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解ける警戒心

 ガイアスの世界


 今回ありません


 解ける警戒心



『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス




― フルード大陸 インギル大聖堂 ―




「待ってください」


 インギル大聖堂の冷たい床に直接座り、膝を合わせ話すという言葉を有言実行しようとするサンタクロースを止めに入るブリザラ。


「……待って……とはどういうことだお嬢ちゃん?」


 女神との関係について知りたがっていたはずのブリザラのその行動に首を傾げるサンタクロース。


「ッ!」


 その軽い声色や素振りとは裏腹にサンタクロースの目が鋭くブリザラを射抜く。

 

「……あッ……」

 

 その目で射抜かれた瞬間、背筋が一瞬にして凍り体から熱が奪われていくのを感じるブリザラ。


「……お嬢ちゃんが気になっていることについて、俺は嘘偽りなく答える気だ、さぁ座りな」


 明らかに人では無い、人ではありえない重圧プレッシャーにブリザラの体は硬直する。


「……はぁ……はぁ……」


 なぜ息が荒くなり自分の体が震えるのか理解できないブリザラ。


「……まさか精霊王(仮)のことが気になるから……なんて言わないよな」


「……ッ!」

 

 図星だった。気にならないはずがない。魔王城へ転移したテイチの姿は逐一精霊から実時間リアルタイムで送られ今もブリザラの前でその光景が流れている。テイチの事が気になって手に付かないと言うのが本音だった。


「はっ……」


 しかし今は違う。もうそんなことを考えている余裕はブリザラには無い。ブリザラは理解した。なぜ背筋が凍ったのか、体から熱が奪われていく感覚を抱いたのか、自分の体が震えだしたのか。

 溢れだす涙で視界の歪むブリザラが今思うのは恐怖。目の前の存在に抱く今までに感じたことの無い恐怖だった。直ぐにでもこの状況から脱したい。脱兎の如くサンタクロースが生み出す恐怖から逃げ出したいという気持ちだけがブリザラの心を支配する。


「こういう言い方はあまり好きじゃないが……」


 恐怖に支配されるブリザラを前にそう前置きするサンタクロース。


「お嬢ちゃん……俺を一体何だとだと思っている?」


「ッ!」


 際限なく溢れだす恐怖に今にも心が砕け散りそうだと思うブリザラ。しかしブリザラは奥歯を噛みしめ何とか恐怖を堪える。


「……俺は神だ」


 恐怖によってブリザラは返答できないと判断したサンタクロースは自らそう答えた。


「……本来なら人族の前に現れていい存在じゃない……そんな神である俺がわざわざ時間を割いてまでお嬢ちゃんが抱く疑念に答えてやろうっていうんだ……それを断るのは不敬……ってもんだろう?」


 上位存在だからこその傲慢な理屈。


「神との約束は絶対だ……お嬢ちゃんはこれからどんなことがあろうと俺の前に座り膝を合わせなきゃならない……それとも何か? ……俺との約束を破って命の1つや2つ散らせてみるかい?」


 神との約束は絶対。恐怖でブリザラの心を支配したサンタクロースは、約束を破ればと明確な脅しを突きつける。


「……ッ」


 従う以外に選択肢の無いブリザラは、インギル大聖堂の床に膝を付こうと腰を落とす。


「……」


 一対一の話し合いの間合いに着こうと腰を下すブリザラをサンタクロースはじっと見つめる。


「いい加減にしてくださいサンタ様ッ!」


 その時、今まで2人のやり取りを静観していた精霊王が声を張り上げる。


「いくらなんでもやりすぎですッ!」


 サンタクロースを批難した精霊王は、ブリザラの前に駆け寄ると両手のひらを打ち合わせて音を鳴らした。


「……はッ!」


 するとまるで呪縛から解かれたというようにブリザラの心から溢れだしていた恐怖が一瞬にして引いていく。


「大丈夫ですかブリザラ様……」


 何が起ったのか理解できず目を丸くするブリザラへ優しく声をかける精霊王。


「は、はい……」


 話しかけてきた精霊王に戸惑いながらブリザラは頷いた。


「……」


「……」


 ブリザラは自分を見つめるサンタクロースを見つめ返す。先程のような恐怖はサンタクロースからは感じられない。しかしそれでもブリザラは実感していた。サンタクロース神なのだと。自分の中に存在する女神と同じ存在なのだと。


「ブリザラ様、今から質問をします冷静になって答えてください」


「え? あ、はい」


 精霊王から突然そう言われ、ブリザラはサンタクロースから視線を外した。


「あなたはサンタ様の約束に頷きましたか? 本当に約束を交わしましたか? 思い出してみてください」


 精霊王はブリザラを落ち着かせるように優しい声色で今までの自分の行動を思い返すよう促した。


「……」


 精霊王からの問を受けブリザラはサンタクロースと出会ってからの自分の行動を思い返す。


「……ハッ! ……してません……私、約束してませんッ!」


 思い返した結果、サンタクロースが提示した約束に対して返事は愚か頷きもしていないことに気付いたブリザラは精霊王へそう訴えた。


「……ならば神との約束は不成立ということになりますね……」


 そう言いながら精霊王はサンタクロースへ視線を向けた。


「……と、まあ……俺を疑っているにも関わらず、底が抜けるほど純粋過ぎたお嬢ちゃんへの忠告だ……」


 まるで糸が切れたようにサンタクロースが作り出した張りつめていた空気が一瞬にして緩む。


「何が忠告ですか、素直に言葉で忠告してあげればいいじゃないですか」


 素直じゃないサンタクロースの行動に大きくため息を吐く精霊王。


「……それじゃ駄目なんだよ」


 精霊王へそう答えたサンタクロースは、未だ戸惑いが晴れないブリザラを先程の鋭い視線とは違う視線を向ける。


「確かに言葉で忠告すれば早い……だがそれじゃ伝わらない……」


「……伝わらない?」


 何の事だと首を傾げる精霊王。


「……実感……ですか?」


 恐る恐るといった感じで自分なりの答えを口にするブリザラ。


「……そう実感だ……神の恐怖……それを伝えたかった……これからお嬢ちゃんが渡り合わなきゃならない女神っていうのはそういう相手だ……恐がらせた悪かったな」


 下手をすれば立ち直れない程の深い心の傷をブリザラに負わせたかもしれないことを自覚していたサンタクロースは自分の非道を詫びた。


「い、いえ……」


 恐怖は引いた。しかし決して消えた訳では無い。まだ心の奥底でくすぶり続ける神に対しての恐怖。だがこれが実感なのだと、自分の中に存在する女神と渡り合う為に必要なことなのだと納得したブリザラは、サンタクロースの詫びを受け入れた。


「だとしても、神威を使うなんてやり過ぎです……あのまま私が介入しなければブリザラ様の心は壊れていましたよ」


 神々だけが持つ力、神威。その1つである『恐怖の神威』をブリザラへ使ったサンタクロースを精霊王は咎めた。


「うぅぅ……確かにやり過ぎた……けどな……実は本気で神威をお嬢ちゃんにぶつけたんだよ俺」


「なぁぁぁっ!」


 卒倒する精霊王を横目にブリザラへ再び視線を向けるサンタクロース。


「……お嬢ちゃんが持つ心の強さもあるんだろうが……それだけじゃない、お嬢ちゃんが背負っているその馬鹿大きい盾、そいつが俺の神威を防いだんだ……」


「……キングが」


 突然飛び出したキングの話題に自然とブリザラの表情に笑みが浮かぶ。


「果てにはそいつ、俺に喧嘩まで売ってきたよ、我王を穢すな……てな……流石、あの創造主ガキが造った伝説武具ジョブシリーズだよ」


 今は沈黙し物言わぬ伝説の盾。しかしその自我までは沈黙しておらず、自我を持つ伝説の盾は、所有者の危機を察知しサンタクロースが放つ『恐怖の神威』からブリザラを守り、神に喧嘩まで売った。そんな所有者を守ろうとする自我を持つ伝説の盾の強い意思の裏に、彼らを造った者の影を見たサンタクロースは苦笑いを浮かべた。


「大事にしろよその盾」


「……はい!」


 サンタクロースのその言葉に素直に頷くブリザラ。沈黙したまま音沙汰のなかったキングの気配を感じたブリザラの目には涙が浮かぶ。その涙が落ちると同時に目の前で子供のような笑みを浮かべるサンタクロースへ抱いていた警戒心が解けていく。


「それじゃ気を取り直して、俺と膝を合わせて……」

 

「それはもう大丈夫です」


 杭気味で言葉を被せるブリザラ。


「……え? なんで? 俺は無害な神さまですよってお嬢ちゃんの警戒心を解きたいんだけど」


 納得できないと、何故だか本音をぶちまけるサンタクロース。


「だって……キングを褒めてくれる人……神様に悪い神様はいないから」


 いつかキングが再び話しかけてくれること信じながら、ブリザラはサンタクロースの前で満面の笑みを浮かべるのだった。




 ガイアスの世界


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