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王の帰還、少女の帰郷

 ガイアスの世界


 今回ありません



 王の帰還、少女の帰郷




『闇』に支配され剣や魔法が意味を成さなくなってしまった世界ガイアス




 1年の大半が雪と氷に包まれた極寒の大陸フルード。そんな大陸にある国々の中、ガイアスで1、2と呼ばれる大国サイデリー王国に1人の少女が帰ってきた。

 少女の帰国はその日のうちに国の内外へと広まり、その中でもサイデリー王国では飲めや踊れやのお祭り騒ぎに発展していった。

 何故少女が故郷であるサイデリーに帰ってきただけで、国中の人々がお祭り騒ぎになるのか。それは彼女がこのサイデリー王国の王であるからだ。

 一般的に良き王が統治する国であるならば、人々は王の帰還を歓迎するだろう。しかしサイデリー王国において王へと向けられる歓迎の意味合いは異なってくる。

 サイデリー王国に住むある老人は帰国した少女、王を孫のように思っている。サイデリー王国で宿屋を営んでいる店主は娘、パン屋の女性は親戚の子、町に住む子供たちは近所のお姉さんなど、この国で生きる殆どの人々は本来ならば一国の王という存在に対して抱くことの無いような印象を彼女に持っているのだ。

 サイデリー王国の人々が王に対して、なぜそこまで身近な印象を抱くのか。それは建国以来、王族という垣根なく人々と接し築きあげてきた絆からくるものだからだ。

 そんな王の帰還は、太陽が空から消え常に夜のような空が続く状況や断続的に発生する災害、魔物の凶暴化に加え、魔族の襲撃など暗い話題が多く、気分が沈んでいたサイデリー王国の人々の心に希望を灯すような明るい話題にもなったのである。




 — 氷の宮殿 王の間 —




「……んっ……」


 サイデリー王国の象徴である氷の宮殿にある王の間にポツンと置かれた質素な玉座。そこへ腰を下ろすブリザラの表情に王としての威厳は無く、そこには眠そうな表情を浮かべた1人の少女がいた。


「……昨晩はあまり寝られなかったようですね……」


 眠たい表情を浮かべるただ少女であるブリザラへ呆れた様子で話しかけたのは、王のお付兼護衛、そして親友でもあるメイド、ピーランだった。


「うん、昨日は遅くまでいろんな人たちへ帰ってきたことを報告してまわっていたからね……ファァァ」


 ピーランの問に頷いたブリザラは寝不足である理由を語りながら何とも間の抜けた大きな欠伸をした。


「……ここは王の間です、だらしない表情は慎んでください王」


「……その言い方、冷たいなぁ……」


 公の場である王の間では親友という立場は形を潜め、己の仕事に徹するピーランの言葉に不満を漏らすブリザラ。


「だって直ぐ皆に会いたかったんだからしかたないじゃない……」


 気を抜けばすぐにでも閉じてしまいそうな目をこすりながらブリザラは夜更かしの理由を口にした。


「……船旅の疲れもとれないまま直ぐに国中の人々に挨拶して回っていたらこうなることはわかっていたことでしょう、自業自得です」


 帰国後、その足で国中の人々に帰ってきたことを報告して回っていたというブリザラが氷の宮殿に帰ってきたのは今から約3時間前。そんな日程を強行したブリザラが悪いと冷たく言い放つピーラン。


「でもそれじゃ私について来てくれたピーランは何で眠たくないの?」


 当然、お付兼護衛役であるピーランはブリザラのその強行日程に付き合わされていた。しかし同じ日程を共にこなしたというのにピーランの表情には眠さは愚か疲れすら見られない。そんなピーランの凛とした表情を眺めながら首を傾げるブリザラ。


「忍の頃に訓練で鍛えて眠気を操作コントロールできるようになりましたから……五徹は余裕です」


 小さな島国ヒトクイにだけ存在する特別な戦闘職、忍。諜報活動や暗殺を得意とする忍として様々な訓練を受けてきたピーランは、その厳しい訓練の中で眠気を操作コントロールする技を会得していることをブリザラに説明すると五日は眠らなくても余裕であるちょっとした自慢を付け加えた。


「……」


 その説明を聞いたブリザラの顔は少し引きつっていた。


「化物を見るような顔はやめてください……任務では必要な能力なんですよ……はぁ……それより皆さんがご到着したようです、王として王らしくしてください」


 ピーランがそう言うのと同時に、王の間の扉が開かれる。開く扉を見つめながらブリザラは背筋を伸ばした。


「「「サイデリー王国へのご帰還、心よりお待ちしておりました」」」


 開いた扉から姿を現したのは男女三人の盾士。玉座に座るブリザラの前に立った三人の盾士は、膝を付くと頭を下げてから声を揃えて王の帰還を歓迎した。


「ガリデウス、グラン、ティディ……ただいま帰ってまいりました」


 数カ月ぶりに見る彼らの顔を懐かしみながら、サイデリーへ帰ってきたことを王として報告するブリザラ。


「……」「……」「……」「……」


 直後流れる長い沈黙。


「ぷっ! ダメだダメだ、俺にはこういうのは合わん……堅い挨拶はここまでにしようブリザラ様」


 王の間に漂っていた堅い空気に耐えられずいの一番、その空気を壊しにかかったのは、サイデリー王国の国専属職、盾士の中でも四人しか存在しない最上級盾士の一人、グランだった。


「そうね、久々にブリザラ様と会えたんだもの、堅苦しいのは止めましょう」


 王の間に漂う堅い空気を壊すグランに便乗したのは、同じく最上級盾士の一人ティディ。


「おい待て、まだ顔を合わせてから一分も経っていないぞ! 一応ここは王の間、お互い己の立場をちゃんと考えてだな……」


 耐えられず堅い空気を壊し普段通りに態度をとるグランとティディを注意したのは、同じく最上級盾士であり、ブリザラが国を離れていた間、王の代理を務めていたガリデウス。


「ふふふ、三人とも変わってなくてよかった」


 普段通りの三人の姿を眺めながら笑みを漏らし何処か安堵するブリザラ。


 和んだ空気の中、ブリザラはガリデウスとグランに自分がいない間のサイデリーのことを、そしてティディにはムハード大陸にあるムハード国の復興作業の状況などを聞いた。


「……ところで、ランギューニュさんは?」


 最上級盾士の報告という名の雑談が一段落した所を見計らって、ブリザラは気になっていたことを三人に尋ねた。最上級盾士はサイデリー王国の東西南北を守る守護者でもある。よって最上級盾士の人数は四人存在する。しかし今この場には北地区を守護するガリデウス、東地区を守護するグラン、西地区を守護するティディの三人しかおらず、最後の1人が何時まで経ってもやってこないからだ。


「「「……ッ!」」」


 ブリザラの問に和やかだった三人の空気が僅かに張りつめた。


「……ランギューニュさんは……どうしたの?」


 明らかに動揺する三人を見て何かが起っていることを悟ったブリザラは、言い知れぬ不安を抱きながら最後の1人、南地区を守護する最上級盾士についてもう一度尋ねてみた。


「そ、それは……」


「ガリデウス、その事については俺から話そう」


 言いよどむガリデウスを制し、自分が話すとブリザラに視線を向けるグラン。


「……あいつは今、自らの意思で地下の監獄にいます」


「ッ! ど、どうしてですかッ!」


 目の前にいる最上級盾士たちと比べランギューニュは少々不真面目な部分がある。その部分だけみれば、監獄に入れられてもと思う所が無す訳ではない。しかしそれは表の姿、仮の姿であり、ランギューニュが本当はとても真面目な人物であることをブリザラは知っている。そして当然それは同僚であるこの場にいる者達も理解している。だからこそグランの言葉が信じられないブリザラは思わず声を張り上げた。


「……自ら……自らってどういうことですか?」


 普段は感情豊かな普通の少女であるブリザラも一応は一国の王である。グランの言葉で一度は感情を昂らせたが、冷静に心を落ち着けたブリザラは、グランの言葉に違和感があること気付き、その違和感について尋ねてみた。


「……ブリザラ様もあいつの素性は理解しているでしょう」


 多く語らずともブリザラなら理解できるふんだグランは短くそう答えた。


「……『複合型高遺伝子ハイブリッドブラッド』……ランギューニュさんに流れる魔族の血……」


 グランの信頼に答えるように、ランギューニュに今起っていることを瞬時に理解していくブリザラ。


「まさか、ランギューニュさんに流れる魔族の血が……」


 自分の想像が現実になることをおそれ、そこまで言葉にして口を閉じるブリザラ。


「ブリザラ様が想像したようなことにならないように、ランギューニュは自らの意思で監獄に入り、己に流れる魔族の血を抑えることを選びました」


 太陽が空から消えて以降、出現するようになった魔族は日を追うごとにその力を増している。それは人族と魔族の混血、『複合型高遺伝子ハイブリッドブラッド』を持つランギューニュも例外では無く、魔族の日を追うごとにその色を濃くしていった。このままでは完全な魔族になってしまうと危機感を抱いたランギューニュは、もし自分が魔族になってしまっても周囲に被害が出ないよう氷の宮殿の地下にある監獄へ自ら入ることを望んだのだとグランは語った。


「……魔族の血が濃くなったことでランギューニュは……太陽が空から消えそれに代わるように出現した赤い月や……それと時を同じくして各地で頻発するようになった災害……魔物の凶暴化、そして魔族の出現……今世界で起っている異常現象が全て繋がっていていることに気付いたそうです……そしてその全てが収束した先には、ある存在がいると……あいつは言っていました」


 そう言いながらグランは視線を落とす。


「……ある存在……」


 ある存在、そう意識した瞬間、そう口にした瞬間、ガウルド城の客間で感じたものと同じ痛みがブリザラの頭に走った。


「……ここまで言えばあいつが何を言いたいかわかりますね……世界各地で起っている異常を引き起こしているある存在とは……魔を統べる者……」


「……ま、魔王」


 明確にその言葉を口にした瞬間、頭に走る痛みが増すブリザラ。


「……大丈夫かブリザラ」


 目の前にいる三人を心配させないよう毅然な態度をとるブリザラ。だが僅かな変化を見逃さなかったピーランは、グランたちに気付かれないよう声を潜めてブリザラに話しかけた。


「……」


 心配して声をかけてきたピーランへ言葉にはせず頷くことで答えるブリザラ。


「……魔王の出現……もしそれが本当なら、対策をとる必要があります……グランさんは魔王の居場所を知っていますか?」


 その言葉を意識すればするほど増していく原因不明の頭痛。その痛みを悟られないよう平静を装いながらブリザラは魔王の所在を知っているかとグランに尋ねた。


「はい、ランギューニュの話によれば、魔王は……ムウラガ大陸にいると」


 グランが魔王はムウラガ大陸にいるとブリザラへ口にした瞬間、閉じていた王の間の扉が勢いよく開かれた。


「それは本当か……」


 勢い良く開かれた扉。そこには険しい表情を浮かべた水の上位精霊であるウルディネと、彼女と契約を交わしている召喚士テイチの姿があった。





 ガイアスの世界


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