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反撃は蘇る怒りと共に

ガイアスの世界


 今回ありません


 反撃は怒りと共に




 もう一度お話を。氷の宮殿にある王の間でサイデリー王国を背負う人族の王にして、同じ想い人を持つ恋敵の少女はそう言って私の顔を真剣に見つめていた。


「……」


 肉体と精神が女神に乗っ取られていたとはいえ、目の前の少女は私の大切な存在を殺そうとした事実がある。今は正常に見えるが、またいつ少女の肉体と精神が女神に乗っ取られるかわからない。そんな危険を孕む少女を今すぐ八つ裂きにするならまだしも、膝を付きあわせて話すことなどもう無い。少女の言葉に答える義理もなければ返事する筋合いもない私は、真剣にこちらを見つめる少女を睨み返した。


「……ウルディネ」


 静かな寝息をたてながら私の腕の中で眠っていたはずの大切な存在。


「……テイチ、目を覚ましたか」


「うん」


 気怠さの残る表情で私の言葉に頷いたテイチは、目の前の少女と同じように私の顔を見つめて口を開く。


「ブリザラさんの……話を聞いてあげて」


 私はこのままテイチと共にこの場を去るつもりだった。既にアキがいるだろう場所を知れた私にとってこの場いる少女やその取り巻きと慣れ合う必要性はもう無かったからだ。だがテイチが言う。目の前の少女の話を聞いてあげてと。あまつさえ自分の命を奪おうとした少女と膝を突き合わせろとテイチが私に言うのだ。


「……だが」


 当然私は反対だった。『絶対悪』の残滓に呑み込まれただの、『闇』に堕ちただのと言われている少女の中に存在する女神はあまりにも危険すぎる。何よりもテイチのことを第一に考えている私にとって、今すぐにでもこの場から去ることが最優先事項だ。そのはずなのに、私の体は言うことを利かない。それはテイチが私の契約者だからでも、私の行動が縛られているからでも無い。それは紛れもなくテイチという存在から発せられる強い意思、願いからくるものだった。


「……わかった……」


 この数カ月、私は召喚士を目指していたテイチを一人前にするべく訓練では甘さを捨て厳しく接してきたつもりだ。上位精霊である私を使役する以上、他の召喚士に舐められてはならないし、私の力を制御できなければテイチ自身に危険が及ぶからだ。それを理解した上でテイチは弱音も吐かず私の厳しく理不尽な言動によく耐えてきたとも思う。その努力はしっかりと現れ、今では二流、三流は当然として凄腕と呼ばれている召喚士にも見劣りしない召喚士へテイチは成長したと私は自負している。


「……話を聞こうブリザラ」


 結局甘かったのは私だった。どう考えてもテイチのことを考えるなら目の前の少女ブリザラとの対話など受け入れずにこの場を去ることが正しいはずだ。しかし召喚士として一人前になったとは言え、まだ幼さを残した愛くるしい顔でテイチにそう願われては私はもう首を縦に振る事しか出来ない。


「本当ですか? ありがとうございます!」


 いや、もしかするとこれは言い訳なのかもしれない。テイチを出しに使い、私は自分の中にまだ存在しているブリザラへの愛着を隠したかっただけなのかもしれない。

 頭を下げることを安売りする王、ブリザラの破顔した顔を見つめながら私はそんな事を考えていた。


「それで? 私に頼みたいこととはなんだ?」


 最上級盾士たちがあれでも無い、これでも無いと話を進めている横で、意識を取り戻したテイチを抱き抱える私は、ブリザラの話、頼み事に耳を傾けた。


「……時間がありません、単刀直入にお話します……ウルディネさん、直ぐにムウラガ大陸へ向かって頂けますか?」


「はぁ?」


 目の前の少女が私へ願った頼み事はあまりも単純であり、こちらとしては言われなくともそうするつもりの内容だった。


「……私の考えが正しければ、魔王は自分へ挑んでくる者たちを待っているはず……でも現状、混乱しているこの状況で魔王へ挑もうとする者は、私の知る限りでは少なくとも今はいません……圧倒的に物理的精神的その両方の準備が整っていないからです……ですがその準備を呑気にあの人が……魔王が待つとも思えません……」


 あの人という言葉に引っかかりを感じつつも、ブリザラの言っていることは理解できた。各地で起っている異常気象や災害、それに魔物の凶暴化に加え力を取り戻した魔族の襲撃。その全ての大本が魔王にあること、そもそも魔王が現れたことすら知らない者もいる人類からすれば、目の前のことを対処することが精一杯で魔王討伐など後回しだろう。


「だから……ウルディネさんには私が……私たちが準備を整えるまでの間……魔王へ挑み足止めをしてもらいたいのです……」


 人類が魔王の存在を認識し、討伐への意識を高める為にはそれなりの時間と準備が必要。その時間を私に作れと目の前の少女、サイデリー王国の王ブリザラは言った。


「即ちそれは……私に死んでこい……と言いたいのか?」


 精霊の寿命は永遠と言われている。だがそれは外的要因が一切無い場合の話。人類が持つ死の概念とは少し違うが戦いや事故によって致命的な傷を負えば精霊も死ぬ。仲間や何の援護も無く()()で魔王へ挑む。テイチと契約を交した今の私が、いや例え契約前であっても魔王との戦いで私が無事でいられる可能性は低いだろう。それを知っていて尚、ブリザラが私にそれを願うということはそう言うことだ。


「大丈夫、私も一緒にいくから絶対にそんなことにはならない」


 少し顔色が良くなりはしたがねそれでも万全には程遠いテイチは力強くそう言った。言ってくれた。正直にテイチの気持ちは嬉しい。だがテイチのその言葉は私とブリザラの間で交された会話を全て理解していないことを意味している。


「テイチ……その気持ちは嬉しいが、今回は私一人だ……お前は連れていけない」


「え? ……なんで?」


 私の言葉に理解できないという表情を浮かべるテイチ。精霊と召喚士は二人で1つ、運命共同体だ。どちらかが欠ければ力を発揮することは出来ない。私もテイチにそう教えてきた。そう教えてきた私が全く逆の事を言っている、この矛盾にテイチがそういう表情を浮かべるのは全くもって正しい。だがこれだけはどれだけテイチに願われても譲れない。魔王の下へテイチは行かせない。

 それは危険だからという理由もあるが、それ以上にテイチを魔王に会わせたくないというのが本音だ。変わり果ててしまった彼奴と対峙した時、テイチの精神が耐えられるとは思えないからだ。


「テイチちゃん……いえ、テイチさんには別でやって欲しいことがあるからです」


 わざわざ敬称を改めてまでブリザラがテイチへやって欲しいこと。それは初耳だ。てっきり私と同じ想いからテイチを魔王の下へ行かせないと思っていたがブリザラには他に何か考えがあるらしい。


「テイチにやらせたいこととはなんだ?」


 もしろくでもないことをテイチにやらせるのであれば、勿論容赦なくこの場で私はブリザラの首を刎ねる準備をする。


「「「「ッ!」」」」


 その意が周囲にも届いたのだろう、今まで私たちの会話は聞いていませんよという体を装いながらも常に意識をこちらへ向けていた最上級盾士たちは一斉にその視線を私へと向けた。


「だ、大丈夫です……その……多少危険はあるかもしれませんが……いいえ、絶対にテイチさんを危険な目にはあわせません!」


 一触即発な雰囲気を肌で感じているだろうブリザラは、その原因である私を宥めるためしどろもどろになりながらそう言った。


「……ただ、今ウルディネさんにはお話できません……」


 教えられない。私への説得力を高める為しっかりとした口調でそう言うブリザラ。だが教えられないが自分の意見を飲んでくれというブリザラの言い分は都合の良い話であり、納得できるものでは無い。当然テイチへの頼みを突っぱねようとした瞬間。


「……それは私とウルディネを離ればなれにしてでもやらなければならない程のことなんですか?」


 真剣な表情でブリザラへそう訴えるテイチ。そうだ言ってやれと思いながら二人のやり取りの行く末を黙って私は見守る。


「……はい……ウルディネさんと契約を交しているテイチさんにしか頼めないことです」


 テイチの訴えに一切の動揺をみせること無くブリザラはそう言い切った。


「わかりました……」


 短く頷いたテイチはその視線を私へ向ける。


「……ウルディネのことが心配だけど……一緒に着いていきたいけど、それが叶わないというのなら……ブリザラさん……サイデリー王へ着いて行ってもいい?」


 風向きが変わった。その言い方は少し反則ではないかと思いながらも、今の私に選択肢は無い。


「……ああ……」


 同意し頷いた私に、テイチは悲しそうな表情を向ける。私はテイチの顔を直視することができず、その視線をこの状況を作り出したブリザラへ向けた。この二択をテイチに言わせた時点で私の敗北は確定していたのだろう。普段何も考えていないような言動と顔をしているというのに、ブリザラという人族の少女はとんだ策士、女狐だ。テイチを悲しませた罪を償わせるためにすぐにでもその首をへし折ってやりたい。


「納得はしていない……納得出来るわけがない……でも……テイチを頼む」


 そんな気持ちを押し留めながら私は苦虫を噛みしめる思いでテイチをブリザラへ託した。


「はい」


 暗躍などしていないと言いたげな無垢な表情で私の言葉に頷くブリザラ。


「……テイチに何をさせようとしているのか私にはわからない……だがもしテイチを少しでも気付付けてみろ……私はお前を……」


 情けなくも、どうにかして一矢報いたいと私は最上級盾士が直ぐにでも飛びかかってくる程の殺意をその言葉に籠めた。


「……こ、こちらこそ……」



 案の定、私の殺意の籠った言葉を聞き最上級盾士の中で一番体格の良い男が飛び出そうとしたのを制しながら、答えるブリザラ。


「こちらこそ……あの人……魔王の足止めをよろしくお願いします」


 他の最上級盾士たちが止めに入り、何とか場が収まったブリザラは、改め直してそう言うと安売りするように私へ深々と頭を下げるのだった。




『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス



 ― 現在 ムウラガ大陸 魔王城 魔王の間 —




「何があの人だ……」


 僅か数秒の間、記憶の中にいたウルディネ。記憶の中から帰還したウルディネは目の前に迫った魔王が放つ黒炎の雨を次々と鮮やかな身のこなしで躱していく。


「私が一番理解してますみたいな顔しやがって……癇に障る!」


 悪印象だけが増幅されたブリザラの顔がチラつていて仕方ないといった様子のウルディネは、その感情を抑えられず魔王の前だというのに怒りを爆発させる。


「はて? 一体何の話だ?」


 突然怒りを爆発させ訳のわからないことを言い出したウルディネに攻撃を続けながらも首を傾げる魔王。


「お前には関係ないッ! いい加減下手な芝居は止めてお前は引っ込んでろ蜥蜴野郎!」


 湧き上がる怒りのせいなのか、はたまたまだそれだけの余力を残していたのか、満身創痍であったはずのウルディネは先程よりも更に走る速度を加速させ一気に距離を縮めると、その速度を乗せた渾身の拳を魔王の顔面に叩きつけるのだった。


 

 年末のご挨拶


 どうも山田です。そうですもう今年も終わりです、なのでご挨拶を。


 と言う訳で今年一年皆さまはいかがお過ごしだったでしょうか?


 山田は何とも微妙な一年でしたね、ええ本当に。プライベートな話ですが(プライベートと言いたいだけ)今までずっと続けていたとあることに終止符を打ったのですが……終止符を打つ前は、打った後に喪失感があったり悲しくなったり寂しくなったり、もしかしたら泣いちゃったりするかなと思っていたのです。

 でも実際は全くの無風。悲しくも、逆に晴れ晴れな気分にもなりませんでした。まだ実感できていない部分もあるのかもしれませんが、ずっと続けていたことを止めたというのに殆ど何の感情も湧いてこない……自分にとってその程度だったのかと、そこに凹みました。


 はてさて山田が実は無感情な人間だったという話はここまでにして、これからの話を少し。


 来年も今年と同じようなペースで物語を書いて行こうと思っております。ただここ数年意欲が停滞しておりましてなんとかやる気を振り絞っている状況。来年こそは頑張りたいですねッ……。

 とりあえず、最近サボりがちになっていた世に出ている作品を沢山読んで刺激を受けないといけないな、なんて考えていたりします。刺激を受けるの大事ですよね本当~。

 ……うん、その前にクソな文章力をどうにかしないとですね(汗)


 さてさて雑ではありますが年末のご挨拶はこれぐらいにしたいと思います。今年一年、「伝説の武器が装備できません」を追ってくださった方々本当にありがとうございます。

 来年は、来年こそはもっと良いものにしていけるよう頑張って行きますのでよろしくお願いいたします……多分。


 あ、ちなみに次の掲載は一週間お休みを頂いた2025年一月十日を予定しております。正月休みです!


 それでは良いお年を~


 

 2024年 12月26日(木) 


 某アイドルの子供に転生して何がしな漫画の風呂敷の畳み方に他人事じゃねーなオイと戦々恐々しながら。

 

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