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『私』のあるべき姿

ガイアスの世界


 今回ありません

 

 『私』のあるべき姿




 — 場所不明 —



 

「ここは……何処?」


 そこには何も無く、あるのは目を開けているのか瞑っているのかもわからない何処までも続く暗闇。そこが何処だかもわからない何者かの声がその暗闇にポツリと響く。


「『……』は何?」


 暗闇以外なにも無いということは、そこには自分と比較する対象が存在しないということ。比較する対象が存在しないということは、自分を証明することが出来ないということであり、暗闇の何処にも何者かの姿は無く、ただ僅かに残った何者かの自我が感情の無い声でそう呟くだけであった。

 この暗闇は何者かから全てを奪っていく。何者かという存在を形成していた全てがその暗闇に溶け込み同化を始めていた。その影響で何者かに残された自我は『……』がなんであるのかを理解できなくなっていた。


「……悲しい……寂しい……」


 耳ざわりとしては何者かが自分の現状を感情でそう言い表しているように思える。しかし何者かが発したその言葉に感情はない。自我が暗闇に溶け込み同化し始めている今の何者かにはその言葉を言い表す感情がないのだ。ならば何者かがそう口にした理由は何処にあるのか。


「……空しい」


 それは何者かの全てが溶け込み同化を始めている暗闇にあった。何処までも続く暗闇には何者かとは違う別の意思や自我が漂っていた。何者かはただその漂っている感情を拾って言葉にしただけ。そこに何者かの感情は存在しないのである。


「……何だか眠い……眠ってしまいたい」


 そう感じているのが自分なのか、それとも他者のものなのか何者かにはわからない。眠ったが最後、僅かに残された自我は完全に暗闇と同化し何者かの存在は消滅する。しかしその先に待つのが消滅だということも理解できず抗えないまま、何者かは僅かに残った自我を睡魔に委ねようとする。


《誰かあの子を……》


 どこからともなく微かに聞こえる声。


「……?」


 低く威厳のあるその声に、何者かに残った僅かな自我が反応した。すると暗闇の中に微かな光が灯る。それは今にも消えてしまいそうな程に弱々しく頼りない光。


「……あたたかい」


 光の持つ温もりが何者かに残った僅かな自我に変化をもたらした。温かいと口にしたその言葉には未だ感情はないものの、そこには暗闇のものとは違う紛れも無い何者かの自我があった。その極小とも言える好奇心が、温もりを感じたという感覚が、暗闇へと溶けだし同化し始めていた何者かの曖昧になっていた自我に再び輪郭を形成させた。そしてその僅かに形作られた自我によって辛うじてではあるが何者かは暗闇の中に完全に溶け込み同化することなく、その場に留まることができた。


《我王を……》


「……何だろう、とても力強くてなつかしい……」


 何者かは僅かな光が放つ温もりに力強さと懐かしさを抱いた。それによって何者かに形成された自我の輪郭が更にはっきりしていく。


「……ううん、いつも側にいてくれたような」


 僅かな光が放つ温もりによって自我の再形成を進めていく。それに伴い暗闇の中に溶け込み同化し始めていた何者かの記憶も僅かに呼び起こされていく。


《……頼むッ!》


「……安心する……そうか……『私』はこの光に守られていたんだ」


 自分とは違う存在がいる。他者という存在を感じ取ったことで、何者かは『私』を理解し思い出した。


「……ああ……」


 しかし『私』に再び形成された自我は、膨大に広がり続ける暗闇にとっては砂漠に佇む蟻のように些細なことでしかない。

 

「……『私』の中から失われていく」


 迫りくる大津波のように『私』の中に形成された自我を再び暗闇へ溶け込み同化を始めて行く。微かな光が放つ温もりによって形成された今の『私』の自我では暗闇の勢いを一時的にせき止めることしか出来なかった。


《……私は魔王アイツを愛している……》


 しかしまるでそうなることを予期し示し合わせていたかのように、『私』の前に新たな光が現れる。


「……この締め付けられる感じ……何だろう」


 突然現れた新たな光は、『私』の自我を刺激する。それは強く『私』の自我を揺さぶり『私』の何かを締め付けた。


《この体が燃え上がる程に……》


「この熱さ……『私』は知っている……」


 『私』の中にある何かに熱を帯びさせるもの。それが何であるのか理解する『私』。


《……この私の心に、あいつは愛という炎を灯していった……》


「……心……そう私の心にもこの熱がある」


 締め付けられ、熱を帯びるそれが心であることを理解した『私』の言葉に感情が籠っていく。それと同時に溶けあい同化し始めていた暗闇の勢いが停滞する。だがそれでも足りない。一度停滞した暗闇の勢いが、何事もなかったというように再び『私』の自我と感情との同化を始めようとその勢いを増していく。


《ブリザラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!》


「ッ!」


 それは誰かを呼ぶ声。自我を取り戻した光や、感情を取り戻した光と同様に『私』の前に3つ目の光が姿を現した。


「……ピーランっ!」


 その光が誰の声で、自分にとってどんな存在なのかを思い出す『私』。


「キングに……ウルディネさん」


 それだけではない。自我を取り戻した光や感情を取り戻した光が誰だったのか思い出した『私』は、暗闇の中でブリザラという存在を取り戻した。


「みんなッ!」


 そう叫び3つの光に手を伸ばすブリザラの顔には目一杯の笑顔が浮かび、その目からは涙が伝う。


「みんなぁ!」


 もう一度自分を救ってくれた者たちへ向け叫ぶブリザラ。その呼びかけに答えるように3つの光は1つとなり姿を取り戻したブリザラの体の中へと入って行く。

 それは示し合わせた訳でも、話し合った訳でもない。ただの偶然でしかなくブリザラを思う形もそれぞれ違う。だがその三者の想いがその偶然を引き寄せブリザラへ希望の光を見せる。


「ああッ!」


 だがそれでも暗闇は止まらない。自我を取り戻し、感情を取り戻し、姿を取り戻したブリザラへ同化しようと暗闇はその勢いを更に増し襲いかかる。


《こっちだ! 私の目を見ろブリザラァァァァァァァ!》


 そう叫ぶピーランの声に導かれ、視線を向けるブリザラ。


「ああ……!」


 ブリザラが視線を向けた先にはピーランの両目があった。その瞳には人影が映っていた。


「……あ、アキさん」


 驚いたように、嬉しそうに、悲しそうに、様々な感情が入り乱れながらブリザラはピーランの瞳に映る人影シルエットの名を呼ぶ。その人影シルエットはブリザラに最大の希望を生み出した。


「アキさんッ!」


 ブリザラが抱く最大の希望の名をもう一度、今度は確固たる意思で口にした瞬間、その心に巣くっていた暗闇は大きな光によって浄化されたように消し飛んでいくのであった。




『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス




「アキさんッ!」


 サイデリー王国、氷の宮殿にある王の間に、ブリザラの大きな声が響き渡る。


「えへ……えへへへへ」


 それに続くように、欲望塗れで下品なピーランの声が響き渡った。


「あれ、ピーラン?」


 両腕をピーランの首の後ろ巻きつけ抱き付いたブリザラは、目を二度三度と瞬かせると、何でという表情を浮かべた。


「……はぁ……どうやら元の小娘に戻ったようだな」


 そんな二人の姿を呆れた表情で見つめながらウルディネは、疲れ果てたというようにその場に座り込んだ。


「あへ、うふふふふ……」


「えーと、ウルディネさんこれは……一体何が?」


 抱き付かれたという衝撃で立場も忘れ快楽に溺れたまま帰って来られないでいるピーランを横目に、その場に座り込んだウルディネへそう尋ねるブリザラ。


「……知らん……私に聞くな」


 当初の目的が達成できず、無駄に疲れる思いをするはめになったウルディネは不機嫌そうにブリザラの質問を跳ねのけ視線を背けた。


「え、えええ……」


 視線を背けられ不機嫌な様子のウルディネに何が何だかわからないブリザラ。


「ブリザラ様の身に何が起ったかについて、私がご説明しましよう……」


「え?」


「ささッ、玉座にお座り下さい」


 状況が理解できていないブリザラにそう話しかけ玉座へ誘導したのは、一瞬前までなんともだらしない表情を浮かべていたピーランだった。


「ぴっピーラン?」


 確かに姿や声はピーランのもので間違いない。だがその立ち振る舞いや女性に対しての扱いが、普段のピーランのものとは違うと違和感を抱くブリザラ。


「あの、もしかして……ランギューニュさんですか?」


 人の域を遥かに凌駕した記憶力を持つブリザラは、一度見て話した人物のことは、何か事故で記憶を喪失しない限り決して忘れない。そんな高すぎる記憶力を下にブリザラは、普段のピーランとは違う言葉の僅かな違いやその動きからある人物を特定すると、その人物の名を口にした。


「はい、その通り……流石ですね我王、……こういった形での謁見をお許しください……この国一……いいえ、この世界で一番の良面イケメン最上級盾士ランギューニュただいま参上しました」


「間違い無い……ランギューニュさんだ」


 玉座に座ったブリザラの前で膝を付き、頭を下げどうでもいい言葉を付け加えながら挨拶したのは、どうみてもピーラン。しかしその言動や行動は確かに四人いる最上級盾士の1人ランギューニュ=バルバトスその人物そのものであった。


ガイアスの世界


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