所有者集う?
ガイアスの世界
今回ありません
所有者集う?
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
「……」「……」
肌の色や髪型など細部は異なるが顔の大まかな作りがそっくりな2人の男が互いを見つめ合う。所謂、顔面偏差値平均以上の二人が見つめ合っているその姿は、一部界隈の淑女たちからすれば華々しく夢のような状況なのかもしれない。
しかし淑女たちには残念だが、このそっくりな顔した彼らの間に流れている空気は華々しいものとは到底言えない、今にも命のやり取りが始まりそうな血生臭い混乱な状況であった。
特に多くの賞金稼ぎから戦場で活躍していた『閃光』と勘違いされその首を狙われる時期があったアキのスプリングに対しての怒りは強い。
逆に戦場で『閃光』という二つ名で呼ばれるほど暴れ回っていた自分のその行動によって、目の前の人物が賞金稼ぎに追い回されていたなど想像する余地も無かったスプリングは、自分に対して怒り昂るアキの様子に戸惑いを隠しきれない。
「……あの……」
話しかけることは愚か、近づくことさえ躊躇するほどの空気感がスプリングとアキの間に漂う中、果敢に、いや全く状況を理解せず飛び込む者がいた。
「アキさん?」
その人物とは先程まで笑男から精神攻撃を受け意識を失っていた少女ブリザラであった。
「あッ?」
ブリザラの声に慌てて振り返るアキ。
「……お、お前……大丈夫なのか?」
自分の背後に立つブリザラを見てまずアキの口から出たのは意外にもブリザラを気遣う言葉。それは口に出した本人でさえ思わず出てしまった言葉だった。
「……はい、大丈夫です、アキさんも無事みたいですね」
アキの言葉に嬉しそうに頷くブリザラ。
「そ、そうか……」
先程までこの場で対峙していた笑男による精神攻撃は、自分ですら中々に堪える攻撃だったと感じていたアキは同じく笑男から精神攻撃を受けたブリザラは、耐えられないのではないかと柄にもなく不安に思っていた。だが言葉を交わした感じでは普段と変わりない様子であるブリザラに安堵したアキは、そんな本心を誤魔化すように愛想悪くそう言って頷いた。
「……所でアキさんは一体どなたとお話を……」
互いの安否確認も早々にブリザラの興味はアキが誰と話していたのかに向いた。
「……え?」
アキの背後に視線を向けたブリザラから驚きの声が漏れた。ブリザラの視線の先いたのはアキの顔にそっくりな顔をした人物だったからだ。
「……アキさんが2人?」
まるで双子のようにアキの顔とそっくりなスプリングを前にブリザラは何の捻りもないお約束な感想を零した。
「……」
自分とアキの顔を見比べるように視線を交互へ泳がせてしまうブリザラの顔をまじまじと見つめるスプリング。
「……やっぱり……似ている」
驚いていたのはスプリングも同じだった。肌の色や髪型など些細な違いはあれブリザラのその顔は、今自分の横で眠っているソフィアにそっくりだったからだ。
ソフィアとそっくりな顔をしたブリザラの存在をスプリングが最初に認識したのは、笑男と戦う前、閉ざされた未来で幾度も別の自分の死様を見ていた時だった。
隙を生み出す為、心を揺さぶろうと攻撃の矛先を別の者へ変えた笑男。その術中にはまり、別の自分たちがブリザラたちを庇って死んでいく姿を幾度も、それこそ数え切れないほど見ていたスプリング。別の自分の死様と同様に何度も繰り返しソフィアにそっくりなブリザラの顔をスプリングは見ていた。
当然、ソフィアにそっくりな顔をしたブリザラという存在はスプリングを動揺させ疑問を抱かせた。だがソフィアやアキの時と同様に笑男を退く為には、ブリザラに対する疑問が邪魔になった。
笑男を退ける為の最善手を導き出すことができれば、抱いたこの疑問たちを解消できる機会があるかもしれない。そう前向きに考えたスプリングは一旦抱いた疑問を全て頭の片隅へ追いやり笑男を退く為の最善手を導き出すことに専念した。
そしてスプリングはその最善手を完遂した。この場にいる者たちの命を誰一人失うこと無く笑男を退けるという最も過酷で難しい最善手を選んだスプリングはそれを成し遂げた。
今スプリングの前に広がるその光景は、望む未来を掴み取ったという確かな証であった。
「……良かった」
「……ああ? 何が良かっただ」
何の脈略もなく突然そう呟いたスプリングの言葉を聞き逃さなかったアキは、未だスプリングに驚いているブリザラの視線を自分の背中で遮った。
「……邪魔は入ったが話はまだ終わってねぇ」
ブリザラの登場によって下火になりかけていたスプリングへの怒り。突然何の脈略もなく良かったと呟いたスプリングのその言葉が気に喰わないのかアキの下火となっていた怒りを再燃させる。
「おい、聞いているのか?」
安堵し力の抜けた表情を浮かべるスプリングに詰め寄るアキ。
「アキさん暴力はいけません!」
今にもスプリングを殴りだしそうな勢いのアキを羽交い絞めで止めるブリザラ。
「何があったのかは分かりませんが、暴力はいけません、まずはお話をしましょう」
「おい、離れろオウサマ! 俺はな……あれ? ……いやだから離れろ、あれ? 離れろってッ!」
背に張り付き自分の両腕をしっかりと固めるブリザラを振りほどこうとするアキ。しかしどんなに振りほどこうとしてもブリザラは離れない。それ所かブリザラに羽交い絞めされたことで体の自由が完全に奪われてしまうアキ。
身に纏う伝説の防具や内包する力の影響で身体能力が既に人の域を超えているアキ。女性1人が羽交い絞めで動きを封じてきた所でアキの今の身体能力なら普通であれば軽々と引き剥がすことが出来るはず、だった。
「お、おいだから離れろッ!」
「嫌です、この人に暴力を振るわないと約束してください、そしたら離れますッ!」
相手がブリザラだということもあり多少加減しているとはいえ女性が力でアキを抑え込むことなんて本来なら不可能である。だがその不可能であることが今起っている。その細い腕の何処にそんな力があるのか、ブリザラは人の域を超える身体能力や筋力を持つアキを完全に抑え込んでしまっていた。
「前々から思ってたが、何なんだその馬鹿力はッ!」
今まで何度か頭を過ってはいたが、特に言及することをしなかったブリザラに対する疑問。体を拘束され身動きが取れないアキはその疑問を爆発させた。
「馬鹿力とは失礼ですね! これはキングを扱う上で必要だったから毎日コツコツと鍛えた結果なんですよ!」
常人を越える筋力を持つアキを完全に抑え込むことが出来る筋力は毎日コツコツ鍛えたことで得たと主張するブリザラ。
「毎日コツコツ鍛えただけでこんなことになるかッ馬鹿ッ!」
アキの言い分は最もだと言える。普通の人間が、それも女性が毎日コツコツ鍛えただけで人外の筋力を得られる訳が無い。
「くそッこれは盾野郎の仕業だな、こういう時の為こいつに身体強化を極限まで付与しやがったなッ!」
身体強化とはその言葉通り主に筋力や敏捷性と言った所謂、身体能力を強化する能力であり強者と呼ばれる冒険者や戦闘職、特に前衛や近接を担当する者には必須な能力である。ただしその効果は一時的なもので制限時間を過ぎるとその効果は消える。これが一般的な身体強化である。
だが羽交い絞めされているアキやそれを行っているブリザラに付与されている身体強化は一般的なものと効果が大きく異なる。
その効果は普通の身体強化の数倍から数十倍、制限時間は半永続的という前衛や近接を担当する冒険者や戦闘職なら喉から手が出るほどに欲しい能力である。
ブリザラの異常なまでの筋力の正体を理解したアキは、今は沈黙し物言わぬただの大盾の用意周到さに怒りを爆発させた。
「クイーン黙ってないで俺の身体能力をもっと上げろ!」
力には力を。アキは己が纏う今は物言わぬただの防具へ更なる力を要求する。しかしその言葉は届かないのかクイーンと呼ばれた防具は反応をしめさない。
「……身体能力強化……キングにクイーン……」
傍から見ればアキとブリザラの様子は男女がイチャついているようにもみえる。しかしそんな二人の姿を真剣な眼差しで見つめるスプリング。
「あ、あの突然変なことをきくようで悪いが、もしかして二人は……」
何かを確信したような顔になったスプリングは、体を密着させジタバタするのに忙しそうなアキとブリザラへこう問いかけた。
「伝説武具の所有者……だったりするのか……」
「へっ」「あっ」
スプリングのその問いかけに体を密着させジタバタしていたアキとブリザラの動きが止まる。
なぜアキとブリザラが他とは違う身体強化という能力を持っているのか。それは二人が伝説武具の所有者であるからであった。
「……」「……」「……」
スプリングの言葉に体を密着させたまま固まってしまうアキとブリザラ。自分の言葉で固まってしまった二人を見つめるスプリング。何とも言えない気まずい空気が沈黙する三人の間を漂っていた。
(……どうしよう)
気まずい空気が三人の間を漂う中、その空気に当てられ心の中で右往左往する者がいた。
(……完全に起きる機会を逃してしまった……)
その人物とはスプリングの近くで寝かされていたソフィアだった。実はスプリングとアキが見つめ合っている時には既に意識を取り戻していたソフィア。目の前に広がる顔面偏差値平均以上の二人が見つめ合う光景に一部の淑女化してしまっていたソフィアは、あれよあれよという間に起きる機会を完全に逃してしまっていたのだった。
(……本当どうしよう)
三人が作り出してしまった気まずい空気。その空気の影響をもろに受けてしまったソフィアに今出来る事はただ1つ、その時を待ち続けることだけ。
(……)
思考停止したように薄く開けていた両目を閉じたソフィアは、その時が来ることを願いながら再び短い眠りにつくのだった。
ガイアスの世界
今回はありません




