精霊たちの記憶
ガイアスの世界
今回ありません
精霊たちの記憶
― 場所不明 ―
「テイチ……私の愛しいテイチ……」
自分の腕に抱く赤子を優しく温かい眼差しで見つめる女性。破れた物を何度も縫い合わせた服。まともな食事を食べていないことがわかる痩せた体。見るからに貧しい女性は、それでも腕の中の我子に生きる意味と幸せを感じ幸せそうに笑う。
「……私?」
赤子の名はテイチ。ムウラガの海沿いにある貧しい集落で暮らす両親の間に生まれた子供。そしてその母親と赤子を見つめる少女の名でもある。
「……」
家というにはあまりにも小さな小屋。雨風をどうにか防げる程度のその場所に住む母親と赤子の自分を見つめるテイチの表情が驚きから戸惑いに変わる。
「……これは精霊たちが持つ記憶……あなたは生まれた時から精霊に愛されていた……」
いつからいたのかテイチの横には白い頭巾付の外套を纏った人物が1人。
「……これは精霊たちの記憶……精霊たちから見たあなた……」
白い頭巾を被った人物は、戸惑いの表情を浮かべるテイチに目の前の光景は精霊たちの記憶だと語る。
「自我を持たないはずの精霊たちは、あなたの誕生に歓喜し祝福した……」
頭巾を被った人物が口にした言葉が事実であることを示すように、赤子のテイチと母親の周囲に漂う精霊たちの動きは喜びに満ちていた。
「……精霊王たる素質を持ったあなたの誕生に……」
精霊界の中で突如として生まれる精霊の特異点、精霊を統べる王。精霊たちを導く存在である精霊王の誕生は精霊界だけに留まらず、このガイアスに漂う精霊たちをも歓喜させた。
「……時が移り変わる……次は……」
戸惑いの表情を浮かべたままのテイチを置いていくように精霊たちが見せる記憶の光景が移り変わって行く。
「……在りし日の光景……」
頭巾を被った人物の語りと同期するように映り替わった精霊たちの記憶が見せる光景には幼いテイチが並々と水を汲んだバケツを抱える姿が映しだされた。そしてそこには心配そうに幼いテイチ見守る上位精霊の姿があった。
「……彼女はあなたをずっと見守っていた……」
「……ウルディネ……」
まだその存在を感じられない頃からずっとウルディネは自分の側にいたことを知り、戸惑いから強張っていた表情が僅かに緩むテイチ。しかし次の瞬間、母や父、集落のことが頭を過りテイチの表情が再び強張った。
「……貧しくも幸せであった日々……」
テイチの心の起伏に付き合う気がないのか、頭巾を被った人物は語りを続ける。
「……過酷な環境であっても小さな幸せを得ようと一生懸命に生きていた者たち……」
「……」
精霊たちの記憶は幼いテイチを中心に様々な光景を映し出す。そこにはテイチが住んでいた集落やそこに暮らす人々が映し出される。
「……でも……」
頭巾を被った人物がそう口にした瞬間、精霊たちの記憶が赤く染まる。
「……ッ!」
精霊たちの記憶がテイチの知らない光景を映しだす。
「……その日々は、黒い全身防具を纏った男と出会った日に終わった……一生懸命生きていた者たちの命は、悪意と欲望に塗れた者たちが放った火によって全て燃えてしまった……」
映し出される光景には燃えて朽ち果てて行く集落と、耳を覆いたくなるような人々の断末魔、逃げ惑う人々を笑いながら殺していく者たちの姿があった。
「……いやあああああああああああ!」
自分の知らない光景が映し出され、既に母や父、集落がこの世にはないことを理解したテイチはそれを拒絶するように悲鳴を上げその場に崩れ落ちた。
「……なぜ、今の今まで母や父……自分が住んでいた集落のことを思い出さなかったのか……」
目の前の光景から逃げるように耳を両手で塞ぎ目を瞑るテイチの心を見透かすように、頭巾を被る人物は語る。
「目の前に広がる見たことも無い光景に心奪われてしまった……目まぐるしく過ぎて行く日々に、気に掛ける余裕も無かった……母や父、集落の存在を忘れてしまう程に、外の世界は様々なことに溢れていた……」
頭巾を被った人物はまるで言い訳をするようにテイチの心を代弁する。その言い訳に同期して精霊たちの記憶が見せる光景は、テイチのこれまでの日々を映し出していく。
「て……テイチ……」
塞いだ耳を貫通して聞こえてくるその声に思わず顔を上げるテイチ。
「……へ?」
目の前に広がる精霊たちの記憶がテイチに見せた光景。そこには禍々しい黒い刃に貫かれ、今まさに事切れようとするウルディネの姿があった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」
母や父、生まれた集落を失い、そして自分の半身とも言える存在を失ったテイチの絶叫が響き渡った。
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