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裏切りは奇劇の始まり

ガイアスの世界


 今回はありません

 

 裏切りは奇劇の始まり



 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス



「……そう、今のあなたなら世界を壊すことができます!」


 未熟であった肉体から解き放たれ、完璧な『闇』の眷属、いや完璧な闇歩者ダークウォーカーとなったスビアが呟いた言葉に芝居がかった口調でそう答える笑男スマイリーマン


「……」


 新たな肉体への昂ぶりはあるものの、その昂ぶりを表情に出すことのないスビアは、何もかもが大げさな笑男スマイリーマンを一瞥した後、その視線を目の前の姉レーニへと向けた。


「……駄目……スビア……それだけは……」


 戦うことに特化した肉体から沸き立つその気配は、より禍々しく凶悪。一目みただけでスビアが言っていることが真実だと理解出来てしまったレーニは、怯えたように声を震わせながら呟くことしか出来ない。

 関係が良好な姉弟であれば、歳の離れた弟の成長は姉にとって喜ぶべき変化なのだろう。しかしこの姉弟に至っては違う。スビアの成長はレーニにとって想像もしなかったこと、あってはならないことだった。

 

「何が駄目なんだい姉さん……」


「うぅぅ」


 肉体から放たれる禍々しく凶悪な気配とは裏腹に、レーニへ向けるスビアの視線は、とても穏やかで静かであった。しかしだからこそ、レーニはスビアに恐怖する。そうそれはまるで嵐の前の静けさ。世界を壊す前の最後の一時のように思えたからだ。


「僕……俺を置き去りにして勝手に夕闇歩者ハーフウォーカーになった姉さんがとやかく言える立場ではないことは理解している?」


 その口調は穏やかで静かであっても、やはり棘がある。自分を置き去りにして勝手に前へと進み、本来あるべき存在とは違う存在となったレーニに対するスビアの怒りや恨みがその言葉から滲み出ていた。


「そうですそうです……スビアさんの言う通り……あなたに弟さんを止める資格はありません」


 強い者の背後から文句を言う小悪党のようにスビアの言葉は正しいと肯定し大げさに頷いた笑男スマイリーマンは、スビアを止める資格は無いとレーニに断言した。


「黙れッ! ……お前がスビアをそそのかさなければッ!」


 明らかな挑発に当てられ、完全に冷静さを失い語気を荒げるレーニ。


「おおっと……自分の行いを棚に上げて私が悪いというのですか? ……もとはと言えば、優柔不断で決断出来なかったあなたが撒いた種……それを私に擦り付けようなんて……フフッ……本性をあらわしましたねレーニさん」


「くぅ……黙れ……黙れ……」


 まんまと挑発に乗ってしまったレーニは、更に続く笑男スマイリーマンの挑発に奥歯を噛みしめた。


 「……これが本性だと決断出来ない優柔不断な王だということが知れれば国の人々もさぞ失望するでしょうね……」


「黙れ」


「……そう、黙りなさい! あなたはスビアさんの前に……んげぇ?」


 

「……ッ!」


 黙れというスビアの一言で更に調子に乗りレーニに対し挑発を続けようとしていた笑男スマイリーマンの視界が突然傾いた。


「……黙るのはお前だ……」


 大きな石が堅い地面に落ちたような音が小部屋に響く。


「……ッ!」


 目の前で起った状況に唖然とするレーニ。

 それは一瞬だった。景気よく舌を回しレーニを挑発していた笑男スマイリーマンの体をスビアは左腕から放った『闇』で音も無く消し飛ばしたのだ。


「……俺は姉さんと話しているんだ」


 地面に転がる首。切断されて尚、その名の通り笑い続ける笑男スマイリーマンの頭部に無感情の視線を送りながらスビアは静かに、ただ静かにそう呟く。


「スビア……さん?」


 笑みを浮かべながらも今の状況が理解できず困惑する笑男スマイリーマン


「……力を得た今、もうお前は必要ない……」


「そんなッ! ……あなたは自分を完全な存在へと押し上げたこの私を裏切るというのですか?」


 芝居がかった口調で自分を裏切ったスビアへ語り続ける頭部だけとなった笑男スマイリーマン


「……これからあなたにはやって欲しいことがあったのに……私の願い……いいえ私たちの計画を邪魔した者を……」


「消えろ」


 首だけになって尚、ペラペラと喋り続ける笑男スマイリーマンの頭部を容赦なく右足で踏みつぶすスビア。その瞬間、特別監獄に充満していた笑男スマイリーマンの負の感情が消失した。


「……さあ、邪魔者はいなくなったよ……それで姉さんはどうするんだい?」


 足の裏に残る笑男スマイリーマンの残骸を地面にこすりつけながら対峙するレーニにどうするのかとその答えを問うスビア。


「それは……」


 堅く閉ざしてしまったスビアの心。どれだけ言葉を尽くそうと閉ざされたスビアの心はもうレーニでは開くことは出来ない。だからと言って完全な姿となった今、レーニはスビアを力で止めることもできない。世界を壊すことができるだけの力を得てしまったスビアに対してレーニは成す術が無く、沈黙することしかできない。


「……何も無いなら俺は行くよ……全てを壊しに……」


 沈黙することしか出来ないレーニの姿を見て失望する訳でも、怒る訳でもなくただ無表情にそう宣言したスビアは、自分のいる小部屋を出ようと出入り口である扉があった場所へと歩き出した。


「まッ……」


 どんな理由があろうと、止める術が無かろうとスビアを行かせてはならない。この場所から出してはならない。理解しているはずなのに、それ以上言葉が出てこないレーニ。


「……まてぇうらぁぁぁぁぁぁ!」


 言葉の出てこないレーニの代わりとでも言うように、呂律の回っていない液体を含んだような叫びが小部屋に響く。


「……ごふぅぅ……おりぇと……俺と戦えぇぇぇぇぇぇ!」


 小部屋を出て行こうとするスビアの背に向かって吐血しながらそう叫んだのは、笑男スマイリーマンの槍によって体中穴だらけにされ倒れていたはずのガイルズであった。


「……狼」


 血を含んだ怒声と殺気。体はそのままにスビアは顔だけその声の方向へ振り向くと横目で自分に怒声と殺気を向けてきたガイルズを見た。

 怒声や殺気とは裏腹にガイルズの姿は戦うにはほど遠い状態だった。未だ笑男スマイリーマンの攻撃による影響が残っているのか、聖狼セイントウルフの能力が発動しておらず、体中に空いた穴は塞がる気配すらなく大量に血が流れていた。


「へへへ……下の毛は生え揃ったのかガキぃぃぃ……」


 血液が足らず立っているのもやっと。今にも死にそうな青い顔をして尚、ガイルズは笑みを浮かべながら親戚の叔父が口にするような軽口を叩く。


「……さあ? まだ見ていないからわからないな」


 ガイルズの渾身の軽口に対し、生真面目に答えるスビア。


「チィ……つまんねぇ反応だな……」


 自力で立つことが出来ず、特大剣大喰らいを杖代わりにして一歩一歩スビアの下へと近づいていくガイルズは口に溜まった血と共に言葉を吐き捨てた。


「……そんな体で……いや……既に力の差がわかり切っていると言うのにまだ俺と戦いたいのか狼」


 既に死に体。加え完全な姿となった今、スビアとガイルズの力の差はわかり切っていた。それでも戦いを挑もうとしてくるガイルズに問うスビア。


「ああ、挑むぜ……例え勝てなくとも……死ぬとわかっていても……俺はお前と戦うことを楽しみにしていたからな……」


 頼りの聖狼セイントウルフの力は未だ復活の兆しすら無く、体中穴だらけで常人ならば既に死んでいる状況であっても戦うと言い切るガイルズの目は死んでいない。望む戦いを前にガイルズの目は生き生きとすらしていた。


「……フッ」


 完全な肉体を得て、湧き出る力に酔った時ですら感情が表にでることは殆ど無かったスビアの口が僅かに緩む。


「……そうか……わかった……」


 出入り口へ向いていたスビアの足がガイルズのいる方向へと向く。


「へへへ……よっしゃ」


 熱烈な口説アプローチが功を奏し、レーニですら開くことの出来なかった強固なスビアの心の扉を僅かにだが開くことに成功したガイルズ。その気になったスビアの姿を前に、血だらけのその顔で満面の笑みを浮かべるガイルズ。


「ガイルズ殿……」


 本当なら戦うことすら出来ない状態にあるガイルズへ駆け寄り声をかけるレーニ。


「……真正面から喧嘩も出来ず、弟を叱れない今のあんたは邪魔だ……」


 笑男スマイリーマンに倒され意識朦朧とする中、スビアとレーニの会話を聞き何となくおおまかに二人の状況を理解したガイルズは、そう言って近寄ってきたレーニを突き放そうとした。


「……ッ!」


 だがガイルズのその手にレーニの体を突き放すだけの力は残っていなかった。


「……そ、そんな……」


 自分を突き放す力すら残っていないガイルズの状態に思わず言葉を漏らすレーニ。


「うるせぇ……俺はあいつとこれから楽しく戦うんだ……邪魔するな」


「……ッ」


 そんな状態であってもスビアと戦おうとするガイルズの気迫に押し負け後ずさりし体を後方へ引いてしまうレーニ。


「……さあ……楽しもうぜ!」


 進路を妨げていたレーニを気迫だけで引かせたガイルズは、大喰らいをまともに構えることもできない体でそう叫んだ。


「……」


 この場にいる者たち全員が、ガイルズ本人ですらこの先何が起るのか、それが戦いと呼べるものでないだろうことはわかっていた。


「ああ……」


 それでもスビアはガイルズと戦うことを決めた。何故ならガイルズが自分を求めてくれたからだ。


 世界に裏切られ、姉にも裏切られ世界が壊れること、壊すことを願ったスビア。しかしそんなスビアの心の奥底にも他者と繋がりたいという願いは存在していた。誰かに求められることを望んでいた。

 ガイルズの強い想いは失われつつあったスビアの心の奥底にあった願いを叶え満たしたのだ。


「……こい、狼」


 スビアの心は高揚していた。不思議なことにその高揚感は完璧な肉体を得て完全な闇歩者ダークウォーカーとなった時よりも高かった。そんな想いに当てられ苦しくなるほどの胸の高鳴りにスビアの表情は自然と満面の笑みに染まった。

 だがスビアは気付いていない。スビアという存在を強く求めている者がガイルズの他にもいるということを。スビアに対して主従としての愛を。親と子のような愛を。例え道を違えようと、それでも消えることの無い姉としての愛を。


 そして利用しようとする愛を。




「残念でしたーーーーーーーッ!」


 結果の見えた戦いの火蓋が切って落とされようとした瞬間、不快指数を振り切った声がスビアとガイルズの間に響き渡った。


「グフゥ……」


 吐血するように邪悪で悍ましい気配を漂わせた『闇』を吐くスビア。


「なッ!「ハッ!」


 誰も予想していなかった光景がそこにはあった。


「いやいやどうもどうも、恥ずかしながら再び戻ってきましたッ!」


 まるでスビアの体を引き裂くように右足から右肩へと昇った『闇』。そこから顔を出し元気に挨拶したのは、スビアが踏み潰したはずの頭部。


「スビアさんが私を裏切るなんて……」


 その表情は笑みを浮かべつつも不快な声を上げながら泣く頭部。


「……嘘ッ! 裏切ること知っていましたッ!」


 しかし次の瞬間、泣いていたのは演技でしたというようにゲラゲラと笑いに転じた頭部は、口から『闇』を吐き続けるスビアに裏切ることを知っていたと告げると、その視線をガイルズへ向けた。


「あなだがスビアさんとの戦いを切望し楽しみにしていたことも知っていました」


 露骨に不快を露わにするガイルズの顔を見て悦が入り交じった笑みを浮かべる頭部。


「そしてそして、この二人が戦うことで状況が好転するかもしれないと僅かな希望を抱いた、自分じゃ何も出来ないあなたのその想いにも気付いていました」


 明らかに人を馬鹿にするような笑みをレーニへ向けそう語る頭部。


「ですがスビアさんの裏切りによる私の殺害も、狼さんが楽しみにしていたスビアさんとの戦いも、レーニさんが抱いた他人任せの希望も……残念ですが全て叶いませんッ……」


 その場にいる者たちを置いて話を進めていく頭部は、渦を巻くようにしてスビアの肉体を『闇』で包んで行く。

 

「それは何故か……」


 まるで手品師が何十羽もの鳩を解き放つようにスビアの体から『闇』が放出していく。


「……この私、笑男スマイリーマンが全て台無しにするからデスッ!」


 次の瞬間、引き裂かれたスビアの体の間から弾けるように抜け出した頭部は、悍ましい笑みを浮かべながら自分の名を口にした。


「嗚呼……嗚呼ぁぁぁぁスビアァァァァ!」


 引き裂かれたスビアの姿に感情の枷が外れてしまうレーニ。その悲痛と絶望に染まった声は特別監獄全域に響き渡った。



ガイアスの世界


 今回はありません

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