精霊憑依
ガイアスの世界
今回ありません
精霊憑依
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
彼女の声に聞き覚えは無い。
彼女から漂う気配も今まで感じたことは無い。
視界に捉えた彼女の姿にも身に覚えが無い。
彼女の声に聞き覚えがある。
彼女から漂う気配を以前にも感じことがある。
視界に捉えた彼女の姿には身に覚えがある。
「……精霊王……」
目の前の彼女を初対面だと思う一方、同時に彼女を既に認識している記憶が存在する。自分の中に相反する2つの記憶が存在している事に動揺するノムの口から零れ出る彼女の名。
「……そうだ……精霊王だ」
「……その姿は間違いなく我らが精霊界の王の御姿……」
身に覚えの無い新たな記憶に動揺するノムと同じく自分の中に現れたもう1つの記憶に戸惑いを隠しきれないシルフィとインフルードだったが、戸惑いながらも目の前の彼女が精霊王だと断言する。
「……この記憶は……未来……それも現在から枝分かれし切り離された未来の自分の記憶……そういうことですか精霊王?」
自分の中に存在するもう1つの記憶が未来の自分の記憶であると断定したノムは、答え合わせというように彼女、精霊王に尋ねた。
「正解ッ! 現在から枝分かれし既に切り離された未来……そこからやって来た精霊王と直接対峙した君たちの中では記憶渡り……即ち未来の自分の記憶が流れ込んできているんだ」
そうノムたちの中で起っている現象を解説したのは精霊王では無く、何処からともなく姿を現した白と赤を基調とした服を纏った何処かノリの軽い青年だった。
「何者ッ!」
全く気配を感じさせず突然姿を現した謎の青年に対し、上位精霊たちは警戒態勢になった。
「どもども」
「「「……サンタクロース様ッ!」」」
一度は警戒態勢に入ったが、直ぐに青年が何者であるか流れ込んでくる未来からの記憶で理解した上位精霊たちは直ぐに警戒態勢を解いた。
「この状況……時と空間を司る神としてはあまり褒められたものではない」
時と空間を司る神として上位精霊たちに起っている記憶渡りという時間干渉を良く思っていない口ぶりのサンタクロース。
「「「……」」」
そんなサンタクロースの話を無視するかのように突然精霊王の前に跪く上位精霊たち。
「一応俺精霊王より偉い立場なんだけど……」
神である自分に見向きもせず精霊王の前で跪く上位精霊たちに何とも言えいな表情を浮かべるサンタクロース。
「……でもまあ、記憶渡りさまさま、色々と説明が省けるのは有難いね精霊王」
気お取り直すようにサンタクロースは全てを理解し跪いた上位精霊たちの姿を見ながらそう言うと横に立つ精霊王へ視線を向けた。
「……どうか私の願いを……『いつか』精霊王となる私の力になってはくれませんか?」
「「「御意」」」
まるでそうすることが日常であったというように上位精霊たちは精霊王の願いに声を合わせて同意する。
「……ですが精霊王……1つ問題が……」
何も問題無く精霊王の願いが通ったかに思えた直後。ノムが深刻な表情で問題を提起した。
「……力を貸すことに異論はありませんが……その、今我々の本体は何者かの画策によって……この大聖堂の地下奥深くに封印されてしまいまして……」
何者かの画策によって自分たちの本体がインギル大聖堂地下に封印されてしまったと歯切れ悪く説明するノム。
「なんか悪い気配を持った人族が僕たちを利用しようとしているみたい……」
ノムに続き自分たちを利用しようとしている人族の存在について語るシルフィ。
「うむ……一生の不覚」
特に話すことが無いのかお気持ち表明するインフルード。
「……それ故に力を貸すことは出来てもこの身は分体、幼き人の子……いや未来の精霊王が望むだけの力をお貸しできるか……」
封印の影響から辛うじて逃れることが出来た分体でも力を貸すことは出来るが本来の力を発揮できないとノムは説明した。
「それについては大丈夫です……あくまで私の目的はウルディネの救出……無暗に戦う必要はありません……ですね私?」
戦う必要は無いと言い聞かせるようにテイチへ同意を求める精霊王。
その問に少し動揺した様子で頷くテイチ。
「あなた方も心配はいりません、ウルディネ救出後は私と共に速やかに撤退してください……」
テイチから視線をノムたちへ移した精霊王は僅かに微笑みを向ける。
「「「ッ!……御意」」」
未来から流れてきた記憶の中に精霊王が微笑んだものは1つとして無かった上位精霊たちは、自分たちへ笑みを浮かべた精霊王に対して一瞬驚いた表情を浮かべてしまう。だが平静を取り繕うとすぐさま上位精霊たちはそう答えた。
「お前たち、本体についても心配するなよ……このお嬢ちゃんがなんとかしてくれるからなッ!」
そう言いながら突然ブリザラへ突然話を振るサンタクロース。
「え?」
今まで蚊帳の外に追いやられ、話に着いて行けていなかったブリザラは何故突然話を振られたのか理解できず首を傾げた。
「おいおい、自分の目的も忘れちまったのか? お嬢ちゃんがここにやって来た目的はなんだ?」
サンタクロースは呆れ半分、面白さ半分というような表情でここへやって来た目的をブリザラへ尋ねた。
「ハッ! そうか……インギル一族……上位精霊たちの本体の封印にインギル一族が関与しているって……ことッ!」
思わぬ事実に驚愕するブリザラ。
「正解……あの女神をその身に宿している嬢ちゃんはそれを見越してここへやってきたとばかり思っていたが……どうやら違うようだな」
驚愕するブリザラの姿に意外だという表情を向けるサンタクロース。
「女神……し、知りません……」
その立ち振る舞いから女神と言う言葉が出てくるまで今話している青年が神であるということを忘れていたブリザラは、サンタクロースへの警戒心を高めた。
「あらら、警戒されちゃったよ」
ブリザラの明らかな警戒心に苦笑いを浮かべるサンタクロース。
「……」
女神が自分の体を乗っ取り周囲にどれだけの被害を与えたか。その行ってきた所業を考えれば、女神と同類と言っていいサンタクロースに対してブリザラが強い警戒心を抱くのは当たり前のことであった。
「うーん……何か誤解しているみたいだな」
唯一記憶渡りの影響を受けず自分の説明をする必要があるブリザラに対してサンタクロースは面倒だなという表情を浮かべた。
「……わかったお嬢ちゃん、俺のことや女神との関係については、やることやった後に膝を割って話そう……」
この場に姿を現してから初めて真剣な表情を浮かべたサンタクロースは自分へ警戒を続けるブリザラへそう伝えると、ノムたちへ視線を向ける。
「……まあ、色々と心配はあるだろうが、そういう訳だから本体の救出はこのお嬢ちゃんに任せておけ……」
ブリザラに向けていた真剣な表情を解いたサンタクロースは普段の軽薄層な表情でそう言うと、テイチの下へ近づいていった。
「お前たちは心置きなく今持てる全力をこの幼き精霊王(仮)に貸してやってくれ」
「よ、よろしくお願いします」
サンタクロースに背中を押され、その勢いで上位精霊たちに頭を下げるテイチ。
「「「御意」」」
テイチを精霊王と認めたのか、それとも背後にいる精霊王の威光に頭が上がらないのか。ノムたちは精霊王にしたように、深々と頭を下げるテイチの言葉に答えた。
「……それでは私……これからあなたには彼らと契約を交してもらいます……ですが……これから交す契約は通常の召喚士がするものとは異なる契約……所謂禁じ手と言われる方法……『精霊憑依』というものです」
「なッ!」「え!」「むむむッ!」
精霊王が発したその言葉に驚き取り乱す上位精霊たち。
「私には、彼ら上位精霊三体と同時に『精霊憑依』を行ってもらいます」
「ななッ!」「ええ!」「むむむむむむッ!」
そう言い切った精霊王の言葉に上位精霊たちは先程よりも更に驚き取り乱した。
「し、失礼ながら精霊王が立てる作戦にしては大雑把だと思っていましたが、まさか三体同時の『精霊憑依』を考えていたとは……なるほど」
失礼ながらと前置きした上で精霊王の立てた作戦にいささか不安を抱いていたことを吐露したノムは三体同時の『精霊憑依』という言葉に一定の理解を示した。
「……確かに『精霊憑依』が成功すれば、分体である我々の力でも莫大な力を発揮することは可能でしょう……ですがそれは精霊王という肉体があってこそできるもの……恐れながらまだ人の身である幼き精霊王では、我々のうち一体との『精霊憑依』ですら成功するかどうか……」
その効果は大きいことを理解しつつも人の身であるテイチでは上位精霊一体でもまともに『精霊憑依』することが出来ないのではないかとノムは疑問を呈した。
「大丈夫です……既に私は『精神憑依』を経験していますから」
過去の自分に対し絶対的信頼を置く精霊王はその根拠を口にした。
「そうかッ! 幼き精霊王が瀕死に陥った時、それを救う為にウルディネが幼き精霊王に憑依したんだッ!」
過去にテイチが瀕死の重傷を負った際、ウルディネが憑依することでその命を繋いだという話を思い出すシルフィ。
「確かに経験しているとしていないでは、その差は大きい……しかしあれは水と癒しを司るウルディネだからこそできた荒業……癒しの力を持たない我々では幼き精霊王を無暗に苦しめるだけでは?」
例え過去『精霊憑依』を成功させていたとしても、それは水と癒しを司るウルディネの持つ力の影響が大きく、自分たちでは同じような真似は出来ない、ただテイチを苦しめるだけだとインフルードは首を傾げた。
「そう、まだ召喚士ですら無いただの子供であった私が『精霊憑依』に成功したのはウルディネが持つ癒しの力のお蔭……」
インフルードの言葉に頷いた精霊王は、その視線を再びテイチへ向ける。
「……だから問います……私……彼らとの『精霊憑依』は想像を絶する苦しみが伴います、下手をすれば死ぬかもしれません……それでもあなたはこの苦行に挑みますか?」
これがテイチに対する本当に最後の問いかけ。これに頷けばもう本当に後戻りは出来ない。精霊王は幼き日の自分にそんな思いを向けながら問いかけた。
「うん」
即答であった。
「でしょうね……」
そしてテイチが頷くことを精霊王は理解していた。
「それではこれから上位精霊三体同時による『精霊憑依』を始めます」
目の前にいる少女は過去の自分。テイチが即答するとわかりきっていた精霊王は、テイチのその心意気に水を差さぬよう『精霊憑依』の開始を宣言する。
「なななッ!」「えええっ!」「むむむむむむむむむッ!」
状況に取り残された上位精霊たちといえば、ただこの日一番の驚きの声をあげることしか出来なかった。
― 現在 魔王城 ―
【……上位精霊たちをその身に取り込むことで召喚というまどろっこしい過程を取っ払いつつその力を大きく引き出す秘術……と言ったところか……ふっふふふ……我をも驚かすクソな方法だな……】
もはや地形すら易々と変化せてしまう程の上位精霊四体による四属性同時攻撃を受けて尚、まだ消滅することなく立っている黒竜は目の前の少女を前に不敵な笑みを浮かべる意味。
【……だがそんな無茶がいつまでも続くはずがない……小娘……あと何分だ? お前は後何分その姿を保っていられる?】
裂けた口から漏れだす黒炎と共に黒竜は、精霊の力を意のままに操る少女へ制限時間を尋ねるのであった。
ガイアスの世界
今回ありません




