さようなら、そして誕生おめでとう
ガイアスの世界
今回ありません
— 場所不明 —
暗闇が続く空間の中、ポツリと漆黒に染まった卵が1つ。すると突如その卵に亀裂が入る。亀裂の入った隙間からは鮮血のように鮮やかな2つの瞳が覗く。
《ほぅ……魔族如きにしては中々に良いではないか……》
その2つの瞳に映るのは仄暗い何処かの通路とそこに漂う魔族の禍々しい気配。
《なぁそう思うだろう小僧よ》
魔族の禍々しい気配を良いと評した亀裂の入った漆黒の卵は、同意を求めるように横に立つ男へそう語りかける。
「……」
だが男は何も語らない。ただ仄暗い通路に漂う禍々しい気配を凝視するだけだった。
《魅入られた……お前の中にあるソレが、アレを喰らいたくて喰らいたくてたまらんのだろうな》
横に立つ男が今何を考えているのかその思考が手に取るように理解できる亀裂の入った漆黒の卵は、男その思考を言語化した。
《理解せよ小僧……これは道化だ……お前の欲望を刺激し、お前の中にあるソレを利用しようとする道化師の筋書きだ……》
《心せよ小僧……お前がソレを喰えばこの世界の理は変わりやがて壊れ、そして世界は終わる……》
《聞けよ小僧……ソレになったお前の前には、混沌が渦巻く『闇』の世界が広がる……世界の理を変え壊したお前をソレになったお前を誰もが憎み嫌いうだろう……心許せる者などいなくなり……お前を信じ続けた者たちはソレになったお前の首を狩ろうと決死の覚悟をするだろう……その者たちをソレになったお前は1人また1人嬲り殺すことになる……そしてやがてソレになったお前は1人となる……その先に待つのは果てしない無……全てを焼き尽くし蹂躙を終え、お前を恨み嫌う者すらいなくなった無の世界がやってくる……だがもしかしたら……ソレになったお前の首に刃を突き立てる者が現れるかもしれない、ソレになったお前を討ち滅ぼす者が現れるかもしれない……だがソレになったお前の先に待つのは死ではない……ソレになったお前に待ち受けるのは果てしない無だ……どちらに転ぼうとお前に待つのは果ての無い無だけ……それでもお前がソレの力を求めるのならば我はお前に従おう……世界を破壊する者の力として我はこの首をソレになったお前へ差しだそう……》
《だが勘違いするなよ小僧……我がお前に向けた言霊には慈悲も愛着も無い、警告でもなければ忠告でもない……お前の運命をただ言語化し言霊へと変換しただけだ…………》
《さあ選べよ小僧……ただの人間として朽ち果てるか、世界を破壊する魔王となるか……選択せよ》
そう言霊を言い残し、漆黒の卵はまるで瞼をとじるように亀裂を閉じた。
剣と魔法……『闇』に包まれていく世界ガイアス
「嗚呼……嗚呼ぁぁぁぁスビアァァァァ!」
突然特別監獄全域に響き渡る悲痛と絶望に染まった悲鳴。
「……なっ……この声は……」
耳にしただけで胸を締め付けられるような想いにかられる、そんな悲痛で絶望な悲鳴を聞いたソフィアの表情が苦痛に歪む。
「あの人……の」
特別監獄全域に響く程の悲鳴がレーニのものだとわかったソフィアは、意識を失ったスプリングを支えながら特別監獄の最奥へと視線を向けた。
「……また奥から……一体奥で何が起っているの?」
持ち主やその性質を変えながらもほぼとぎれることなく特別監獄全域に流れ続けた『闇』。その『闇』の1つに導かれるように特別監獄の奥へと進んで行ったレーニとガイルズ。そしてその2人と同様にその『闇』に導かれ特別監獄の最奥へと進み歩くアキ。皆が呑み込まれていく特別監獄の最奥から発せられる『闇』。だが皆が特別監獄の最奥に存在する『闇』に導かれていく中で、ソフィアだけはその感覚が理解できず悲鳴の続く通路の先をただ見つめることしか出来なかった。
「ひッ!」
長く響き渡っていたレーニの悲鳴が途絶えた瞬間、特別監獄の最奥から漂っていた世界を恨み呪い破壊しようとする気配が肥大化していくのを感じたソフィアの背中に今までにない恐怖が走り抜けていく。
「くぅ……」
今まで特別監獄の最奥から漂い流れ込んでくる『闇』の影響に辛うじてソフィアが耐えられたのは、彼女の別人格となったもう一人の自分であるフユカが持つ『闇』の力のお蔭であった。しかし突如肥大化した特別監獄最奥から流れ出る『闇』はフユカの『闇』を完全に凌駕しその影響を受けてしまったソフィアの精神が強い恐怖に支配されていく。
「あぐぅ……」
精神を強い恐怖で支配されていくソフィアは、立っていることも出来ず支えていたスプリングと共にその場に倒れこんだ。
「……くぅ……体が……動かない」
強い恐怖で動かなくなっていく体を無理矢理起こそうとするソフィア。だがまるで毒のように体を支配していく強い恐怖が起き上がらせることを許さない。
「……鎧の人……」
元の性質は変わらないが先程のものとは比べものにならないほどに肥大化した『闇』。自分と同じようにその『闇』の影響を受けているはずのアキにソフィアは視線を向けた。
「……なんで?」
だがアキの歩みは止まっていなかった。同じく影響を受けているはずなのに進み続けるアキのその姿に疑問を抱くソフィア。
「……いいの……鎧の人……そっちに行っちゃったら……ブリザラが……かなし……」
これ以上先へ進ませれば必ず取り返しのつかないことになる、ブリザラが悲しむと思ったソフィアは、どうにかしてその歩みと止めようと薄れてゆく意識の中、特別監獄の最奥へと進んで行くアキの背中へ向けて叫ぶ。しかしその想いは叫びにはならなかった。それどころかまともな声すら出すことが出来ずソフィアの声はアキへ届くことは無かった。
全ての光源が光を失い暗闇が支配した特別監獄の通路。その暗闇が支配した通路をたどたどしい足取りで進み続けるアキ。
「……」
その先には絶望しかない。破滅しかない。それを理解していても今のアキに暗闇を進む足を止める術はない。それが自分の想いからなのか、それとも内包する『魔王の種子』によるものなのか意識が混濁しているアキにはもう判断がつかない。
ただ僅かに残る思考、理性は自分を止めようとした少女の顔だけを思い出させる。
「オウ……ブリ……」
もう思い出すことも出来ない少女の名。ただその記憶の欠片が少女の顔だけがアキの人間性を保たせていた。
「……やっとお会いできましたね」
そんなアキの前に、暗闇から生まれ出るように姿を現した笑男はニコリと不気味に微笑む。
「アキさん……私は、私はこの世界が悲劇な喜劇に包まれるこの日を待ち望んでいました!」
舞台に立つ道化師よろしく、その大げさな身振り手振りで笑男は意識の混濁でまともな思考が出来ないアキへその想いをぶちまける。
「……さあ、あなたはこれから主人公だ……この私に悲劇な喜劇を見せてくださいッ!」
笑男はそう叫ぶとアキの腹部を右腕で貫く。
「ゴフゥ……」
腹部を貫かれ吐血するアキ。しかし流れ出る血の色は何故か暗く濁っている。
「はぁ……さよならアキさん……そして誕生祝日魔王……」
痛みは愚か腹部を貫かれたことすら理解できていない今のアキに別れを告げると同時に笑男は魔王の誕生を祝う。
この日、魔王の誕生と共に太陽が消失した。光を失ったガイアスには暗闇という名の『闇』が広がって行く。そして暗闇が広がると同時に空には王の玉座を奪うように禍々しい光を放つ赤い月が現れるのだった。
ガイアスの世界
あとがき
どうも山田です。
もうしわけありません、とりあえず今回はここで一区切りということにさせてくださいッ!
いや広げた風呂敷が自分の首を絞める締める……正直何を書いていいんだかわからない状態で毎週パニックです(汗
どうにか立て直そうとしましたが、立て直そうとすればするほどドツボにはまり、生来の怠惰な所も合わさってこの結果です。なのでもう物語の状況を変えるしかないと、禁じ手を使い一旦物語を締めることにしました。
そんな訳で来週からは新たな章に突入することになりますので、お暇な方は山田が書く物語にお付き合いくださるとうれしいです。
毎度の事ですが誤字脱字、辻褄が合わない等々は何卒生暖かい目でスルーしていただけるとありがたいです(苦笑
それでは次回のあとがきでお会いしましょう山田二郎でした。
2024年6月21日 某ソウルライクなゲームのDLCをやるかやらないか悩みながら




