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未来を守り抜く盾

ガイアスの世界


 今回ありません

 

 未来を守り抜く盾




 『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス



 彼を選んだのは突発的でも無ければ思いつきでも無い。彼がこの世界を守るに足りる盾を持っていたからだ。



 ― 二十日前 サイデリー王国 氷の宮殿 修練場 ―



 一日何十人もの盾士たちが技術を高める為に利用する修練場。他の戦闘職が利用する修練場とは違い、守る事に特化したこの修練場を利用しようと日々多くの盾士たちがやって来る。

 任務外の盾士たちが定期修練として利用するのは勿論、朝昼晩どの時間でも解放されている修練場には任務前に己の技術を確認する者、同僚と技術を競い切磋託無する者など様々な理由で利用されている。

 ただ早朝から任務が始まる関係上、夜に修練場を利用する盾士たちは少ない。夜に利用する者たちの目的は、任務失敗の反省や盾士としての自分を見つめ直したいなど基本的に体を動かすのではなく、1人で何かを考えたいと時に利用されることが多いのだが、それでも一カ月に1人か2人といった頻度である。




「……」


 そんな誰もいないだろうという思惑を胸に深夜の修練場に姿を現した人物が1人。国に起る災害や魔族の襲撃、魔王の誕生や自分の中に存在する女神。様々な状況を前にして散らかっている頭の中を整理する為、誰も利用していないだろう深夜の修練場へやって来たのはサイデリー王国の王ブリザラだった。


「……?」


 夜も更けた深夜。誰もいないはずの静まり返った修練場の入口へ立ったブリザラは、廊廊下を歩いている時から聞こえてきた何か重い物を振り下ろしているような音が修練場の中から聞こえていることに気付いた。


「うーん」


 修練場の中から聞こえる音はどう聞いても盾で素振りをしている音。深夜に黙々と盾を振り続ける盾士は、きっと1人で何か考えたいことがあるはず。それを邪魔してはいけないとブリザラは修練場を後にしようと踵を返した。


「え?」


 だがブリザラが踵を返しその場を後にしようとした瞬間、ブリザラの足が止まる。修練場から響く素振りの音が変わったからだ。その音は盾を振っているとは思えないほど真っ直ぐで澄んでいた。その音だけで修練場の中にいる者が盾の扱いに長けた者だということがブリザラにはわかった。

 盾の扱いに長けた者と言えば、最初に名が挙がって来るのは最上級盾士たちだ。しかし多忙な彼らがこんな真夜中に修練場で鍛錬をしているとは思えない。最上級盾士でないのならば、次に考えられるのは上級盾士。だがここまで澄んだ音を響かせるような盾の素振りをする上級盾士をブリザラは知らない。ならば一体誰が。


「ごめんなさい」


 好奇心に負けたブリザラは、悪いと思いつつも修練場の入口へ戻り、静かに扉を開けると中へと入っていった。


「……ハルデリアさん」


 気付かれないよう物影に隠れながら修練場を覗き込んだブリザラ。そこにいたのは半年以上前に島国ヒトクイからやって来た元魔法使いの盾士ハルデリアだった。


「凄い……」


 目の前の光景に思わず声を零してしまったブリザラは、その人物に自分の声が届かないよう慌てて口を塞いだ。


「……ハルデリアさんがこの音を……」


 最上級盾士と聞き間違える程の素振りの音を出していたのがハルデリアだと知り驚きを隠しきれないブリザラ。それもそのはず。ハルデリアはまだ新米ルーキーの盾士だからだ。


 驚異的な記憶力を持つブリザラは、人口1万を越えるサイデリー王国に住む人々全ての顔や名前、その人の職業や趣味に至る些細なことまで詳細に覚えている。それは彼女の血筋が持つ才能であり、この才能のお蔭で現在のサイデリー王国があると言っても過言では無い。

 国を守ってくれている盾士たちは当然、今年入った新米ルーキー盾士の顔もブリザラは覚えている。その新米ルーキーの1人がハルデリアだった。


「一切無駄の無い綺麗な振り下ろし……」


 自身も盾士であり、盾士としての経験もそれなりに積んで来たブリザラは、一心不乱に盾を降り続けるハルデリアの素振りをそう評価した。


「盾の重さに振り回されていたあの頃とは全くの別人のよう……半年という期間で相当鍛錬を積んだんだろうな」


 一般的に新米ルーキー盾士とブリザラが顔を合わせることは少なく、顔を合わせるのは一年に数度ある合同演習ぐらいで、後は偶然宮殿内で会う程度。特に今年はブリザラが旅に出てしまったことで、盾士たちの合同演習に顔を出す機会が無く、新米ルーキーたちと顔を合わせる頻度は例年より少なくなっていた。それにも関わらず、なぜ新米ルーキーであるハルデリアが盾士として目まぐるしい成長を遂げたことをブリザラが実感できたのか。それはブリザラにとってハルデリアという人物が他の新米ルーキーよりも特別だったからだ。

 半年以上前、自我を持つ伝説の盾キングの所有者となったブリザラは、キングの能力を引き出す為に自らも新米ルーキー盾士として鍛錬を始めた。その鍛錬の相手を務めたのが当時まだ盾士になって数日しか経っていないハルデリアだった。

 当時に比べ洗練された盾の扱い。節々に見られる無駄の無い動き。ブリザラの見立てではハルデリアの実力は既に中級、いや上級盾士でも通用するものであった。

 だが何も知らず盾で素振りを続けるハルデリアは更にブリザラを驚かせた。


「え? 盾が燃えている?」


 突如としてハルデリアの振る盾が燃え上がったのだ。しかしハルデリア自身は熱くないのかそのまま素振りを続ける。


「……あれは付加エンチャント? 火の魔法を盾に付加エンチャントしたの?」


 魔法を深く知らないブリザラは、自分の知っている知識を総動員して目の前で起っている状況を理解しようとした。


 付加エンチャントとは物体に何かしらの属性を与える魔法使いが扱う魔法の一種である。例を挙げるならば本来何の属性も持ち合わせていない剣に火の付加エンチャントをすることで、剣に火の属性を与え、攻撃力を底上げするができ、火に弱い魔物に対して優位アドバンテージを取ることが出来る。これを盾に置き換えた場合、火の属性を得た盾は、火の攻撃に対して優位アドバンテージを取ることが出来るということになる。

 しかし付加エンチャントは冒険者や戦闘職の中では非常に効率が悪いと言われている。その由縁は詠唱に時間が掛かるのと、そもそも魔法使いがパーティの仲間の武器に付加エンチャントをかけるよりも、そのまま魔法で攻撃した方が手間も無く、簡単で消費する精神力も最小で済むからだ。

 そしてこれは防御に関しても同じだ。確かに相手と同じ属性の付加エンチャントを盾に付けられれば被害は最小限ですむ可能性が高い。しかし発動する為の詠唱時間や消費する精神力を考えれば、わざわざ前衛職が持つ盾に付加エンチャントするよりも後衛職の魔法使い本人が魔法盾マジックシールドなど属性を伴った防御魔法を発動すれば事足りるからだ。

 だがその全てを1人でこなすことができればどうだろう。ブリザラは燃えていたハルデリアの盾が突然水に包まれるのを見てその可能性を確信した。

 ブリザラが見ていることなど知らず、ハルデリアは出来て当たり前というように軽々と盾へ付加エンチャントする属性を次から次へと変えながら素振りを続けて行く。


「自分には魔法使いとしての才能が無かったなんて言っていたけど……」


 知り合った当初ハルデリアは自分には魔法使いとしての才能が無かった、だから別の職業に就く為、サイデリー王国へやって来たとブリザラに語っていた。だが目の前の光景を前にブリザラはその言葉を否定する。


「四属性を詠唱なしで瞬時に切り替えて盾に付加エンチャントすることが出来る……これは凄い才能だよハルデリアさん」


 目の前の光景に興奮しつつも、その興奮を抑え込みながら静かにハルデリアが持つ才能を称賛するブリザラ。その瞳の奥には自分と共に未来を守る盾となるハルデリアの姿が映っていた。




 ― 十九日前 サイデリー王国 氷の宮殿 王の間 ―



「……そんな訳で私はハルデリアさんを中級盾士に任命しインギル大聖堂へ同行させようと思っています」



「……ッ!」「……ッ!」「……」


 王との謁見を許された場所王の間。そこに置かれた飾り気のない王座に座るサイデリー王国の王ブリザラは、目の前にいる三人の最上級盾士に昨夜自分が修練場で見たハルデリアが持つ才能について説明を終えると、中級盾士への昇格とインギル大聖堂への同行を彼らに宣言した。


「……待ってくれブリザラ様、確かにハルデリアが他の新米ルーキーよりも努力しているのは直接指導している俺が一番理解している……だが奴は指導中一度だって付与エンチャントを見せたことは無かったぞ」


 ブリザラの宣言に待ったをかけたのは最上級盾士の1人であり、ハルデリアを直接指導しているグランだった。


「……それは鍛錬だからじゃない?」


 首を傾げるグランにそう声をかけたのは同じく最上級盾士の1人ティディ。


「鍛錬で行われる盾士組手では属性を必要としないもの……それに、まだ盾士になって半年の彼は実戦任務を経験していない……付加エンチャントを使う場が無いのよ」


 なぜハルデリアが指導者であるグランの前で付加エンチャントを使わないのか、その理由を説明するティディ。


「……やっぱり前職の魔法使いの経験が大きく影響しているのかしら……でも魔法使いの時は才能が花開く事は無く挫折したって……」


 グランに説明を終えたティディは、ハルデリアに感じた疑問を口にする。


「……これは私の憶測でしかないが、ハルデリアには防御魔法の才能があったのではないだろうか?」


 ティディが口にした疑問にそう答えたのは、最上級盾士の1人ガリデウス。


「……魔法使いと言えば攻撃魔法が花形だ……魔法使いならば誰しも最初に覚えようとするのは攻撃魔法……ハルデリア自身もそう思って攻撃魔法を中心に習得しようとした……しかし攻撃魔法に対する才能は皆無……自分に防御魔法の才能があることをしらないまま魔法使いに挫折したのではないだろうか?」


 見た目に寄らず知識人であるガリデウスは、自分が知る限りの知識を持ってティディの疑問に答えた。


「私もガリデウスの言っていることが近いのではないかと思っています……だからこそ、守りを主体とした盾士に転職し鍛錬を続けて行くうちに、防御に特化した魔法使いの才能が花開いたのだと」


 ガリデウスの説明に付け加えるようにハルデリアの才能について私見を口にするブリザラ。


「彼の才能はこの国……いえ、この世界の未来を守り抜く力になると私は考えています……だからハルデリアさんの中級盾士への昇格とインギル大聖堂への同行を承認してください、お願いします!」


「……それとこれは話が別です、ハルデリアの昇格と同行は現時点では承認できません」


 ハルデリアが持つ可能性を説きつつ、自分の願いを通そうとするブリザラに対して、きっぱりと不承認を突きつけるガリデウス。


「そんな! 盾士の昇格には最上級盾士と承認が必要なのに、中級以上じゃないと国の外に出られないのにッ! ガリデウス酷いよ!」


 何とか今まで王としての恰好を保っていたが、ガリデウスに不承認を突きつけられたことでただの少女に戻ってしまうブリザラ。


「俺はいいと思うけどな、ハルデリアは盾士に対して真面目だ、そんな奴には経験をさせるのが一番だろ、それになんか面白そうだし」


「グランさん!」


 グランからの援護射撃に歓喜の声を上げるブリザラ。


「グランお前……」


 想定していたグランの裏切りに、やはりなと呆れた表情を浮かべるガリデウス。


「うーん、私もいいと思いますよ、私は彼のことはよく知りませんが、ブリザラ様の人を見る目は一級品だと思っているので問題ないと思います」


「ティディさん!」


 ティディによる更なる援護射撃に感謝の悲鳴を上げながらブリザラは満面の笑みを浮かべた。


「な、ティディお前!」


 最後の壁としてブリザラの前に立ち塞がってくれると信じていたティディの裏切りに驚きを隠しきれないガリデウス。


「ランギューニュさんの分は無効票として、私を含め承認三の不承認一……よってハルデリアさんの中級盾士への昇格は承認されましたッ!」


 ここにはいない四人目の最上級盾士ランギューニュの票は無効だとガリデウスに釘を刺しつつ、勝利を勝ち取ったブリザラは玉座から立ち上がった。


「では昇格と同行の件は私が直接ハルデリアさんに伝えるので、皆は本人には黙っていてくださいね! それじゃ私はこれから調べ物をしに書庫へ籠ります!」


 そう言いながら嵐のように王の間を飛び出していくブリザラ。


「本当はお前も承認だったんだろ?」


 王の間を出て行くブリザラの背を見送りながら隣に立つガリデウスの脇腹を小突くグラン。


「五月蠅い……さあ我々も仕事に戻るぞ」


「へいへい……素直じゃないねぇ」


 王の間を後にしようとするガリデウスの真意を見透かしたようにグランはニヤニヤと笑みを浮かべるのだった。






 



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