真面目で合同で章 4 潜む『闇』
ガイアスの世界
登場人物
グラン=ニヒト
年齢 52歳
レベル90
職業 最上級盾士 レベル95
今までにマスターした職業
剣士 槍士 盾士 上位盾士
装備
武器&盾 サイデリー特殊盾(最上級盾士仕様)
頭 サイデリー王国最上級盾士用ヘルム(公の場以外ではつけていない)
胴 サイデリー王国最上級盾士用フルプレート(大型)
腕 上に同じ
足 上に同じ
サイデリー王国 東地区を守護する最上級盾士。現在の最上級盾士の中でガリデウスに続き古株である。
50代とは思えない若々しい肉体を持ち、その肉体だけでも武器になる。体格もガイアスに住む人々の平均よりも高く噂によれば巨人族の末裔ではないかと言われているが定かではない。
ガリデウスとは若い頃からお互いライバル関係にあり、よくぶつかりあっていたが、今ではよき友である。
一度サイデリー王国を出て、武者修行の旅に出たことがあり、その時に槍士という職業に就いた。槍と盾の相性は抜群であり、グランは槍と盾を使った独自の戦い形を持っているが、サイデリー国内では盾士が武器を使うことは禁止されている為、使用することができない。
真面目で合同で章 4 潜む『闇』
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
砂漠の町に立つ少年は自分の視界に映る光景を前に何とも言えない表情を浮かべていた。何もかも少年の瞳から色を消したような色の世界の光景は、少年の心を現すが如く、失望と絶望に染められているようであった。
現在から数百年前に起こった人間と『闇』の戦争。至る所で争いが続き人間達は『闇』の前に抗うことも出来ず無残に死んでいく。そんな希望の無い世界で少年は生を受けた。
物心ついた時には既に父はおらず、体の弱い母だけが唯一の血のつながりを持つ肉親であった少年のこれからの人生に希望という言葉は一切見当たらない。そのうち母が病で死に自分もどこかでのたれ死ぬ運命なのだと幼いながらに少年は自分の命の終わりを覚悟していた。だが既に絶望の中にある少年の身に更なる絶望が押し寄せることになる。
この時代、戦争犠牲者はガイアス中に存在し、少年の境遇も珍しいものでは無い。しかし少年は他の戦争犠牲者とは違っていた。少年の中に流れる血。その血が少年の人生を更に狂わせ絶望の更に奥へと押し流していくのであった。
― サイデリー王国 氷の宮殿地下、収容所 ―
「……時間か……」
氷の宮殿の外で鳴り響く鐘の音。サイデリー王国の地下に造られた罪人を捕らえておく収容所の一角にまで響く鐘の音に反応したランギューニュは気絶しているピーランに視線を戻した。
「ぅぅぅ……はぁ! 私は……」
「目覚めたかいピーラン?」
意識を取り戻したピーランに声をかけるランギューニュ。するとピーランは直ぐに自分の身を守るように跳ね起きると牢屋の隅へと逃げ両腕ではだけ丸出しとなっていた自分の胸を隠す。
「お前、私を辱めたな!」
黒装束がはだけている自分の姿に意識を失ってから自分の体がどう扱われたのか容易に想像がつくピーランは怒りを込めた言葉をランギューニュに突きつける。
「辱めって……ただマッサージしただけだよ……何? ……もっと凄いのを想像してた?」
ピーランが想像していることが手に取るように分かるランギューニュはそう言うと口元を吊り上げた。
「くぅ!」
確かにこの状況であればランギューニュに性的暴行を受けたとピーランが思うのは当然の流れである。しかし意識が朦朧とし記憶が曖昧であるピーランはその時の状況がはっきりとは思いだせないでいた。
ただランギューニュが言ったことは概ね間違っていない。収容所に連行されきたピーランの肩や首などをランギューニュがマッサージしたのは事実であった。しかしそもそも王を襲撃した罪人をマッサージするという時点で、おかしな状況であるのに変わりは無い。
だがそれはランギューニュなりの情報を取得する為の手段であった。常人にとってとはただのマッサージであったとしても、ランギューニュが持つ誘惑という特殊技能にかかれば快楽に直結していく。心の縛りが緩んだ相手から情報を聞きだすというのがランギューニュの情報を手に入れる手段であった。
「はっ! ……私は……」
マッサージされている時の記憶がじょじょに思いだされていくピーランは、ランギューニュを睨みつける。ランギューニュを睨みつけるその瞳には、快楽に溺れてしまった羞恥心と別の感情が籠っていた。
「大丈夫、君は死んだりしない……それじゃ僕は少し出てくるから」
「何? ……どういうことだ?」
ランギューニュの言葉の意味が理解できないピーランは自分に背を向けたランギューニュに問いかける。しかしランギューニュはピーランの問に答えること無くピーランの居る牢屋を後にして氷の宮殿へと続く階段を昇って行く。その場から立ち去るランギューニュの背を見つめるピーランの瞳の奥には未だ疼く快楽と困惑が渦巻いていた。
― サイデリー 王国 氷の宮殿 ―
「あ……! 王ッ!」
氷の宮殿内にある会議室を飛び出し長い廊下を漆黒の全身防具を纏ったアキと共に走るサイデリー王ブリザラ。その姿を目にした宮殿内の警備の任務に就いていた盾士は驚きの声をあげた。
「ああマルタさん、あの突然ですがランギューニュさんが来ませんでしたか?」
宮殿内を警備していたマルタに最上級盾士であるランギューニュが来なかったかと聞くブリザラ。
「ええ? ランギューニュ隊長でしたら先程地下から上がってガリデウス隊長方に賊の報告へ会議室に向かわれましたが?」
慌てている様子のブリザラに困惑しながらも答える盾士マルタ。
「地下……ですか……教えてくださりありがとうございます!」
ランギューニュの居場所を教えてくれたマルタに礼を告げるとブリザラはマルタに手を振りながら宮殿内の長い廊下を再び走り出した。
「あれ? そっちは会議室ではありませんよ!」
てっきり会議室に向かうものだと思っていた盾士マルタは、全く別の方向に走り去っていくブリザラ達に声をかけた。だがブリザラ達はマルタの言葉を聞かずそのまま走り去っていく。
「お、おい待てよ! 会議室がある方向が違うってあの兵士言ってるぞ!」
会議室とは別方向へと走るブリザラに方向が違うことをアキも告げる。
「大丈夫、これでいいんです」
何かを確信しているブリザラは自分の後ろを走るアキにそう告げると自分が向かっている場所に視線を戻した。
「大丈夫って……何処に向かってるんだよ全く」
自分が何処に向かっているのか分からないアキは、迷いなく突き進むブリザラに一抹の不安を感じる。
「てか……お前、よく宮殿内を警備している兵の名前なんて知ってたな」
宮殿内だけでも数百はいる盾士。そんな数百居る盾士の中の一人の名を即座に口にしたブリザラのことを思いだしたアキは、そのことにをブリザラに聞いた。
「へ? それは王として当然ですよ」
「当然って……」
自分に仕える数百、下手をすれば数万の兵の名前を全て覚えていることが王として当然なのかと疑問に思うアキ。確かに兵一人一人の名前を覚えていること事体は無駄なことでは無いが、普通王はしない。それ以前に数万という数の兵の名前を覚えることなど不可能だと思うアキはブリザラの言葉を信じていない。
『小僧、王の話は本当だ、サイデリーの王は例外なく、サイデリーの盾士、それだけでは無くサイデリーに住む大人や子供の名を覚えている』
「はぁ?」
ブリザラに背負われた自我を持つ伝説の盾キングの言葉に思わず聞き返してしまうアキ。
「……な、何? だとするとこの国中の人間の名前を覚えているっていうのか?」
キングの言葉に信じられないといった表情のアキ。
『うむ、そういうことだ』
「来週には二十人程赤ちゃんが生まれる予定なんですよ」
新たに生まれてくる子供達の事が嬉しくてたまらないのかニコリと笑みを浮かべた。
「おいおい……こいつの頭の中はどうなってるんだ……」
自分の前を走る少女のとてつもない記憶力に驚きを通りこし呆れるアキ。
『それよりも王、なぜ会議室に向かわない? ランギューニュ殿に会うのではないのか?』
呆れるアキを尻目にキングはブリザラに賊の報告へ向かったランギューニュの下へ向かわなくていいのかと尋ねる。
「うん、私が会いたいのはランギューニュさんでは無くて賊の人達だから……」
『そうか……ん? 王よ待て! 賊に会いに行くだと!』
一瞬納得しかけたキングは直ぐにブリザラに聞き返す。
「そうだよ、ランギューニュさんが会議室に向かったってことは賊の人は一人でしょ、だったら誰にも邪魔されずに話ができる」
『いや待て! 賊と何を話すと言うんだ』
「色々」
キングの問に何とも適当に答えるブリザラ。
『色々って……賊と会うのは危険だ認められない!』
賊に会いに行くという事は、ブリザラの身に危険が及ぶ可能性があると思うキングは即座に反対の意思を告げる。
「危険じゃないよ、キングもいるしそれにアキさんも一緒だから危険じゃないでしょ?」
だがブリザラは二人がいるから危険は無いとキングの意見を全く聞かない。
「おい……勝手に俺を数に入れるなよ」
突然自分の名前が上がったことに言葉を挟むアキ。
「キングは私のこと守ってくれないの?」
『なっ! ……ムムム』
自分の所有者であるブリザラがそう言う以上、キングも引き下がれない。
「アキさんも強いんですから、一国の王の一人や二人守ってください」
「一国の王の一人や二人って……はぁ……」
キングを説得することが出来たと分かると、今度はアキに対して強いのだからと説得を試みるブリザラ。何を言っても屁理屈をこねられて丸め込まれそうだと思ったアキは言葉の途中で諦めたようにため息を吐いた。
『王よ、相手がどんな奥の手を隠し持っているか分からない、不用意に近づかない、これだけは約束してくれ』
キングも諦めたのか最優先の注意事項だけ口にするとブリザラが地下へ向かう事を許可した。
「ありがとうキング! それにアキさんも!」
まるで何処にでもいる少女のように満面の笑みを浮かべるブリザラ。
『ゴホン!』
「お、おう……」
その笑顔になぜか狼狽えるキングとアキ。
二人の返事を聞いたブリザラは長く続く廊下を真っ直ぐに見据えると、地下へと続く扉に向かってその足を急がせる。
「……お前……相当の親馬鹿……いや盾馬鹿だな……」
キングの事がそう見えたのか、アキはブリザラに背負われたキングに向けて小さな声で呟く。
『小僧、お前こそ王に邪な想いを抱いてはいないだろうな』
ブリザラの笑みに狼狽していたことを見逃さなかったキングは仕返しとばかりにアキに向かってそう呟く。
自分の後ろでそんな事を言い合っていることなど今のブリザラの耳には入ってこない。そうこうしているうちに二人と自我を持った盾は収容所へと続く扉の前に到着するのであった。
― サイデリー王国 氷の宮殿 会議室 ―
「これだけ立て続けに王が狙われては……やはり春の式典は……」
会議室に集まった大臣達は王が昨晩と今日立て続けに襲撃されたことでやはり春の式典の開催を中止するべきでは無いかと話し合っていた。
会議室に置かれた円卓を囲んでいる大臣達をつまらないという露骨な態度で見つめるランギューニュ。
「その顔止めなさい、仮にもあなたは最上級盾士でブリザラ様を襲撃した賊を捕まえた張本人なのだから」
ランギューニュの横に立ち、同じく会議を続ける大臣達を見つめる女性は退屈そうに欠伸をするランギューニュを注意する。
「この場に僕がいる意味ってある? 確かに僕は最上級盾士で、ブリザラ様を襲撃した賊を捕まえたけど、彼らは賊の話よりも春の式典をどうするかで頭が一杯みたいだよ……帰っていいかな僕」
毎月数回行われる定例会議や緊急を要する会議には最上級盾士も出席しなければならない決まりであるが、政治に関して全く興味が無いランギューニュにとってその時間は退屈以外の何物でも無い時間であった。
しかし今回ランギューニュには王を襲撃した賊を捕まえた者として家臣達にその時の状況や現時点で分かっている賊の情報を報告する役目があるのだが、現在家臣達は賊の事よりも春の式典の開催の有無についての話で頭が一杯でランギューニュに出番が回ってくる気配が一向に無い。正直自分は居なくてもいいのではないかとランギューニュは帰りたい気持ちを隣にいる女性に正直に話す。
「ダメに決まっているでしょ、それに今あなたがこの場から帰ったらどうせ夜の町に消えてそれこそ賊の話が聞けなくなる」
ランギューニュの性格を良く理解しているのか女性は帰っていいかと聞くランギューニュを止める。
「よく僕の事が分かっているねティディさん……やっぱり僕に気があるの?」
「冗談はその口だけにしときなさい……十も歳の離れたあなたにそんな気なんて起こる訳ないでしょ」
ランギューニュの言葉に大人な対応をするティディは真面目な印象を与える眼鏡の位置を直した。
「ふふふーん、愛や恋に歳の差なんて関係ないと思うけどな……そんな事気にしてい、る、か、らぁ……?」
何やら語る口が急にぎこちなくなるランギューニュ。
「……」
静かにランギューニュの言葉を聞いていたティディから異様な気配が漏れ出していることに気付いたランギューニュは、顔を引きつらせティディが視界に入らないよう大臣達のほうを必至で見つめた。
「……はぁ……この展開だと今年も中止ね……」
「えっ?」
忽然と消えた異様な気配と共にポロリとティディの口から漏れる言葉に思わず聞き返すランギューニュ。
「春の式典よ」
「ああ……春の式典……ね」
その言葉に怒りが籠っていないことを感じ取ったランギューニュは、恐る恐るティディに視線を向けながら言葉を返す。
長い銀髪に美しい顔立ち。その美しい顔を知的に見せる黒ぶちの眼鏡をかけたティディ=ランシェールは、サイデリーの歴史上、初の女性最上級盾士である。
数は多くは無いが女性でも盾士になることは可能で男性同様、厳しい訓練と任務に就き各地区で活躍している。しかし最上級盾士とまでなると、サイデリーの歴史上ではティディが現れるまで存在しなかった。彼女もまたランギューニュと同じく周囲から天才と言われる存在であった。しかし彼女自身は自分を天才だとは思っていない。常に付きまとってきた男性との体力差を埋める為、血の滲むような努力を天才などと言う簡単な言葉で済ませないでもらいたいというのが彼女の心の内に秘める本音であった。そして何より自分が天才では無いと自覚させられたのが、自分の横にいるランギューニュの存在であった。
圧倒的な盾捌きに卓越した戦闘のセンス。当時既に最上級盾士であったティディは、まだ盾士であったランギューニュの戦いを見て自分との実力差を痛感し努力では辿り付けない領域にランギューニュがいることを実感させられていたのであった。
だからこそティディはランギューニュと自分の間にある実力差を仕事に没頭することで埋めてきた。そのかいあって総合的評価では度々女性との問題を起こすランギューニュより高く大臣達に評価され的確に仕事をこなすティディの方が信頼も厚い。信頼が厚いのは大臣だけでは無い。部下達への気配りや配慮などがしっかりしているティディは良き上司として部下である盾士達には人気があった。
「……あなたは何時でも出会いがあっていいわよね……」
「ん? ……何? やっぱり僕と火遊びしたいの?」
再び調子付くランギューニュを鋭い視線で一瞥するティディ。ランギューニュは再び感じた異様な気配に目を泳がせる。
「はぁ……」
とぼけた表情で視線を泳がせるランギューニュを見ながら深くため息を吐くティディはランギューニュと出会った頃を思い出していた。出会った頃は可愛げがあったのだが、気付けば女性の尻を追いかける性欲魔人と成り果てていたランギューニュ。
ランギューニュの女性遍歴は上げようと思えば山ほど、それこそ数えきれない程出てくる。そんなランギューニュに呆れながらも羨ましいと思う心が無いわけでは無いティディ。
そうティディは男性との出会いを求めているのだ。その場として他大陸、他国から人が集まる春の式典は出会いの場としては十二分のイベントなのである。
今まで最上級盾士としての任務をこなしてきたティディが異性との出会いを強く願うようになったきっかけは、友達や同僚、部下の結婚が相次いだからであった。
それまで自分には結婚願望は無いと思っていたティディ。しかし周囲の身近な者達が次々と結婚する状況に言いようのない焦りを感じ始めたティディは、異性との出会いを求めるようになった。しかし今まで仕事しかしてこなかったティディはどうすれば異性と出会えるのか分からなかった。いや、正確に言えば異性が集う盛り場に行く勇気が無かったのだ。
自分の意思では異性と出会うことが出来ないと思ったティディは、ならば無理矢理にでも人との交流が激しくなる春の式典という状況を利用しようと考えた。強制的に異性との交流が発生すれば、そこに自分が望む出会いがあるかも知れないと。だがティディがその考えを嘲笑うかのようにここ数年、春の式典は異常気象によってことごとく中止になった。自分では行動を起こせないティディは異常気象に腹を立て悲しみそして変わる事の出来ない自分に呆れた。
だからこそ開催の決まった今年の春の式典こそはと今までの鬱憤を晴らし、自分を変えると人知れず気合を入れていた。しかし昨晩に起こった何者かによる王の襲撃、立て続けに起こった賊達による襲撃により自分の出会いどうのこうのという話ではなくなってしまった。自分は最上級盾士なのだと言い聞かせ、春の式典の中止も覚悟したつもりであったが、心の奥底に仕舞い込んだ想いがため息となって漏れ出てしまう。
「ううん」
意識しない所で不意に出たため息に気付いたティディは気持ちがたるんでいると顔を左右に振って自分の想いを再びしまい込む。
「それで賊達が何者かは分かったのか?」
完全に最上級盾士としての顔に戻ったティディは、賊達の情報を尋ねた。
「うん……賊達の戦闘職が忍者だってことが戦闘中に分かった……」
「忍者……だとすると賊の裏に付いているのはヒトクイ」
外道職でありながら国専属職でもある忍者。その忍者を専属としているのはサイデリーと同じく他国に侵略しない、侵略させないを掲げている国、ヒトクイであった。
サイデリーとヒトクイは、ヒトクイが統一されてから友好的な関係にあり統一されて間もない頃、国としてのサイデリーを学ぶという意味で、ヒトクイの王が訪問に来るほどであった。
「なぜヒトクイが……」
ランギューニュの思わぬ情報に声を荒げそうになるティディ。しかし話が話だけに感情を抑え静かにランギューニュに問いかける。
「それがさ、僕が捕まえた賊達、忍者達なんだけど、行動の仕方が忍者というより暗殺者に近いんだ……確か聞いた話だと忍者は暗殺者という存在を嫌っているはず……なのにその忍者が暗殺者みたいな行動をしているっておかしいでしょ?」
「うん、確かに……それは妙だな」
忍者という戦闘職は殆どの情報が極秘扱いで、他国は忍者という戦闘職の情報を殆ど持っていない。しかし友好国であるサイデリーは僅かではあるがヒトクイから忍者の情報を得て知っている。その情報は制限があるもののティディ達、最上級盾士の耳にも入っていた。
その僅かな情報の中に忍者は暗殺者を敵視しているという情報を入っていた。
そんな忍者達がなぜ暗殺者達のような行動をとっていたのか僅かではあるが忍者という戦闘職の情報を知るティディ達には疑問に思えた。
「そう、だからさっき少し調べたんだ……」
「調べた? ……はぁ……」
何故かそこで呆れるように息を吐くティディ。
「……どうせ賊の一人が女だったのだろう」
「当たり、もうそのお姉さん巨乳で……」
脱線するランギューニュの話にティディは鋭い眼光を向ける。
「……あ、それで調べた結果……ちょっとおかしなことがわかったんだよ」
そういうとランギーニュは自分の手を見つめる。
「そのお姉さんから色々と情報を聞き出そうとした時……」
― 現在より数十分前 氷の宮殿 地下 収容所 ―
「さて、それじゃ色々と聞こうかな!」
薄暗い収容所の一角、今は殆ど使われていない牢屋の中でランギューニュはそう言うとなぜか自分の両手を準備運動するようにこねくりまわし荒く艶めかしい息を吐くピーランの体に優しく触れる。
「はぁぅぅぅぅ!」
触れられただけで跳ね上がるピーランの体。ランギューニュはピーランの肩や首を優しくマッサージし始めた。
「さぁ……ピーラン、情報を吐くんだ……君は何処に所属して誰の命を受けて我王の命を狙ったんだい?」
優しくピーランの耳元で囁くランギューニュ。
「あ、ああ……くぅ……わ、私は……闇王国に所属して……はぁ……団長の命をうけて……くぅ……」
「闇王国……」
何処かできいたことのある名だと思うピーラン。
「止めて……これ以上は……ころされる……私達……」
自分の体に押し寄せる快楽に抗いきれずピーランは自分達の情報を口にしてしまう。だがこれ以上はと残り少ない理性を振り絞りピーランは口をつぐんだ。
「……殺されるか……やりたくてやったわけじゃないんだね?」
「……」
口に出すことは無いがランギューニュはピーランが自分の言葉を肯定していると受け取った。
「それじゃ最後の質問……その団長は……何者なの?」
「……」
その問には答えられないと首を横に振ろうとするピーラン。その時であった。突然ピーランの体から黒い霧が吹きだす。
「……!」
突然噴き出した黒い霧にランギューニュはすぐさま盾を構え警戒態勢に入る。
《……ふふふ……まさかこんな所で近しい友人に出会うとは……》
ピーランから噴き出した黒い霧は人の形を成す。しかしはっきりとした形にはならずその霧が何者なのかは分からない。その霧から発せられる声は一瞬にして人の心を不安にさせるような不気味なものであった。
「……あんたが団長かい?」
突如として現れた黒い霧に対して盾を構えるランギューニュは今まで見せたことの無い鋭い表情でその黒い霧を見つめる。
《団長? ……まあ、そういう事にしておきましょう》
「はっきりしないな……そこは正確に名乗るべきじゃないのか?」
別人にも思える表情でランギューニュは目の前の人型をした黒い霧に名乗れと命令する。
《ふふふ……申し訳ありませんが、今は語ることはできません……ですがもしあなたが私の真の友人になってくれるというならその正体をお話しましょう》
「まさかこんな状況でスカウトされるとは思わなかったよ……だが残念だなお前のお友達になる気は無いよ」
《そうですか、それは残念……いい話だと思ったのですがね……あなたのような半端者には……》
「なっ!」
人型の黒い霧の言葉に動揺するランギューニュ。
《あなたはいずれ後悔することになるかもしれません、ですが私の心は広い……いつでもあなたを歓迎しますよ……それではまたいずれ》
そう言い残してピーランの体から突如として噴き出した人型の黒い霧は跡形もなく消えていった。
「……何なんだ一体……」
気絶しているピーランを見つめながらランギューニュは今起こった事が理解できず困惑の表情を浮かべるのであった。
― 現在 サイデリー王国 氷の宮殿 会議室 ―
「おい、どうしたランギーニュ?」
「あ、ああ……」
隣に立っていたティディに肩を揺さぶられ我に返ったランギューニュは大丈夫とティディに返す。
「それで……他に何か分かったことは?」
他に王を襲撃した賊達の情報は無いのかとランギューニュに聞くティディ。
「ああ、どうやらお姉さん達は何者かに操られていた……いや脅迫されていたみたいでヒトクイとは関係無いみたいだ……後、お姉さんは闇王国に所属していると言っていた」
「闇王国?」
何処かできいたことがある名だと思うティディ。
「まあ兎に角、もう少し調べてみないと分からないね……」
ランギューニュはティディにピーランの体から突然噴き出した人型の黒い霧の事は話さなかった。いや正確に言えば離せなかった。その黒い霧の正体がなんであるかその言葉や気配からランギューニュは勘付いていたのだがそれを話した時点で自分が今まで隠し通して来た秘密がばれてしまうと考えたからであった。
「うん、大臣達の話が春の式典から賊の話に移ったら今の事をもう一度話してもらうぞランギューニュ」
「ああ、御免、その話ティディがしといて、僕はもう限界だ」
そう言うと会議室の扉に向かって歩き始めるランギューニュ。
「あ、待てランギューニュ!」
止めに入るティディ。しかし聞く耳持たないというようにランギュー二ュの歩みは止まらない。
「おい会議中だぞランギューニュ!」
突然持ち場を離れようとするランギューニュに大臣達と話をしていたガリデウスが声を上げる。
「申し訳ありません、急務を思い出したので席を外させていただきます!」
しかしガリデウスの声を掻き消すように声を張りあげながらランギューニュはこの場を退席する理由を口にするとそのまま会議室を飛び出していった。
「ふふふ、彼奴、辛抱たまらなくなりおったな……」
ランギューニュの突然の退席にざわつく大臣達の横で不敵な笑みを浮かべ呟く最上級盾士グラン。
「突然の発言で申し訳ないが、今は春の式典の有無を話すよりも賊達の事について話し合うべきではないですかな?」
一向に進まない大臣達の話に嫌気がさしていたグランは、ここぞとばかりに賊達の話に切り替えるのであった。
― サイデリー王国 氷の宮殿 地下に続く扉前 ―
地下にある収容所へと続く扉から少し離れた物陰にブリザラとアキの姿があった。
「ミームさんがいてあの先に向かうことができませんね……」
収容所へと続く扉の前に立つ盾士、ヒームの所為で収容所に向かえないと呟くブリザラ。
「なぁ、お前この国の王だろ? コソコソしなくてもいいんじゃないか?」
我が家である氷の宮殿、しかもその主でもあるブリザラがなぜコソコソしているのか分からないとアキは首を傾げた。
「それが……以前隠れて中に入ったら出られなくなってそれ以来絶対に入るなとガリデウスに言われれていて」
「……ああ、なるほど……」
ブリザラの行動に一々口を出していたガリデウスを思い出したアキは納得したように頷く。
「お前、見た目に反しておてんばなんだな」
黙っていれば可憐な美少女といったブリザラ。しかし蓋を開ければおてんばという言葉が似会うのだなとアキはブリザラの言動や行動に笑みを漏らす。
「そ、それどういう意味ですか!」
「あ、お前ッ」
アキの言葉に思わず声を荒げるブリザラ。その直後慌てるアキの顔を見てしまったという表情で口を塞いだブリザラは物陰から収容所へと続くと扉の前に立つヒームを見た。
「ん? 誰かいるのか?」
当然の如く、厳しい訓練を乗り越えてきている盾士、ミームがブリザラの声を聞き逃すはずもなく様子を伺うようにブリザラの声がした方に声をかけながら近づいてきた。
「どうするんでよ」
「ど、どうしよう」
近づいてくるミームに慌てるアキとブリザラ。
「ミーム、すまないが会議室まできてくれないか」
「え?」「ん?」
突然自分達の後方から響く声に慌てていたアキとブリザラは思わず自分達の後ろを振り返る。
「ガリデウス隊長!」
自分に声をかけた者が誰であるかを理解したミームは即座に姿勢を正し北地区部隊長ガリデウスの名を口にする。
「……どういうこと?」
確かに自分達の背後からガリデウスの声がしたと思うブリザラとアキ。だが自分達の背後にガリデウスの姿は無い。よく分からない状況に困惑を隠しきれないブリザラとアキ。
「了解ですガリデウス隊長!」
北地区部隊の一員であるミームはその声がガリデウスであると疑うこと無く持ち場から離れ指示を受けた会議室へと駆け足で去っていった。
『ふぅ……何とか騙せたようだな』
「……もしかして今の声って……お前か盾野郎?」
「凄いキング! こんなことまで出来るんだ!」
ガリデウスの声を出していたのは、ブリザラの背に背負われた自我を持つ伝説の盾キングであった。寸分の狂いも無いガリデウスの声を発したキングに驚くアキと子供のように興奮するブリザラ。
『話している暇は無い、直ぐに私が発したガリデウス殿の声が偽物であることに気付き、盾士達が戻ってくる』
キングがガリデウスの声で会議室へ来てくれとミームに言ってしまった以上、このことがばれるのは時間の問題である。
「そうだね……はやく賊の人に会わなきゃ」
ゆっくりしている時間は無いと言うキングの言葉にブリザラは頷くと地下の収容所へと続く扉を見つめる。そしてその扉に触れゆっくりと開いた。そこには豪華な装飾が施された宮殿内とは全く異なった暗く陰湿な雰囲気を纏った階段が地下へと続いていた
ガイアスの世界
登場人物
ティディ=ランシェール
年齢 29歳
レベル58
職業 最上級盾士 レベル75
今までにマスターした職業
薬師 魔法使い 僧侶 盾士 上位盾士
装備
武器&盾 サイデリー特殊盾(最上級盾士仕様)
頭 サイデリー王国最上級盾士用ヘルム(女性用)(公の場以外ではつけていない)
胴 サイデリー王国最上級盾士用フルプレート(女性用)
腕 上に同じ
足 上に同じ
サイデリー王国西地区を守護する最上級盾士。ランギーニュよりは先輩だが、ガリデウスやグランからすればまだまだ新米の最上級盾士。丹精な顔立ちをしており、男性に人気があり、密かに恋心を持つ部下も少なくは無い。しかし本人は今まで全くそういう経験をしてこなかったため、恋愛感情に疎く好意を持つ異性が沢山いることに全く気付いていない。異性との出会いに臆病な一面もあり自分は異性と交際することが出来ないのではと不安を持っていたりする。
美しくその凛々しい姿からひそかに女性ファンも多い。




