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凍てつかせる男

ガイアスの世界


 今回ありません

 

 凍てつかせる男



『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス



「……なんでピーランがランギューニュさんに?」


 見た目はどう見ても自分が知るピーランであるはずなのに、動きやその喋り方が最上級盾士の1人ランギューニュであることに混乱を隠しきれないブリザラ。


「それについてもご説明します、ですがその前に……」


 ピーランの姿をしたランギューニュはブリザラが抱く疑問に対し説明すると言いながらも、その視線を後ろへ向ける。


「説明が二度手間になるのは時間がもったいない、まずはこの場にいる者たちを起しましょう」


 女神の力により意識を奪われ倒れている他の最上級騎士たちへと視線を向けたピーランの姿をしたランギューニュは、現状説明を二度するのは時間がもったいないとブリザラの疑問を一旦保留にし、倒れている他の最上級盾士たちを起こす事を提案した。


「あ、はい!」


 動揺に混乱、様々な感情がひしめく中でも冷静であろうとするブリザラはランギューニュの提案を素直に受け入れ、自ら最上級盾士たちの下へと駆け寄って行く。


「ガリデウス、ティディさん、グランさん」


 それぞれの最上級盾士たちの下へ駆け寄り名を呼びながら目覚め促していくブリザラ。


「サイデリーを守護する身でありながらこの体たらく、情けないな」


 優しく起こそうとするブリザラに反し、最上級盾士たちへ向けたピーランの姿をしたランギューニュの言葉は辛辣だった。


「「「ランギューニュ!」」」


 矜持プライドからくるのか、彼らを煽るようなピーランの姿をしたランギューニュの言葉で一斉に目を覚ました最上級盾士たちは、自身の持つ力が暴走することを危惧し地下の監獄に自ら入って行った、この場にはいないはずの同僚の名を口にした。


「ガリデウス! ティディさん! グランさん!」


 目を覚ました最上級盾士たちにブリザラは安堵の表情を浮かべながらもう一度それぞれの名を呼ぶ。


「うぅううう……ブリザラ様……」


 頭を抑えながら何が起ったのか理解できていないという表情でブリザラを見つめるガリデウス。


「うぅぅぅ……気持ち悪い」


 折角の美しい顔が気分の悪さで歪むティディ。


「かぁ……酒も飲んでいないのに二日酔いみたいだ」


 体調の悪さを二日酔いに例えるグラン。


「ふぅ……どうやら女神の影響は消えているようですね」


 そんな体調の悪そうな同僚たちの姿を見てそう呟いたピーランの姿をしたランギューニュもまたブリザラと同様に安堵の表情を浮かべる。


「……ランギューニュの声がしたが……」


「あ、それ私も!」


「なにやら生意気な事を言っていたように思うが……」


 確かに声を聞いたと言うガリデウスたちは王の間を見渡しながらランギューニュの姿を探す。


「……はぁ、まだ話を始めていなかったのか?」


 ガリデウスたちが周囲を見渡す中、そう口にしたのは女神に殺されかけた少女テイチを大事そうに抱きかかえる上位精霊ウルディネであった。


「「「……ッ!」」」


 ウルディネの姿に素早く警戒体勢をとるガリデウスたち。


「……安心しろ、もう暴れる気は無い」


 彼らから完全に危険存在と認定されたウルディネは、警戒するガリデウスたちに戦う意思がないことを告げる。


「みんな大丈夫です、盾を納めてください」


 意識が飛ぶ筑前までの記憶しか無く状況が今一理解できていないガリデウスたちをなだめるブリザラ。


「……しかしブリザラ様! こやつは!」


 目の前にいる存在、上位精霊であるウルディネは自分たちに牙を、その水の牙をブリザラへと向けた。例え我王が問題無いと口にしたとしても、本人に戦う意思が無いとしても、サイデリーや王へ牙を向いた事実は変わらない。国と王を守護する立場であるガリデウスはブリザラに牙を向いたウルディネを許すことなど出来るはずがなかった。


「まあまあ待てよ、一旦落ち着けガリデウス」


 こういう状況に陥った時、一番頭が固くなるガリデウスを落ち着かせようと止めに入ったのはグラン。


「またさっきみたいに睨み合いなったら、話が進みません、私たち全く状況が理解できていないんですから今は話を聞きましょう」


 全く状況が理解できていない以上、今は対話を優先するべきだとグランを援護するティディ。


「……むむむ……」


 たがガリデウスはグランやティディの言葉に納得できないと唸りを上げる。


「お願いガリデウス、まずは落ち着いて状況の整理をしよう」


「……うぅぅ……ブリザラ様がそういうのならば……」


 最上級盾士としての矜持プライドも王であり孫のような存在であるブリザラの言葉には甘くなってしまうガリデウスは、ようやくその堅い頭を軟化させた。


「だがッ! わかっているなウルディネ殿……何か怪しい動きをすれば……」


 次の瞬間、視線をブリザラから外しウルディネへ向けたガリデウスはそう警告した。そしてその言葉はガリデウスを止めたグランやティディの総意でもある。ウルディネを相手にして勝てる見込みがないことは三人とも十二分に理解している。だがそれでも最上級盾士の矜持プライドを賭けて戦って見せるという強い気迫が三人から発せられていた。


「……ああ、わかっている」


 ウルディネは災害級の力を持つ上位精霊。本来ならたかが盾の技術に秀でた人族を相手に遅れをとる存在では無い。しかしウルディネは空気というものを読んだ。いや読まざるを得なかったというのが正しい。

 女神との対峙によって疲弊した今の力であっても、どれだけ強い気迫を纏ったとしても、最上級盾士たちを相手にしたとしても負けるという未来は絶対に無い。しかしそれは最上級盾士たちだけを相手にすればという話だ。その先に待つのはブリザラである。どれだけ甘ちゃんで箱入り娘であるブリザラであっても自分の親しい者たちが目の前で倒れれば黙っているはずがない。だがウルディネが警戒しているのはブリザラでもない。正しくはブリザラの中にいる女神の存在だ。

 未だ女神の気配を残すブリザラを危ういと感じているウルディネは、もし戦うことになれば、何かの拍子で再びその女神が顔を出す可能性があると考えていた。その時点でウルディネには勝ち目は無い。そしてなによりもテイチを再び危険な状況にしてしまうことがウルディネにとっては怖かった。だからこそウルディネは騒ぎ立てる怒りや憎しみを一旦己の中に押しとどめ、ガリデウスの言葉に頷いたのだった。


「はい、皆が静かになるまで一分以上かかりました」


 そんな重たい空気など関せずと言ったように、まるで教師のような嫌味のある言葉を口にしたのは今まで静観していたピーランの姿をしたランギューニュだった。


「「「……」」」


 普段ブリザラの近衛兼、世話係をしているピーラン。当然ガリデウスたちはピーランがどういった人物かは理解している。だからこそ、そのあまりにも普段とかけ離れた行動にガリデウスたちは言葉を失う。


「なぜでしょう、何故かあのピーランに苛立ちを覚えるのですが」


 この中ではブリザラの次にピーランと交流があるティディ。普段は絶対に感じることの無い苛立ちをピーランから何故か感じ困惑していた。


「ああ、分かるぞ……何かこれは良く知っている気配だ」


 ティディのように苛立ちを感じているわけでは無いが、グランは自分が良く知る気配のようなものをピーランから感じていた。


「……この生意気な口ぶり……」


 同じくガリデウスもピーランから発せられた言葉に何かを感じていた。


「「「まるでランギューニュみたいだ(ね)」」」


 まるで示し合わせたかのようにガリデウスたちは同僚の名を口にした。


「はい、その通り大正解! 流石僕の同僚たちだね、たった一言で僕だと見抜いて見せた……そう彼女、ピーランの姿はしているけれど、その心は……現在自ら投獄しているはずの良面イケメン最上級盾士ランギューニュ=バルバトスさ、キラッ!」


「「「「「……」」」」」


 普段寡黙で真面目な印象のあるピーラン。そんなピーランがまるで巷を賑わす偶像アイドルのように、歌い舞いながら、最後には決めの姿勢ポーズまでとって、その場にいる者たちへ自分が何者であるかを告げた。


「……あれ? みんな反応が薄いな」


 想像とは違う皆の反応に巷を賑わす偶像アイドルのような動きで小首を傾げるピーランの姿をしたランギューニュ。


「「「「「……」」」」」


 もしそんな自分の姿を本人であるピーランが見たとすれば、恥ずかしさに耐えきれず発狂し死にたくなるだろうことは火を見るよりも明らかだった。そんなピーランの気持ちを容易に想像することが出来てしまった者たちの間には冷たく何とも言い難い空気だけが流れて行く。


「あ、あの……早速ですが、私たちに何が起きたのか説明していただけますか、ランギューニュさん」


 一体自分は何を見せられているのか、何事にもある程度寛容で動じないはずのブリザラは、その顔を引きつらせながらも何とかこの状況を打破し進行させようと重い口を開き、未だ決めの姿勢ポーズをとったままのピーランの姿をしたランギューニュへ説明を望んだ。


「はい、それでは説明をはじめるよ! キラッ!」


 凍りつく王の間。その寒さは極寒のフルード大陸にも匹敵する。そんな状況であっても懲りずにピーランの姿をしたランギューニュは、巷を賑わす偶像アイドルのような動きと決めの姿勢ポーズを続けながら、これまでの経緯を説明し始めるのだった。






 ガイアスの世界


 巷を賑わす偶像アイドル


 覚えていますか……である。生き残りたい生き残りたい……である。ウマぴょい、ウマぴょい……である。あなたのアイドル……である。皆が胸に抱くそれがアイドルである。

 

                         偶像アイドルを崇拝する村人談。


 太陽が空から消失する少し前に出現した踊り子と吟遊詩人を併せ持つ新たな職業、偶像アイドル。とある島国を中心にして、突如発生した偶像アイドルたちは、太陽を失い様々な災害などで絶望し疲弊する人々の心に希望を与える存在として現在各地で大活躍しているととかしていないとか。

 もしかすると彼ら彼女らの力が終末の迫るガイアスに一筋の光を見せるかもしれない。知らんけど。

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