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制限時間

 ガイアスの世界


 今回ありません




 制限時間




 『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス




― 数分前 インギル大聖堂 ―




 上位精霊たちの心の準備も待たず、『精霊憑依エレメンタルセッション』の開始を宣言した精霊王の言葉に慌てふためく上位精霊たち。そんな心の準備も儘ならない上位精霊たちを他所に1人覚悟を決めたテイチは、静かに目を閉じ己の精神を集中させた。

 

「「「……ッ!」」」


 テイチの精神が一気に高まるのを感じた瞬間、言い込まれるような感覚と共に上位精霊たちの意識は突然途切れた。


「「「ッ!」」」


 数秒後。意識を取り戻した上位精霊たちは、普段とは違う視線の高さや四肢の感覚。自分たちが持つ力の流れとは違う流れに戸惑いと違和感を抱いた。だが直ぐにその違和感の正体が、自分たちがテイチへ憑依したことによるものだということに上位精霊たちは気付いた。


「……まさか本当に人の身で……幼き精霊王は『精霊憑依エレメンタルセッション』を成功させた……というのか……しかもものの数秒で……」


 テイチの姿で老々とした口調や仕草で話すのは憑依した土を司る上位精霊ノム。


「うむ、お見事……」


 テイチの姿で百戦錬磨の武人のような口調や仕草で話すのは憑依した火を司る上位精霊インフルード。


「凄い凄いッ! テイチちゃん成功したんだねッ!」


 他二体の上位精霊に比べテイチの姿でもあまり違和感が仕事をしていないように思える元気な子供のような口調や仕草で話すのは、憑依した風を司る上位精霊シルフィ。


「成功したようですね」


 多重人格のようにコロコロと表情や仕草、雰囲気を変えるテイチの姿を見て上位精霊3体同時の『精霊憑依エレメンタルセッション』に成功したことを確認した精霊王は安堵の表情を浮かべた。


「……これが『精霊憑依エレメンタルセッション』……」


 精霊に愛されるという特出した体質。召喚士としてずば抜けた才能、そして何よりウルディネを助けるという強い意志で上位精霊3体との精霊憑依エレメンタルセッションをあっさり成立させてしまったテイチは、そのあっさりした感覚とは裏腹にしっかりと上位精霊たちの気配や力を感じ取っていた。


「精霊王……凄い……今なら私なんでもできそうッ!」


 溢れだす全能感に気持ちが昂るテイチ。


「……そうそれ故に、今あなたが感じているその力は危険な力でもあります……決してその力を誤った方向へ向けてしまわないよう気を付けてください……」


 気持ちが昂るテイチを落ち着かせる為に釘を刺す精霊王。


「大丈夫だよ精霊王、僕らが憑いているッ!」


「うむ、幼き精霊王が力の矛先を間違えないよう我々がその道標となります」


 テイチの口を借りたシルフィとインフルードは各々、自分たちがいれば大丈夫だと精霊王へ告げた。


「……いや、そんな簡単な話ではない……そうですね精霊王」


 ただ一体、自分たちの置かれた状況の危うさに気付いたノムはそう精霊王へ尋ねた。


「……ノムの言う通りです……長時間『精霊憑依エレメンタルセッション』を発動し続ければ、互いが持つ自我の境界線が失われていきます……それは個々の自我を失うことを意味します……」


 『精霊憑依エレメンタルセッション』が持つ危険性を説く精霊王。その表情は何処か暗い。


「……長時間『精霊憑依エレメンタルセッション』を続けた愚かな私は、未来のあなたたちを失いました……」


「「「「ッ!」」」」


 深い悲しみの表情を浮かべる精霊王の突然の告白に驚くテイチと上位精霊たち。


「……それじゃ僕に記憶を流してくれた未来の僕は……」


「……未来の俺は……もういない」


「……」


「……はい」


 驚きを隠せない上位精霊たちの問に静かに頷く精霊王。


「「「「……」」」」


 なぜ精霊王が長時間『精霊憑依エレメンタルセッション』を発動しなければならなったのか。本人の口から聞く間でも無くテイチと上位精霊たちは理解していた。


「……この命、精霊王の糧となったのならば本望……と、未来の俺は絶対に思っているはず」


「僕は後悔していないよ、精霊王の力になれてよかったって、未来の僕はきっとそう言うよ」


「精霊王のお力になれたこと、誇りに思っております……と確実に未来の私ならばそう考えているはずです」


 きっと未来の自分であればと、上位精霊たちは各々、テイチの口を借りてまるで未来の自分のように感謝の言葉を告げた。


「……みんな……」


 例えそれが今の彼らにはまだ起きていない出来事だとしても、未来の彼らの結末を知った今の彼らは決して自分を許さない、恨むに違いないと思っていた精霊王は、今の彼らから罵倒を受ける覚悟でいた。しかし返って来たのは思いもしなかった温かく優しい言葉。未来の彼らが今の彼らに託した最期の言葉メッセージだった。


「ごめ……ごめんなさい……」


 自分が精霊王にさえならなければという後悔と共に心の奥底へ閉じ込めていた幼き頃の少女。その想いが溢れだした精霊王は、思わず上位精霊たちが宿るテイチの体を抱きしめていた。


「……みんなごめんね……ごめんね……私……私……助けてあげられなくて……ごめんね……」


 今目の前には彼らがいる。


「……大好き……みんな大好きだよ……」


 未来の彼らと変わらず優しく温かい言葉をかけてくれる彼ら。そんな彼らへ精霊王はあの日消えていった未来の彼らへ言えなかった言葉を、その思いを伝えるのだった。


「……えーとね、本当に申し訳ない……俺のような基本、道化ギャグ要員みたいな存在が触れちゃいけない場面シーンだっていうのは重々理解している……けど、それでも俺が言わなきゃならないことがある……」


 精霊王が上位精霊たちへ抱いていた長年の想い。その想いを吐露するという大事な場面シーンで自分という道化ギャグ要員が介入するという蛮行がどれほど場違いであり、あってはならないことであるかということを深く理解しているが、それでも言わなければならないことがあるとサンタクロースはこの場に流れる空気を無理矢理壊した。


「……時間だ……」


 サンタクロースが時を告げる。


「……これ以上時間が過ぎれば手遅れになる」


 この場の空気を無理矢理壊した時と空間を司る神サンタクロースは精霊王たちに制限時間タイムリミットが迫っていることを告げた。


「……色々と気を使わせてしまって申し訳ありません……そしてありがとう」


 疑似的な再会とはいえ、上位精霊たちへ想いを伝えることが出来た精霊王は、色々と気を使って限界まで待ってくれたサンタクロースへ詫びと感謝した。


「いやいや、昨今空気の読めない言動や行動をするとすぐ炎上するからな……自衛だ気にするな」


 詫びは兎も角、精霊王に感謝されたことが照れくさいのか訳の分からないことを言って煙に巻こうとするサンタクロース。


「……炎上……ですか?」


 そんなサンタクロースの気持ちなど知る由も無い精霊王は、炎上という言葉に反応した。


「ああッ! もう、俺のどうでも言葉なんて拾わなくていいから早く精霊王(仮)に準備をさせろッ!」


 余計な発言だったと思わず飛び出した自分の言葉に反省しつつ、テイチに準備をさせろと急かすサンタクロース。


「あ、はい」


 サンタクロースに急かされた精霊王は、悲しみから喜びへと変わった涙を両腕で拭うと少し目元が腫れた顔でテイチを見つめた。


「……テイチ……先程も言ったように、『精霊憑依エレメンタルセッション』は非常に危険なものです……それに加え人の身である今のあなたでは、肉体の方も長時間の発動には耐えられないでしょう……ですから今から十分……いいえ五分が限界だと思ってください……それ以上発動し続ければあなたや彼らの命の保証はありません」


 テイチの両肩を優しく掴んだ精霊王は、真剣な表情で『精霊憑依エレメンタルセッション』の危険性と発動限界である制限時間タイムリミットを伝えた。


「……はいッ!」


 精霊王の言葉をしっかりと心に刻んだテイチは決意するように頷く。


「……それではサンタ様、お願いします」


 まるで我子を託児所へ預ける母親のようにサンタクロースの下へテイチを送り出す精霊王。


「……精霊王(仮)、ちょっと耳貸せ」


 精霊王に送り出され自分の下へやってきたテイチの目線に合わせしゃがんだサンタクロースは内緒話をするようにテイチの肩に腕を回した。


「……あのな、こっちの都合で申し訳ないがお前を飛ばす先は魔王の奴の真ん前にしかできない……」


 サンタクロースはこっちの都合で危険な場所、瞬間タイミングでしかテイチを送り出してやれないことを詫びた。


「はい」


 サンタクロースの言葉に全く動じる様子の無いテイチ。


「……えーと、だからその詫びとして1つ助言アドバイスしてやる……」


 もっと狼狽える姿を想像していたサンタクロースは逆に全く動じていないテイチのその反応に動揺した。


「……本来、時と時空を司る俺が助言アドバイスなんて滅多にしないんだからな、心して聞け……」


 何故か自分の助言アドバイスに特別感を出そうとするサンタクロース。


「きっと奴はド派手な攻撃を繰り出してくる……悠長に身構えている時間は無い、少しでも判断を間違えれば自分は愚か守りたい奴も消し炭になる……そんな状況だ……だからまずは最初から全力で助けたい奴を守り抜け……いいなッ!」


 時と時空を司る神だからこその未来視を発揮するサンタクロース。だが口にした助言アドバイスは誰にでも考え付く様なすこぶる平凡なものでしかなかった。


「はいッ!」


 しかしサンタクロースの助言アドバイスを素直に聞き入れたテイチは元気よく頷いた。


「……よし良い子だッ! ……後は頼むぞお前ら」


 元気よく頷いたテイチの頭を撫でながら、次いでと言うようにサンタクロースは上位精霊たちにも声をかけた。


「あいわかった」「りょ!」「御意」


「そこはどうにかして言葉合わせろよ、俺心配になってきたよ」


 精霊王の前ではあれほど息が合っていたというのに、なぜ自分の前でこうも息が合わないのかそんな上位精霊たちのことを心配に思うサンタクロース。


「……その……テイチちゃん、上位精霊の皆さん……がんばってね」


 自分の番かと周囲を見渡しながら駆け寄ったブリザラは、これから大勝負にでるテイチと上位精霊に今できる精一杯の激励エールを送る。


「「「「はいッ!」」」」


「ちょっと待てお前らーッ! 息合わせられるじゃねぇーかッ!」


 自分の時とは違い、ブリザラに対してきっちりと息を合わせて返事をするテイチたちへ声を荒げるサンタクロース。


「どうか……みんな無事で……」


 そんなテイチたちのやりとりを旅立つ我子を見つめる親のように見ていた精霊王は彼女たちが無事帰って来ることを願いながら小さく呟いた。


「「「「精霊王行ってきますッ!」」」」


 するとそんな精霊王の想いを汲み取ったというようにテイチと上位精霊たちの息の合った言葉が返ってきた。


「……ふ、ふふふ……はい、いってらっしゃい」


 絶対に帰って来るという強い意思が感じられるテイチたちの言葉に思わず笑みが込み上げてくる精霊王。


「……さて、本当に時間一杯だ……行ってこい!」


 不満げな表情を浮かべながらも時間が迫ったサンタクロースは指を鳴らす。するとその瞬間、その場から忽然とテイチの姿は消えたのだった。


「……ふぅ……」


 テイチたちを送り出したサンタクロースは一息つくように大きく息を吐くとブリザラへ視線を向けた。


「……待たせたな嬢ちゃん……やることはやったし……さっき約束した膝を合わせたお話しってやつを始めようか?」


 疑いや疑念で自分を見つめるブリザラへサンタクロースはそう告げると、じっくり話そうという様子でその場に腰を下ろすのだった。


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