語られる絶望
ガイアスの世界
今回ありません
語られる絶望
『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス
「女神の依代……」「抗う者?」「……なんだそりゃ?」
ブリザラの前に膝をつき、頭を下げながらランギューニュが発した言葉。ブリザラへ向けて発したランギューニュその言葉があまり良い言葉には聞こえないガリデウスたち。
「……本当は誰よりも私がランギューニュさんの話をしっかり聞かなければならなかったのに、ごめんなさい」
突然溢れだした思考の渦に呑まれ、今まで思考の海に潜り続けていたブリザラはランギューニュの話をまともに聞いていなかったことを詫びた。
「気にしないでくださいブリザラ様、それはきっとブリザラ様にとって必要だった時間、出会いだったはずです」
ブリザラが何を思考し、そしてその思考の中で誰に会っていたのかまるで知っているようにランギューニュは今までの時間は必要だったと口にする。
「え? ……なんでそれを……」
なぜ自分しか知りえないことをランギューニュがと驚くブリザラ。
「ガッハハハ! 大丈夫、大丈夫、話を聞いていた俺でもややこしくて五割くらいしか理解できていない!」
そんな二人のやり取りを見ていたグランは、突然自分が今までの話を半分ほどしか理解していない豪快に笑いながら告白した。
「……はぁ……全く」
ランギューニュの話を半分しか理解できていないという事実を恥じる所か自信満々に公言するグランの様子に呆れるティディ。
「ああ、全くだ」
ティディに続くようにグランに対し呆れた表情を浮かべるガリデウス。しかし口や顔ではグランに呆れている二人だが、その心根で思っていることは違っていた。
一見、今まで何を聞いていたのだとその理解力に疑問を抱いてしまうグランの言動。だがそれは、途中から会話に加わらず勝手に考え事をしていたブリザラがその事で負い目を感じないようというグランなり気遣いだった。それを理解していたティディとガリデウスは、その行動を際立たせる為、表面上では呆れた素振りをみせていたのだった。
(……ありがとうグラン……そして二人)
そしてグランなりの気遣い、その気遣いに合わせたガリデウスとティディの気持ちはブリザラ本人にも届いていた。
「……さてランギューニュ、お前がブリザラ様に対して口にした言葉……その説明をしてほしいのだが」
慣れないことをしたと心の中で苦笑いを浮かべたガリデウスは、それを悟られぬよう真面目な表情で、ランギューニュがブリザラに対して発した言葉の真意を訊ねた。
「女神の依代に関してはもう皆分かっているよね、そうブリザラ様はこの世界で女神が活動する為の肉体……依代なんだ……皆は殆ど覚えていないだろうけど、さっきその女神がブリザラ様の肉体を一時的に奪った……皆女神に心を奪われて危うい状況だったよ……でも女神の依代になることをブリザラ様は拒否した……女神に抗ったお蔭で、なんとか危うい状況を脱することができたのさ……だから抗う者……まあ当然だよね……誰だって自分の肉体を知らない誰かに渡そうなんて思わないし……」
「「「……」」」
お前がそれを言うかと言うガリデウスたちの視線が現在進行形でピーランの肉体を好き勝手使っているランギューニュへ向けられる。
「……?」
一人この矛盾に気付いていないブリザラだけが首を傾げていた。
「ご、ゴホン……兎に角、ブリザラ様は女神の依代という役目に抗って今僕たちの前にいる……」
一度大きくわざと臭い咳をしたランギューニュは、自分のことを棚に上げ強引に話を続ける。
「けど、それも時間の問題だ……次に女神がブリザラ様の肉体を奪いに来た時、今回のように抗うことは多分出来ない……そうなる前に女神が持つ問題を片付けなければならない」
「……女神が持つ問題?」
世界を創造する程の力を持つ女神。そんな存在が抱く問題など想像も付かないガリデウスたち。
「……そもそも今まで加護という間接的にしか世界に干渉してこなかった女神が、なぜブリザラ様の肉体を依代として直接的な干渉をしようとしているのか……」
この世界が誕生して以来、女神がこの世界に対して何か直接干渉してきたことは一度も無く、加護という間接的な形でしか干渉してこなかった。だがそんな女神がなぜ突然ブリザラという肉体を依代としてこの世界に直接干渉しようとしているのかとその場にいる者たちへ問うランギューニュ。
「負の感情……『絶対悪』の残滓による影響……ですね」
ガリデウスたちが答えられず沈黙する中、ランギューニュの問に答えるブリザラ。
「負の感情?」 「『絶対悪』の残滓?」
また新たな言葉が出てきてただ首を傾げることしか出来ないグランとティディ。
「……それはもしかすると……正な感情と対極に位置するものの名称であっているか?」
そんな中、これまでの話と自分が持つ知識を総動員し1つの答えを導き出すガリデウス。
「うん、そのとおり、負の感情とは怒りや憎しみといった負な感情より生み出される力……正な感情の対になるもの……正の感情が自我を持つ生物に良い影響を与えるように、負の感情は、自我を持つ生物の心を穢し凶暴化させるといった悪い影響を与える……」
答えを導き出したガリデウスに対して、負の感情について掘り下げた説明をするランギューニュ。
「……でも影響は自我を持つ生物だけには留まらない……負の感情が強ければ強い程、周囲に対しても影響を与える……それと時に災害として……またある時は人災として影響を与えてくる……そして負の感情はあらたな存在までをも生み出してしまう……それが魔物や魔族だ」
「「「……ッ!」」」
ランギューニュが語った魔物や魔族の誕生の真実を知り、驚きを隠しきれないガリデウスたち。
「……」
衝撃の事実を受け入れらないといったティディとグランの横で、思考を巡らせ散らかった情報を整理していくガリデウス。
「……我々は知らぬ間に……自分たちの敵を生み出していたということか……だが、それが事実ならば……人族と魔族の戦いに終わりは無い……」
人類が感情を持つ以上、負の感情は生まれ続ける。即ち負の感情によって誕生する魔族との戦いに終わりがないことを理解したガリデウスの表情は絶望に染まる。
「なッ!」「そんなッ!」
絶望するガリデウスの言葉に更に驚くグランとティディは、それは本当かという視線をランギューニュへ向けた。
「うん、ガリデウスが言っていることは大体正しい……」
絶望するガリデウスたちに短く頷き答えるランギューニュ。
「……でもガリデウスの言う通りに自我を持つ生物、人類が何の制限もなく負の感情を生み出し続ければ、魔物や魔族が誕生するよりも先にこの世界は滅んでいるだろう……それほどの力を人類が生み出す負の感情は持っているんだ……そしてなにより厄介なのは人類にとって負の感情は正の感情よりも生み出しやすい感情だということ……人類が持つ感情は悲しいかな、何か慈しむよりも憎むほうが得意にできているんだ……」
皮肉を交えながら負の感情について説明するランギューニュは、茫然唖然とするガリデウスたちの顔を見つめた。
「……でも、それだけの負の感情を生み出して尚、人類は……この世界は滅んでいない……」
「そ、そうだ、我々やこの世界は存在している……何か……何か方法があるのだな!」
絶望の中に下りる一筋の光。人類が世界を滅ぼすだけの負の感情を生み出して尚、まだ滅んでいないという事実がガリデウスに希望の光を見せる。その希望の光にすがるようにガリデウスは希望の正体が何かランギューニュに尋ねた。
「……今まで人類やこの世界が滅ばなかった理由、それはこの世界自らが生み出した自浄作用……『絶対悪』があったからだ……けれど『絶対悪』は人類にとっての希望なんかじゃない……『絶対悪』は、更に状況を悪化させた大本だ……」
希望を抱いたガリデウスたちを再び絶望の底へ叩き落とすようにランギューニュは『絶対悪』についてそう言いながら語り出すのだった。
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