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最後の贈物

ガイアスの世界


 今回ありません


 最後の贈物



― 時間不明、場所不明、世界不明 ―




 白という色以外何も存在しない世界。そこには幼さの残る美しい顔をした1人の女性が佇んでいた。


「……これが最後の機会チャンスだ、もうこれ以上は力を貸さんぞ」


 突然1人佇む女性へ話しかける声。その声がする方へ女性が視線を向けるとそこには、大きな白い袋を肩で担ぐ男が立っていた。その大きな白い袋も特徴的だが、男の恰好は更に奇抜で赤を主軸とし差し色に白というこの白い世界では一際目を引くものだった。


「……分かっています……あなたの力を借りるのはこれが最後です、時の神」


 頷き男の名を口にする女性。


「はぁ……本来『時』に干渉することは神である俺であってもよほどのことが無い限り禁忌とされている……それは干渉したことで女神が創造した世界に歪が生まれ大きな崩壊の原因を引き起こす可能性があるからだ……だから俺はよほどのこと……あらゆる世界の子供たちへこの袋の中に入った贈物プレゼントを配る為にしかこの力は使わないと決めている」


 神とは思えないほど口の悪い時の神は、肩に担いでいた大きな白い袋を下ろすとその中に手を突みながらぶつくさと文句を垂れはじめた。


「……それなのにあんたが干渉しようとしている世界はどうなっているんだ? 俺以外の奴が何人も気軽に『選択』という名目を理由にして『時』へ干渉しようとしやがる……」


 自分以外に『時』へ干渉しようとしている存在が何人もいることに不満の声を上げながら時の神は大きな白い袋の中を漁る。


「……果てには世界を創造した女神本人までもが、なぜかあの世界の『時』へ干渉してやがる……まあ女神が創造した世界だ、そこにあーだこーだと文句は言わない……しかしそこに来てあんただ……あんたまでもが、あの世界の『時』へ干渉しようとしているのはどういう了見だ? そんなにあの世界の『時』へ干渉することが重要なのか?」


 中々お目当ての物を探り当てられないのか、その間を埋めるように時の神は女性へなぜ干渉するのか尋ねた。


「……重要……いいえ……私の我儘です……様々な存在から『時』の干渉を受けたあの世界なら……かつて私が選択した……」


「ああッ! もういい……答えなくていいッ!」


 女性の言葉を途中まで聞いた時の神は、何かを察したのかその言葉を遮った。


「……あんたも選択する大人になっちまったな……」


 何処か寂し気な表情を浮かべる時の神。


「……あんたがこの世界にとって碌でも無いことをしようとしているのは理解した……これ以上関わりたくないから俺はもう聞かないし、知らない」


 やっとお目当ての物を探り当てた時の神は、大きな白い袋から何かを取り出すと、それを女性へと差し出した。

 

「ありがとう……」


 時の神から差し出された何かを両手で大事に受け取る女性。


「……あんたへの贈物プレゼントはこれが最後……もうあんたへ贈物プレゼントはしない……」


 ふて腐れたような表情を浮かべながら時の神は何かを受け取った女性へそう告げた。


「ふふふ……あなたにそう言われるとうれしくも少し寂しいですね……」


 大事そうに受け取った何かを懐にしまった女性は、うれしくも寂しそうな複雑な笑みを浮かべた。


「うるせえ……大人になった奴と俺の正体を知っちまった奴に俺は贈物プレゼントはしないんだよ……ほら、さっさと行って来い」


 煩わしいというように女性に背を向ける時の神。


「……ありがとう……サンタさん」


 背を向けた時の神に対してもう一度感謝の言葉と時の神の本当の名を口にした女性は、白い頭巾フードを被ると両手を組み祈る。

 すると懐にしまった何かが輝き出した。


 それは『時』を駆ける鍵。使用すれば使用した者をあらゆる時空、あらゆる世界、あらゆる場所へ飛ばすことが出来るという時の神が持つ神具。


 女性は『時』を駆ける鍵へ願う。あの世界、あの時間、あの場所。自らが一度選択し決断してしまった場所へと。


「……行ったか……」


 女性の気配が消えたことを感じ取った時の神ことサンタはゆっくりと振り返る。


「……はぁ……やっぱ大人はつまんねぇな」


 自分以外誰もいなくなった白い世界で大きなため息をついたサンタは、大きく白い袋を肩に担ぐと、女性がいた場所をもう一度見つめ何かを願うと消えるようにその場を後にした。




 ― 現在 場所不明 ―




「……いやあああああああ、いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 目の前の光景が過ぎ去った過去のものでは無く、現在進行形リアルタイムの出来事あると悟ったテイチは、そんな現実受け入れられないと言わんばかりに拒絶の悲鳴を上げる。


「あ、ああ……あああ……」


 悲鳴を上げていた声が一瞬にして枯れるほどその光景はテイチに強い衝撃と絶望を与えた。

 ウルディネの体中は引き裂かれ、腹部には禍々しい黒い刃が突き刺さっていた。辛うじてまだ息をしてはいるが、僅かに触れただけで今にもその命が散ろうとしていることを、ウルディネと契約を交しているテイチにははっきりと感じ取れてしまう。


「はッ……ああ……あ゛あ゛あ゛あ゛……」


 今すぐにでも助けに行きたい、せめて自分の精神力をウルディネへ分け与えられる距離まで行きたいと願うテイチ。しかし物理的に今すぐ行ける距離に自分がいないという現実、そもそも今自分が何処にいるのかも分からないという状況に、自分の半身が消滅するのをただ見ていることしか出来ないことを悟りテイチの絶望は更に増していく。


「……あの精霊を助けたいですか?」


 ウルディネを失うという絶望に呑まれていくテイチを横で見つめていた白い頭巾フードを被った人物は、まるで一筋の希望をもたらす神のようにそう尋ねた。


「あッ……」


 白い頭巾フードを被った人物にそう尋ねられ、即座に返事をしようとするテイチ。だが枯れた声では演じが出来ない。それでも自分の意思を伝えようとテイチは頭を上下に力一杯何度も振った。


「……ならばあなたは大きな決断をしなければならない……あの精霊を助ける為に人を捨て精霊王になる覚悟はありますか?」


「!」


 人を捨てる。まだ年端もいかない少女が決断するにはあまりも重い選択。しかしテイチの答えは即答。確固たる意思を乗せてテイチは頷いた。


「……」


 精霊の記憶によって帰る場所である集落を失い、両親も既にこの世にはいないことを知ったテイチにとって、もう家族と呼べる者はウルディネしかいない。そのウルディネすら失えばもう生きている理由はテイチには無い。そう考えてしまったテイチが下した選択は、ウルディネを助けることが出来るのならば人を捨てても構わないであった。


「あぅ……ああぁ」


 だからお願いとすがるように自分を見つめるテイチのその姿に僅かな動揺をみせる白い頭巾フードを被った人物。


「……本当にいいの? ……もうア……ううん……近しい人に会えず、永遠とも言える孤独な時を精霊王として生きることになるのよ?」


 自分が提示したにも関わらず白い頭巾フードを被った人物は、念を押すように、それこそなりふり構わず突き進もうとする少女を引き留めるような物言いでテイチへ尋ねた。


「!」


 だがテイチの意思は岩のように硬く、白い頭巾フードを被った人物の問に強く頷いた。


「……そう……あなたもその選択を選ぶのね……まあ当然……なのかな……大事な存在を助けたいんだものね……」


「……」


 テイチの強い意思に当たられてなのか、それともそうなることわかっていての諦めなのか、白い頭巾フードを被った人物の口調が砕け柔らかくなった。


「……ッ! ならば精霊王への道を進みなさい……精霊王になることを選んだあなたにこれから待つのは、膨大な時間と終わりの無い虚無……消失し生まれ変わる精霊たちを見守るというシステム……」


 決心したというように再び堅苦しい口調へ戻した白い頭巾フードを被った人物は、テイチへ向け精霊王への道を説く。


「……人である証、肉体を捧げなさい……」


 白い頭巾フードを被った人物の言葉を聞き、自然と両手を組み祈る姿となるテイチ。


(……待っていてウルディネ……これで……)


「……そして解放された魂を精霊の住まう世界へ」


 何処か苦しいような表情を浮かべながら白い頭巾フードを被った人物は言葉を続ける。


(……結局変わらなかった……)


 心の中で本音を呟く白い頭巾フードを被った人物。


『……駄目ッ!』


 しかし次の瞬間、テイチの選択を否定するような声が精霊たちの記憶が映る空間に響き渡る。それはテイチでもなければ白い頭巾フードを被った人物のものでもない第三者の声。


「「ブリザラさんッ!」」


 思わずその声の主の名を呼ぶテイチと白い頭巾フードを被った人物の声が重なった。


「……あ、ありえない……」


 響き渡ったブリザラの声に有り得ないと否定する白い頭巾フードを被った人物。しかし口では否定しつつもその口元は嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 ガイアスの世界


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