強く純粋な願い
ガイアスの世界
今回ありません
強く純粋な願い
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
― 現在 ムウラガ大陸 魔王城 ―
(……なんだこの小娘……なぜこんな強大な力を持っている?)
召喚士として他の人族よりも秀でた才能を持っているが、所詮は人族。それ以外は何の変哲も無いただ人族に変わりないテイチが自分と互角以上の力を持っていることに明らかな違和感を抱く黒竜。
(待て待て……我は黒竜だぞ……これまで数えきれない冒険者や戦闘職を『闇』の業火で屠ってきた竜の原種だぞ……それに今はこの肉体が持つ魔王の力も取り込んだことで我の強さは最高潮に達しているはず……なのに……なぜこの小娘の動きを捉えることが出来ない?)
刹那の中、強さが最高潮に達したはずの自分が何故目の前のただの人族に手も足も出ないのか黒竜は必至に思考しその答えを求めた。
【ガハッ!】
しかしその思考を吹き飛ばす衝撃が容赦なく黒竜の腹部を襲う。
「……考え事をしている暇はないぞ蜥蜴野郎」
黒竜が集中できていないことを見抜いていたテイチは普段から考えられない荒い口調でそう言い放つと水を纏った拳を更に放つ。
(なぜだ、しっかり見ていたはずだ……考えながらもあの小娘の姿は捉えていたはずだ……なのになぜ接近を許した?)
思考を優先したことでテイチへの注意がおろそかになっていたことを認めつつも、しっかりとその目で動きは追っていた黒竜。それにも関わらず腹部への一撃を許してしまったことが理解できず黒竜は困惑に呑まれながら絶え間なく放たれる水の拳を防ぐことしか出来ない。
(……小娘は召喚士……精霊の力を借りているのは明らか……だがなぜここまで人離れした動きが出来る?)
拳士も真っ青な連撃を防ぎながら、テイチという存在の分析を必至で続ける黒竜。
(よし……防ぎきれている……これな……)
絶え間なく続くテイチの拳による連撃に慣れ始めた矢先。
【ゴフゥッ!】
テイチの分析とそのテイチから放たれる連撃に意識を割いていた黒竜は突然地面から突き出した土の柱に対応しきれず下顎を撃ち抜かれた。
(……違うッ!)
だがその衝撃のお蔭か答えを求めていた黒竜の思考が前へと進んだ。
【……なるほど……そういうことか……お前……四属性全ての上位精霊と契約を交したのかッ!】
「それがどうした?」
黒竜の問に対して、当然とでもいうようにそう答えたテイチは攻撃の手を止めない。無慈悲に、ただ的確に目の前の敵を殲滅するべく、持っている手数を余さず叩きこむ。
(四属性全ての上位精霊と契約を交すという偉業を前にそれがどうしたと吐きやがったぞこの小娘ッ!)
言葉通りの防戦一方。攻撃の隙を貰えられずテイチから繰り出される四色の変則的な攻撃をただ防ぐことしか出来ない黒竜は、テイチの言葉に驚愕する。
過去、幾多の英雄や勇者と呼ばれる冒険者や戦闘職と対峙し討たれ、その都度生まれ変わりを繰り返すことで強大な力を手にしてきた黒竜。そんな数えきれない戦いの中には、上位精霊と契約を交していた召喚士も何人かいた。しかし黒竜が覚えている限り、対峙した召喚士の中で四属性全ての上位精霊と契約を交した者はいなかった。
(いやまだだ……何かを見落としている……我は何を見落とし……)
そこまで思考した黒竜の意識が一瞬途切れる。
(ハッ! 我が意識を飛ばしただと)
僅か数秒意識が飛んでいた黒竜は、自分の置かれた状況を確認しようとテイチの姿を追う。
(なッ……上位精霊による四属性同時攻撃……だとッ!)
意識を取り戻した黒竜の前に広がるのは、火水風土の光が混ざり合った1つの巨大な光球。それは即ち四属性の同時攻撃。しかしそれは本来有り得ないことだった。
【ごふぁァァァァ!】
これまでの攻撃が前座とでも言うように、テイチは圧倒的殲滅力を持った一撃で黒竜を消しにかかる。そして次の瞬間、四色の混ざり合った光球が暗い魔王城を巻き込んで爆発した。
その力は災害とも称され国1つ簡単に滅ぼすことが出来ると言われている上位精霊の力。そんな力を同時に4つ合わせて放てば、当然周辺には何も残らない。半壊していた魔王城は跡形もなく消滅したのは当然として、半径10キロ圏内にあったものは何もかもが吹き飛び地形すら変えてしまった。上位精霊による四属性同時攻撃は圧倒的殲滅力を持って魔王に関する全てを消し飛ばしたのだ。
【フフフ……あっははははッ! なるほど……なるぼとな……わかったぞ小娘】
しかしそれでも魔王の力を得た黒竜だけは消し飛ばすことが叶わなかった。
「ッ! 何で……」
全てを消し飛ばしたはずと思っていたテイチの表情が驚きに染まる。
【……小娘……我はずっとお前に違和感を抱いていた……】
無傷とは言えないが上位精霊による四属性同時攻撃を受けて尚、消し飛ばずその場に立っている黒竜は戦いを始めてからずっとテイチに抱いていた違和感を口にする。
【ただの人族如きが我と同等の……いや、それ以上の力を持つなど違和感でしかない】
人1人が持っていい力を明らかに超えているテイチの力が違和感であると断言する黒竜。
【……この違和感は一体何だと、お前に殴られ続けながら我は考えた……そこで1つわかった……無詠唱、無動作だ……ただの精霊召喚ならいざ知らず精霊どもに愛されているからという理由だけで強大な力を持つ上位精霊を無詠唱、無動作で召喚するなどありえん……】
本来精霊を召喚するには詠唱、もしくは召喚する精霊に纏わる動作が必要になる。詠唱、動作をすることで、召喚士が消費する精神を抑える効果があるからだ。ただし、実力があると言われ精神要領が高い召喚士や精霊と強い絆で結ばれている召喚士であれば、精神消費を抑える詠唱や動作を省略して精霊を召喚することが出来る。当然、精霊に愛されているテイチもこの範疇の中にいる。だがそれはあくまで精霊であればという話。テイチが契約しているのは上位精霊。例えテイチが精霊に愛されているといっても、上位精霊という莫大な力を召喚するには、それ相応の精神が必要になり精神消費を軽減する詠唱や動作は当然必須になる。
【……更には上位精霊による四属性同時召喚……ただの人族には……いや例え他の種族であってもそんなこと有り得ない、そんな存在有り得ない絶対不可能だ……】
更には詠唱や動作を省略した上で上位精霊を四体同時召喚による四属性同時攻撃をやってみせたテイチ。人族云々の問題では無く、そんな芸当ができる種族は存在せず有り得ない絶対に不可能だと黒竜は言い切った。
【……だが小娘……お前は人の身でありながらその有り得ないはずの事を……不可能を可能にした……ふふ、そりゃそうだ……】
渾身の一撃を防がれ動揺が隠せないテイチを前に不敵な笑みを浮かべる黒竜。
【……お前は上位精霊たちを無詠唱、無動作で召喚していたのではなく、自分の中に取り込んだのだからな……】
テイチの強さの秘密。なぜテイチが上位精霊たちを無詠唱無動作で召喚することが出来たのか。その謎を解明した黒竜はそう言うと高らかに笑った。
― 数分前 場所不明 ―
「サンタぁぁぁぁぁぁぁッ!」
突如、精霊王は叫んだ。
「はいはい、呼ばれて飛び出て邪……」
すると本来テイチという存在以外誰も入りこむことは愚か干渉することも出来ないはずの空間に、赤と白を基調とした服を着た人物が古の魔人が言いそうな口上を口にしながらと突然現れた。
「……」
突然現れた謎の人物に目を丸くするテイチ。
「……あのさ、勢いで飛び出して来ちゃったけど気軽に呼びつけるのってどうかなって俺は思うよ? 俺、仮にも一応神様なわけだからさ……」
自称神と名乗った存在は、精霊王の呼びかけに応じノリよく現れたものの、自分を気軽に呼び出すなと苦言を口にする。
「それに……もうお前の頼みは聞かないって言ったはずだよな」
現れた時の軽い雰囲気が嘘のように、真剣な表情で精霊王に対しそう苦言を重ねた自称神。
「再び呼び出したこと、あなたとの約束を破ったことについては謝ります……」
自称神の苦言に対し精霊王は言い訳せず素直に謝った。
「ですが私の呼びかけに直ぐ応じられるようあなたは私たちの状況を観察していたのではないですかサンタ?」
神と自称する存在サンタに対して詫びはしたが精霊王の表情に恐怖や畏怖は感じられない。あるのはサンタに対する親しみを込めた笑みだった。
「……はぁ……全くお前には敵わないな……それで今度は俺に何をしてほしいの?」
全てを見透かされていたことを悟った自称神ことサンタは、1つ大きなため息をつくと精霊王の願いを尋ねた。
「いえ、私はあなたを呼んだだけです」
「……ん? どういうこと?」
精霊王の言葉の意味がわからず折れるのではないかと思える程首を傾げるサンタ。
「この子の願いをあなたに叶えてもらいたいのです」
精霊王はそう言いながらテイチの肩を軽く叩いた。
「え?」
未だ何が何だかわからないテイチは、話の軸が自分に向き慌てて精霊王の顔を見つめた。
「この御方は時と空間を司り小児性愛者……ゴホンゴホン失礼……子供の幸せを望む神サンタクロース様です」
助けを乞うような目で自分を見つめるテイチへ、自称神と名乗るサンタの正体を説明する精霊王。
「ろり……こん?」
精霊王から説明を受けたテイチは不安そうにその視線をサンタへと向ける。
「うーん違うよ、俺の名はろりこんじゃなくてサンタクロース、時と空間を司る神だよ」
不安気なテイチの視線に合わせるようにしゃがんだサンタは、精霊王の間違った説明を優しく正した。
「おい精霊王……」
テイチへ向けていた優しい視線を精霊王へ向けるサンタ。その視線は憤怒に染まっていた。
「ふふふ、これは失礼いたしました」
仮にも神の憤怒。しかしサンタに睨まれても、全く動じることなく楽しそうな笑みすら浮かべる精霊王。
「……ッ! ……そうか……お前はそんな風に笑うんだな」
長い時間の中で、感情は希薄になりいつしか笑うことすら無くなっていた精霊王。例え笑みを浮かべたとしてもそこに感情が伴っていないことをサンタは長い付き合いの中で理解していた。そんな中で見せた精霊王の本当の笑みを目の当たりにしたサンタは思わずそんな言葉を零していた。
「……え? 何か言いました?」
「べ、別に何も言ってない……」
思わず零してしまった言葉を必至で隠すサンタは少し顔を赤らめながらテイチへ視線を戻した。
「なるほど……なるほどね……確かに彼女なら……まだ子供である幼き日の君の願いなら聞き届け叶える義務が俺にはある……」
自分を無理矢理納得させるようにそう言いながら頷くサンタ。
「さてさて、幼き日の君よ……さっきも言ったが俺は時と空間を司る神だ、時間や空間関連のことであれば、大抵のことは出来る……そして今俺は君の願いを凄く叶えてやりたいと思っている……何か叶えて欲しい願いはあるかい?」
精霊王の時とは違い、どこまでも優しく柔らかい表情でテイチの願いを聞くサンタ。
「……」
どうしたらいいのかわからず精霊王へ顔を向けるテイチ。
「あなたが思うままに願えばいい」
あくまでテイチの気持ちを尊重する。だから細かいことは言わず全てをテイチへ委ねる精霊王。
「私は……私はウルディネを今すぐ助けに行きたい」
「ははッ! 凄くいい願いだ」
テイチの純粋な願いに破顔するサンタ。
ウルディネが傷つく前や、ムウラガ大陸へ行く前に時を戻してといった効率の良い願い方はいくらでもあっただろう。だがそれでは駄目なのだ。
時と空間を司る神サンタクロースが力を発動させる唯一の条件。それは願う者の純粋な思いの強さ。幾多も存在する選択肢を選ぶのではなく、その瞬間に抱いた強い思いが力の発動条件となるのである。故に例外はあるもののその対象は純粋な思いを持つ子供に限定される。あらゆる状況を想定、考えることができる者、即ち大人になってしまった者の願いをサンタクロースは叶えることが出来ないのである。
「うーんただ時と空間を司る神として口を挟むことじゃないが、助けに行ってどうする? 今の君が駆けつけた所で、戦況が変わるとは思えないが?」
自分の立場上、それが余計な言葉であることは重々承知の上でサンタはテイチを介して精霊王に尋ねた。
「そこは私に考えがあります……なのでテイチをウルディネの下へ送り届けるのはもう少し待ってください」
テイチへ向けて話しかけていたサンタの横でそう口にした精霊王はテイチの顔を見つめる。
「私……今のあなたには力が足りない……このままウルディネの下へ向かっても助けることは愚か、何も出来ずに殺されてしまうでしょう」
「……うん」
ウルディネが戦っていた相手。魔王と呼ばれる存在に対して自分があまりにも非力であることはテイチにも理解できる。だからテイチは精霊王の言葉に頷いた。
「……だから力を借りましょう……今あなたの肉体に集まっている上位精霊たちに」
― 数分前 フルード大陸 インギル大聖堂 ―
「テイチ目を覚まして! お願い目を……覚まして!」
テイチを呼び戻そうとするブリザラの叫びが不気味なほど静まり返ったインギル大聖堂に響き続けていた。
「……お姉……」
その叫びが届いたというように、ゆっくりと目を開くテイチ。
「……テイチッ!」
ブリザラの叫びが歓喜へと変わる。
「……聞こえていましたよ、お姉……ブリザラ様の声」
ブリザラのことをお姉ちゃんと呼びそうになったテイチは慌てて呼び方を直した。
「良いんだよお姉ちゃんで……良かった……本当に良かった」
まだ少し気怠さを残したたどたどしいテイチの言葉を聞きながら安堵し肩の力が抜けるブリザラ。
「……う、ううう……」
「無理に動いちゃ駄目だよ」
意識を失っていたテイチの身に何が起っていたのか分からないブリザラは無理に動こうするテイチを止めた。
「大丈夫です……それより……今ここに上位精霊さんたちはいますか?」
動くことを止めようとしたブリザラの手を借りながらその場で立ち上がったテイチはそう言いながら周囲を見渡した。
「我々ならここにいる……お初にお目にかかる精霊王……」
周囲を見渡したテイチの視線の先。明らかに人とは違う雰囲気、姿をした者たちが三人立っており、その内の1人、見た目魔法使いのような恰好をした長い髭を蓄えた老人が代表してテイチの問に答えた。
「……お願いします上位精霊さん……私は精霊王になることを断ってしまいました……でもいつか……いつか精霊王になります……だから私に……いつか精霊王になる私に力を貸してください」
精霊界に安寧の平穏を齎すという精霊王。その精霊王の役目を蹴ったテイチは目の前に立つ上位精霊たちへ罪悪感を抱きながらも、いつか精霊王になることを条件に力を貸して欲しいと願いを告げた。
「いつか……」
その曖昧なテイチの言葉に厳しい表情を浮かべたのは土を司る上位精霊ノム。
「いつか!」「いつか?」
ノムの少し後ろに立つ火を司る上位精霊インフルードと風を司る上位精霊シルフィは互いの顔を見合った。
「……残念だが……そんな曖昧な言葉では我々が力を貸すことは出来ん……」
決してノムはテイチへ力を貸したくない訳ではない。だがテイチのその言葉からは何も感じないノムは、もう一言、テイチという存在を示す何かを引き出す為、厳しく振る舞い突き放すように顔を逸らした。
「あ……ああ……」「お……おお」
上位精霊であるインフルードやシルフィも同じ気持ちであると思っていたノム。
「……ん? どうした?」
しかしそんな思いを同じくする二体の様子が何処かおかしいことに気付いたノム。二体が見つめる方へ視線をゆっくりと向ける。
「……私の願いでも聞き届けてはくれませんか?」
「……はッ!」
それはノムにとって聞き覚えの無い声だった。しかし聞き覚えはないもののその声の主が何であるのか、即座に悟るノム。
「……ま、まさか……」
ノムは自分の抱く予感が事実であることを理解した上で振り返った。
「……精霊王……」
振り返り声の主の姿を見たノムは驚きながらまだ誕生していないはずの精霊王の名を口にするのだった。
ガイアスの世界
今回ありません




