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動き出す者たち

ガイアスの世界


 今回ありません

 

 動き出す者たち



 直接対面することなく誰とも分からない者へ自分の想いを届けることが出来た時代。善意すら悪意に曲解され、伝播し感染していく悪意は人を飲み込み、そして世界を飲み込んでいった。

 そして人類は愚かにも己が生み出した悪意に気付かぬまま滅んでいく。それが悪意を生み出す人類の結末、幾度繰り返そうが変わらない世界の終着。世界を創造した存在が悲しむ理由であった。


 世界は自分を創造した存在の悲しむ姿を憂いた。そして自分を創造した存在が悲しまなくていいようにと、自分の一部を切り離しあるシステムを生み出した。自我を持つ生物、人類の悪意を吸い上げる受け皿、『絶対悪』というシステムを。


 しかし世界は人類の愚かさを見誤った。世界は人類が持つ何処までも深い悪意を知らなかった。


 どれだけ吸い上げた所で人の悪意は尽きることが無い。まるで悪意によって破滅することが最初から決められているかのように、人類は止まることなく悪意を吐き出していく。

 人類の数が増えれば増える程に、悪意もまた増えて行く。どれだけ悪意を吸い上げようとも、それを上回る悪意を人類は生み出していった。


 器と称される以上、『絶対悪』にも悪意を溜め込む容量に限界が存在する。限界を越え『絶対悪』から溢れだした悪意は、瞬く間に世界へと零れていった。


 『絶対悪』から零れだした悪意はただの悪意では無い。際限なく『絶対悪』へ注がれ続けた悪意はその中で混ざり合い濃度を増していった。そしてそれはより醜く肥大化した悪意となって溢れだし世界へ零れて行く。それが悪意の集合体、『絶対悪』の残滓だった。

 

 世界へと零れだした『絶対悪』の残滓は、人類の心だけではなく、触れたもの全てを汚染し狂わせていく。世界を創造した存在が悲しまないようにと世界が生み出した『絶対悪』というシステムはこうして破綻したのだった。




『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス



「……なるほど……その『絶対悪』という器が限界を迎えた結果が現状という訳か……」


 世界各地で起っている異常気象や災害、魔物の凶暴化や魔族の侵攻、そして魔王の誕生全てが『絶対悪』の残滓の影響によるものかとランギューニュからの説明を受け納得するガリデウス。


「……うん」


 ガリデウスの言葉に何処か歯切れ悪く頷くピーランの姿をしたランギューニュ。


「……ん?」


 素行の悪い新米ルーキー盾士であった頃からランギューニュと付き合いがあったグラン。その長い付き合いからランギューニュの癖などを把握しているグランは例えその姿が別人であっても僅かな様子の変化を見逃さなかった。


「……」


 明らかにランギューニュが何か隠していることは明白だと悟るグラン。だがだからといつて無暗に追及することをよしとはとしないグランは、ランギューニュの様子をみることにした。


「……それで、ブリザラ様の中にいる女神とその負の感情……『絶対悪』の残滓とやらがどう関係してくるのだ?」


 同僚の見せた僅かな変化に気付いていないガリデウスは、既に自分の持つ知識が通じない領域にあることを悟り、己が持つ探求心を満たすべく素直にランギューニュへ尋ねた。


「……悪意は感染する……本来なら人類の間でだけで影響していた悪意は、『絶対悪』の中で混ざり合い肥大化したことで、この世界へすら物理的に影響を与えるようになった『絶対悪』の残滓……そしてその影響は女神も感染するほど強力になってしまった」


「我々の抱く感情が……女神の性質すら変えてしまうというのか?」



 人類が生み出した悪意。その集合体である『絶対悪』の残滓が、世界を創造した女神にも影響を与えているのだとランギューニュから告げられたガリデウスの表情は驚きと絶望に染まる。


「ああ……本来、正の感情、『聖』の力を持つはずの女神は人類の悪意の集合体、『絶対悪』の残滓の影響をうけて、その性質が反転し今や破壊衝動に囚われた破壊の女神へと姿を変えてしまった」


 ブリザラの中に存在する女神の行動。その理由の大本が人類の生み出した悪意の集合体、『絶対悪』の残滓にあるとランギューニュは告げる。


「そして最悪なことに……『絶対悪』の残滓を浄化できるのは女神が持つポジティブな感情、『聖』の力だけなんだ」


「……なにッ! ……そ、それじゃもう打つ手が無いではないか……」


 女神が持つ『聖』の力だけが『絶対悪』の残滓に対抗できる手段だという八方ふさがりである状況にガリデウスたちの顔に更なる絶望の色が浮かぶ。


「……大丈夫……まだ可能性は残っている……私たちにやれることはある」


 どうしようもない事実にガリデウスたちが絶望する中、僅かな希望を胸にブリザラが声をあげた。


「……そう希望はある……女神が人の悪意に堕ちたのなら、人の善意で救い上げればいい……」


 ブリザラの言葉に続くランギューニュ。


「どういうこと?」


 ランギューニュの言葉の意図を読み取れないティディ。


「……女神に最も近い者たち……その祈りを女神へ届けられる者たち……僧侶プリーストたちの力があれば女神を元に戻すことができる」


 ランギューニュの意図を読み取れなかったティディ、そしてその場にいる者たちへ確信をもってそう告げるブリザラ。


「で、でも能力の平均化の影響で今や僧侶プリーストたちは祈る意味すらわからないほどに『聖』の力を失っているのでは?」


 能力の平均化というシステムを導入したことで誰でも安定した力を発揮することができる僧侶プリーストたちは、今や魔物討伐や迷宮ダンジョン攻略など様々な所で欠かせない存在となった。しかし裏を返せば平均以上の力を出すことは出来ないということでもある。能力の平均化とは戦闘職としての僧侶プリーストの個性を奪い、そしてかつて僧侶プリーストにとって最も大事であった女神と繋がる為の行為、祈りを奪ったシステムでもあった。そんな平均化された僧侶プリーストたちが絶望的な現状を打破する存在になりえるとティディは思えなかった。


「だから私がそのシステムをぶち壊しに僧侶プリーストの総本山へ向かおうと思います!」


 顔の前で握り拳を作りとんでもない決意を表明するブリザラ。


「いやいや、今や各国の経済の一部を握り、その影響は大国にも匹敵すると言われている僧侶プリーストの総本山に乗り込むなんて……しかも一国の王であるブリザラ様が……下手をすれば戦争になります、なりませんッ!」


 とんでもないことを言い出したブリザラの決意を慌てて却下するガリデウス。


「……でも、そうしなければ世界が滅びる……ガリデウスも分かるでしょ」


「……うぅぅ」


 嗚呼、またこれだ。数カ月国を離れ少しは成長したと思っていたが、根本的なことは変わっていない。そんなことを思いながら自分が頷くことを待っているブリザラを見つめるガリデウス。


「……分かりました……いいでしょう」


 結局頷いてしまう。そんな諦めにも似た何かを抱きながらガリデウスは無理難題を押し通そうとするサイデリー王国の幼い王の期待に弾む顔を見つめながら頷いた。


「やったッ!」


 頷き自分の意見を了承したガリデウスをみながら両腕をあげ嬉しがるブリザラ。


「ただし……」


 嬉しがるブリザラへ水を差すように強い口調で言葉を挟むガリデウス。


「今回は私も同行します……基本的には私主体で動くこと……ブリザラ様が僧侶プリーストの総本山へ乗り込む……ゴホン、いえ、向かうことを私が了承する絶対条件です」


 ブリザラがやろうとしていることは、下手をすればサイデリー王国と僧侶プリースト業界と繋がる国との戦争の口火になりかねない。そんな危うい橋を一人で渡らせる訳にはいかないと、ガリデウスは自分を同行させることを条件として提示した。


「うん! もとからそのつもりだったから大丈夫!」


 嗚呼、嗚呼、もう。一見無邪気ではあるが、考えることは考えていて結局自分は手の中で踊っているのだと満面の笑みを浮かべるブリザラを見つめながら深いため息を吐き出すガリデウス。


「それでは直ぐに出発の準備を始めます……ブリザラ様も直ぐ準備を始めてください」


 確実に二、三歳老けた顔でブリザラにそう告げたガリデウスは、直ぐにグランやティディ、そしてピーランの姿をしているランギューニュを自分の周りに集めこれからのことについて話始めた。

 

「……これでも問題の1つは解決……次は」


 簡易的な会議を始めた最上級盾士たちを横目に、ブリザラの視線はこれまで全く話に加わらなかった者へと向けられた。


「ウルディネさん」


「……」


 ブリザラの呼びかけに反応しない水を司る上位精霊ウルディネ。しかしその瞳はしっかりとブリザラを見つめている。


「ウルディネさん……あなたに頼みたいことがあります……もう一度私とお話していただけませんか?」


 ガリデウスの前で見せた幼い無邪気な笑顔はそこには無い。ウルディネの前に立つブリザラの顔はサイデリー王国を背負う王としてのものだった。


 ガイアスの世界


 今回ありません

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