禍々しくも美しい黒花
ガイアスの世界
今回ありません
禍々しくも美しい黒花
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
― 現在 インギル大聖堂 ―
「……」
水を司る上位精霊ウルディネを救出するため時と空間を司る神サンタクロースが持つ瞬間移動の力を借りフルード大陸にあるインギル大聖堂からムウラガ大陸にある魔王城へ飛んだテイチたち。魔王城にいる精霊たちから送られてくる光景を介してそのテイチたちと魔王の戦いを見ていたブリザラは、突然暗転した光景を前に言葉を失っていた。何故なら精霊たちが送ってくる光景が暗転する直前、魔王もとい正体を現した黒竜による黒炎が全ての力を使い切り満身創痍の状態にあったテイチへ放たれた直後だったからだ。
「精霊王さん……テイチちゃん……テイチたちはッ!」
暗転した光景から視線を外し精霊王へ向けそう叫ぶブリザラの表情はすがり祈るようなものだった。
「……あっ……はい」
状況が呑み込めず茫然としていた精霊王は我に返るとブリザラの問に答える為、状況の説明を始めた。
「……精霊たちは戦いに巻き込まれないよう離れた所から私たちの様子を我々に送って来ていたはず……でもその精霊たちの気配を感じられない……それほどの威力を持った一撃を魔王が放ったということは……」
状況が呑み込めていないはずの精霊王は、それでも自分の役割を全うしようと今魔王城で起っている状況を淡々と口にする。しかしその口調とは裏腹に、精霊王の表情は今にも泣きだしそうなほどに悲しみが広がっていた。
「そんな……」
状況説明を聞かずとも、精霊王のその表情だけ全てを悟るブリザラは、信じられないという表情を浮かべながら崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
「まだだ……まだあきらめるな……」
テイチたちの死が確実なものとなり絶望するブリザラと精霊王を励ますように希望を指し示す言葉を口にするサンタクロース。
「精霊王、黒竜の一撃に巻き込まれなかった精霊たちを直ぐに同じ場所へ向かわせろ……」
続けてサンタクロースは精霊王にそう指示を出す。
「……もう、無駄ですよ……」
茫然とした表情で力無くその場に座り込んでしまったブリザラの姿を見て、悲しい事実をはっきりと自覚してしまった精霊王は、無気力な声でサンタクロースの指示を無視しようとした。
「馬鹿野郎お前たちを慰める為にこんなこと言っている訳じゃない……俺には精霊王(仮)が生きているという確証がある……いいから早くやれ!」
絶望に呑まれ全てを諦め無気力状態となっていた精霊王をそう一喝するサンタクロース。
「へ? ……それ……本当ですか?」
サンタクロースの一喝により、僅かに希望の光が表情に宿る精霊王。
「ああ、細かい事は精霊が送って来る光景を見ればわかる、だから早くしろッ!」
「は、はいッ!」
サンタクロースの勢いのまま精霊王は魔王城付近で生き残っている精霊たちを探し始めた。
「嬢ちゃんも心折れたって表情をするなよ、背筋伸ばして顔を上げろッ!」
精霊王が魔王城付近にいる精霊たちを探す中、未だ絶望の淵にいるブリザラをそう言って精霊王と同様に一喝するサンタクロース。
「……でも……テイチちゃんは……」
「おい、話を聞いていなかったのか、俺の考えが正しければ精霊王(仮)はまだ生きている……だから少し待ってろッ!」
ブリザラの背中を軽く叩きながらそう言うサンタクロース。
「は、はい」
テイチが生きている。あの状況で本当にそんなことありえなるのか。半信半疑のままブリザラはサンタクロースクロースの言葉に頷いた。
「……魔王城付近で生き残っていた精霊を発見しました……現在の魔王城の光景来ます」
魔王城付近で生存していた精霊を発見した精霊王は、直ぐに接触すると新たに送られてくる光景に視線を向けた。
「……魔王城一帯で俺が関与していない時の歪みを観測した……俺の考えが正しければ……あの野郎は、やり直したはずだ」
― 現在 ムウラガ大陸 魔王城跡 ―
周囲のもの全てを巻き込む大爆発を起こした黒炎。テイチの放った上位精霊四体による総攻撃をも越える威力を持った黒炎は、黒竜だけを残しあらゆるものを灰へと変えた。黒竜の放った黒炎の影響はそれだけにとどまらずムウラガ大陸の地表を抉りとり、大陸の形までも変えてしまっていた。
【……消し飛んだか……人族相手にこれは過剰火力だったかな……】
魔王城跡、いやもはやその面影もない爆心地の巨大な円形のくぼみの中心にただ1人立つ黒竜は、そう言いながら裂けた口を吊り上げ満足気な笑み浮かべた。
【……ッ!】
だが直ぐに黒竜の浮かべた笑みは消えた。
【……何だ……お前?】
城の残骸も周囲の山や川も魔王の威光にあやかろうと集まって来た魔族も全て吹き飛ばし大陸の形すら変えてしまった黒炎。だからこそ黒竜の目の前に立つその存在はいてはならない、あってはならない存在だった。
「……」
だが確かにそれはそこに存在してしまっている。黒炎の爆発に伴う衝撃波で肉体が四散することもなく。黒炎の熱波に焼かれて灰になることもなく。それはどういう訳かこの場に存在している。更に黒竜を混乱させたのは、その存在が腕に抱えている者。
確かに黒竜に牙を向いた召喚士の少女は黒炎によって消し炭になったはずだった。しかしその存在は消し炭になったはずの人族の少女を抱えていた。五体満足、火傷は愚か擦り傷すら見当たらない状態の少女をその存在は抱えていたのだ。そして黒炎の残り火が舞うこの場所で黒竜という絶対強者を前にその存在は恐れる事無く威風堂々とした姿で立っている。
【……お前……その姿は……まるで……】
それは人の形をしてはいるが、それが本当に人なのか黒竜には何故か認識することが出来ない。しかし混乱する中でもその存在の形には何処か見覚えがあると思う黒竜。
【……アキ……】
思わずまた有り得ないこと、有り得ない人物の名を口走る黒竜。
【……いや……違う……奴の肉体はここにある……】
そういいながら黒竜は自分の体を確認するように視線を自分の体へ落とす。
【なぁッ!】
しかし視線を自分の体に落とした瞬間、ある事実に気付いた黒竜は、悲鳴にも似た声を思わず漏らしてしまった。
【……ど、どういうことだ! わ、我の肉体……が……】
動揺と混乱が入り交じる黒竜に突きつけられた事実。それは己の肉体が消失しているというものだった。
【……肉体から切り離された……のか?】
はっきりと断定できないのは、いつどこで魂が肉体から切り離されたのか黒竜は理解出来ていないからだった。だが、黒竜が肉体を失っているのは事実。
納得できることではないが自分が肉体から切り離されて魂だけの状態、幽体であることを事実として呑み込んだ黒竜は、それを実行しただろう目の前の存在へ怒りの籠った視線を向けた。
「お前……どうやって我を切り離した! お前は我の精神汚染を受けその存在自体が消滅していたのではないのか?」
「……」
だが黒竜の問にその存在は答えない。
【……クッ 答えろッ! お前……お前なのだなッ! 我の肉体を奪ったのはお前かぁぁぁぁぁぁッアキ=フェイレス!】
目の前にいる存在が何であるのか、納得する訳にはいかない黒竜。しかしそれが存在している以上、そう言わざるを得ない黒竜は怒りを露わにして目の前に立つ存在の名を叫ぶ。
『否定、現在この肉体の所有権は名称、魔王に有り、名称、黒竜……訂正、蜥蜴野郎にはありません』
黒竜の叫びに返ってきたのは、アキ=フェイレスという人族の男の声では無く、無機質な女性の声だった。
【ナッ! なるほど……お前が全ての元凶か……おのれ……おのれ伝説武具……ここで邪魔をするか屑鉄!】
アキでは無く魔王から発せられる無機質な女性の声の正体を悟り激昂しながらその名を口にする黒竜。
【認めぬ、否定する、拒絶する! こんなことはあってはならない! 我は竜の原種だぞ! それはもう我の肉体だッ! 我のものだッ! 我に返せ鉄屑!】
『否定、私は屑鉄ではありません、創造主によって作り出された型式02着装型悪意殲滅武装……別名、伝説武具、名称、王女です』
魔王から発せられる無機質な声は黒竜の言葉を否定すると無機質な自己紹介を始めた。
【お前の呼び方などどうだっていい! 我にその肉体を渡せぇぇぇぇぇ!】
例え幽体であっても黒竜が周囲に与える力は強力である。それはこれまで精神体としてアキの肉体に留まりその力を与えてきたことが証明している。精神体も幽体も肉体が無いのは同じ。黒竜はまるで実体があるように己の力で原種としての姿を具現化させると、その鋭い爪を魔王へ振り下ろした。
『対象の敵意の段階上昇を確認……ただちに排除、または吸収を提案します』
「……」
無機質な王女の言葉に僅かに頷く魔王。
『了解……対象の排除では無く吸収を開始します』
王女がそう宣言したと同時に、黒竜が降り下ろした爪を魔王は右腕を上げ掌で受け止めた。
【な、何だこの吸引力はッ! く、くそ吸い込まれる! またこれか! こんな下等生物が また我の力を自由に扱うと言うのか!】
原初の姿となった巨大な黒竜が魔王の右掌の中へ吸い込まれていく。
【くそくそくそくそくそくそくそくそッ! まだだッ! 必ずお前の精神を蝕み痛めつけて再びその肉体を乗っ取って……】
その叫びを全て聞く間も無く黒竜の全てを吸い尽くした魔王はゆっくりと右腕を下げた。
『対象の吸収に成功……能力の定着を確認……所有者魔王は黒竜に関する全ての能力、知識を獲得しました……続いて吸収した個体が持つ自我の封印を開始……黒竜が持つ封印に成功……黒竜が持つ精神攻撃による影響を無効化することに成功しました』
無機質な声で黒竜を吸収したことで得た情報を説明していく女王。
『黒竜を吸収したことにより形状の変化を行います……』
王女がそう告げると同時に、魔王が纏っていた漆黒の全身防具の形状が変化していく。特に形状が変化したのは上半身。両肩防具は巨大な盾のように盛り上がった形状へとなり、元々分厚かった胸当ての部分は更に分厚くどんな攻撃も通さないような形状へと変化していった。
「……」
女王が全ての説明を終え沈黙すると周囲には耳が痛くなるほどの静けさが広がった。影も形も、地形さえ変わってしまったムウラガ大陸、魔王城跡に真の意味で誕生した魔王は、何かを考えるようにただその場に佇む。その姿は禍々しくも何処か美しさを漂わせておりそれはまるで荒廃した大地に咲く一輪の黒い花のようであった。
ガイアスの世界
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