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真面目で合同で章 7 (ブリザラ&アキ編) 暗躍する国

 ガイアスの世界


『闇』の軍勢


 数百年前に起きた人間と『闇』の軍勢の戦争。その『闇』の軍勢とは魔王を中心とした『闇』の力を持つ種族の集まりである。

 しかし『闇』の軍勢の殆どは、夜歩者ナイトウォカーで構成されていたようだ。その他の種族達はそれほど人間との戦争に興味が無かったようだ。


 真面目で合同で章 7 (ブリザラ&アキ編) 暗躍する国



 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス。



「なぜ、私達はコソコソしなければならないんだ!」


 山や谷を幾度も超えた先にある人里。人目から隠れるようにしてあるその里にある一番大きな建物から女性の声が響き渡る。


「だがなピーラン、我々は影に生きる者、我々の存在が公になれば、それは我ら一族の終わりを意味している」


 里にある一番大きな建物の中、畳が敷かれた広々とした部屋で蝋燭の灯りによって薄暗く照らされた老人が自分の前に立つ女性をなだめるように言う。


「けど! それじゃ私達はずっと人目を気にして、怯えて生きなきゃならないの! 私は……そんなの絶対に嫌!」


 自分達が背負っている役目の有り方にピーランは感情のままに異議を唱えた。


「ならばどうする? 己の役目を放棄して里を抜けるかピーラン? 」


「……」


 老人の言葉にピーランは奥歯を噛みしめる。


「……お前であってもこの里を無断で抜ければ、抜け忍となる……そうなればお前は死ぬまで追われる立場だ」


「……いいわ……私はこの里を抜ける! 追って来るなら追ってきなさい、返り討ちにしてあげる!」


 握りしめる拳、決意した顔で老人から視線を外し、背を向けたピーランはその建物から出ていこうと広々とした部屋の戸に向かって足を進める。


「待てピーラン!」


 今まで一切会話に加わってこなかった老人の横に立つ黒装束の男がピーランの背に向けて声をかける。


「よい、ジゴロウ……」


「しかし長老」


 黒装束の男ジゴロウを制する老人、長老は部屋を出ていくピーランの背を見つめていた。


「……掟だ、ピーラン討伐部隊を編成し三十分後に追跡を開始しろ」


「……はい……」


 長老の言葉に戸惑いながらも頷くジゴロウ。


「……心配するなジゴロウ……お前の娘、そして私の孫ならば……」


「いや……あの子を心配している訳じゃないよ親父オヤジ……心配なのは部下のほうだ」


「……ああ、なるほど……」


 ジゴロウの言葉に少し間を開けて困った表情を浮かべる忍一族長老、ムゲン。自分の孫が飛び出していった開いた戸の隙間から覗く強い光を放つ月を眺めながらムゲンは、直面する時代の変化に付いて行けない古い掟に縛られた己と一族を想い、そして新たな時代の象徴とも言えるピーランの旅立ちを密かに祝福するのであった。




 ― サイデリー王国  ―



「……」


 静かに目を覚ますピーラン。その目に入ったのは、薄暗い収容所の天井では無く全く身に覚えの無い見知らぬ天井だった。


(こんなに深く眠ってしまったのはいつ以来だ……)


 忍者としてどんな状況でもすぐ飛び起きられるよう睡眠をコントロールする訓練をしてきたピーラン。久々の深く眠りについてしまったのはいつ以来だとまだはっきりとしない頭で記憶を辿ろうとする。


(いや、そんな事を考えている場合じゃないな……)


 まだ普通に眠るという行為をしていた幼い頃の記憶を思い出そうとしたピーランは、自分の置かれた状況の変化に気付き、すぐさま霧がかった頭をフル回転させ始める。

 頭はしっかりと働くが未だ体に残る怠さに自分が深い眠りについてしまったのはランギューニュから受けた魅了チャームの影響だろうかと考えるピーラン。


(……ここは……)


 不用意に動くことをせず、まずは自分の視界に入るものを見て情報を得ようとするピーラン。目覚めた時、まず周囲の状況把握をしようとするのは常に警戒心を怠らない忍者としての習性であった。

 まず薄暗い収容所とは違い明るい部屋、これだけで自分が今居る場所が収容所で無い事を理解するピーラン。

 次に匂い。臭くは無いが、薬品のような匂いが充満していることから自分が寝かされていた場所が医務室、もしくは病室、最悪の場合何かの実験室であるとピーランは想定した。

 次に体。自分の体が拘束されているか、されていないのか、そこから自分の状況を確認する。


(……体は、拘束されていない?)


 自分の体が拘束されていないことに疑問を持つピーラン。サイデリーの王の命を狙うという暴挙、そんな事を仕出かしたピーランをどう見ても収容所よりも警備が薄いこの場所で拘束せずほったらかしにしているという状況がピーランにとっては理解出来ないことであつた。


(……?)

 そんなベッドの中で微動にせず今の状況に疑問を抱くピーランの耳元に、例えるなら母性をくすぐるとでも言えばいいのか、そんな音が聞こえてくる。


(……寝息? 誰か……寝ているの……)


 耳に聞こえる寝息をたどり視線をゆっくり横に向けるピーラン。


(……!)


 なぜ今の今までそれに気付かなかったのか、思わず声を上げたくなる程に動揺したピーランは口から出そうになる声を無理矢理抑え込む。ピーランの視線の先にいた者、自分と同じベッドでピーランすら可愛いと母性をくすぐられる寝息を立てる者、その者とはサイデリー王国の王ブリザラであった。


(ちょ……ちょっと待て! 一体全体どういう状況だ? なぜサイデリー王がこの場で寝ている)


 冷静な表情の裏に隠れてピーランの心臓は跳ね上がっていた。それはここ数年でピーランが感じた一番大きな動揺といってもいい。


(……あ……可愛い……)


 しかしその動揺もまるで小動物の寝顔のように眠るブリザラの姿にかき消されこの状況に置いて有り得ない事を思考するピーラン。


(あ、いやいや、違うそんな事考えてどうする! ……それよりも今は……)


 なぜサイデリーの王であるブリザラが自分と同じベッドで寝ているのかその事について考えなければならないと自分の思考を修正しようとするピーラン。しかし至近距離でみるブリザラはピーランの理性を別の場所へと誘ってしまう。視界に入った途端、我を忘れてブリザラの寝顔を見つめてしまうピーラン。


(はっ! くぅ……だ、ダメだ、この寝顔を見ていると理性が吹き飛んでしまう)


 再び我を取り戻したピーランは、ブリザラの寝顔から視線を外すと眉間に皺を寄せた。


(それにしても無防備すぎじゃないかこの国は? 私と王を一緒に寝かせるなんて……)


 ピーランが置かれた状況、それはあまりにも非常識な状況であった。そんな非常識な状況に罠なのではないかと疑うピーラン。だが部屋を見渡した限り罠が仕掛けられているような痕跡は見当たらないし誰かが隠れてタイミングを見計らっているというような気配も感じられない。


(というかそもそも……一国の王が囮になるはずがないな)


 自分の頭の中で思いつく限りの可能性を一蹴したピーランは、少し考えれば、いや常識的に一国の王が自分を罠にはめる為に自ら囮になる訳が無いのだ。考えるまでも無くこの状況が罠では無い事は明白であった。

 しかしならば自分と一国の王が一つのベッドで一緒に寝ているという状況は一体何なのかと自分が置かれた非常識な状況にピーランの頭は混乱し全く答えを導きだすことが出来なかった。


「んっ……」


(あああ! 目を覚ました)


 自分の隣で眠っていたブリザラが目を覚ました事に気付いたピーランはすぐさ目を閉じ寝たふりを決め込む。


「……おはよう……」


 上半身を起こしたブリザラは寝ぼけているのか、誰も居ない方角に挨拶する。そこにはブリザラが背負っていた特大盾が立てかけられているだけであった。


「んんんん……! ……ふむふむ……なるほど」


 体を伸ばしたブリザラは、誰かの話を聞いているように何度か頷くと寝たふりを決め込んでいるピーランの顔を覗き込んだ。


(な、なんだ……なぜ覗き込んでくる……)


 至近距離でも分からない程の薄目でブリザラの行動を監視するピーラン。


(ひ、ひやぁああああ!)


 至近距離に迫ったブリザラの顔に心の中で悲鳴をあげるピーラン。


(や、ヤバい……何だこの胸の高鳴りは……クソッ……)


 起きているのがばれるのではないかという程、激しく鼓動するピーラン。


「その……ピーランさん……起きているんですよね?」


 ピーランの顔に顔を近づけていたブリザラは、ピーランの事をじっと見つめながらそう言うと満面の笑みを浮かべた。その瞬間、ピーランはベッドから飛び起きブリザラから距離をとった。


「何で気付いた?」


 寝ぼけても無ければ、美少女を前にだらしなく緩んでも居ない忍者としての表情でピーランはブリザラに問い質す。


「それは……」


 ピーランの問に対しブリザラはベッドから離れると特大盾の方へと向かいその特大盾を手に取った。


「ピーランさんが起きている事をキングが教えてくれたからです」


「キング?」


 ブリザラの口から出た言葉に首を傾げるピーラン。


『王よ、無暗に私の存在を話すなと前に言っただろう?』


「ッ!」


 突然聞こえる威厳のある男の声に、思わず部屋を見渡すピーラン。


「そうだっけ?」


 威厳ある男の声に対してテヘッと笑みを浮かべるブリザラ。


『……はぁ……全く王は……そこの忍者、どこを見ている? こっちだ』


「こ、こっち?」


 声がする方へと視線を向けるピーラン。


「……?」


「ふふふ」


 そこには笑顔をピーランの姿がある。


『……勘が鈍いなそれでも忍者か? 私はここだ、王が持つ盾』


「盾? ……盾だと?」


 ブリザラが手に持つ特大盾に視線を合わせるピーラン。


「はい、こちらは伝説の盾、キングです」


 ピーランが見やすいように手に持つ特大盾、キングを持ちあげてみせるブリザラ。


「あ、有り得ない……盾が喋る訳が無い」


 目の前で起きていることを信じられないピーランは顔を左右に振りながら、ブリザラが持つ特大盾から聞こえてくるキングの声を否定する。

 この世界に伝説と名の付く武具がある事はピーランも当然知っている。情報収集は忍者としての仕事の一つ、争い事の火種になりやすい伝説の武具関連の情報は、常に仕入れるようにしており普通の人より知識を持っている。しかしそんなピーランであっても喋る伝説の武具など聞いたことが無かった。


「はぁ! ……なるほどそう言う事か……」


 何かに気付いたピーランは納得したように頷くとブリザラとキングをほったらかしにして一人思考の海へと潜って行く。


「あれ? ……どうしたんですかピーランさん?」


 もっと驚き慌てるかと思っていたブリザラは、突然黙り込み難しい顔をするピーランの様子に首を傾げた。


『王よ、それよりももう時間が無い、この者に話を聞こう』


 何か考え込むピーランに首を傾げるブリザラにキングは、時間が無いと話を聞くことを勧める。


「あ、うん、そうだね……」


 キングの言葉に頷いたブリザラは、再度考え込んだままのピーランに視線を向ける。


「あのピーランさん……聞きたい事があるのですが、いいですか?」


「……」


 話しかけるブリザラに対して一切反応しないピーラン。


「あのピーランさん?」


 全く反応しないピーランに顔を近づけるブリザラ。


「ぐっは! な、なんだ急に顔を近づけるな!」


 突然視界に入ってきたブリザラの顔に動揺したピーランは体を仰け反らせブリザラから距離をとる。


「あの、先程のお話の続きを伺いたいのです……話していただけますか?」


「は、話? ……ああ、私があんたの命を狙った理由か……」


 ピーランは自分が意識を失う寸前にブリザラと会話した事を思いだした。


「……さっきも言った、私はあんたの命を狙った、それだけ他に話すことは……」


「それは嘘です、あなたは忍者という戦闘職だという事をランギューニュさんから伺いました、そして色々と調べました」


「調べた? 何か情報が出てきたかい?」


 忍者としての情報はごく一部の者しか知らず公には殆ど公開されていない。この短時間で調べられるのはたかが知れていると思うピーラン。


『……忍者という戦闘職は、ヒトクイの国専属職でヒトクイのとある地域に住んでいる一族しかなれない戦闘職、主な任務は情報収集とヒトクイの王を影から護衛すること、任務内容的に人々にその正体がばれてはならない為、忍者という戦闘職の情報を国が公にはしていない……時と場合によっては要人の暗殺を遂行することもある……それから……現在一族の長を……』


「なッ!」


 次から次へと忍者という戦闘職に付いての情報を語り出すキングの言葉に驚くことしか出来ないピーラン。


「その……すいません、本当は私が調べたのではなくキングが忍者という戦闘職について全部知っていて……」


 自分の言葉に誤りがあった事を素直に詫びるブリザラ。


「は、ははは……凄いなその伝説の盾とやらは……」


 キングが口にした情報に半ば呆れたように乾いた笑い声をあげたピーランは、ブリザラが持つ盾は、自分が知らない伝説の盾であると納得するしか無かった。


「……それで、忍者という情報を得て私の何が分かったというんだ?」


 しかし忍者の情報を細部に至るまで知ったからと言って自分の行動の何に結びつくのかをブリザラに聞くピーラン。


「それは誇りです……外道職とされている暗殺者アサシンが持ち合わせない強い誇りを忍者は持っていると私はそう感じました」


「誇り……ねぇ」


 誇り、確かに忍者であった時の自分はそんなもの持っていただろうと思うピーラン。


「……誇り高き忍者であるピーランさんがなぜ暗殺者アサシンのような行動をとったのか……いえ、とらなければならなかったのか……」


「……」


 ブリザラの言葉に口をつぐむピーラン。


「ピーランさんは誰かに脅されているのではないか……私はそう結論しました……そしてその誰かとは闇王国ダークキングダムではないですか?」


「……」


 ランギューニュに魅了チャームをかけられた時に自分が何を口走ったか覚えていないピーラン。しかし確実に口にしてはならない言葉をランギューニュに話してしまったのだと気付くピーラン。


「……そうか……そこまで知っているんだね……」


 目を瞑るピーラン。まるでそれは自分の命が尽きるのを待っているようだった。


「あーもし自分にかけられた呪いが発動して死ぬと思っているなら大丈夫だよ」


「!」


 突然の声に目を見開いたピーランは、そのまま扉に視線を向ける。そこにいたのはピーランから闇王国ダークキングダムの情報を聞きだした張本人であるランギューニュであった。


「ど、どういうことだ?」


「言葉の通りさ、君にかかっていた呪いはすでに解除されていて、君が闇王国ダークキングダムについて語ったとしても死ぬことは無いってこと」


 ニコリと幼さのある笑顔でピーランにそう言ったランギーニュはブリザラの横まで歩いていく。


「後、呪いは解けてはいないけど君の仲間からは一切その情報は聞いていないから安心していいよ」


 さりげない気遣いとでも言ようにランギューニュはピーランの仲間達には一切その事について聞いていない事を伝える。


「……そうか……」


 自分の死を覚悟していたピーランは力が抜けるようにその場に座り込んだ。


「これで縛るものはありません、お願いですピーランさん詳しくお話を聞かせてください」


 座り込んだピーランに駆け寄ったブリザラはピーランの両手を握り情報を話して欲しいと願う。


「な! は、離せ!」


 全く距離感というものの意識が無いブリザラの行動に再び高鳴るピーランの胸。たまらずピーランは自分の手を握るブリザラの手を振りほどこうとするが以外にも見た目に反して力のあるブリザラの手を振りほどくことが出来ない。


「お願いしますピーランさん、私はあなたを助けたいんです!」


「助けたいだと? 私があんたを殺そうとした理由がどうであろうとも、あんたを殺そうとしたことにはかわりないんだ、そんな私を助けたいというの?」


 どんな理由があるにせよ自分の命を狙った者を助けたいだなんて自分は絶対に思わないと

 ブリザラの思考が全く理解できないピーラン。


「はい、だって、一目見た時から私はピーランさんと友達になりたいと思ったからです!」


 全く淀みの無い言葉。それが真実の言葉であるということは、僅かな会話しか交していないピーランでさえもブリザラの言葉には全く嘘が無い事が理解出来た。


「……ふふふ……あっははははは! こんな私と友達になりたい……あんた変な王様だよ」


 全く理解が出来ないブリザラの思考に呆れを通り越して笑いが込み上げてくるピーラン。


「はい、よく言われます」


 何故か照れるブリザラ。


「ふふふふ……こんなに笑ったのはいつ以来か……分かった全てを話すよ……」


 自分にかけられた呪いが解除されたことで気分が楽になったピーラン。それとは別にブリザラの言葉によって何かが洗い流されるような感覚を抱いたピーランは、自分が知っている情報を全て話す事を約束した。



 ― サイデリー王国 氷の宮殿 会議室 ―


 つい先程まで春の式典と王を襲撃した賊について話し合っていた大臣達の姿は無く現在その場所には会議で話されていた張本人であるピーランの姿があった。その横には何故か襲撃された張本人であるブリザラの姿もある。


「お……おお?」


 そのありえない光景に困惑するガリデウス。


「どういうこと?」


 ガリデウスと同様に西地区部隊隊長、最上級盾士であるティディも困惑の声を上げる。


「ふむ、何か面白い事になってきたな」


 困惑しつつも何処か楽しんでいるようにも見える東地区部隊隊長、最上級盾士、グラン。


「流石ブリザラ様」


 そう言いながら満面の笑みを浮かべるランギューニュ。


「ああ……もう何か慣れてきたなこの感じ」


 おてんばを通り越して破天荒なブリザラの行動に慣れ始めてきたアキの表情は無であった。


「……何ともあの王様は突拍子がないの」


 アキの隣で椅子に腰かけている上級精霊ウルディネ。


 それぞれがそれぞれの感想を述べる中ブリザラは立ち上がる。


「とりあえず今からピーランさんに事の全てを話して貰おうと思います」


 まるで子供の学級委員会の始まりのように話だすブリザラ。


「ちょ、ちょっと待ってください王、なぜこの者がこの場にいるのですか?」


 事の成り行きを全く知らないガリデウスは、なぜこの場に賊であるピーランがいるのかが理解できず、まずその事についてブリザラに聞いた。


「なぜって色々あって私とピーランさんがお友達になったからです」


 ブリザラの言葉にその場にいた全ての者達の肩がガクリと下がる。


「ちょっと待て! 私は友達になった覚えは無いぞ!」


 突然のブリザラの発言に困惑するピーラン。


「えええ、友達じゃないんですか?」


 そう言いながら目を潤ませるブリザラ。


「うぅぅぅ……」


 潤んだブリザラの瞳の前になぜか言葉が出なくなるピーラン。


「そ、それよりも王、私達にも分かるように説明をして頂きたい」


 ガリデウスの言葉に、状況を飲み込めていない者達は皆頷いた。


「それじゃえーと……」


 状況を理解していないガリデウス達になぜこんなことになったのかをブリザラはランギューニュやアキに助けられながら説明をした。


「……なるほど……」


 今までの経緯の説明を受けたガリデウスは納得したように頷く。他の最上級盾士も同様に不服は無いようだった。


「なので私とピーランさんはこれから友達です!」


「だ・か・ら、どうしてそうなる! 私は友達になるなんて一言も言ってないぞ」


 呆れたようにブリザラに言い返すピーラン。しかしその二人の光景は友達と言っても差異が無いように周囲には映っていた。


「ピーラン」


 友達同士の言い合いのようにあーでも無いこーでも無いと言い合う二人を見ていたガリデウスはピーランの名を呼びながら近づいていく。


「ああ、なんだ?」


 ブリザラと言い合いをしていたピーランは、それを中断しガリデウスに視線を向ける。


「……お前に問う、貴様はもう王の命を狙う意思は無いというのだな?」


「ああ、呪いが解除された以上、闇王国ダークキングダムに従う理由はない」


「そうか、ならばいい、お前はブリザラ様の友達だ」


 一変の歪みも無いピーランの言葉に頷き納得するガリデウス。


「お、おい、この中で一番良識的だと思っていたのにお前もそれか!」


 真面目な顔をして変な事を言うガリデウスに顔を引きつらせるピーラン。


「……しかしだな……結局の所、納得しなければ話が進まないだろう……」


 他の者達に聞かれたくないのかガリデウスは、ピーランの耳元に顔を近づけると疲れた声で愚痴のようにピーランに呟いた。


「……あーなるほど……あんたも苦労してんだな……」


 自分の耳から顔を引いたガリデウスの表情は明らかに疲弊していた。その疲れた表情に、おてんばで破天荒なサイデリーの王ブリザラに毎日振り回されるガリデウスの姿を想像してしまったピーランは思わず同情の言葉を投げかけてしまう。


「何の話をしているんですか?」


 何を話しているのかと二人の中に割って入るブリザラ。


「いえ、少しばかり確認をしただけです」


「そ、そうだ確認だ確認」


 いきなりピーランとガリデウスの間に割って入ったブリザラに動揺する二人。咄嗟に口にしたガリデウスの言葉にピーランは口裏を合わせるようにそう言うと勢いよく頷いた。



「さ、さあ、ブリザラ様、このピーランから詳しく話を聞きましょう」


 疲れた表情をすぐさま隠したガリデウスは、本題に入ろうといつも自分が座っている席に移動し腰を下ろした。


「はい、ではピーランさんよろしくお願いします」


「あ、ああ……それじゃまず私が所属していた闇王国ダークキングダムについてだ」


「……確か現在最も厄介な盗賊団の名がそんな名だったな」


 皆が会議室の席に腰を下ろす中、アキはその席に付かず立ったままピーランが口にした闇王国ダークキングダムについて自分の知っている事を口にした。


「ああ……そうだそうだ、確かヒトクイのガウルドっていう城下町で活動している盗賊団だ……でもそんなに厄介だったかな?」


 遥か昔、まだサイデリーに辿りつく前、一度だけヒトクイに寄った事があったランギューニュは、思いだしたようにアキの言葉に自分が知っている情報を付け加える。


「それはもう数十年も昔の話だ、現在はガウルドの地下に町程の大きさのアジトを持っている」


 ランギューニュの情報を訂正するピーラン。


「……何でお前、数十年も前の闇王国ダークキングダムについて知っているんだ?」


 ランギューニュの隣に座っていたティディがランギュー二ュの説明に対して首を傾げる。


「あーそれは……どうしてだろう? 誰かに聞いたんだったっけ?」


 思わず昔の事を口走ってしまったランギューニュは、誤魔化すようにティディに聞き返す。


「私が知るか……お前に尋ねているんだ私は」



 ランギューニュに聞き返されたティディは、頭を抱え呆れたようにそう言う。


「話を続けていいか?」


 ランギュー二ュの間抜けさ加減に、その正体を知るピーランは、助け船を出す。借りを作っておけば後々面倒にならないだろうという魂胆でランギューニュに視線を向けるピーラン。


「うげぇ……」


 すると目があったランギューニュはピーランに対してウインクを飛ばす。そのウインクに心から鬱陶しいと思うピーラン。


「大丈夫ですかピーランさん?」


 思わず口に出てしまった小さな悲鳴を聞き逃さなかったブリザラは、ピーランの体を心配するように話かける。


「あ、ああ……大丈夫だ、話を続けるよ」


 自分の事を気遣ってくれるブリザラに対して何故か頬を赤く染めるピーラン。しかしそんな自分の様子に気付いたピーランは、その動揺を掻き消すように話を続ける。


「さっきも言ったように現在の闇王国ダークキングダムは町程の大きさを持つ地下をアジトにした規模の大きな組織だ、ヒトクイ中のゴロツキや盗賊達を力でねじ伏せ自分達の支配下に加えてそこまで規模が大きくなったと私は聞いている」


 闇王国ダークキングダムでは力が全て。力でねじ伏せた者が正義、その正義の位置に君臨するのが、団長と呼ばれる謎の人物であった。


「私は関節的にしか団長にはあった事が無いが、関節的であっても恐怖を抱く程に闇王国ダークキングダムの団長の実力は底が見えないと私は感じている」


 その時の事を思いだしているのかピーランの顔から血の気が引いていく。


「なるほど……力と恐怖でのし上がったって訳か」


 顔色が悪いピーランを見ながら口元を歪ませるアキ。


「一つ質問なのだが、そこまで拡大した組織をなぜヒトクイは取り締まらない? 地上にはヒトクイの王が住まう城があるのだろう?」


 グランの疑問は最もであった。大きく拡大を続ける盗賊団、闇王国ダークキングダム、その規模は町一つをアジトにしてしまう程。そうなれば国の転覆を狙い襲撃をしかけてもおかしくは無い。そんな危険な組織を野放しにしている理由がグランタチには分からない。


「……そう、そこなんだ……詳しくは私にも分からない、だが噂ではヒトクイの王と闇王国ダークキングダムの団長が裏では繋がりを持っているという話を聞く……まああくまで噂でしかないのだが」


「うーむ、それはおかしい、昔ヒトクイに先代の王と訪問した時、ヒトクイの王がそのような繋がりを持つ人物には私は見えなかった」


「うん、ガリデウスの言うように私もそんな人には見えなかったな」


 サイデリーとヒトクイは、侵略しない、させないという同じ理念を持つ国同士、ヒトクイが統一されてから長い間友好的な関係にあった。その流れで、数年に一度互いの国へ訪問する機会が作られ王族同士の親睦を深めているのだが、その席に姫として同行したブリザラと王のお付として同行しガリデウスは、ヒトクイの王がそのような事をする人物には思えなかった。


「優しい笑みを浮かべる人だと私は記憶しています」


 何とも優しい笑みを浮かべ自分を歓迎してくれたヒトクイの王を思い出したブリザラ。


「まあ、そんな王でも裏では何しているか分からないって所じゃないか?」


 ブリザラやガリデウスの話を胡散臭そうに聞いていたアキは、誰にでも裏があると口にする。


「そんな事ありません! あの方は立派な方です、常に国の事を考えお父様とどうすれば国が良くなるかを真剣に話していました!」


 アキの言葉に思わず席を立ったブリザラは、アキの言葉を否定する。


「あーそうかい、ならそう信じていればいい、後で騙されたことに気付いて泣くのはお前だ」


 暴力と裏切りしかない国で育ったアキにとってサイデリーもヒトクイも気持ち悪いとしか思えないアキはブリザラの言葉にそう切り返すとすぐに視線を外し会議室にある窓に映るサイデリーの景色を見つめた。


「……」


 自分から視線を外したアキを睨みつけるブリザラは、頬を膨らませ乱暴に席に座る。


「まあ兎にヒトクイと闇王国ダークキングダムの繋がりは置いておこう、それでなぜ闇王国ダークキングダムはこのサイデリーの王、ブリザラ様の命を狙うようお前に指示を出したんだ?」


 ブリザラとアキのぶつかりでその場の雰囲気が重くなったことを感じたガリデウスは、話を切り替えるようにピーランにブリザラの命を狙った理由を聞く。


「あ、ああ……それなんだが……実の所、闇王国ダークキングダム事体がサイデリーを狙った訳じゃない、指示を出した、依頼してきた者が別にいるんだ」


「何だと? それは本当か?」


「ああ、その人物、いやサイデリー王の命を狙って欲しいと依頼してきたのは、その大陸と同じ名を持つ国、ムハードだ」


「何ッ!」


「……」


 ムハードという国の名に反応するアキとランギューニュ。しかし二人の反応は全く違う。感情を露わにするアキに対してランギューニュは、沈黙を貫いた。


「どうしたアキ殿?」


 突然叫んだアキに声をかけるガリデウス。


「……ふふふ、確かにあの国なら有りえる話だ、年中無休で隣の国々と飽きもせず戦争を繰り返し、町にはクソ野郎しかいない俺の故郷ならな」


 まさか自分が生まれ育った国の名が出るとは思ってもいなかったアキ。しかしすぐにそんな事を仕出かしかねない国だと呆れたような笑みを浮かべる。


「……アキさんが生まれ育った国……」


 信じられないといった表情でアキを見つめるブリザラ。


「しかし……なぜサイデリーと全く関わりが無いムハードが王の命を狙う?」


 雪と氷に囲まれたサイデリーと周囲が砂漠に覆われたムハード。距離にすれば船でも数日はかかる距離にある二つの国には今まで一切の繋がりは無い。そんな国がなぜブリザラの命を狙ったのか疑問に思い口に出すガリデウス。


「それは、ムハードが闇王国ダークキングダムに提示したもう一つの依頼に関係してくる」


「もう一つの依頼」


「ああ、伝説の武具の奪取だ……」


 ピーランの言葉に伝説の武具が何であるかを知る者達の視線はブリザラが持つキングに向けられた。


『……なるほど、目的は私であったか』


「何この声?」


「何とも威厳のある声だな」


 キングを知らない者は、突然会議室に響いたキングの声に驚きの声を上げる。


「……あんたの力を目の当たりにして分かったよ、国一つを混乱に陥れても手に入れたくなる代物だってね」


 ピーランは横に座るブリザラが抱えていた伝説の盾キングに対してそう話しかける。


「まさか……王が持つ盾が……伝説の武具なのですか?」


 ティディは目を丸くしてそう言いながらキングを見つめる。


「はい、伝説の武具、伝説の盾とはキングの事です!」


 そう高らかにキングを紹介するブリザラ。


『今まで、黙り続けていた事を詫びよう、だが理解して欲しい、私が沈黙し続けていたのは、無用な争いの火種を呼び込まない為だ……しかし結局は火種が起こってしまった、全て私の責任だ申し訳ない王よ』


 会議室全ての者に自分が黙り続けていた理由を口にしたキングは、最後に自分の所為で危険に晒してしまったブリザラに謝った。


「ううん、キングは悪くないよ! 全てはそうしようと思った人が悪いの」


「これは……王の命を狙い、そして財産を奪おうとしたれっきとした侵略行為だ、ただちに抗議文を送り、場合によっては報復するべき……なのだろうが……」


 と言いつつグランはブリザラに視線を向ける。


「抗議文は送りますが、報復による戦争は絶対にしません……」


 グランの言葉にブリザラは毅然とした態度で報復による戦争はしないと宣言する。


「だそうだ……大臣達をこの席に座らせなくてよかったな、これを聞いたら奴ら血走った眼で今すぐ報復だと言うぞ絶対」


 普段皆温厚ではあるが、意外にも最上級盾士である自分達よりも血の気が多い大臣達の顔を浮かべヘラヘラと笑みを浮かべるグラン。


「だけど抗議文を送っても、実行したのは闇王国ダークキングダムだ、ムハードは知らぬ存ぜぬでその効果は無いだろうね……そして闇王国ダークキングダム事体も実行者であるピーラン達に闇王国ダークキングダムの事を話せば死ぬ呪いを施していた……綺麗に証拠を隠滅しようとしていた訳だね」


 ピーランにかけられていた呪いを目にしていたランギューニュは、何とも用意周到だとムハードと闇王国ダークキングダムの切り捨て術を素直に褒めた。


「うーん、兎に角、ムハードという国の調査の必要がありそうだな……しかし調査に向かわせるとしても我が国の盾士達ををかわせる訳にもいかない、それに我々には全くムハードの知識が無い……どうしたものか……」


 報復による戦争をせず抗議文も効果が無いとなれば、ムハードがブリザラの命を狙ったという確固たる証拠を手に入れる為に、ムハードへ調査する必要があった。しかし盾士を向かわせれば、それだけで侵略行為だと非難される可能性もあり迂闊に盾士達をムハードに行かせる訳にはいかない。そして全く接点の無いムハードの知識がサイデリーには無い。そう口にしたガリデウスはチラ、チラとアキに視線を向ける。


「うむむ、誰か我国の者では無く、そしてムハードの知識を持った者はいないものか……」


 わざとらしく言葉を強調するガリデウスは再びチラチラと視線を向ける。


「おっさん……何が言いたい?」


 あからさまであるガリデウスの行動に苛立つアキ。


「あああ! そうだアキさんならその調査に適任じゃないですか!」


 ガリデウスを含めたその場の者達がすでにそう思っている事をあえて口にしない中、ただ一人ブリザラだけがその空気感を察せずに大声でアキが適任であると言った。


「「「「……」」」」


 黙り込むその場の者達。しかしその心の中では嗚呼この空気の読まなさこそブリザラ様だと同じ事を考えていた。


「冗談じゃない、なんで縁もゆかりも無いこの国の為に俺が働かなきゃならないんだ!」


 つい先日サイデリーに上陸したばかりでひょんな事からサイデリーの王であるブリザラと出会っただけのアキには、ムハードを調査する義理は無い。


「そんな……お願いします……その報酬もちゃんとお支払いしますから……」


「報酬で釣ろうとしても無駄だ、俺はやらない」


 自我を持つ伝説の防具を手に入れた時点で、金銭面の問題がある程度解消されたアキにとって報酬という餌は殆ど無意味であった。


「なら、君が飢えている戦いの場ならどうだい? あの国は軍事国家だ、戦いには事欠かないと思うけど」


 報酬が駄目ならば、その者か欲しているものを提示する。ランギューニュは、サイデリーに来て以来、戦う事がほとんどないアキの心を見透かしたかのようにムハードに行けばその望みを叶えられると口にする。


「……ランギューニュ、何でお前がムハードの事を知っている?」


 となりにいたティディが再びランギューニュに対して首を傾げて質問する。


「えっ? ああいや……だって年中無休で戦争している国なんでしょ? だったらそうなんじゃないかな……って思ってさ……誰かに聞いたんだったっけ?」


「だから私に聞くな!」


 先程と同じような流れに誘導された事に苛立ちながらもティディはその流れに逆らえずランギューニュを怒鳴りつけた。


「ああ……なるほど……分かったよ、あんたらの依頼、引き受けよう……だがこれはただの次いでだ……俺はあの国にお礼参りに行って来る……国一つ潰れても文句は言うなよ」


 ティディが怒りを現す中、全く空気を読まずアキは、ランギューニュやガリデウスに向けてそう言い放つ。


「アキさん……」


 アキから放たれる戦いに飢えた雰囲気を敏感に感じ取るブリザラの表情は不安で曇っていた。自らアキに依頼を出した立場である以上、自分の胸中が抱く想いを口にしてはならないと思うブリザラであった。




ガイアスの世界


ムハード国


半分以上が砂漠で広がる大陸ムハード。その中にある数十の国の一つが大陸と同じ名を持つ国ムハードは、歴史の長い国である。しかしその歴史は戦いの歴史と言ってもいい。軍事国家であり独裁国家でもあるムハードは、争いは金を産むと考えているムハードの王の命により常に周辺国と戦争し続ける状態にある。

 しかしなぜ戦争を続け国事体が疲弊しないのか、それはムハードがここ数十年戦争に置いて無敗を誇るからである。勝ち続ける者こそが戦争を続けることが出来る。そう考える現ムハードの王の戦争に対しての才能は凄まじく狙われた国は埃も残らないと言われている。

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