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転生者の閑話

ガイアスの世界


 今回ありません



 転生者の閑話

 



 ー    —



 ある日、季節問わず全身黒ずくめで怪しげな仮面を被っていた彼は忽然とあの街から消えた。真相を知っているだろうお兄ちゃんは何も話してはくれなかった。ただやり遂げた、やり遂げちまったんだと悲しい表情を浮かべながらそう僕に話すだけだった。

 彼は一体何を成し遂げたのだろう。彼がいなくなった街は少しだけ静かになったけれど、少なくとも問題が解決した訳じゃない。まだ残っている問題は山ほどあるというのに、彼は自分勝手に魑魅魍魎渦巻くこの街を去って行ったのだ。




 — 忘れ去られた村 —




「……」


 少年はベッドの上で目を覚ました。


「……」


 見知った天井を見つめながら小さくため息を吐く少年。


『お目覚めですかマスター』


 目覚めた少年に対して声をかけたのはベッドの傍らに置かれた巨大な本だった。


「……うん」


 そう言って上半身を起こした少年はベッドに腰掛けると、部屋の窓に視線を向けた。


「……寝ている間に随分と様変わりしたね」


 窓の外に広がる昼なのか夜なのかもわからない暗い空。その空を唯一照らす赤い月を見つめながら少年は、巨大な本にそう話しかけた。


『ええ、マスターが眠っていたこの二週間で色々と状況が変わりましたからね、二週間の間に起きた出来事を確認しますか?』


 巨大な本はまるで世間話でもするようにそう言と少年へ二週間の間に起った出来事を確認するかと尋ねた。


「……うん」


 頷いた少年はベッドの傍らに置かれた巨大な本を自分の下へ引き寄せる。


『それでは、どうぞ』


 少年の膝の上に置かれた巨大な本はそう言うと己を開いた。巨大な本が開いたページには少年が眠っていた二週間の間にガイアスで起った出来事がびっしりと記されていた。

 

「……ふむふむ……異常気象に魔物の凶暴化……魔族の侵攻……女神と魔王の出現……」


 開かれたページへ目を落とした少年は、そこに記された二週間の間の出来事をざっと自分の頭の中に詰め込んで行く。

 少年が持つ巨大な本は、伝説武具ジョブシリーズと呼ばれる自我を持つ伝説の武具の1つでビショップと呼ばれている。本という形状からビショップは情報を扱うことを得意としている。その能力はガイアス全土に及び、様々な場所で起るあらゆる出来事が同時進行リアルタイムでビショップに記されていく。ビショップのこの能力のお蔭で少年は自分が眠っていた二週間の出来事を大まかに把握することが出来た。


「……なるほど……理解した……今回は僕を使った閑話回ってことだね……」


 突然、訳のわからないことを言い出す少年。


『……マスター、それはあまりにもな発言です、気付いても言わないのがお約束かと……』


 こちらも何を言っているのかはわからないが、訳のわからないことを言い出した少年をなだめる巨大な本。兎に角少年は自分が眠っていた二週間の間に起きた出来事を巨大な本によって大まかに理解したようだった。


「……ああ、そうだね、あまりにも前回の引きから不自然で強引な場面転換だったから思わず本音が……」


 まだ寝ぼけているのか、よくわからないことを口にする少年。


「……ああ、うん、ごめん……これからは気を付けるよ……」


 何故かはわからないが少年は心にも思っていない様子で誰かに謝罪した。


「……所でここしばらく他の伝説武具ジョブシリーズたちは沈黙を貫いているようだけど、ビショップは彼らのように沈黙しなくても大丈夫なの?」


 ビショップの能力は他の伝説武具ジョブシリーズの動向も追うことができる。記された他の伝説武具ジョブシリーズの動向に目を通した少年は、ビショップに同じように沈黙しなくて良いのかと尋ねた。


『ああ……ええ、この現象に深い意味はありません、言うなれば彼の者が不振スランプだとか筆が進まないとか言い訳して怠けているだけで……それに私が付き合う義理はありません……』


 ビショップは何を言っているのか。そして彼の者が何者なのかは定かではない。どこから仕入れたのかもわからない不確かな情報を下に自分以外の伝説武具ジョブシリーズが沈黙している理由を勝手に考察したビショップはそれを少年へと伝えた。


「……正直とやかく言う気は毛頭ないけれど、一応言っておくね……ビショップも……それにくらいにしておいたほうがいいんじゃないの?」


 心にも思っていないことを一応と前置きし何かに気遣う様子を見せた少年は、ビショップの発言を注意した。


『これは失礼……いささか昨今の扱いの悪さに色々と思う所がありまして本音が、以後気お付けます』


 何かに対して憤りを感じていると本音を漏らしたビショップは心にもない謝罪をする。


「……さて、それで本題だけれども……この世界にも神、女神が存在したんだね」


 筆舌に尽くしがたい空気を切り替えるように少年は、明らかに無茶で不自然な方向転換を行い、無駄話を本題へ切り替えた。


『……ええ、フリーデは世界を創造する女神としてこの世界で信仰の対象になっています』


 一瞬間があったものの、無茶で不自然な方向転換し無理矢理無駄話を本題へと切り替えた少年に合わせるビショップ。


「……ただ、信仰されていると言っても、それは一部の者たちの間だけ……大半の人々は彼女のことを物語の登場人物や架空の登場人物のように認識しています……」


 ガイアスを創造したとされる女神フリーデ。涙を流すにいたるまでの理由に関係なく、彼女が涙を流す時、世界は誕生する。涙を流した数だけ世界を生み出し続けることから世界の母と彼女を信仰する者たちからは呼ばれている。しかしその知名度は信仰対象としてというよりも、おとぎ話や物語に出てくる現象や架空の登場人物としての方が有名であると説明を付け加えるビショップ。


「……」


 ビショップに記載された女神に関する情報を眺めながらビショップの音声説明に頷く少年。


「……なるほど……これも運命……因果ってやつなのかもね」


 ページに記された情報と共に記載されている女神の写実リアル的な肖像画を見た少年は何か理解したという表情を浮かべた。


『……どうかしましたか?』


 少年の表情や含みを持った発言が気になったビショップはその真意を尋ねた。


「……ううん、ただ僕がいた世界に似た顔をした知り合いがいるだけ……いたって言った方がいいのかな……」


 ビショップの問にこれまた何か含みのある言葉で返す少年は、何処か寂しそうな視線を肖像画へ向けた。その瞬間、少年の脳裏には、誰もが幸せを抱いてしまうような優しい微笑みを浮かべる女性の姿が過った。


「……」


 この少年、ユウトは、ガイアスの住人ではない。ガイアスとは違う別の世界からやって来た異邦人、所謂、転生者という存在であった。だがユウトは普通の転生者とは少し違う。本来転生者とは死んだ者が別の世界へ転生することを示す。しかしこのユウトという少年はその法則外にいる。端的に言えば本来いた世界でユウトは死んでいないのにもかかわらずこのガイアスという世界に転生してきたのである。更に言えば制限があり自由にとはいかないまでもユウトはガイアスと本来の世界を交互に行き来することが出来るのだ。ただしそれは魂だけであり、それぞれの世界に存在する魂の抜けたユウトの肉体は二週間の間、仮死状態で眠り続けることになる。ユウトが二週間眠り続けていたのはこれが理由である。


『……なるほど、マスターの世界のお知り合いに似ておられるのですね』


 ユウトが少し変わった転生者であることを知るビショップは、ユウトの知り合いについてこれ以上深く追及はしない。それがマスターと良い関係を築いてきた秘訣だと理解しているビショップは、寂しそうに女神の肖像画を見つめるユウトのことが気になりつつもその想いを呑み込んだ。


「……さてさて、続いては魔王か……これまたこの世界にも存在するんだね」


 気を取り直したように自動でめくられたページへ目を落とすユウト。そこには人族側の魔王についてと題された情報が記載されていた。


『……はい、前回の出現は今から丁度千年前……魔王についての情報は今のガイアスには殆ど残っておらず出現理由や条件はわかっていません、その為、女神と同様に魔王も人々の間ではおとぎ話や想像上の存在としての方がガイアスでは広く認識されています……ただしこれはあくまで人族側の情報、魔族側にはより詳細の情報、その出現理由や条件が詳しくあります……次のページをご覧ください』


 そう言いながら次のページへユウトを誘導するビショップ。


「……魔王とは莫大な負の感情を糧として誕生する魔族を統べる者にして世界を終焉へと導く者……まあ、僕が想像していた魔王像とそう大差ないね……」


 魔族側の魔王についてと題されたページの内容に目を通したユウトは、自分がもつ知識と大差ない内容だと感想を口にする。


「ん? ……『魔王の種子』……これはなんだろう?」


 魔王に関して記された内容を眺める中で、1つだけユウトにはわからない言葉が出てきた。


『……『魔王の種子』とは魔王を生み出すための種……植え付けられた者は種族に関わらず魔王へ至る権利を得ます……植物の種が養分を得て花を咲かせるように、『魔王の種子』は負の感情を養分にして宿主を魔王という存在へ変化させるのです……ただし植え付けられた者自身に魔王としての素質がなければ、魔王に至らなかった化物と化し大量に負の感情を蓄えた『魔王の種子』によって喰い殺されることになります』


 ここぞとばかりにユウトの疑問に対し懇切丁寧に『魔王の種子』がなんであるかについて饒舌に答えるビショップ。


「ふーん……ならもし僕がその『魔王の種子』を植え付けられたら魔王になることは可能?」


 ビショップの説明を聞いたユウトは、自分が魔王になれるのかと質問を続ける。


『……その素質は……十分あると私は思います……』


 魔王の素質をユウトは十分に待ち合わせているとそう断言するビショップ。


『……ですがマスターは魔王にはなれません……先程、素質がなければと説明しました……しかし魔王になる為には、もう1つ……運命……縁が必要なのです』


「……運命……縁……」


 ビショップが開く魔王に関しての情報が記載されたページを自分でめくるユウト。


「……お兄ちゃん」


 次のページに目を落とした瞬間、ユウトらしくない言葉がその口から漏れ出た。


「……いや……違うな……なるほど、そういうことか……」


 めくったページの内容を眺め、一瞬動揺した様子を見せたユウトだったが直ぐに動揺などしていなかったというように冷静な表情で自分が魔王に至れない理由を理解し納得した。


「……これは確かに運命……縁ってやつだね……僕じゃ彼女の黒い王子様になることは出来ない」


 そこには女神の時と同様、魔王についての内容と共に魔王へと至った者の写実的リアルな肖像画も一緒に記載されていた。その肖像画を眺めながらユウトはビショップを閉じた。


『……もう、よろしいのですか?』


 まだ魔王についての大事な情報が残っているというのに、それに目を通すことなく自分を閉じたユウトへそう尋ねるビショップ。


「……うん、これ以上知りすぎたら面白くない……」


 ユウトはそう言うと腰掛けていたベッドから立ち上がる。


「……それにここで知りすぎたら、色々と引きつけてから終わりたい誰かさんが困るんじゃないかな……」


 誰かさんとは誰なのか、何を言っているのかはわからないが、ユウトはそう言いながら悪戯な笑みを浮かべた。


『それではマスター、これからどうしますか?』


 ビショップはこれからについて身支度を始めたユウトに尋ねた。


「うーん、とりあえず魔王の顔でも拝みにいこうかな」


 まるで知り合いの顔でも見に行くようなノリで魔王へ会いに行くと決めるユウト。


『……わかりました』


 魔王へ会いにいくという普通ならばありえないユウトの発言に一切躊躇することなく従うビシッョプ。それはユウトへの絶対的な信頼と自信があるからだろう。


「……流石双子……」


 身支度を整えながらそう小さく呟いたユウトの脳裏に、全身黒ずくめながら唯一顔だけは白い仮面を被る人物の姿が過る。


「……仮面の下……本当にお兄ちゃんにそっくりだったんだね」


 そう呟いたユウトは自分が寝ていた部屋から外へ出て行く。その表情は何処か切なくも懐かしさを含んでいた。





 ガイアスの世界


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