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戦いを終えて

ガイアスの世界


 今回ありません。



 戦いを終えて




 突如として現れ特別監獄を自分の『闇』で染め上げた武具屋、一撃死中の店主オーナー笑男スマイリーマン。このまま特別監獄やガウルド、ヒトクイは彼の『闇』によって支配されてしまうのか。そう誰もが絶望した時、英雄が短い眠りから目覚めてしまった。

 英雄の名はスプリング=イライヤ。彼が目覚めたことで優勢であった笑男スマイリーマンの状況は一変する。

 スプリングが持つという未来を見ることが出来る不正行為チートのような力を前に笑男スマイリーマンは全ての行動を防がれてしまう。繰り出される英雄スプリングが放つ幾つもの刃の前に成すすべなく散る笑男スマイリーマン。散り際、彼は自分を討ったスプリングに称賛を送りながらその生涯を終えるのだった。

 笑男スマイリーマンが倒されるのと同時に、特別監獄を支配していた『闇』は消失、そこには監獄とは思えない程の清々しい空気が広がっていった。

 即ちそれは、スプリングが見たという最悪の未来を回避し新たな未来への道が生まれたことを意味していのであった。

 しかし……もしも……もしもまだ笑男スマイリーマンが、生きていたとしたら……。


 次回、復活の笑男スマイリーマン


 れではまたお会いしましょう。




 

 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス

 


 失敗が許されない笑男スマイリーマンとの戦いに勝利し、監獄とは思えない清々しい空気が流れるその場所でスプリングは安堵の表情を浮かべていた。

 笑男スマイリーマンを倒すため幾人もの別の自分が殺される未来を繰り返しみてきたスプリング。その間、現実で流れた時間は僅か数分だったが、スプリングの体感では数日という時間が流れていた。

 数日間、自分が死ぬ姿を見続ける。地獄と言っても過言ではない時間を耐え続けたスプリング。常人ならば既に精神崩壊を起し廃人となってもおかしくはない状況。それでもスプリングは辛うじて正常な精神を保ち続けていた。それはもはや人が持つにはあまりにも異常と言える精神であった。


「……終わった……」


 だが人ならざる精神を持つとは言え、無傷という訳ではない。地獄を耐え続けたことによる反動が現れたスプリングの体は、呟いた言葉を合図にして糸の切れた人形のように倒れこんだ。


「……おっと」


 スプリングの体が地面に倒れる寸前。何かに支えられるようにスプリングの体は度面に倒れることなく止まった。スプリングの体を支えるように突如として現れたのは丸太のように太い腕。スプリングはその腕によって支えられていた。


「流石、俺の好敵手ライバル!」


 倒れかけたスプリングの体を支え、そう話しかけたのは笑男スマイリーマンに瀕死の重傷を負わされていたはずのガイルズであった。


「……うぅぅ……ついさっきまでボロ雑巾みたいにされていた奴が良く言う……」


 自分の体を支えてくれているガイルズに、今出来る精一杯の嫌味で答えるスプリング。


「残念だな、今は傷1つ無い」


 笑男スマイリーマンの放つ攻撃によって聖狼セイントウルフの力を無効化され体に負った傷を再生できない状態にあったガイルズ。だがその元凶が消えたことで力を取り戻したガイルズの肉体は急速に再生し元通りになっていた。今では無傷で笑男スマイリーマンとの戦いを終えたスプリングよりも元気そうな姿をしている。


「さて、これからどうなるんだ?」


 好敵手ライバルからの嫌味を元気に跳ねのけたガイルズは、これからどうするのかと自分の腕にぶら下がった状態のスプリングに尋ねた。


「……悪い……奴を倒す所まで見るのが精一杯で、これから先……何が起るのかわからない」


 未来をみることは出来たものの、笑男スマイリーマンを倒す道筋を見つけるので精一杯でこれから先何が起るのかまでは見えていないとガイルズに答えるスプリング。


「そうか、まあそう都合よくポンポン使えるような力じゃねぇよな」


 スプリングが持つ未来を見る力に一定の理解を示すガイルズは、その答えに驚く訳でも残念がる訳でもなく淡泊な様子でそう答えた。


「それよりガイルズ……ソフィアがどんな状況か見てきてくれないか?」


 なぜこの場所にソフィアがいるのか。幾人もの自分が死んでいく光景を見ながらスプリングが頭の片隅に抱いていた疑問。笑男スマイリーマンとの戦いで力を使い果たし指一本動かせないスプリングはその疑問を解消する為、ガイルズへソフィアの様子を見てくるよう頼んだ。


「ああ、そういや、いたな」


「おまえな……」


 言われるまでソフィアの存在を忘れていたガイルズは、驚いたような表情を浮かべた。そんなガイルズに呆れるスプリング。


「……ふふふ」


「……何だ、その笑い」


 何か含みのあるガイルズの笑いに、無性に苛立ちを感じるスプリング。



「ふむ……よし、ちょっとそこで待っていろ」


 苛立つスプリングの体を特別監獄の壁に預けたガイルズは、倒れ込んでいるソフィアの下へと向かった。


「……」


「……どうだ?」


 倒れているソフィアへ近づいていくガイルズの背中に声をかけるスプリング。


「……」


「おい、どうしたんだよ? ……まさか……」


 ソフィアの近くに立ちその姿を見おろしたまま、無言でいるガイルズの背中に、悪い予感が過るスプリング。


「……いや、ありえない……俺はソフィアを……この場にいる奴らを守るように立ちまわったはずだ……」


 幾人もの自分の死様を見て行く過程で、笑男 (スマイリーマン)は隙を作る為か、それともただの気まぐれか、標的ターゲットをスプリングからこの場にいる他の者たちへ移すことが幾度もあった。その都度、幾人もの自分たちはこの場にいる者たちのことを庇ったことで自らの命を落としていった。その経験を活かし次は次はと、スプリングは試行錯誤を繰り返す自分たちを何十何百何千と見てきたのだ。


 だがもしも、もっと楽な未来への道筋があったとすれば。もしも彼らを庇わず攻撃することだけに専念すれば。


 地獄のような状況の中、疲弊した精神でスプリングが考え行きついてしまったもしも。


 それはこの場にいる者たちを庇わず笑男スマイリーマンへの攻撃にのみ専念した効率だけを重視した戦い方。

 ガイルズには言わなかったが、スプリングは今とは違う未来、全てを失った果てに行きつく自分の末路を知ってしまった。

 知ってしまったからこそスプリングは幾人もの自分の屍たちを越えて、遠回りだとしても誰一欠けることの無い未来への道筋を選びきった。はずだった。


 視線の先に映るガイルズの背中は、沈黙という形で自分が選びきった道筋を否定しているようにスプリングには思えた。


「く……くそッ」


 込み上げてくる悔しさと自分への怒り。しかし指一本動かすことが出来ない今のスプリングではその感情を何かにぶつけることすら出来ない。


「……」


 眠ってしまった子供をベッドへ連れて行くように、静かにソフィアの体を抱き上げたガイルズは、スプリングの下へと帰ってくる。


「……」


 スプリングの前にやさしくソフィアを横たわらせるガイルズ。


「くぅ……」


 現実を直視できず目の前に置かれたソフィアから目を背けるスプリング。


「スー……スー……」


「……?」


 目を背けたスプリングの耳に聞こえてくる違和感。


「スー……スー……スー……」


「……んん?」


 その違和感の正体を探るため、恐る恐る視線を目の前のソフィアへと向けるスプリング。


「うん、こりゃ気持ち良く寝ているな」


「……へっ?」


 ガイルズのその言葉に思わずスプリングの表情は呆けた。


「……とりあえず、ざっとみた感じ他の二人も生きているみたいだな……」


 そんな呆けたスプリングの顔をニヤニヤと嫌な笑みで見つめるガイルズ。


「お……」


「お?」


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 停止していた思考が息を吹き返し状況を理解したスプリングの顔は一瞬にして赤面した。それと同時に怒りと恥ずかしさの入り混じった感情を噴き出しながらニヤニヤと嫌な笑みを向けるガイルズを怒鳴りつけた。


「くぅ……くふふふ……あっはははははは! あははははは、あはははははいっひひひひひ……腹、腹痛い………」


 コロコロと変わるスプリングの表情がよほどツボだったのか堪えていた笑いが噴き出しガイルズは腹を抱えてその場を転げ回った。


「うぐぅぅぅぅ」


 もしも今体が動くようになったなら、ガイルズの顔面をぶん殴ってやりたいと本気でそう思うスプリング。


「だっは、あっははは……いや、悪い悪い、なんか思いつめたお前の顔を見ていたら悪戯したくなっちゃった」


 そういいながら右腕を頭の後ろに置き、舌を出しながらごめんねとウインクし茶目っ気を見せるガイルズ。


「何が悪戯したくなっちゃった、だ! この筋肉達磨ッ! 冗談にしてもやって良い事と悪い事があるぞ!」


 以前からガイルズは不道徳で悪趣味な冗談を好む奴だということを知っていたスプリング。そんな奴に一般的な道徳を説いた所で意味が無いことは重々理解もしていた。しかし仲間の生き死にすらネタとして扱うのかとスプリングの怒りは収まらない。


「まぁ……けど見てみろよ……ここで寝ているソフィアも……あそこで寝ている二人……そしてこの俺も、皆お前に救われたんだ……これは凄い事だぜ、なぁ英雄!」


「……良い話をして煙に巻こうとしても無駄だぞ……体が動くようになったらお前のその顔面にありったけの拳をぶち込んでやる、覚悟しておけッ!」


 耳ざわりとしては良く聞こえるガイルズの言葉。しかしそんな言葉に騙されないスプリングは、覚悟しておけと殺意の籠った据わった目をガイルズへ向けた。


「おうッ! お前と本気で戦える日を心待ちにしておくぜ」


 殺意の籠ったスプリングの目にたじろぐことも無く、そればかりかその顔を見つめながらニヤリと口元を吊り上げるガイルズ。


「……さて、そんじゃ俺は本来の目的を果たしに行って来るわ」


 そう言いながら立ち上がったガイルズは、長く廊下の先に視線を向けた。


「……ふん、何処へでも行ってしまえ……」


 未だ怒りが収まらないスプリングは、ふて腐れながらそう吐き捨てた。


「ソフィアが起きたらよろしく言っておいてくれな」


 そう言葉を残し特別監獄の最奥へと進みだしたガイルズ。その胸中にもうスプリングの姿は存在しない。今ガイルズの胸中にあるものそれは、人としてではなく化物である自分の好敵手ライバルの姿。笑男スマイリーマンが消失したことで清々しい程の空気に満ちた特別監獄内で、唯一まだ淀み穢れている『闇』を放ち続けている特別監獄最奥にいるであろう存在への滾る想いであった。


「……死ぬなよ」


 誰にも聞こえないような小さな声でスプリングはそう呟きながら、小さくなっていくガイルズの背中を見送るのだった。




 ガイアスの世界


 今回ありません。

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