光を失った王の航海日誌
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光を失った王の航海日誌
ヒトクイを離れ数日。故郷であるサイデリー王国へ帰る私たちの航海は、文字通り暗雲渦巻く暗闇の中を進むことになりました。
あの日以来、昇ることの無い太陽の影響で常に夜のような状態が続き、更には連日続く嵐で海は大荒れとなり本来ならサイデリーへ船で向かうことなど出来る状況にはありませんでした。
それでも強行した航海は、地獄のようでした。降りつける激しい雨。荒れる海。上下左右あらゆる方向に揺れる船内。まだ本調子とは言えない私には辛いものとなりました。そんな状態の私を横目に平然としているピーランへ、どうしてこんな激しい揺れを受けても気分が悪くならないのか尋ねると、幼い頃に行った修行の影響だと言われ、この苦しみは一日やそこらでどうにかできるものではないのだと理解しました。
でもそんな状況でも私が耐えられたのは、私の我儘を聞いてくれて船を用意してくれたヒトクイの方々、そして危険を承知でサイデリーまでの航海を強行し私たちをサイデリーまで無事に送り届けてくれた船長さんや船員さんたちの姿のお蔭でした。
こんな危険な航海は初めてだと笑い飛ばしながら温かい笑顔を絶やすことなく気分の悪い私を励ましてくれた船長さんや船員の方々には本当に頭が上がらず感謝しかありません。
船酔いに苦しむ航海の中、私は奇跡をこの目で幾つも目撃することになりました。
本来、船でヒトクイからサイデリーへ向かうにはどんなに速い高速船であっても約二日かかると言われています。私たちが乗船した船は高速船では無く安全を第一に考えた頑丈で大きな船であり通常時であればサイデリーまでにかかる日数は四日と言われていました。
しかし太陽が昇らず常に夜のような状態に加え、連日の嵐の影響でサイデリーへ到着できるのは上手くいって六日、下手をすれば一週間以上、更には昇らなくなった太陽に代わり姿を現した赤い月の影響で、凶暴化した魔物と遭遇すればもう到着日が何時になるかわからないという状況でした。
ですが到着日も定まらない状況にありながら私たちの乗る船は、三日という大型船としては奇跡とも思える期間でサイデリーに到着することができたのです。
ここまで早くサイデリーに到着することが出来たのは勿論、船長さんの的確な指示と船員の方々の統制のとれた働きがあったからだと思います。ですがそれとは別に、海で一度も魔物に遭遇しなかったこと、そして不思議なことに嵐で大きな波が何度押し寄せてきても一切呑まれることなく航海を続けられたという奇跡が重なったことによる影響が大きいと私は感じました。
船長さんも危険な航海の中、波に呑まれることも無く魔物に一度も遭遇しなかったのは奇跡としか言いようがないと、もしかしてあなたは海の精霊から加護を授かっているのかもしれないと仰っていました。
海の精霊による加護。船長さんが仰っていたその言葉に私は心当たりがありました。それは正確に言えば、海では無く水。
私たちの乗船していた船に起った数々の奇跡の正体、押し寄せる波や襲おうとする魔物から私たちを守ってくれていたのは、液体でれば海水であっても自在に操ることが出来る水の上位精霊ウルディネさんだったのです。
私たちが乗船していた船に何故ウルディネさんもいたのか。それは危険な航海を安全なものとするためにピーランの策でした。サイデリーへの定期連絡の中で、ピーランがウルディネさんへ来てもらうようお願いしてくれたからでした。
サイデリーの港に到着後、私は直ぐに彼女の姿を探しました。黒い外套を被り気配を隠していた彼女を見つけた私は、港を後にしようとする彼女へ声をかけました。
でも私の声に振り向いたウルディネさんの表情は、私が想像していたものとは全く違いました。ウルディネさんは、私を厳しい視線で睨みつけていました。その視線には私への殺意が籠っており、それは護衛をしてくれているピーランも思わず反応してしまう程でした。
何故ウルディネさんが私へ殺意を向けるのか。この時の私にはわかりませんでした。その理由、彼女の真意を知ったのは私がサイデリーにある氷の宮殿へと戻った翌日、王の間で皆が集まった時。でもウルディネさんの悲痛な叫びに私は答えることができませんでした。
その答えを私は持ち合わせていなかったのです。
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