怒りに呑まれていく少女
ガイアスの世界
今回ありません
怒りに呑まれていく少女
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
― 現在 ムウラガ大陸 魔王城跡 ―
「……」
ムウラガ大陸の中心で不気味な気配を放ちながら山のようにそびえていた魔王城。しかし今や跡形もなく吹き飛びその面影すら感じられない。そんな魔王城跡の中心に立つテイチは、魔王の姿から半魔半竜の姿となった黒竜の問には答えず押し黙っていた。
「後2分か1分……ふふふ、いや違うな……」
何を問われても無表情と沈黙を貫くテイチ。その姿は一見冷静に次の行動を考えているようにも見える。しかし黒竜は見抜いていた。
「……力を使い果たしたか」
既にテイチが戦えない状態にあるということを。
「……どうやら図星のようだな、やはり人の身で上位精霊の力を扱うのは中々に難しいとみえる……」
最初こそ黒竜を圧倒してみせたテイチ。しかし効果はあったにせよ、黒竜に負わせた傷は微々たるものでしかなかった。細かい攻撃だけでは埒が明かない。このまま戦いが長引けば制限時間のある自分が不利になる。そう感じたテイチは勝負へ出ることにした。それが上位精霊三体にウルディネの力を加えた上位精霊四体同時攻撃による短期決戦だった。
「……強者を相手に細かい攻撃は殆ど意味を成さない……ならば強者を相手に弱者がとる手段は1つ……一撃必殺しかない」
まるで今までのテイチの思考をなぞるように語り出す黒竜
「全身全霊を賭けた己が持つ最高の火力でもって塵1つ残さない一撃を見舞うことでしか勝利は無い……そう考えたのだろう小娘……だからお前は、我の城を更地に変える程の一撃を放った……」
ブリザラが放った上位精霊四体による同時攻撃は、魔王城は愚かその周囲すら更地にする程の強力な一撃であったことは間違いない。その一撃を受けた黒竜自身、無事で済まなかったことは体中の深い傷を見れば明らかであった。
「その判断は正しい……今まで我が戦ってきた幾人の者たちの中で一番素晴らしい一撃だったことは認めよう……しかし残念だったな小娘……我は強者では無いのだ……」
突然自分は強者では無いと言いだす黒竜。
「……強者でないのならば、我は一体何者か? ふふふ、答えてやろう小娘……」
「……」
テイチがどう思っているかなどお構いなく話を続ける黒竜。
「世界の全てを恨み、全てを焼き尽さんとする魔王の力を取り込み、所有者の魂は既に存在しないというのにそれでもけなげに抜け殻となったその肉体へ力を送り続ける伝説武具を纏った竜の原種……それが我……絶対的強者、黒竜様だ! お前ら如きの一撃でやられる存在では無いッ!」
もう隠す必要は無いと言わんばかりに己が持つ力の正体をさらけ出した黒竜は、自分が強者を越える存在、絶対的強者であるとテイチへ告げた。
「……ッ!」
今まで無表情と沈黙を続けていたテイチの目が一瞬見開く。
「……ゆ……い……さな……」
俯いたテイチは体を震わせながら静かに何かを呟き始めた。
「んんん? 絶対王者である我に恐怖したか小娘?」
「……許さない……許さない……絶対にお前を許さないッ!」
テイチの感情が怒りに染まる。
(待つのだ幼き精霊王ッ! 既に精霊王との約束である5分は過ぎている!)
(そうだよ、もう限界だよッ! 逃げようッ!)
(ウルディネを確保するという目的は既に果たした……直ちに撤退するんだッ!)
警告音のようにテイチの頭に響く上位精霊たちの声。しかし怒りに感情を染めた今のテイチに彼らの声は届かない。
「許さない? 我をか? 絶対強者である我を許さない……ふふふ、アッハハハハッ! たかが人族の小娘が笑わせてくれる」
許せないと自分を否定するテイチの言葉に笑いが込み上げてくる黒竜。
「……」
自分を笑う黒竜を怒りの眼で見つめるテイチ。
既に半魔半竜となった黒竜の姿にテイチが知る人物の面影は無い。しかしそれでもテイチは感じていた。黒竜が身に纏う全身防具が放つ微かな気配を。黒竜自身から感じる大切な人の気配を、その魂を。
(……アキさんの肉体を奪い、クイーンさんの力も利用するお前を私は許さないッ!)
テイチの怒り。それはアキやクイーンの力をまるで自分のもののように捉え、絶対強者と言い張る黒竜に対しての怒りであった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
精霊王との約束の時間である5分はとうに過ぎており、既に上位精霊たちの力をまともに扱えない状態にあるはずのテイチ。しかしそれでもアキやクイーンを救おうとするテイチの意思が、黒竜への怒りが原動力となりその限界を越えていく。
「ほう、まだやる気か……上位精霊たちの苦労が目に浮かぶぞ小娘……」
暴走したテイチに慌てる上位精霊たちの姿を見透かすように嘲笑う黒竜。
「はぁぁぁぁっ!」
無理矢理絞り出した精神力を上位精霊たちに繋ぎ、力へと変え、その絞り出した僅かな力で黒竜へ向かって行くテイチ。
「……よかろう、例え既にその力が僅かしかなくとも、我に向かって来るその意気込みを買ってやろう……」
気付けば伝説武具が持つ能力の影響で傷が完回復した黒竜は、そう言うと体を仰け反らせた。
「我の業火でお前たちの来世まで燃やし尽くしてやるッ!」
裂けた口から漏れ出す黒い炎を吸い込み体内で圧縮していく黒竜。仰け反らせていた体を前に突き出すと同時に、黒竜は今までとは比較にならないほど威力を高めた黒炎を自分へ向かって来るテイチへ放つのだった。
ガイアスの世界
今回ありません




