刹那の再会
ガイアスの世界
今回ありません
刹那の再会
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
―ムウラガ大陸 魔王城跡―
跡形も無く消し飛んだ城。跡形も無く消し飛んだ周囲の環境。魔王城の周囲に生息していた魔物たちや植物も、魔王の力に引かれ集った魔族たちも黒竜の放った黒炎によって全て焼かれ灰となった。残っているのは黒炎によって焼かれた大地だけ。しかしそんな場所に、そんな場所だからこそ突如として現れた一輪の黒花は、禍々しくも神々しい美しさを放つ。芸術家であれば誰しもがその光景を己の作品として形にしたい、そう思う程に地獄と化した大地に咲く一輪の黒花には何か感情に訴える底知れない魅力があった。例えそれが世界を破壊する者、魔王と呼ばれる存在だとしても。
黒竜の精神支配を断ち切り、そればかりかその力を取り込んだ魔王。いや、もはや魔王というだけでは片付けられない存在となった元人族にして自我を持つ伝説の防具の所有者であるアキ=フェイレスは、その視線を自分の胸元に落とす。
「……」
そこには人族でありながらその有り余る才能で持って、最悪とも言われる黒竜へ勇猛果敢に挑んだ少女テイチの寝顔があった。
「……」
先程まで黒竜と戦っていたことが嘘のように幼い寝顔を見せるテイチを己の腕に抱くアキは、人族だった時にも見せたことが無かった柔らかい表情を見せた。
「……ッ」
しかし突然現れた気配に柔らかかった表情が消え魔王の顔に戻るアキ。その気配に動じること無く魔王は、ゆっくりとその視線を背後に向ける。そこには赤と白を基調とした服を着た男と自身の身の丈とほぼ同じ大きさの巨大な盾を背負う少女が立っていた。
「何の挨拶も無く不躾で悪いが、その子を渡してもらいたい……」
魔王が腕に抱く少女を返せと不躾に要求する男の表情には僅かだが緊張の色が伺える。
「……」
人の姿をしていながら明らかに人ではない気配を放つ男に対してアキは無言。返事する意思すら無く、そもそも男の話を聞いているのかも定かでは無い。魔王の意識は全て男を無視して隣に立つ少女へ向けられていた。
「……」
魔王の胸中には人族だった頃の感情、少女への懐かしさとある想いが広がっていた。
「……」
しかし胸中に抱く人族だった頃の懐かしさや想いを口にする事は無く沈黙したままただ少女を見つめ続ける魔王。
「……」
少女も魔王と同じく何も語ろうとはしない。沈黙したまま魔王を見つめることで少女は自分が抱く想いを伝えようとしている。
「……」
蚊帳の外に追い出されたかのように互いに見つめ合う2人の空気感に割って入ることが出来ない男は、何とも複雑な表情を浮かべた。
「……皆相当に疲弊している、すぐに休ませてやれ」
少女の想いが伝わったのか定かではないが、聞いていないようでしっかりと男の要求を聞いていた魔王は、テイチの身を案じながら差し出した。
「……お前……いや、今は言うまい……」
魔王に対して何かを感じている男は、自分の考えを一度は口にしようとしたが、場違いだと口を閉じながら差し出されたテイチを受け取った。
「……本来俺たちはこの場で出会う運命には無い……然るべき時、然るべき場所で出会うのが筋……そうだろうサンタクロース……」
そんな男の心中を見透かすようにアキは男の名、時と空間を司る神の名を口にする。
「……やはり……お前……」
魔王のその言葉で自分の考えが正しいことを確信するサンタクロース。
「……」
お前との話は終わりだといわんばかりにサンタクロースへの視線を断ち切った魔王は、横に立つ少女へ視線を戻した。
「……オウ……いや、ブリザラ=デイル……」
「……は、はいッ!」
傍から聞けばそれはただの言い間違いで済まされる。しかしその言葉を向けられた少女ブリザラ=デイルに限って言えば、その言い間違いに聞こえた魔王の言葉は違う意味を持つ。
「……こんな場所に来る暇は、今のお前には無いはずだ……さっさと立ち去れ」
「……はい」
冷たく突き放すような言葉。しかしブリザラは魔王のその言葉に笑顔で頷いた。
「……さあ行くぞ嬢ちゃん」
用件を満たし一刻も早くこの場から離れたい様子のサンタクロースはブリザラの肩を抱き強引に引き寄せる。
「……魔王……さん……」
引き寄せるサンタクロースに抵抗し一歩前へ出たブリザラは、既に2人へ背を向けていた魔王に声をかけた。
「……何だ?」
背を向けたまま短くブリザラの言葉に耳を傾ける魔王。
「……また……会えますか?」
相手は人類の敵であるにも関わらず、まるで想い人との再会を望むようにブリザラは魔王にそう尋ねた。
「いずれ……然るべき時、然るべき場所で……」
背を向けたままアキはブリザラの問にそう答えた。
「……はいッ! ……約束ですよ」
背を向け表情のわからないアキへ軽く頷いたブリザラは約束と強調すると満足そうな表情を浮かべながらサンタクロースへもう大丈夫ですという視線を向ける。
「……はぁ……」
ブリザラの満足気な表情に対して呆れたというような深いため息を吐くサンタクロース。
「……それじゃあ邪魔したな魔王……」
そう言葉を残して少女を抱えたサンタクロースとブリザラは魔王の前から姿を消した。
「……」
未だ消えること無く魔王城があった場所を焼き続ける黒炎。その中心に立ち黒く重そうな雲が広がる空を見つめる魔王。
「……こちらの準備は整ったぞ……早く目覚めろ……」
魔王が誰かに対してそう呟いた瞬間、ムウラガ大陸の三分の一を焼き続けていた黒炎の残り火は一瞬にして鎮火した。それは誰かへの苛立ちを少しでも鎮める為の行動であると同時に、改めて黒竜による支配から脱却したことを示す魔王なりの意思表明でもあった。
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