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悲劇という喜劇

 ガイアスの世界


 今回はありません


 悲劇という喜劇





 再会を果たし不器用で短いながらも秘めていた想いを吐露しわだかまり消え素直になれた2人。これで場所が綺麗な夜景の見える丘などであれば、恋愛物語として及第点の終幕フィナーレを飾れたかもしれない。しかし残念ながら抱き合う彼と彼女が居る場所は綺麗な夜景が見られる丘などでは無く、恋愛物語とは無縁の場所。未だ不穏な気配が漂う特別監獄である。


「はわっわっわっわぁぁぁぁぁぁ」


 だが場所が何処であろうと離れ離れであった2人が再会し互いに秘めていた想いを吐露するという状況は、恋に恋する年頃である少女にとって興味深く刺激のあるもの。抱き合う2人の姿に少女は思わず間の抜けた声を上げながら両手で顔を覆い隠した。


(は、ひゃああああ)

 

 しかし溢れだす好奇心は抑えられず顔を覆い隠した両手の指の隙間から視線を覗かせ2人を見つめる少女。


(……も、もしかして……接吻キスするのッ!)


 顔を両手で覆った指の隙間から2人の姿を覗く少女の想像力は無限に飛躍していく。


「……」


 抱き合う2人のその先を想像し興奮する少女は、いつかはと彼女の姿を自分に重ねる。本の中にある物語でしか知らない感情を胸に少女の視線は自然と渦中の2人から僅かに逸れていきこの場にいる青年の下へと向かていた。


「……」


 1人で勝手に盛り上がっている少女とは対照的に抱き合う2人に対して興味ないと不機嫌な顔を浮かべる青年。

 幼い頃から汚い大人たちの世界へ足を突っ込んでいた青年にとって男女が抱き合っている光景など見慣れたものであり、大人の世界で生き残る為、時には目の前に広がる光景以上のことを青年は経験してきた。


「……んッ?……」


 たかが男と女が抱き合っているだけ。青年にとってその光景はそれだけのはずだった。


(んんんんんんッ!)


 しかし青年は気付いてしまう。恥ずかしいものを見てしまい湧き出す思春期の感情が制御できなくなった少年のように青年の顔は赤く染まっていく。

 彼と彼女が抱き合っている姿は、青年にとって非常に居心地の悪いものであった。なぜなら抱き合う2人の片割れである彼の顔は僅かな違いがあるにせよ双子のように青年と似ており、そしてもう一方の彼女の顔もまた、僅かな違いはあるにせよ双子のように少女の顔と似ているからである。


「ぎああああああああああッ!」

 

 気付き意識したが最後、どう足掻こうとも抱き合う彼と彼女の姿を自分と少女に置き換えてしまう青年は押し寄せる羞恥心に耐えられず奇声を発した。


 「お、お前ら、い……いい加減、離れやがれッ!」


 そして青年は、無垢少年ピュアボーイのように顔を真っ赤にしながら抱き合う彼と彼女を怒鳴りつけたのだ。


「ッ!」


 羞恥心に耐えられず抱き合う2人を怒鳴りつけた半狂乱の青年に対して空気を読めと無言の圧をかける少女。


「こ、このッ! 何だその目はッ! チラチラとあいつらのほう見やがてこの色ボケオウサマがッ!」


「な、何を言っているんですかッ! わ、私はチラチラ見て何か……」


「……」「……」


 素直になれずくだらないことで言い争いを始める青年と少女。そんな騒がしい外野の声など聞こえないとでもいうように、彼と彼女は自分たちの世界を作りあげるのだった。


 



 そして謎や伏線を回収すること無く物語はご都合主義に彩られた大団円ハッピーエンドへ……ええ、実に大風呂敷を広げ過ぎて収拾のつかなくなってしまった馬鹿な作者が考えそうな安直で無責任な酷い終わり方です。 ……ですがそんな終わり方を私は認めません……この物語にご都合主義は似合わない、この物語に大団円ハッピーエンドは似合わない。ほろ苦くても駄目、どっちつかずでもいけない……この物語は全ての登場人物が苦しんで死ぬ悲劇バッドエンドでありそれを面白がることができる喜劇ファルスでなければならない。

 

 なぜなら……この私が、それを望んでいるからです。


 これは傲慢でも無ければ自己中心的な考えでもありません。私がどんな存在であるのか、それを理解しているあなたたちならば、この意味を理解できるはずです。


 ……さて、それではこの私が望む滑稽でくだらない、救いや希望の無い悲劇バッドエンド喜劇ファルスへご招待いたしましょう。


 

 この茶番の語り手は、悲劇バッドエンド喜劇ファルスをこよなく愛する笑男スマイリーマンでした。








 剣と魔法の力渦巻く……『闇』に包まれていく世界ガイアス





 光が失われ『闇』に染まった世界。そこに1人佇む人影。世界を染め上げた『闇』と同化するような禍々しい漆黒の全身防具フルアーマーを纏う人影がドラゴンのような咆哮を一度あげると、既に『闇』へと堕ちた世界を塗りつぶすように漆黒の炎が円を広げるようにして広がっていく。そして人影が放った全てを拒絶する漆黒の炎はやがて、世界を焼き尽くし消し炭にしていった。

 全てを焼き尽くした人影はその光景を前に笑う。頬に伝う涙を拭うこともせず、世界を壊す破壊者となった魔王は泣きながら笑っていた。そうそれはまるで悲劇バッドエンド喜劇ファルスのように。

 

「ッ!」


 それは一瞬、一秒にも満たない時間。しかし以前に何度か同じような経験をしたことがあるスプリングには、それがなんであるのか、何を意味しているのか理解できた。出来てしまった。


「ッ……」


 体全体で感じるソフィアの体温。それはスプリングがそれこそ死ぬような苦行を何度も繰り返しやっと手に入れた未来の証。だがその未来が『闇』に呑み込まれる光景をスプリングは見てしまった。


「……まずい」


「え?」


 不器用で短い言葉ではあったが、素直な想いをぶつけたことですれ違いやわだかまりが消え、今はただそこにある幸せを噛みしめていたソフィアは、突然弱々しくそう呟いたスプリングの顔を見上げた。


「ッ……」


 そこには幸せからかけ離れた絶望したような表情を浮かべるスプリングの顔があった。


「ッ?」


 一体何が起ったのかわからないソフィアはただ絶望するスプリングの顔を見つめることしか出来ない。


「お、お前ら、い……いい加減、離れやがれッ!」


 傍から見れば他人の前で堂々とイチャつく男女にしか見えないスプリングとソフィアに対し、苛立つアキの怒鳴り声が飛ぶ。


「ッ!」


 抱き合ったまま硬直しているスプリングとソフィアを怒鳴りつけたアキに対してブリザラは無言の圧を向ける。


「……」


 スプリングの視線は自分を睨みつけるアキへと向かう。僅かな違いはあっても双子のように自分と同じ顔をしたアキ。


「……ッ!」


 まるで鏡を見ているようなその顔を見て何かに気付くスプリング。


「だめ……」


 「「「「……ッ!」」」」


 スプリングがアキに向かって何かを言いかけた瞬間、彼らのいる場所の空気が一瞬にして変わる。それは塗り替えられたといってもいい。瞬き1つの時間も与えられない程の一瞬で、その場には笑男スマイリーマンのものでもなければ闇歩者ダークウォーカーのものでもない、絶望を漂わせた禍々しい気配が広がっていった。

 それが何を意味するのか、それが何であるのか、この場にいる彼らには理解できた。


「『絶対悪』の……残滓……」


 この場にいる者たちを代表するように、アキがその名を口にする。


 『絶対悪』。それはこのガイアスという世界が誕生したと同時に稼働を始めたシステム。感情を持つ生物が放つ怒りや憎しみ、恨みや悲しみなどと言った負の感情を吸い上げることで恒久的な安寧を世界にもたらしていたシステムの名である。

 しかし恒久や永遠は存在しない。器に注げる水の量が決まっているように、負の感情を吸い上げていた『絶対悪』にも限界が訪れる。

 『絶対悪』という器から溢れだし漏れ出した負の感情は、混ざり合い溶けあいながらその性質を禍々しく変化させ、再び世界へと流れて行く。それが残滓。『絶対悪』の残滓なのである。

 あらゆる負の感情が混ざり合い誕生した『絶対悪』の残滓は、天災となって時には人災として世界に災いと混乱をもたらす。この場にいるスプリング、アキ、ブリザラ、ソフィアの四人は、その『絶対悪』の残滓を消滅させる使命に選ばれた者たちであった。そしてそれはスプリングを除く3人が所持している伝説武具ジョブシリーズの使命でもある。


「「「「……」」」」


 だが『絶対悪』の残滓を消滅させる使命に選ばれたはずの四人は、何も出来ずただその場で絶句することしかできない。それほどまでに突如として発生した『絶対悪』の残滓は、今まで特別監獄に漂っていた『闇』が霞むほどに規格外であり禍々しく凶悪なものだったのだ。そしてそれはまるで世界を憎み恨み壊すためだけに生まれたような気配でもあった。


「……な、なんだよ……これ」


 特別監獄の最奥へと続く通路を見つめながら顔を引きつらせ呟くアキ。近づくことは愚か一歩前にでることすら本能が拒むほどの嫌悪感と圧迫感。しかしそんな嫌悪感と圧迫感の中、何故かアキは顔を引きつらせたまま一歩また一歩と『絶対悪』の残滓が発生しただろう特別監獄の最奥へ続く通路へと歩み始めていた。


「止めろッ!」


 特別監獄の最奥へ、『絶対悪』の残滓の下へ歩き始めたアキを止めるスプリング。脳裏に浮かぶ光景。そこにいた人影の姿。最初その人影は全てに絶望し負の感情に呑まれた自分の姿だと思い込んでいたスプリング。


「引き返せなくなるぞ!」


 だがそれは違った。禍々しい漆黒の全身防具フルアーマー。内包する危険を孕んだ2つの気配。そして自分を睨むその顔。スプリングが一瞬の時の中で見た絶望に塗りかえられた未来の光景の中、1人佇んでいた人影の正体は、『絶対悪』の残滓の下へ向かおうとするアキの成れの果ての姿だったのだ。


「……」


 まるで魅入られたように『絶対悪』の下へ向かおうとする今のアキの耳に、スプリングの言葉は届かない。


「アキさんッ!」


 魅入られただ進むアキの前に立ちはだかるブリザラ。


「……止まってください、いっちゃいけません!」


 ブリザラは特別監獄の最奥へ向かおうとするアキを体で止めた。


「ふぐぅ……」


 本能による拒絶と嫌悪。『絶対悪』の残滓が発する気配はまるで強烈な打撃のようにブリザラを襲う。視界は歪み内臓全てがひっくりかえるような苦痛はこれ以上進むなという本能からの警告。


「アキ……さん……止まって……ッ!」


 それでもブリザラは止めない。己の本能が発する警告を無視して、全力でアキを押し返そうとブリザラは吐き気に耐えながら歯をくいしばった。


「邪魔だ……どけ」


 そう言いながらアキはブリザラに拳を振り上げた。


「グゥ……うぅぅぅぅ」


 しかしその拳が振り下ろされることはなかった。『絶対悪』の残滓が放つその気配に魅入られながらもアキは僅かに残る理性でその拳を止めたのだ。


「アキさんアキさんアキさん……」


 既に精神も肉体も限界寸前のブリザラ。だがアキのその姿に僅かな希望を見出したブリザラはこれ以上先へ進ませないと力を振り絞った。


「……アキ……さん……」


 しかしそんなブリザラの想いとは裏腹に肉体が限界を迎えた。まるで操り人形の糸が切れたように全身の力が抜けていくブリザラ。弱々しくアキの名を口にしたブリザラの意識はそこで途絶えた。


「……ザラ……」


 目の前で倒れたブリザラには見向きもせずその視線を特別監獄の最奥、『絶対悪』の残滓の下へ向けて進むアキ。だが僅かに残る理性は、自分の為に体を張り続け力尽き倒れてしまった少女の名を呟くのだった。







 ガイアスの世界


 今回はありません

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