
その異変に気付いた者といえば、アキとランギューニュが戦う場所から一番近い東壁の門番をしている盾士数人とその東壁の門から数百メートル離れた商業区で町の人々に手を振っていたブリザラ、そしてブリザラが背負う特大盾、自我を持つ伝説の盾キングだけであった。
《王》
町の人々に向けていた笑顔が突然凍りついたような表情になり振っていた手をピタリと止めたブリザラに呼びかけるキング。だがキングが呼びかけた瞬間、ブリザラは何も言わずに走り出していた。
「ブリザラ様?」「どうしたの?」
突然走りだしその場を後にするサイデリーの王の姿に、一体どうしたという表情で町の人々は走り去っていくブリザラの背を見つめる。
「申し訳ありません、緊急の用にて一時この場をあけることをお許しください」
茫然とする町の人々にブリザラのお付をしているピーランは、深く頭を下げ突然走り去ってしまったブリザラの行動の意を説明すると、次の瞬間にはその場から姿を消した。
「な、なんだ……」「消えた……」
その場に取り残された人々は、それから数秒の間ポカンと口をあけたまま茫然とするのであった。
『王よ感じたか?』
「う、うん……何か嫌な感じが……」
大通りを全力疾走する王の姿にすれ違う町の人々は驚きの表情を浮かべる。ブリザラは町の人々からの驚きの視線を浴びながら、自分の背から聞こえるキングの声に自分が感じた感覚を伝える。
『……嫌な感じ? 巨大な力を感じたのではないか?』
ブリザラが口にした言葉に違和感を抱いたキングは、そうブリザラに聞き返した。
「う、うん……多分キングが感じている物と一緒だと思う、だけど凄く……本当に凄く嫌な感じがするの」
東壁に近づく程にその嫌な感じ、胸騒ぎが強くなるブリザラの表情は苦しそうに歪む。
《……王は……小僧の力に嫌悪を感じているのか? ……小僧……一体お前の身に何が?》
東壁の向こう側で発生した力を純粋な力、数値としてしか認識していないキングは、その力の発生元であるアキの身に何が起こったのかを思考する。
「ブリザラ様!」
巨大な力、ブリザラ曰、嫌な感じがする東壁にある門へと走るブリザラの後にピーランが姿を現す。
「一体何があったのですか?」
咄嗟に町の人々には急用が出来たと説明していたが、実の所、何が起こったのか全く把握できていないピーランは、ブリザラの横で並走しながらその行動の意味を聞いた。
「……嫌な感じがするんです……」
「嫌な感じ?」
ピーランは本来の職業柄、気配には人一倍敏感である。しかしピーランは、ブリザラの言う嫌な感じ、即ち危険な気配を全く感じず首を傾げた。
『巨大な力が東壁の向こう側から発生している、王はその巨大な力を嫌な感じと言っているようだ』
今一理解していない表情を浮かべるピーランに砕いて説明をするピーラン。
「なるほど……な、何! おいブリザラ! そんな危険な場所に向かっちゃダメだろ!」
キングの言葉で状況を理解したピーランは、自分の今の立場も忘れ慌てるようにブリザラを止める。
「ダメです! 今いかないと取返しのつかないことになるような気がします!」
それは何の確証も無いブリザラの勘であった。だが何の確証も無いはずのその勘がブリザラの心をざわつかせ足を止めさせない。
「しかし、お前が自ら行くことはないだろ? ここは盾士にまかせれば……」
「あ、あれ!」
気が動転し現在の自分の立場を忘れお付になる前の喋り口調に戻ってしまったピーランの事すら気にならない程、ブリザラは首が痛くなる程高くそびえるサイデリーの壁の頂上付近から上がる黒い煙を指さした。
「ブ、ブリザラ様!」
既に異変に気付き始め行動しようとしていた門番の盾士達は、壁の頂上付近を見上げながら自分達の下へ走って向かって来るブリザラに驚きの声をあげる。だがそんな盾士達には目もくれず東壁の門を抜けようとするブリザラ。
「ダメですブリザラ様! 外で何が起こっているのか分かりませんお止まりださい!」
そう言いながら東壁の門を抜けようとするブリザラに気付いた盾士達は門の前に立ちはだかった。
「行かせてください、この先に……この先に……」
盾士に行く先を阻まれたブリザラは、そう呟きながら門の先にある外に手を伸ばす。
「……くぅ……もう知らないからな……」
必至で壁の向こう側へ行こうとするブリザラの姿に何かを決心したピーランは盾士達の前に出ていく。
「盾士の方々、申し訳ありません、ガリデウス隊長からの特命です、ブリザラ様を……王をこの先へ向かわせてください」
「何? ガリデウス様の……」
門の先へ行こうとするブリザラを体で制していた盾士はピーランの言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐに疑いの目を向ける。
「ガリデウス隊長からの特命とは、一体どんなものだ?」
盾士達の中で特命と言えばどんな状況よりも最優先される命令であった。それは軽々と発せられるものでは無く特命が言い渡されたとなれば、それは国の一大事を意味する可能性を秘めておりガリデウスも軽々しく特命を使うことは出来ない。そんな特命の内容が現在安全かどうかも分からない東壁の外へサイデリーの王であるブリザラを送り出すというものであれば、特命の意味と重さを知る盾士達が不審に思っても仕方のないことであった。
「そ、それは……」
咄嗟に付いた嘘が不審がられている事に気付き、次の言葉を思考するピーラン。
「特命だろう、王に道を開けろ馬鹿者が!」
「ぐ、グラン隊長!」
地面が揺れたのではないかという程の突然の怒鳴り声が、盾士達の後ろから響く。その怒鳴り声に肩を揺らし驚く盾士達。盾士の後ろに立っていたのは、サイデリー王国の東地区を守護する最上級盾士、グラン=ニヒトであった。
「王よ、ガリデウスの特命……お急ぎください」
ブリザラの行く手を阻んでいた盾士にどくよう指示を出したグランはブリザラにそう言って頭を下げた。
「グランさん……ありがとう」
自分に頭を下げるグランに礼を告げながらブリザラは門の外へと飛び出していく。
「それでは私も……」
内心助かったと胸をなで下ろしながらブリザラの後を追おうとするピーラン。
「待て……」
しかしそんなピーランを止めるグラン。
「……本当にガリデウスの特命なのだな……」
「……はい……」
グランの問にゆっくりと頷くピーラン。
「そうか、引き留めてすまなかった」
「いいえ……」
グランの言葉に軽く会釈をしたピーランは、心の中で深くため息を吐くとブリザラの後を追い、東門を抜けるのであった。
「た、隊長……どう考えてもこの特命はおかしいですよ」
東壁の門を抜けその先へ走って行くブリザラとピーランの後ろ姿を見送った盾士の一人が、グランにこの特命は疑わしいと訴える。
「ああ、間違いなく嘘だろうな……」
ピーランの言葉が完全な嘘である事を見抜いていたグランは、ピーランが口にした特命が疑わしいと訴えてきた盾士にそう呟く。
「なッ! ならばなぜ王をお止にならなかったのですか!」
ピーランの言葉を嘘だと知りながらブリザラを通したグランに呆れた表情を浮かべる盾士。
「ランギューニュの奴に頼まれてな」
そう言いながら口を押えるグラン。
「ランギューニュ隊長に?」
「外の状況は俺が調べとくから、お前達は自分の仕事に戻れ」
口を滑らしたと一瞬慌てたグランは、すぐさま表情を戻すと盾士達に持ち場に戻れと指示を出し誤魔化した。
「はぁ……これでまたガリデウスの長い小言に付き合うことになるな……」
鬼の形相するガリデウスの顔を思い出し憂鬱な表情を浮かべるグラン。
「……まぁ、それは置いといて、ランギューニュ……お前は何を企んでいる?」
憂鬱な表情を浮かべていたはずのグランは口元をニヤつかせ自分達の仕事に戻ろうとする部下達の後ろ姿を眺めるのであった。
― サイデリー 東の雪原 ―
サイデリーの東壁から少し離れた先の雪原はアキの放った黒い炎を纏った矢の爆発によって雪は溶かされ地面がむき出しになっていた。爆発の影響で溶けた雪が霧となって周囲を包みこみ視界は悪い。
爆発の中心地の地面は抉れて大きな窪みが出来ていた。その爆発の中心を見つめる人影。霧の中にあってもはっきりとわかる黒い炎を纏い更に禍々しさを増した漆黒の全身防具を身に纏うアキの姿は、黒竜の姿を思わせる。兜の形状が黒竜の頭部に酷似した物になりアキの表情は完全に伺えないが、漂う雰囲気は怒りと闘争に満ちていた。
「……なるほど……その禍々しい力も伝説の防具のお蔭か……」
完全に黒竜の力に身を委ねたアキの視線の先、爆発の中心にはボロボロのランギューニュの姿があった。身に着けている防具の大半が大破し、下に着用していた服までもが焼け焦げているが、見た目程ダメージを受けていないランギューニュは、そう呟くと自分を見下ろす黒竜そのものと言っていいアキを見上げた。
「ホウ……あの攻撃ヲ受けて殆ど無傷カ……」
アキとその後ろに漂う黒竜の声が入り混じったような声がランギューニュに向けられ発せられる。
「とんでもないものを背負ったなアキ」
ガイアスでも滅多にお目にかかれず既に滅んでいるとも囁かれている存在、ガイアスで生きる生物の中で頂点の一つに立つとも言われる黒竜をその身に宿したアキを見ながらランギューニュの口元は大きく歪む。それが笑顔と言えるものなか分からない程にランギューニュの表情は冷たくそして歪であった。
黒竜という存在をその身に宿したアキを前に、ランギューニュもまた、己に流れる『闇』の血が滾り始めているのを感じた。
「まいったね……こんなにも力が昂るのはいついらいか……」
それが盾士としての自分との決別と言わんばかりに手に持つ盾を足元に置いたランギューニュは、体から吐き出すように『闇』を放出しはじめた。
「ほほう……いい『闇』の気配ダ……」
そうアキとも黒竜とも言えない存在が言った瞬間、目の前に姿を現すランギューニュ。
「受け取れ」
そう言って掌に収まる程の黒い球体をアキの胸元に押し付けるランギューニュ。次の瞬間、黒い球体は、黒い雷を放電しアキの体を走り抜けていく。しかしアキはダメージを負った気配は無く自分の胸に黒い球体を押し付けたランギューニュの腕を掴もうと手を伸ばす。
「ッ!!」
危険だと判断したランギューニュはすぐさまアキの胸から手を離しその場から跳ねるようにしてアキから距離をとる。
「くぅ……」
しかし地面に着地した後、膝をつき苦悶の表情を浮かべるランギューニュは右腕を左腕で抑える。しかしそこに右腕は無く空を切る左腕。ランギューニュの右腕は二の腕から先が消失し大量の血が流れていた。
「フム……期待シタガ……この程度カ……」
そう言ってアキは手に持っていたランギューニュの右腕を握りつぶす。
「くぅ……」
跡形も無く消え去る自分の腕を見て表情を曇らせるランギューニュ。
「……ダガ……そうは言っても『闇』の力ヲ持つ者、腕の一本や二本、再生できるはずだナ」
そう言いながら消失したランギューニュの腕に視線を向けるアキ。ランギューニュの失われたはずの右腕は『闇』に包まれ瞬時に再生していく。
「例え半端者であったトシテモ、『闇』の血を持つ者トシテ、それぐらい出来なくては話にナランよな」
黒竜の頭部のような兜に顔を覆われアキの表情を伺うことは出来ないが、ランギューニュのその姿にその兜が笑みを浮かべたようにも見える。
「さぁ、続きダ!」
そう言うと今度は自分の番だと言わんばかりにアキは左腕をランギューニュに向ける。すると左腕の手甲が禍々しい形状をした弓に変化する。
「なっ!」
弓を引く動作もなくその弓から『闇』の炎を纏った矢が放たれた。しかも一本では無く数十本という数がランギューニュに襲いかかる。その数に驚きの表情を浮かべたランギューニュではあったが、すぐさま回避行動と共に防御体勢をとる。周囲に数えきれない程の盾を出現させ襲い来る『闇』の炎を纏った矢を迎え打つ。矢が盾に触れた瞬間、その盾を巻き込み『闇』の炎を纏った矢は爆発していく。
「ソラどうした、防ぐだけでは我ニハ勝てぬゾ」
まだ手心を加えていると言った口ぶりで次々と爆発する矢を回避し防ぐランギューニュを挑発するアキ。
まるで子供をあやすかのようなアキとただ嬲られるだけのランギューニュ。一縷の望みが無い絶望的な光景がそこにはあった。
だがランギューニュの表情に絶望の色は一切無い。何かを待っているような、それこそこの状況を覆すことが出来る秘策を持っているというような表情のランギューニュ。
「止めてください!」
そしてその希望はランギューニュの思惑通りに姿を現した。その声を耳にしたランギューニュは、自分の役目はこれで終わりというように体から放出していた『闇』を止めた。
「後は王に……ブリザラ様にお任せします……」
そう言ってブリザラに笑みを浮かべたランギューニュは自分が展開させていた盾と盾の隙間を抜けて飛び込んできた『闇』の炎を纏った矢の爆発に呑み込まれていたった。
「ランギューニュさぁぁぁぁぁぁぁん!」
自分の目の前で消えていったランギューニュに張り裂けんばかりの声を上げるブリザラ。
「フン、たいしたことなかっタナ……サテ小娘……次はお前ガ私を楽しませテクレルのか?」
黒竜を模した兜の目がブリザラを見つめる。
ブリザラに追いついたピーランは瞬時に状況を理解しブリザラの前に出ようとする。だがそのピーランの行動を手で制するブリザラ。
「あなたは誰ですか?」
「む? 小娘、ソノ言葉は我に向けているのか?」
ブリザラの問に少し不服そうに答えるアキ。
「あなたは誰ですか?」
「いいだロウ教えてやる我はコノ世界を支配スル絶対的支配者、黒……」
「あなたは誰ですか!」
何の躊躇も無くアキの言葉を遮り問いかけるブリザラ。
「おのれ人間……私の言葉を遮ルトハ、いい度胸だ消し炭にシテクレル!」
自分の名乗りを邪魔されたアキは敵意をむき出しにしてブリザラにランギューニュを葬った矢を向ける。
「……あなたはアキさんでは無い、アキさんを返しなさい!」
矢を向けられているにも関わらず一切ひるむことなくアキに向かってブリザラはそう言い放つ。見開いたその瞳は今までとは比べものにならない程鮮やかな深紅に染まっていた。
ガイアスの世界
アキを包む『闇』の炎
怒りと闘争の感情が限界を突破した時、アキの自我は失われ、内に潜んでいた存在が姿を現す。その存在、黒竜が姿を現した時に現れるのが『闇』の炎である。
全てを焼き尽くすと言われる『闇』の炎は、黒竜の代名詞であり、燃え上がれば数週間燃え続けるとも言われ大量の水をかけても消えることが無い危険な炎である。
そんな『闇』の炎を身に纏う状態は何人たりとも触れることが出来ないらしい。




